【要請レポート】

第36回宮城自治研集会
第10分科会 公共交通は誰のもの? みんなのもの!!

 大崎市は、2006年3月に1市6町が合併して誕生した市であるが、市民の生活を支える公共交通が合併前と合併後ではどのように変わり、そして今後交通弱者の移動手段の確保を行政はどう果たしていくべきなのか、市町合併から10年を迎えた大崎市の交通政策の取り組み内容について紹介する。



持続可能な地域公共交通をめざして
―― 「人」と「まち」・「暮らし」をつなぐ ――

宮城県本部/大崎市職員労働組合・執行委員長 中川 早苗

1. はじめに

 現在、地方都市においては住民の自動車免許保有率が高く、日常生活における移動手段として自家用車が選択される傾向が顕著である。高度経済成長期においては、鉄道とバスが移動手段として住民に選択され活躍していたが、その後の自家用車の普及に伴い、特に地方都市のバス事業は苦戦を強いられている状況にある。
 その結果、バス事業者の路線廃止を受け、各自治体においては住民生活に必要な路線を廃止代替バス路線として運行し、地域住民の日常生活の足を何とか維持しているというのが実情であり、現在においても路線の廃止や減便が進んでいる状況にある。
 少子高齢社会がさらに加速することが想定される今日において、特に子どもや児童・生徒、お年寄りの方等の交通弱者と呼ばれる方々の移動手段を考えていくことが今後の行政課題の一つになっていると感じている。
 このような現状の中で、大崎市における地域公共交通の取り組みについて触れてみたい。

(1) これまでの経緯
 大崎市は「平成の大合併」により誕生したまちであり、2006年3月に大崎圏域の1市6町が合併し、今日に至っている。特に、市域が約800km2と大きく、東西に約80kmという長大な地形が本市の特徴となっている。
 合併当初においては、旧自治体それぞれの住民サービスを継承していたこともあり、地域公共交通に関しても、廃止代替バスの運行と併せて、それぞれの旧自治体における政策として特徴的な取り組み(住民バス運行)が行われており、地域によりサービス水準が異なっている状況にあった。
 この現状から、合併市としての一体感の醸成やサービス水準の平準化を図るために、2009年度に公共交通再編計画策定の基本方針・整備方針を定め、廃止代替バスを幹線路線と広域路線に整理し、これまでの住民バスを廃止し、地域内路線(ジャンボタクシー、デマンドタクシー)の導入を進めてきたところである。
 しかしながら、一部の路線を除き、廃止代替バスの乗降者数の減少が進んできており、地域公共交通の更なる再編に向けた議論が必要との認識に至ったものである。

現在(再編後)の地域公共交通ネットワークの状況


(2) 活性化協議会の設立
 地域内交通の再編という大きな命題がある中で、2013年に交通政策基本法が成立し、その理念に則り、地域公共交通ネットワークの再構築を図る「地域公共交通網形成計画」が策定できるよう地域公共交通活性化・再生法が改正された。
 このことを受け、本市においても地域公共交通活性化・再生法に基づく協議会を設置し、網形成計画を策定することとしたものである。

(3) 活性化協議会の構成
 本市においては、それまでの公共交通会議から、2015年4月に地域公共交通活性化・再生法に基づく協議会として「大崎市地域公共交通活性化協議会」を設立している。
 その構成としては、地域公共交通に造詣の深い学識経験者をはじめ、本市公共交通のステークホルダーである鉄道事業者、交通事業者としてバス事業者とタクシー事業者、住民代表として地域内交通運営委員会と商工会議所、東北運輸局宮城運輸支局、宮城県、運転者が組織する団体、道路管理者(国・県・市)、警察署、そして市が加わり、19人の委員により協議会を構成している。

(4) 地域公共交通の課題
① 本市公共交通の課題
 前述のように、地域公共交通の利用が伸び悩んでいるという現状認識の下で、現状の地域公共交通ネットワークが効率的に機能していないのではないかという問題や疑問が生じると同時に、現実的に市内に交通空白地域が存在するという現実があった。
 このことから、2015年度において網形成計画を策定する過程で、改めて本市地域公共交通の現状を調査し、以下のとおり課題を整理した。
<大崎市を取り巻くまちづくりの課題>
 ア 大崎市のまちづくりを先導する公共交通が必要
 イ 人口減少、高齢化の進行を踏まえ、安心して暮らし続けられるための拠点・公共交通の確保が必要
 ウ 中心市街地の活性化や観光振興を支える交通システム・交通拠点が必要
<大崎市の公共交通全体の課題>
 ア 鉄道・市民バス・地域内交通による、これまでの骨格を活かした交通体系の再構築が必要
 イ 分かりやすく、利用しやすい公共交通の構築とPRによる地域内外の新規利用者確保が必要
 ウ 地域住民(運営委員会)・事業者・行政によるこれまで以上の連携が必要
 エ 隣接自治体と連携した利用しやすい公共交通への取り組みが必要
<市民バスの課題>
 ア 鉄道や地域内交通等、他の交通機関との連携とニーズに見合った運行が必要
 イ 路線維持のため、発着地や「乗り継ぎ拠点」を踏まえた運行ルート、ダイヤ調整等、抜本的改善が必要
<地域内交通の課題>
 ア 地域内交通の基本的なルーツ・仕組みの明確化が必要
 これらの課題を活性化協議会の中で共通認識し、その課題解決に向けて、網形成計画に掲げた各種施策をそれぞれが役割を担いながら、よりよい地域公共交通の実現に向けて着実に推進していくことが網形成計画推進の課題となっている。

市民バス利用者数

② 網形成計画策定から見える課題
 網形成計画については、2015年度に延べ9回の活性化協議会を開催しながら議論を深め、2016年5月に決定に至っており、今後は、網形成計画に掲げたプロジェクト・施策を具体的に推進していくことが必要となる。
 地域公共交通活性化・再生法では、第6条第5項において「協議会において協議が整った事項については、協議会の構成員はその協議の結果を尊重しなければならない」と規定されているが、具体的なプロジェクト・施策を推進する上では、活性化協議会の場の議論だけでは円滑に進めることができないと感じている。
 特に、交通事業者においては、活性化協議会における地域公共交通全体を踏まえた決定事項と交通事業者の経営の視点や業界全体の意見等との齟齬が生じることは否めないと思われる。
 主催者側である自治体としては、あるべき姿と現実との隙間を関係者との丁寧な議論の中から埋め合わせながら、各種施策を推進していくことが必要と感じている。
 本市の地域公共交通に関しては、公共交通の根幹として幹線路線や広域路線といった基幹交通については、市が責任を持って維持し、広大な市域を抱える中で、各地域と本市中心部を公共交通ネットワークでつなぎ、「公共」としての移動手段を維持・確保していくこととしている。
 一方で、地域内の移動に関しては、それぞれの地域事情やニーズの違いがあることから、地域の住民が中心となり運営委員会を組織し、地域における公共交通サービスを展開している。現状としては、旧町の5地域において地域内交通が導入されており、デマンドタクシー(予約型)やジャンボタクシー(定時定路線型)等、地域の実情に応じた多様な公共交通体系が構築されている。
 これらの地域内交通と基幹交通である幹線・広域路線を公共交通ネットワークでつなぐことにより、交通空白地域を減少させ、来るべき超高齢社会における社会インフラとして地域公共交通を持続可能なものにしていくことが今後の課題となる。
 また、地方都市における地域公共交通の大きな悩みとしては、市民サービスの向上に向けて新規路線導入やサービス改善策を実施したいが、利用者の動向が読みにくいという根本的な問題がある。公費負担(赤字補填)による運行が一般的とも言える地域公共交通において、例えば、事前にアンケート調査等により把握した住民のニーズと実際に路線を運行した際の利用実態に乖離が生じてしまう、強い要望によりバス停を設置したが利用者がほとんどない等、ある意味、運行してみなければ分からないという不確定要素があることが、地域公共交通の難しさと言える。
③ 地域内交通の課題
 本市では、地域住民により地域内交通の運営組織を設置していただき、交通事業者と行政との三位一体の体制により、それぞれの役割を果たしながら地域内交通を運行している。

 本市の地域内交通の仕組みとしては、地域内公共交通運営委員会がサービス内容を検討・協議し、交通事業者と運行契約を結び、行政がその運行経費(運賃収入を除く)を補助するという制度設計としている。また、地域住民に利用していただくことを前提にしているため、補助金交付にあたっては、乗車率、収支率ともに15%以上(一部の地区を除く)となることを要件としている。
 現在は、市内の松山地域、鹿島台地域、岩出山地域、鳴子温泉地域鬼首地区、田尻地域の5地域において地域内交通が運行されており、それぞれ地域の実情に合わせて、予約型の乗り合いタクシー(デマンドタクシー)や定時定路線型のジャンボタクシーを組合せて公共交通サービスが提供されている。
 課題としては、利用者が限定されていることや、大部分がご高齢の方が占めていることから、利用者の状況(体調不良、施設等への入院、死亡等)により乗車率に大きな影響を及ぼしてしまう点があげられる。また、知らない方と乗り合いすることに対する抵抗や利用登録自体が面倒と感じること、新しい仕組みへの抵抗感があること、改善したサービスが周知され、結果に反映するまでに一定の時間が必要であること、市中心部への移動ができないこと等、様々な課題が見えてきている状況にある。
 さらには、今年の3月に地域内交通の受け皿となっていたタクシー事業者が休業し、地域内にタクシー事業者がなくなってしまうという重大な事例が生じており、タクシー事業者の経営と地域内交通(デマンドタクシー)の共存共栄という視点からも制度設計を検討していく必要があると感じている。

2. おわりに

 我が国が本格的な少子高齢社会に向かい着実に歩を進めている昨今、国においては、「地方創生」や「一億総活躍社会」を標榜し、少子高齢化に歯止めをかけ、地域の人口減少と地域経済の縮小を克服し、将来にわたって成長力を確保することをめざしている。
 しかしながら、地方都市に目を向けると、自治体間競争の荒波に揉まれながら、限られた財源をやりくりし、それぞれの自治体が独自の特徴を出そうと知恵を絞り、生き残りをかけて人口減少対策や成長戦略に取り組んでいる現状にある。
 このような状況にある中で、ふと冷静に足元を見つめてみると、確かに首都圏を含めた他の地域からの移住を進めていくこと自体に疑問を挟む余地はないが、その一方で、今現在、そのまちに住んでいる人々に対する視点が弱まってきている感がある。
 人口減少解消への処方箋が何なのか、その答えは明確に導き出すことはできないが、そのまちに住む人々が「幸せ」や「喜び」を感じながら日々の生活を営んでいける環境を提供することが自治体の一つの命題であることは確かだと感じている。
 その意味で、一定の文化施設や娯楽施設、道路・河川等のハード的な社会インフラがしっかりと整備されていることも定住の要件の一つであると思うが、住民が安心して日常生活を送る上で必要となる移動手段として、「地域公共交通」を定住の大事な社会インフラの一つとして認識し、ステークホルダー全体で持続可能な仕組みとして支えていくという意識を持つことが必要ではないか。
 また、「地域公共交通」を維持していく取り組みが行政だけの動きに留まることなく、地域住民や交通事業者、地域経済界も巻き込んだダイナミックな動き・関係性につなげていくことが、「地域公共交通」を持続可能な仕組みにしていくものと感じている。