【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第11分科会 じちけん入門!! ~じちけんから始まる組合活性化~

 どのような組織であれ、その組織の発展のためには人材を育てることに注力する必要があり、自治体も同様であると考える。八雲町では計画的な人材育成が行われていない現状・問題意識から、組合主催による「仕事に役立つ学習会」の開催によって当局が実施する研修の不足部分を補いつつ、自治体における職員の育成について考える。



八雲町における職員育成について
―― 組合による「仕事に役立つ学習会」の取り組み ――

北海道本部/自治労八雲町職員労働組合・書記長 多田玲央奈

1. はじめに

 どのような組織であれ、その組織の発展のためには人材を育てることに注力する必要があり、自治体も同様であると考える。
 自治体が行う業務の分野は極めて多岐に渡り、八雲町の場合119もの係があり(注1)、これらの係において、それぞれ重要度や難易度の異なる課題や案件を抱えている。これらの課題や案件の解決に向けて実際に取り組むのは特別職や管理職ではなく、それぞれの分野の法令や町内の実態・情勢に詳しい係長や係員であり、彼らが主体的に課題解決に取り組まなければならない。つまり、彼らの課題解決能力やモチベーションによるところ、および管理職によるマネジメント能力によるところが大きい。
 しかし、課題解決に取り組むべき係長・係員に各種研修が行われているかといえばそうではなく、課題解決のために必要な知識が付与されないため、「やりながら覚える」あるいは自己研鑽に任されている。実地・実践の中で積み重ねる経験・知識や自己研鑽を否定するものではなく、これらのウェイトが多すぎることを指摘したい。
 また、新規採用職員に任意で「なぜ八雲町役場を希望したのか、面接向きではなく本心が知りたい」と尋ねると、①安定を求めて公務員を希望した、②国家公務員などの他の公務員も受験したが落ちた、③希望していた他の自治体に採用されなかった、という答えが多く、消極的な理由で八雲町の職員になっている実態が見え、採用時点で既にモチベーションが高いとは言えない。
 大手民間企業は、本社勤務を前提として採用した社員であっても、採用直後から地方の現場で一時的に勤務をさせ、現場を経験させてから本社勤務とすることが少なくないと聞く。数か月~1年は実習のようなものではあるが、当然、賃金を支払う。つまり、大きな経費をかけて社員の育成に取り組んでいるのである。JR北海道で度重なった事故の背景として、JR北海道再生推進会議(注2)は、新規採用を見合わせたことにより年齢断層が生じ、技術の継承がなされなかったことを指摘する一方で、社員の育成方針について提言している(注3)。同様に、八雲町においても、①新規採用を抑制していた時期があったこと、②退職者が多いため新規採用者も多いことなどから年齢断層が生じており、人材育成方針・実施計画の確立が急務である。
 筆者の問題意識は、①知識習得型の研修の不足、②研修が場当たり的で計画的・体系的に実施されていない、③人材育成に行政資源の投入が惜しまれているという3点である。地方公務員法第39条第3項(注4)に規定された研修の基本方針は定められておらず、このような規定が地公法にあることすら当局は認識していないかもしれない。八雲町の人材育成の現状を栽培に例えるなら、買ってきた苗(新規採用職員)を色々な畑(職場)に植えた後、各畑の栽培者(各課長・係長)によって育てられるため、日当たり・水や肥料(研修の種類・タイミング)の与え方がまちまちという状況であり、当然、育ち方もまちまちである。
 本レポートでは、このような問題意識から出発した「仕事に役立つ学習会」の取り組みについて報告する。

2. 八雲町における人材育成の現状

表1 八雲町の人材育成研修の実施状況(注5)
                   (単位:人、%)

研修主催者・研修名

2009

2010

2011

2012

2013

八雲町

56

48

203

83

159

 まちづくり研修

14

 

128

41

 

 職員研修
 (初級・中級)

27

42

 

 

 

 自治体職員の役割

 

 

 

 

107

 政策形成能力の育成

 

 

 

 

38

 職員研修(接遇)

 

 

69

34

 

 新規採用職員研修

15

6

6

8

14

北海道市町村職員研修
センター

8

9

1

5

9

町村会主催

13

17

11

21

27

その他

7

1

 

 

10

合計(A)

84

75

215

109

205

職員数(注6)(B)

283

277

278

268

260

受講率(A÷B)

29.7

27.1

77.3

40.7

78.8

 ここでは、八雲町における人材育成の現状を報告する。
 八雲町が公表している『八雲町の人事行政の運営等の状況について』(表1)によれば、研修の主催は八雲町、北海道市町村職員研修センター、町村会、その他となっている。
 北海道市町村職員研修センター主催の研修は、札幌市にある道庁別館にて行われており、おおむね2日日程の座学である。内容としては、民法や地方自治法、税法、クレーム対応など多岐に渡っている。参加者の選定については、例えば「税務事務研修」のように特定の職場に限定して必要な研修については、職員が上司から指示されて受講する。一方、業務全般に関わるような例えば「政策立案研修」などは職員全員が見られるPC上の掲示板により周知され、個々の職員が受講希望を出す手上げ制、つまり任意になっているが、実態としては希望者が少ないことが多く、総務課から任意に職員を選んで打診をしているようである。
 町村会主催の研修は、採用1年目の職員に対して行う「新規採用職員基礎研修」、採用後の経過年数に合わせて受講させる「初級職員研修」「中級職員研修」「上級職員研修」は、人事当局からの指示により受講させているが、法務研修については個々の職員からの手上げ制である。
 八雲町主催の研修は、毎年新規採用職員に対して実施されている「新規採用職員研修」および2009年・2010年に実施された「職員研修(初級・中級)」は、受講すべき職員を総務課から指名しているが、これら以外の研修は自由参加であり、職員の積極性に委ねられている。また、通常業務や窓口対応に影響しないよう18時~20時の時間帯に開催されることが多いが、時間外勤務手当を支払わないため自由参加としている。研修内容は、新規採用職員研修が知識を習得するための座学および町内見学であるが、これ以外の研修は、グループワークや啓発型の研修である。


3. 組合による学習会の開催

 当局による研修では知識習得型の研修が足りないという問題意識から、自治研の取り組みの1つとして組合主催による研修会を開催することとした。

(1) 研修テーマの選定
 研修テーマには「地方交付税」を選んだ。
 春闘期に地本主催で開催された財政を学ぶための学習会で地方交付税の仕組みについて学ぶ機会があり、知ることができた。しかし、学習会に参加していなければ知らないまま過ごしていたと思われる。「3割自治」という言葉に象徴されるように、地方交付税に依存する多くの地方自治体と同様の財政体質を八雲町も持っており、国の借金が膨大に膨れ上がる中で政権により左右されてしまう地方交付税に依存する不安定な財政運営をしていることを職員は認識すべきであり、また、地方交付税により自分達の賃金や自分達が行っている事務事業が支えられていることを認識すべきと筆者は考えるが、当局はそのような認識を持っていない。このような理由から、今回のテーマ選定に至った。

(2) 講師の選定
 講師については、外部から講師を招くことも考えたが、八雲町の財政状況を踏まえた話をした方が分かりやすいということと、OBの知識や経験を活用するべきと考え、退職時財政担当課長だった梶原氏に依頼をしたところ、快諾いただいた。

(3) 周 知
 学習会を開催するにあたり周知方法は、①組合機関紙による周知、②分会長による出欠集約、の2点のみとした。通常、単組で学習会を開催する場合は、執行部や青年女性部に動員要請をするが、あえて動員をかけず、参加希望者のみが参加するような方法をとった。理由の1つは、本来なら当局が主催し、時間外勤務命令を出すべきものであること。もう1つは、動員要請を出さずにどのくらいの参加者が集まるか、どのような層の職員が集まるか、見てみたかったためである。

(4) 講演の内容

写真1 学習会の様子
写真2 講師

 講演内容について概要を次に示しておく。
 まず、地方財政計画の概要として、①国が作成する「地方財政計画」において、地方の全体の歳入・歳出の見込額が作成される。その中で交付税の総額が決められる。②総務省は交付税を確保しようとするが、財務省は経済財政諮問会議の方針を踏まえ、交付税を縮小しようとする。③国の歳入である所得税・法人税などの一部を歳出から交付税及び譲与税配付金特別会計に入れ、そこから地方に配分する。④臨時財政対策債は、交付税で賄えない分を地方に借金をさせて賄おうとするもの。臨時財政対策債は、地方の借入金を増加させる一因となっている。
 次に、八雲町の2014年度決算として、①地方交付税は6,046,550千円であり、このうち特別交付税は620,513千円。普通交付税は5,426,037千円で、経常的な収入のうち59%を占める。一方、町税は1,866,639千円で20%にしかならない。
 つづいて、地方交付税制度の概要として、①交付税は、地方公共団体間の財源の不均衡を調整し、どの地域に住む国民にも一定の行政サービスを提供できるよう財源を保障するもの。地方の固有財源であり、いわば国が地方に代わって徴収する地方税といえる。②八雲町のように合併した市町村は「合併算定」と「一本算定」のうちいずれか高い方の額が採用される。③合併算定は、旧八雲町として計算した交付税額と旧熊石町として計算した交付税額を足したもの。④一本算定は、新八雲町として交付税を計算したもの。
 つづいて、基準財政需要額の説明として、①単位費用×測定単位×補正係数で算出される。②測定単位は、道路延長、都市公園面積、学校数など。③測定単位に乗ずる単価を単位費用と言い、単位費用は市町村であれば10万人規模を標準として定め、規模の違いに応じて補正されている。
 つづいて、基準財政収入額の説明として、①基準財政収入額は、標準的な地方税収入×75/100+地方譲与税等で求められる。②上記の25/100は、留保財源として位置付けられている。
 最後に、地方交付税制度の問題点として、①「行革努力分」を指標として取り入れ、人件費を抑制すると交付税が上がる仕組み。しかし、病院の職員も含む算出方法になっていることから、看護師確保等の取り組みに逆行する。②「人口減少等特別対策事業費」として人口を増やすと交付税が上がる仕組み。しかし、そもそも交付税は地域間の財源の不均衡を調整するための制度であり、人口減少で疲弊する地方をさらに追い込むことになる。③上記事業費について、指標の一部に「1人あたりの各産業の売上高」が組み込まれているが、なぜか第一次産業は農業だけに限定され、漁業が含まれていない。
 講演後には、質疑応答を行い、4点について質疑応答が交わされた。

4. 参加者アンケート

 学習会参加者に対して簡単なアンケートを実施している。質問項目は、①学習会参加の動機、②学習会の感想、③今後の取り上げてほしいテーマ、④その他意見、という4項目である。なお、①および③については複数回答可としている。
 回収数は参加者36人中27人、回収率75.0%である。

(1) 学習会参加の動機
 参加の動機は、「地方交付税について知りたいから」が最も多く26人(96.3%)。次いで、「周りの組合員が参加するから」が3人(11.1%)。その他の意見として「梶原さんが講師だから」が2人(7.4%)、「学習会に興味があるから」が1人(3.7%)。選択肢には「なんとなく」「誘われたので仕方なく」を用意したが、これらを選んだ者はいなかった。

(2) 学習会の感想
 学習会の感想としては、「難しかった」という意見と「分かりやすかった」という意見に大きく分かれた。若年層の職員が難しく感じ、一定の予備知識を持った職員には分かりやすく感じたと思われるが、総じて「勉強になった」という傾向にあった。

(3) 今後取り上げてほしい研修テーマ

表2 希望する研修テーマ
税の仕組み 14人 51.9%

町議会の仕組み

13人 48.2%

地方公務員法

12人 44.4%

地方自治法

11人 40.7%

エクセルの操作

 8人 29.6%

より詳しい地方交付税

 5人 18.5%

その他

 4人 14.8%

八雲町の歴史

 3人 11.1%

八雲町の産業

 3人 11.1%

特にない

 0人  0.0%

 今後取り上げてほしい研修テーマ(表2)については、「税の仕組み」が最も多く14人(51.9%)が選んだ。税については、住民税の課税・非課税が様々な制度の基準に用いられており、多くの職員が業務上取り扱うものの、課税・非課税の仕組みが分からないまま事務を進めていることや、多くの職員が「税金」に対する苦手意識を持っていると思われ、機会があれば勉強したい、克服したいという思いの表れではないかと考える。
 次いで「町議会の仕組み」を13人(48.2%)が選んだ。議会は、その仕組みや根本的な考え方などを教わる機会を与えられない割に、30代から関わりが増え、係長になると議会対応や委員会対応を迫られ、分からないまま対応している実態があることから、勉強したいということだと思われる。
 次いで、「地方公務員法について」が12人(44.4%)、「地方自治法について」が11人(40.7%)と業務上広く関わる法律が選ばれた。
 一方、「八雲町の歴史について」および「八雲町の産業について」は、いずれも3人(11.1%)と低調だった。既に大体のことは知っている、あるいは関心があまりない、ということだと思われる。
 その他の意見として、「予算執行に関わる注意点、仕組み」との記載があった。伝票の作成方法は知っているものの、予算編成の仕組みや支出負担行為に関する理解が十分ではない若年層の職員が多いという印象を筆者も持っており、このテーマでの学習会は必要だと感じる。

5. 総 括

 「仕事に役立つ学習会」は、参加者アンケートの結果から好評だったと認識しており、引き続き取り組むべきと総括し、第2回を企画したいと考えている。次回のテーマの選定にあたっては、アンケート結果から検討するが、アンケート結果(研修ニーズ)は、普段の業務の中での困り事がベースになっていると思われ、これに応えることが当局主催ではなく組合が主催することの意義にもなり得ると考える。
 八雲町の人事評価制度は今年4月からスタートしている。人事評価制度を導入する目的について、当局は人材育成だと強調するが、実態は職員一人ひとりが当該年度において実行するべき業務の目標設定とその進捗管理となっており、単なる業務管理ツールでしかない。人材育成方針を策定している自治体の多くは、「チャレンジする職員」を理想像として掲げているが、八雲町の現行の人事評価制度は、チャレンジして失敗したら処遇に影響する仕組みになっており、チャレンジを励行するものになっていない。自治体に限らず、税を原資として事業を行う公的機関は失敗が許されないため、「この事業は失敗だった」という総括をしない組織である。「失敗」を嫌う組織の中でチャレンジする人材を育てることは大変難しいことではあるが、この難事こそ避けて通らずチャレンジしなければ、あらゆる分野で前年度を踏襲した業務が行われ、八雲町は時代遅れの自治体になってしまう。早々に、理想的な職員像を掲げた人材育成方針を策定し、必要な種類の研修を、適切なタイミングで受講させるための実施計画を策定するべきである。




(注1)2016年4月1日現在、八雲町行政機構図によりカウントしており、教育委員会や消防本部を含む。ただし、八雲総合病院、熊石健康保険病院は含んでいない。
(注2)国土交通大臣からの業務改善命令によりJR北海道が設置した第三者委員会
(注3)JR北海道再生推進会議「JR北海道再生のための提言書」、2015年6月26日
(注4)「地方公共団体は、研修の目標、研修に関する計画の指針となるべき事項その他研修に関する基本的な方針を定めるものとする。」と規定されている。
(注5)八雲町が公表している『八雲町の人事行政の運営等の状況について』をもとに作成。なお、研修名から人材育成を目的としていないと考えられるものは除いた。
(注6)八雲総合病院および熊石国民健康保険病院の職員を除く