生活支援交通研究会 ―― 体制 ――
主席研究員 北 川 博 巳(工学博士、県福祉のまちづくり研究所)
次席研究員 加 地 幸 夫(自治労県本部都市交評事務局長)
研 究 員 戎 剛(自治労県本部阪神淡路ブロック事務局長)
同 足 立 育 生(自治労県本部播磨ブロック事務局長)
同 隅 田 龍(自治労県本部副委員長・豊岡市在住)
同 村 井 正 信(西脇市議)
同 前 川 豊 市(丹波市議)
同 河 野 つね子(宝塚市職員退職者会幹事)
同 河 合 良 宣(自治労県本部障労評幹事)
事 務 局 市 来 信 弥(自治研センター事務局長)
2. 作業と討議の状況
研究会の設置は2016年の年明け早々を想定していましたが、自治労県本部関係者以外の研究者への就任要請は、自治研センター総会で、研究会の設置の承認を得た後に行い、設置は2016年3月8日となりました。以降、4月12日、5月16日、6月16日、7月25日と、毎月1回ずつ、これまで5回(レポート執筆時)の研究会を重ねてきました。このうち、7月25日の研究会は実地調査(淡路市)を兼ねて行いました。
(1) 状況と研究課題の共有化
研究活動を開始するにあたっては先ず、どういう問題意識を持ち、どういう課題の克服への一助となる研究を進めるのかを意思統一することが必要です。また、見てのとおり、研究会体制は研究者と神戸交通労組の書記長である都市交評事務局長以外、関係施策の専門家ではありません。そこで各地が抱える交通に関する課題や、関連する法律及び行政の動向等を共通理解しておく必要があります。
① 研究課題と達成目標及び研究計画
研究活動を推進するにあたって共有しておかなければならない事項の前段部分については、事務局から把握事項や問題意識を提起し、次のようなことを意思統一しました。
ア (全体状況を越える地域的)人口減少の進行や高齢者単独世帯の増加により、市場に委ねられた交通機関の営業路線の縮小が追い撃ちされ、郡部や局地的に、買い物、通院、通学等に窮する「交通難民」という現象が生じている。この状況に対して、住民自治組織や市町村によるコミュニティバスの運行等が取り組まれているが、何れも費用対効果を見据え、手段や方法を探りながらの苦慮の状況が窺える。一方、この問題を担当する市町職員は多くの苦悩を抱えながら職務を遂行しているのであろうが、(イ)に記すような課題であるにも関わらず、自治労や自治研活動のテーマとして取り組む報告が聞こえてこない。この状況は、この課題が比較的新しいものであるからだけではなく、行政課題が増加するにも関わらず職員数の削減が進められ、職員1人ひとりが目前の事務処理に追われ自治研活動という優れた活動が見失われようとしているのではないか、と推測される。よって、この生活支援に係る交通施策の取り組みへの自治労内や地域での喚起が進めば、自治研活動の再生により取り組みは加速度的に進む可能性がある。
イ 子どもを生み育てることが困難になった社会。東京一極(都市部への)集中と地方の疲弊。政権が掲げる「地方創生」の旗は、これらの失政を隠すものと言えるが、安心して暮らし続けられる地域作りは、自治体の使命であり、自治労の運動課題でもある。しかし、この似通った、政権のいう「地方創生」の「総合戦略」で第1に挙げられるのは移住の促進や交流人口の獲得が圧倒的で、雇用創出や子育て環境と続く傾向が見られる。増田レポートや資本主義経済発展路線に翻弄されることなく、地域を守り活性化させるためには、雇用創出や子育て環境と横並びで第一次産業(農林水産業)の安定化や交通環境の改善が必要なのではないか。一部に、地域内の一極集中による弊害等々が危惧されるコンパクトシティー化によるまち作り計画がみられるが、交通施策との併用次第では公共施設や集客施設の集中化が効果を生む可能性が想定される。
ウ 情報の整理や施策選択の際のチェックポイントの提示、さらには県下に共通する政策提言。研究会の成果はどこまで辿り着けるのか、その政策的最終目標も研究会の作業や討議状況から検討する。各市町で当該課題に取り組む職員の英知を結集するのが一番、との認識はあるが、いま直ちにそうした職員を結集するのは困難。そこで研究会活動は2段階方式を採用。第1段階では、各市町の当該所管部署や自治労各単組が、注視したり関心を寄せざるを得ない中間報告を行う。これによって各市町の情報を得易くし、より正確な情報を得る。可能なら後段の作業には市町の当該部署で実務に携わる職員にも参加してもらう。このことは、より良い政策的成果を得るためには不可欠であり、副産物として期待される自治研活動の再生をめざせる。
このような意思統一、特に(ア)の研究テーマの設定を討議する中で、研究会の名称は「生活支援交通研究会」とすることになりました。
② 確認しあった情報
後段に記した非専門家の弱点の克服のためには、基礎的な知識を一定水準は獲得しあっておく必要があります。そこで第1回研究会では、(ア)交通政策基本法、(イ)地域公共交通の活性化及び再生に関する法律、(ウ)交通政策基本法に基づく交通政策基本計画、(エ)ひょうご公共交通10カ年計画、(オ)2015年に掲載された各市町・地域の生活支援交通に係る新聞記事の切り抜き集 ―― 等を配布し、各々その概要を確認しあいました。
県下市町の取り組み状況が一定まとめられ、特に有効と考えられる「ひょうご公共交通10カ年計画」については、これを策定した「ひょうご交通あり方懇話会」の委員も務めていた北川主席研究員から、丁寧なレクチャーを受けました。しかし、2回の研究会を終了した時点で、なお基礎知識を確実に理解しあっておく必要性を痛感し、順番が少し前後した感がありましたが、「修正はより早く」の立場で、第3回研究会は北川主席研究員を講師とする学習会を中心とする研究会としました。
(2) 討議状況
まだまだ先の見えない研究会活動で、このレポートでは成果物の方向性すら示し得ない状況です。当然、最終報告をした時点では、何らかの形で全国発信しますが、今日の段階では動き出した研究会でどんな議論がされているのかを紹介するために、ここまで記した事項以外で出された意見や議論の内容を幾つか列記します。
○ 交通政策は、まちづくりの根幹の課題と言える。
○ 各市町の基本施策は条例化すべきなので、そのモデルは示そう。
○ バス運賃は一律200円では採算がとれなくなってきている。
○ 採算性は度外視した交通施策を採らなければならない地域がある。
○ 実地調査の実施や、現場モデルの紹介も有効ではないか。
○ 高齢ドライバーの運転免許返還が求められているが進んでいない。
○ 移動商店等により「買い物難民」対策を取り組む事例があるが、できるだけ高齢者自身を動かすということからは、交通を確保する施策の方が優れている。
○ 「移動権」という概念の確立が必要。
○ 地域交通会議や活性化協議会がほとんどの市町で結成され、その取り組みが進んでいる。
3. 中間報告・最終報告にむけて
現在、中間報告の内容や方法を検討中です。第36回宮城自治研集会が開催されている頃は、これが終了しているか、この前後の作業に忙殺されているのでしょう。
中間報告の時点で何が報告でき、最終報告はどこまで行き着ける展望となるのか、まだ先は見えません。この研究会活動の目標は前章(1)の①の(ア)~(ウ)に記したとおりです。既述した自治労単組の状況や自治研活動の状況は、兵庫県下のものです。これが少しでも前進するよう、このレポート提出を切っ掛けに先進の県や活動グループの皆さんからご意見や参考事例が紹介いただければ幸いです。 |