1. はじめに
(1) 有田町の紹介
有田町は、2006年3月に旧有田町と旧西有田町が合併して誕生した佐賀県の西部に位置する周囲を国見山と黒髪山に囲まれた人口約20,000人、面積約65.58km2の町である。
古くからやきものの町として有名であり、陶器市等のやきもの関係のイベントが盛んに行われている。また今年は、日本磁器、有田焼創業400年ということで佐賀県・有田町が協力して様々なイベントが行われている。
一方で、少子高齢化問題が深刻化している。特に旧有田町での少子高齢化は顕著である。陶器市のメイン会場となっている内山地区では小学生の人数減により小学校が廃校の危機となっており、また空き家問題や看取り・介護の問題が発生している現状がある。実際に佐賀県内の7保険者の中で一番高い高齢化率となっており介護問題等が今後深刻になっていくことが予想されている。
(2) 本テーマ設定の理由
本レポートでは有田町内の高齢者向け施設・居住系サービスとQODについて考えていきたい。
なぜ先に述べた様なテーマでレポートをするかというと、少子高齢化が進み在宅で生活する高齢者が減っていき、町内の高齢者向け施設・居住系サービスを利用しながら最後の時を迎える高齢者が増えていくことが予想されるからである。
施設・居住系サービスを利用するということは最後の時をその場所で迎える可能性が高い。最後の時を住み慣れた土地で尊厳をもって迎えるためには、当該高齢者、施設・居住系サービスの事業者の努力だけでは難しい部分がある。
ならばまずは、現在有田町内の高齢者向け施設・居住系サービスが利用者の死とQODに対してどのような取り組みを行っているか、現在把握されている問題は何か等の現状分析を行う必要がある。
もちろん本レポートで扱うのは有田町内の限られた事業所だけであるが、全国的に今後同様の問題が起きてくると考えられる。今後、同じような問題を持つ事業所、自治体の活動の参考となれば幸いである。
2. QODとは
(1) QOD(Quality of Death/Dying、以下QOD)の定義
QODの定義を考えていくためには、まずは先行概念であるQOL(Quality of Life、以下QOL)の概念整理を行う必要がある。QOLについては「生活の質」と訳されることが多い。現在QOLについては明確な定義があるとは言い難い状態である。いくつかのQOLについての定義があるが、ここでは2000年に厚生省が定義した概念を紹介する。
「従来のリハビリテーションサービスは……生活の質とは、日常生活や社会生活のあり方を自らの意志で決定し、生活の目標や生活様式を選択できることであり、本人が身体的、社会的、文化的に満足できる豊かな生活を営めることを意味します。」
と定義してある。
ここでの定義も見るとQOLは単に物的な豊かさのみを表す概念でないことがわかる。
先行概念が物的な豊かさを表す概念でないということは、続くQODも物的な豊かさのみを表す概念でないということが想像できる。
QOLと同じようにQODについても統一した定義があるわけではない。しかし、先に見たQOLの定義から「死の質」を高めることだと考えることができる。そこで本レポートではQOLの定義を「終末期ケアに関する医療委員会」(米国医学研究所)の質の高い死の定義
「患者や家族の希望にかない、臨床的、文化的、倫理的基準に合致した方法で、患者、家族および介護者が悩みや苦痛から解放されるような死」
をQOLの定義と考える。
(2) 「介護者」という視点
私が本定義を採用した理由の1つは先に述べたQOLの定義との類似性もあるがもう1点、「介護者」という視点が入っていることがある。先にも述べたが、少子高齢化が進む今後の有田町の現状を考えると、高齢者が最期の時を迎える場所として施設・居住系サービスの事業所の重要性が高くなっていく。そこでは家族以外の第三者である「介護者」と過ごす時間が長くなり必然的に「介護者」の視点が重要になると考える。
「介護者」は当該高齢者と過ごす時間が比較的長くなる。高齢者向け施設・居住系サービスの従事者は、1日の多くの時間を当該高齢者と共に過ごし、場合によっては寝食を共にするケースもある。当該高齢者の死の直前だけではなく普段の様子、価値観等もある程度は理解している。つまり、「介護者」と「利用者」というビジネスライクな関係だけではなく精神的に強いつながりを持つことも多い。それだけのつながりを持つ可能性がある「介護者」の視点を取り入れることは「死の質を高める」ために必要なことだと私は考える。
3. 有田町の高齢者関係指標
(1) 有田町の人口分析
ここでは有田町の高齢者関係指標を見ていき有田町が置かれている現状認識を行いたい。まず、人口動向についてであるが表1で示されているとおり、総人口は減少傾向にある。2000年時点では22,314人の人口が2015年では20,117人、2020年では20,000人を下回るなど全国の多くの自治体と同じように人口が減少傾向にある。次に高齢化率であるが2000年時点では21.7%とこの時点で全国的に見ても高い高齢化率であったが2015年には31.0%、2020年では34.2%と全国的に見ても高い高齢化率となっている。この数値は、佐賀県内の7保険者で一番高くなっている。また、高齢者のみの世帯、高齢者独居世帯も、確認できる限り2000年以降、毎年増加している。先に述べた様に少子高齢化が進むと、施設・居住系サービスの利用者が増えていくが有田町では、今後しばらくその傾向が続くと考える。
また、後期高齢者数の増加が著しいのも特徴である。2000年に後期高齢者数が2,000人を超え2,123人となり2005年には2,648人、2010年3,069人となり2030年に4,030人と4,000人を超える。高齢者全体に占める後期高齢者の割合は2000年で43.8%、2005年52.9%、その後も50%を超えている。これだけ後期高齢者数が増加していくと必然的に毎年多くの者が最後の時を迎えることになる。
|