【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第11分科会 じちけん入門!! ~じちけんから始まる組合活性化~

 近年、道内自治体において若年層の中途退職が話題となることが多い。道においては、行財政改革のなかで進められた職員数の削減を目的として、長らく採用抑制が行われてきた経過にある。とりわけ、若年層・中堅層の自己都合退職の増加は全庁的な組織の活力低下につながり、避けなければならない事象である。今回のレポートにおいては、まず、近年の道職員の退職動向を調査し、労働組合としての対応策の方向性を探るものとしたい。



道職員の退職動向にかかる考察
―― 最近5年間の調査から ――

北海道本部/全北海道庁労働組合連合会

1. はじめに

 道においては、危機的な財政状況への対応として、「職員数適正化計画」(※1998年策定、2006年改定)を策定し、知事部局の職員数を2011年度当初の20,830人から2015年度当初には13,599人まで削減してきた。
 計画期間内においては、過度な採用抑制が長きにわたり続き、中堅層と呼ばれる30代職員の不足による全庁的な年齢構成のゆがみにより、人材育成などに支障をきたしていることが、労働組合側からだけでなく道当局においても課題認識されている現状がある。現在は「職員数適正化計画」が終了し、新規採用者の大量採用が行われているが、とりわけ技術系職員の採用の困難な状況が数多く指摘されている。
 その様な状況のなか、特に中途退職・自己都合退職による人材の喪失は道庁組織における大きな不利益との認識のもと、今回のレポートにおいて、近年の道職員の退職動向について調査し、考察を加え、今後必要な人事施策を考えていく。


2. 近年の道職員総体の退職動向について

 既に公表されている道の人事統計資料をもとに、1998~2014年の知事部局の職員数、総退職者数、またその内訳(勧奨・定年・自己都合)について調査した(表-1)。
 「職員数適正化計画」により、加速度的に職員数が減少してきたことが把握できる。総職員数の減少が著しいため、退職者数の増減について年度間の比較が容易となるよう、総職員数に対する退職理由ごとの比率を算出し、図示化した(図-1)。

表-1 各年度における職員数・退職者数の推移

年 度総職員数総退職者数 勧 奨 定 年自己都合 備 考
199820,923648145193235 
199920,874890329202214 
200020,765785188258232 
200120,474767173249237 
200220,34461775229219 
200320,149932325253224 
200419,878789214208251 
200519,530821279180254 
200619,111666122201248 
200717,553878324259172札医大独法化
200816,983753227269142 
200916,450730221288127 
201015,047604102281104研究機構独法化
201114,694867344310107 
201214,195795245314140 
201313,898779245302130 
201413,64161372351107 

図-1 年ごとの総職員数に対する退職者の比率

 退職者総数については、明らかな4年周期での周期的増減があるとともに増加傾向にあるといえる。退職理由毎の推移においては、①勧奨退職については、明らかに周期的な増減が認められ、退職者総数の周期性の要因と認識できる。いずれも知事選年に著しく増加していることから、春期の知事選後の結果をもとに期中に勧奨退職を行う者が多い、または特に幹部職員において慣行となっている"退職年齢"にある者が知事選前年においては勧奨を受けないなどの要素が考えられる。また、線形近似を行うと正の傾きを示していることから若干の増加もある。②定年退職については、増加傾向にあり、定年退職者の増加が退職者総数の増加傾向の主たる要因となっていることも図から読み取れる。特に2007年の札幌医科大学の独法化以降に顕著となっているから、職員総数に離職率の高い看護師の割合が低下していることや1970年代の道庁大量職員採用期の職員が定年のタイミングを近年迎えたことも要因として考えられる。③自己都合退職については、概ね横ばい、2007年以降は減少傾向といえる。こちらも札医大独法化により、離職率の高い看護師数が職員総数から減少していることが要因と考えられる。

3. 職種・世代別の退職動向(2010~2014年の5年間)

 職員総体の退職動向については一定の傾向は認められるものの、中途退職・自己都合退職による人材の喪失の要因等の分析には至らない。職種・世代別の自己都合退職の動向を分析するため、総務部人事課より直近の2010~2014年度の自己都合退職者数の資料提供を受け、調査・分析を行った。

(1) 主な職種別自己都合退職の動向
 職種別の退職者の実数において(図-2参照)、行政職は明らかな増加傾向と言えるものと考える(2010年度の33人から2014年度で59人)。行政職の職員総数は「職員数適正化計画」下の組織機構改革においては明らかに行政職を主体とした合理化が行われた経過にあり、この5年間(2010→2014)で、行政職の総職員数は1,438人(11,968→10,530)、率にして約12%減少していることから、行政職の職員総数に対する自己都合退職の比率は、0.276%から0.560%となり、この5年間で2倍以上の退職率の増加となっている。

図-2 主な職種別自己都合退職者数の推移

 医療職(一)の医師については特に病院勤務の医師においては、いわゆる"医局人事"と呼ばれる医育大学の医師派遣システムの影響を受けるため、5年間の平均離職率が16.1%となっている。
 医療職(二)、医療職(三)の職員においては、概ね横ばいと認識されるが、それぞれ5年間の平均離職率が2.1%、4.9%と行政職に比べれば高い値で推移している。

(2) 年代別自己都合退職の動向
 全職種総計にて、各年代の職員数に対する自己都合退職者の比率を算出し、図示化した(表-2図-3)。
 20代以下が最多であり、年代を追うごとに自己都合の退職者の比率は低下している。年度毎の推移では、20代以下では最近2年で大きく低下しているが、中堅層の30代においては増加傾向にあり、問題点と言える。
 行政職、医療職(三)について年代別の自己都合の中途退職について、年代別の退職者を調査したが毎年度の両職種の年代別の職員数が調査できなかったため、ここでは実数をもとに考察することとする。
 医療職(三)の職員数については、この間の「職員数適正化計画」による定数削減はほぼ行われていないが、欠員が恒常的に発生している職種であり、基本的にこの5年間での年齢構成に大きな変化は少ないと考えるため、退職の比率による評価ではなく、実数の評価で一定目的を達成できるものと思慮する。
 医療職(三)の年代別退職動向(図-4)においては、概ね30代での退職が最多である。女性の割合が高い職種であることからも、従前から一般的に指摘されているとおり、結婚・出産もしくは子の就学に伴う退職が強く想定される。20代以下の退職数は減少傾向にあるが、職場環境の改善によるものか、若年層の就業意識の変化によるものかは判断できず、継続的な調査が必要であり、労働組合としても注視していくことが必要であるが好ましい傾向にある。

表-2 各年代の自己都合退職者数等

 20102011201220132014
20代以下自己都合退職者数3034393233
職員数840789885 1,234 1,233
退職の比率3.57%4.31%4.41%2.59%2.68%
30代自己都合退職者数4756566351
職員数 3,844 3,497 3,091 2,675 2,316
退職の比率1.22%1.60%1.81%2.36%2.20%
40代自己都合退職者数2115503838
職員数 5,106 4,981 4,948 4,937 4,843
退職の比率0.41%0.30%1.01%0.77%0.78%
50代自己都合退職者数 6 8 6 6 9
職員数 5,186 5,332 5,174 5,119 5,070
退職の比率0.12%0.15%0.12%0.12%0.18%

図-3 年代別自己都合退職の推移

図-4 医療職(三)の年代別自己都合退職の推移

 行政職の年代別退職動向(図-5)においては、実数評価で30代での退職が多い傾向があり、一見、20代以下の退職が増加傾向にあるように読みとれる。
 この5年間において、医療職(一)(二)(三)は年齢構成が大きく変化していないと仮定できると考えれば、2010~2012年の3年間の20代以下の職員数が概ね800人前後、2013年、2014年では20代以下の職員数が1,200人強と1.4倍ほど増加していること(表-2参照)を考慮すれば、20代以下の自己都合退職者が比率として増加しているとの評価には至らない。
 しかしながら、職場内で指導的な立場となる中堅層(30代職員)の人数が大きく減少していることから、若年層における意識調査(キャリア形成にかかる不安や職場内で相談できる環境にあるのかなど)も検討していくことが労働組合としては必要であり、継続的な調査を検討すべきである。

図-5 行政職の年代別自己都合退職者の推移

4. 土木職(建設部)の自己都合退職の動向

 この間、全道庁労連が実施した職場対話集会などにおいて、行政職の中でも土木職の採用困難な状況や人材流出などの意見が近年寄せられる頻度が高まっていた。建設部総務課より直近の2010~2014年度の自己都合退職者数の資料提供を受け、調査・分析を行った。

(1) 土木職における年度別自己都合退職者数の推移
 2012年度から著しく増えたとの印象を受ける結果となった。一般的に建設業全体では、2011年の東日本大震災以降、首都圏再開発ラッシュ、東京オリンピック招致決定(2013年9月)などを受け、活況を呈していることは報道されており、公民問わず土木職の需要の高まりは容易に想像でき、それに伴う労働市場の変化による影響が想定される。

図-6 土木職における自己都合退職者数の推移

(2) 過去5年間の土木職における年代別自己都合退職者数
 全職種と同様、30代の退職が多いことが分かる。また、50代の退職がいないことは多職種と比べ特異的な可能性を残すが、5年間における結果では評価が困難であり、今後の調査期間の拡大などを検討していくことが必要となる。

図-7 過去5年間の土木職における年代別自己都合退職者数

(3) 過去5年間の土木職における自己都合退職の理由
 退職理由については、他の自治体(基礎自治体)への転出が半数となっている。一般的に公務職場においても自己都合の理由として、"ライフステージ"の変化によるもの(結婚、出産、介護など)が多いと推測されるが、土木職においては、"キャリア形成"にかかる理由が多いと評価される。その中でも他の自治体が大半ということは課題として認識すべきものと考える。
 同じ公務職場に再就職している事例が多いことから、道と基礎自治体の差を理由として想定した場合、①この間の道の賃金独自削減が影響、②全道域での人事異動に対する負担感からの退職(転出)と考えられるが、より正確な実態把握にはさらに詳細な意識調査(アンケートなど)が必要となり、今後の課題としていくべきである。
 いずれにしても、採用困難な状況となっている土木職においては、人材確保競争相手としては民間企業では無く、他の自治体であるということは十分に認識しなければならない。

図-8 過去5年間の土木職における自己都合退職の理由

5. 結 語

 今回、近年の自己都合退職の動向について調査し、何点かの特徴的な結果を得ることができた。
 全道庁労連としては、「新規採用者の確保のみならず、離職防止の視点も必要であることから、処遇改善など、働きつづけられる魅力ある職場づくり」として人材確保の取り組みを方針化している。今回得られた知見については、一定程度、今後の取り組みにおいて活用すべき視点を与えており、経時的に退職動向を見ていくとともに、具体的な改善に結びつけていかなくてはならない。
 今回は、調査できなかった行政職の職種として、農業改良普及員についても今後調査していくことを検討しており、引き続きの取り組みとしたい。