1. 職員数適正化計画の推移
(1) 職員数適正化計画の策定から計画の加速化
道は、危機的な北海道の財政状況の悪化や、全国的な地方行革の流れの中で1998年度から2002年度までの5年間で職員数の5%の削減、2005年度から2012年度の8年間で職員数の15%の削減をかかげ「職員数適正化計画」を策定した。
1998年度から2005年度時点までで、職員定数は20,830人(1999年度当初)から19,489人(2005年度当初)、1,341人(6.4%)の定数減が強行された。
2006年には、「職員数適正化計画」を改定し、2007年度から2016年度までの10年間で知事部局職員数の30%を目標とし、毎年度の機構改正時に着実に実行することを決定。
道当局は、人員削減の手法として、毎年度の機構改正時に実施することを決め、①徹底した事務事業の見直し、②民間開放の推進、③技能労務業務の委託化、④本庁組織の見直し、⑤出先の再編・統合の推進、⑥支庁組織の見直し、⑦職制の見直し、⑧独法化の積極的な推進、⑨指定管理者制度の導入、⑩派遣職員引き上げ、⑪新規採用の抑制などを掲げ定数減に着手した。
結果、19,489人(2005年度当初)の定数を16,983人(2008年度当初)、2,506人の定数を削減した。(別表を参照※札医大独法化1,147人を含む)
計画改定から3年後の2009年3月には、「職員数適正化計画【改訂版】」を策定。2005年度から2014年までの削減目標を職員数の35%に引き上げ、計画終了時の定数を12,600人とした。
【改訂版】の策定により、職員数適正化の加速が必要となり、①新規採用抑制の徹底、②早期退職の促進などの項目を新たに掲げ、機構改正に当たっては「道組織の見直し方針」を基本に「配分数方式」という新たな手法も導入し、計画の着実な実行・さらなる加速化をめざした。
(2) 配分数方式による機械的な人員削減と適正化計画の結果
道当局が機構改正時の新たな手法として取り入れた「配分数方式」は、①『各部局の責任と裁量に基づくもの』、②『翌年度に見込まれる現在員数をもとに各部局へ定数を配分』、③『各部局が「配分数及びポスト数」を基本に人事配置を行うもの』とされており、各部局段階での裁量がある程度認められるものといわれていたが、一部のビルド要求(新規行政需要への対応等のための増員措置)や、削減案の撤回などはあったものの、毎年の機構改正で厳しい定数削減が押しつけられた。
また、機構検討方法の「配分数方式」について撤回や従来の機構検討方式への見直しも求めたものの、人事当局は管理運営事項であるとして協議のテーブルにも着かない状況で、職場段階からの要求書提出・上申の取り組みや、各部当局との交渉を行うなどして組合員のゆずれない要求を訴えた。
【改訂版】の策定以降、計画終了までに、策定時16,983人(2008年度当初)だった定数は、13,599人(2015年度当初)、3,384人が削減となった。(※試験研究機関独法化による削減含む)
道当局の計画の12,600人までの削減目標からは、約1,000人の定数を守ることができたものの、「職員数適正化計画」の策定(1998年度)からの17年間で7,231人、34.7%職員の削減が行われた。
●「職員数適正化計画」策定による職員数の推移(2007~2015年度)
※2010年に改訂され、2005年度職員数から30%減の計画から35%に上積み
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年 度 | 本 庁 | 各部出先 | 支 庁 (振興局) | 職員数の減 | 知事部局
総 数 |
計画での 目標数 |
2007 | 3,807 | 3,979 | 9,767 | 95 | 17,553 | 17,600 |
2008 | 3,714 | 3,771 | 9,498 | 570 | 16,983 | 16,900 |
2009 | 3,663 | 3,544 | 9,243 | 533 | 16,450 | 16,400 |
2010 | 3,825 | 2,230 | 8,992 |
1,403 | 15,047 | 15,200 |
2011 | 3,763 | 2,005 | 8,926 | 353 | 14,694 | 14,700 |
2012 | 3,711 | 1,974 | 8,510 | 499 | 14,195 | 14,100 |
2013 | 3,654 | 1,956 | 8,288 | 297 | 13,898 | 13,900 |
2014 | 3,608 | 1,871 | 8,162 | 257 | 13,641 | 13,100 |
2015 | 3,599 | 1,847 | 8,153 | 42 | 13,599 | 12,600 |
※2010年度から①試験研究機関が地独法人に ②支庁制度改革により支庁は(総合)振興局へ
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【改訂版】策定以降の機構検討は総じて人事当局の考える「配分数」の枠の中で議論が進められてしまい、労組側からみると困難な状況が続き、大幅な削減提案の圧縮を果たすことが出来なかった。振り返れば「配分数方式」自体が職員数適正化計画を着実に機械的に実行するためのツールだったといえるのではないだろうか。
道当局が削減根拠としてきた、支庁制度改革は単なる「支庁」から「振興局」への看板の掛け替えに終わり、「グループ制導入」も本庁のみ実施されたが各振興局への導入は見送られた。市町村への権限移譲のための「コア業務」についても議論が進まず業務の精査・縮減は果たされていなかったといえる。
事務事業の見直しでは、「総務業務等の本庁への集約化」が、ほぼ全ての職場で削減根拠とされ、定数減が強行されたが、現場段階での混乱を招いた上、現時点でも集約された業務に関する対応の遅れなどのトラブルやミスも多く課題は残されたままとなっている。
独法化・指定管理などの民間委託などについては、札医大・試験研究機関が独法化され、約2,000人が知事部局定数から減ったものの、民間委託は指定管理者制度も含めその当初から実現性が疑問視されており、結果的に効果があったとはいえない。
北海道が提示した定数減の様々な根拠は、そのどれもが大きな効果を生まないままにもかかわらず、定数だけが削減される結果となったことは削減ありきの道の姿勢が表れたものといえる。
(3) 年齢構成の推移
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| 18~25 | 26~30 | 31~35 | 36~40 | 41~45 | 46~50 | 51~55 | 56~60 | 61~ | 計 |
2005年 | 836 | 1,900 | 2,911 | 3,032 | 3,211 | 3,372 | 2,816 | 1,403 | 49 | 19,530 |
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4.28% | 9.73% | 14.91% | 15.52% | 16.44% | 17.27% | 14.42% | 7.18% | 0.25% | |
2010年 | 353 | 702 | 1,589 | 2,476 | 2,548 | 2,746 | 2,900 | 1,684 | 49 | 15,047 |
| 2.35% | 4.67% | 10.56% | 16.46% | 16.93% | 18.25% | 19.27% | 11.19% | 0.33% | |
2015年 | 924 | 674 | 794 | 1,530 | 2,385 | 2,446 | 2,588 | 2,157 | 101 | 13,599 |
| 6.79% | 4.96% | 5.84% | 11.25% | 17.54% | 17.99% | 19.03% | 15.86% | 0.74% | |
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| 18~30 | 31~40 | 41~50 | 51~60 | 61~ | 計 |
2005年 | 2,736 | 5,943 | 6,583 | 4,219 | 49 | 19,530 |
| 14.01% | 30.43% | 33.71% | 21.60% | 0.25% | |
2010年 | 1,055 | 4,065 | 5,294 | 4,584 | 49 | 15,047 |
| 7.01% | 27.02% | 35.18% | 30.46% | 0.33% | |
2015年 | 1,598 | 2,324 | 4,831 | 4,745 | 101 | 13,599 |
| 11.75% | 17.09% | 35.52% | 34.89% | 0.74% | |
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一方で、ここ数年は退職者が多かったことから急激に採用数を増やしており、2010年時点で「18~30才」が1,055人、7.01%に対し、2015年時点では1,598人、11.75%と増えており、無理な定数減の強行が人員構成を大きく歪めてしまったといえる。※2016年度も新規採用者を500人以上採用しており、2016年4月時点では若年の割合は一層増えていると予想される。
2. 定数減等による職場への影響
(1) 網走総支部(オホーツク管内)の職員定数の変化と年齢構成の状況
全道的にも、定数減が強行されていた時期の大幅な採用抑制、退職者の増による一転した採用増は、職場へ大きな影響を与えている。出先職場も例外でなく、網走総支部(オホーツク管内)の10年間の職員定数及び年齢構成の推移を調査したところ、定数は、2006年時点で1,493人だった職員数は2016年時点で1,230人と、263人、17.6%の減少、年齢構成については、30代職員の減少と若年職員の増加傾向がみられる。
特に若年層の構成比率では、職員総体1,230人に対して、「18才~30才」は217人、構成比率17.56%と全道の構成比率を大幅に上回っている。
2006年度からの推移を見れば明らかだが、2006年~2010年までは、30代職員が全体の構成割合の約3割をしめていたが、2011年度から徐々に減少し、2014年度には2割を切り、2016年度には全体の16%弱となっている。
2016年度には初めて20代の職員の割合が30代職員の割合を上回っている。
(2) 職場・業務への影響
前述の通り、若年増加、30代職員の減少が職場に与える影響は少なくない。
業務に与えている影響を示す客観的なデータを取ることが困難なため、あくまで主観的(組合員からの状況を聞き取りながら)な意見となるが、若年職員の増加はもちろん経験不足の職員が増えることとイコールであるため、業務の精度や質の低下を招くこととなる。
また、定数減の影響で、採用後、即戦力として時間外勤務をしなければならない状況はあきらかに増えており、経験不足の中で新規採用者への負担が増している。
また、振興局では、係制が敷かれているが、①係統合による大係化及び主査ポストの配置増、②電子決済の導入、文書の電子化(メールによる照会・回答)などの導入、③人員減による業務量の増加、④総務業務集約化による事務の個別化などにより、係制業務の機能(係内での検精やバックアップ)が十分に発揮されにくい状況も生まれている。(本庁グループ制導入も少なからず影響を与えている)
こうした状況の中で、2016年度においては人事行政の明らかな失敗により、主査の配置見送りが、職場への十分な説明や組合に対する協議もないままに強行された。一部の職場では、人事異動内示時点で初めて主査の配置見送りポストが現場所属に伝えられたことから、現場に混乱をもたらしたうえ、配置された主査業務については、所管の係長や係員へしわ寄せされることとなった。
人事当局は、主査配置見送りの代替えに一般職を配置し職場定数に変更がないことを理由として管理運営事項であるとし、組合への協議の必要がないとの考えを示したが、職場体制や職員の働き方に影響を与えることは明白であり、組合への協議をないがしろにしたことはこれまでの労使ルールを軽視しているといえ抗議するものである。一方で新規採用の増加は、若年職員が増え職場に活気が出ることは確かであり歓迎するが、前述の通り職場内での受け入れ体制が十分にとれていないことで、現場の職員にそのしわ寄せが重くのしかかっている。
30代職員の全庁的な減少により、統計上の裏付けはないが、採用時から最初の異動までの期間が短くなっており、20代半ばで初任地から異動し、従前に比べて十分な業務経験を得ることが出来ないこと、組織として中堅的な業務経験のないまま昇格していくこととなるなど、今後の道政運営に影響をもたらすことも考えられる。
例示するならば、振興局で採用され、5年が経過し、所属で中堅的な位置につき後輩の指導を経験する段階で本庁等へ異動。異動先では経験年数が少ないことから指導的立場につかないままとなってしまうことなどが挙げられる。
(3) 職場実態を無視した「超勤手当未払い」「サービス残業の押しつけ」
多くの職場で慢性的な超過勤務やサービス残業が横行している。残業代の支払いのない超過勤務はそもそも存在しないこととされており、表面上、問題がないこととしてしまって人員不足による職員・職場の疲弊を見て見ない振りをしているのだ。
実は超勤予算は毎年のシーリングにより少しずつ減っており、道当局は「超勤縮減策の効果が現れている」と職場実態とは大きくかけ離れた認識を示している。
なぜこのようなことが起きるのか? 原因は公務職場の『予算主義』と『人事配置と超勤予算の配分におけるねじれ』にある。
決められた予算配当をオーバーすることは、公務職場においてはタブーに値する。そのため超勤支給は「実態」よりも「予算」が優先されてしまう傾向にある。一部の職場では、ケース対応や現場対応のため出張を行い時間外に職場に戻り、時間外から出張に係る事務処理をした場合、「超勤予算が無いから」という理由で出張していた時間の分の超勤代は支出されても「事務処理分の超勤代はつきません」。であるとか「○○事務所は超勤やっても全部はつかない。超勤はやってあたりまえだから」と管理職が異動して来た職員や新規採用職員に言ってしまう。という事例も起きている。「予算」ありきの超勤支給の悪しき慣習といえるだろう。
また、北海道の各職場の人員配置に関する権限は、総体の定数に関しては、本庁人事課が、実際の職場への配置は本庁各部局に権限がゆだねられている。
一方で超勤予算は、人事課から各部局・振興局毎に割り振られているため、振興局の各課や出先職場の超勤予算の差配は振興局総務課が行うこととなる。人員が足りず忙しい職場とはどういった職場か客観的な実態をつかむひとつの方法として「超過勤務の量」があげられるが、超過勤務の量の把握ができるのは、人員の配置を行う本庁各部ではなく振興局の総務課となる。これでは一向に適正な人員配置などは行われない。
さらに、振興局総務課の超勤予算の配分は概ね前年予算を基に(更に一定率のシーリングをかけられ)配分されるため予算の範囲内での超勤支給を各課・出先に押しつければ、毎年少しずつ超勤予算を減少させることが可能となり、『超過勤務は縮減傾向にある』という職場の実態を無視したなんとも間抜けな答えがでてくる。
「予算」を建前に職場実態を無視し、職員にその責任を丸投げし、ただ働きをさせているのは一体誰なのか。超勤予算の基礎を作る人事課なのか、適正な配分を行わない振興局なのか、部下をマネジメントできない現場の管理職なのか。それともガマンさせられて働いている現場の職員やその働き方に問題があるとでも言うのか。
3. 安心して働ける職場体制の構築に向けて
(1) 組織機構の検討方法の見直しと人事施策のありかたについて
職員数適正化計画は2015年度組織機構をもって終了し、2016年度の組織機構改正については、新たに「基礎定数及びポスト数」を基本として機構改正作業を行うこととされた。
人事課が示す「機構改正に当たっての基本的視点」には、これまであった『コンパクト道庁』・『職員数適正化計画の推進』といった文言が削除されていることや、振興局単位での「地域裁量枠の活用」等についても触れられていることから適正化計画実施時の姿勢が緩和されていると判断出来る。
削減基調の方針が緩和された一方で、『配分数』から「基礎定数」に変わったものの、「事務事業評価に基づく組織機構の見直しを基本」、基礎定数の算定は人事課が行うことなど、検討手法はこれまでとほとんど変わらずトップダウンでの機構検討が続くことが懸念される。
行政需要の全てを本庁判断で行うことは不可能であり、今回示された地域裁量枠の拡大や、各部・現場所属からのボトムアップでの機構議論が行われるよう検討手法の見直しを求めていく必要がある。
また、北海道の人事施策上の問題点としては、人事当局も「人事施策に関する基本方針」に記載されているが、①年齢構成の歪みと職位別の職員比率の変化、②女性登用、③再任用の増大などがある。
こうした問題の解消のため、道当局は、2013年度から職員の採用数を300人程度へと増員。2014年度採用者から、これまで上級・中級・初級だった試験区分を、A区分(大卒)・B区分(高卒)・C区分(民間経験者)枠での採用へ変更した。さらに、今後中堅層職員が不足することが予測されることからC区分の年齢制限を外すなどの対応を行っている。
人事当局の施策が功を奏し、課題が解決されることを切に願うが、そもそも問題の多くが急激な人員減を押し進めたことが要因であり、自らの失策の穴埋めであるから全く同情の余地もない。
また、C区分採用については、今年度より主査登用が実施されたが、民間経験の前歴換算が低いため低賃金となるなどの問題も生じており、今後、制度運用のあり方の柔軟性も求められる。
(2) 今後の人事施策の運用に向けての提言
安定的な人員の確保、職員の育成を図るためにも、人事当局だけが中心となっている現行の制度運用の見直しを図る必要がある。かなり昔の話になるが、職員数適正化計画より以前にあった「機構検討調書」の作成などの機構検討方法を一部で取り入れる必要があると考える。
現場所属のニーズを人事施策に反映させることはもとより、現場所属段階に一部権限を移譲することにより、職員の意欲を高め、能力発揮の場を与えることもできる。「トップダウン」による人事管理は、定数管理や全道規模の行政運営上、大きな意味や効果を生むが、「ボトムアップ」による職場意見の採用は地域やそこで働く職員のモチベーションに良い影響をもたらすと考える。要は、バランスが肝心なのだ。当たり前と思われるが、現状、道では圧倒的にトップダウンによる組織運営が行われており、バランスを全く欠いているのではないだろうか。「配分数」の押しつけで拙速に行った人員削減は、歪な組織を作ってしまい、2016年度における追加道案の提案では、職場意見も聞かないまま「主査ポスト」を据え置いた。
また、「グループ制導入」や、「総務業務集約化」など実施後の検証がなされていない課題も多くある。中長期的な人事施策を考えるときに目新しい制度の導入も必要ではあるが、運用後の効果や実態の検証作業を行い、見直すべきは見直す必要があると考える。
道当局の「人事施策の基本方針」の一文に「職員数が減少する中、職員個々の能力アップが必要不可欠」との記載がある。様々に研修制度や職員サポートの施策も列記されているが、結局はそれらの施策の実施は職員に押しつけられるのだ、結局はそれぞれの職員にただ「がんばれ」と言っているようなものだ。
今こそ真に必要な職員定数を配置し、「超勤はして当たり前」、「1・2時間は超勤じゃない」などの悪しき慣習を見直すべきなのではないだろうか、若手職員の育成のためにはしっかりとサポートできる予算面・人的配置などの職場体制を整えることこそ必要だと考える。
最後に、北海道は2000年から今日までの14年間、保守道政下での道政運営が続いている。
給与の大幅な独自削減や、給与制度の改悪、人員削減等が強行され、職場は疲弊し、職員・家族の生活は以前より厳しさを増した。しかし、労働組合は常に話し合い、議論し、職場の実態や要求を訴え続け、不十分な成果かもしれないが一方的な切り下げに抗してきた。極端な見方と批判されるかも知れないが「人員減」とは詰まるところ質的にも量的にも「道民サービスの低下」を招く。財政事情や国からの押しつけを理由に行き過ぎた人員削減を許さず、サービスの質を守ることも労働組合が担うべき社会的責任と考える。
我々労働組合も、今後も組合員のアンケート調査などを実施し、職場実態の把握に努めるとともに客観的な根拠を積み上げ道当局と対峙していく必要があるだろう。
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