【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第11分科会 じちけん入門!! ~じちけんから始まる組合活性化~

 伊勢市では、行財政改革が推し進められる中で職員数が大幅に削減され、とりわけ技能労務職員においては長年、退職者不補充・新規採用抑制が続いてきた。市民生活の最前線で業務を行う現業職場における「将来にわたって安心・安全なまちづくりに資する公務労働のあり方」の確立という課題に対し、幾度にもわたって重ねた現場組合員との議論の経過と、市民向けPR活動として行った学校給食調理師たちの取り組みを報告する。



現業職場のあり方を確立するための組合運動
―― 現業職場の将来展望 ――

三重県本部/自治労伊勢市職員労働組合

1. 背 景

 2011年、東日本大震災復興支援活動に参加した経験を通じ、自治研レポート『東日本大震災の復興支援活動から見えてきたもの』をまとめた。その中では、「いざというときに被災者の生活を支えたのは自治体職員の献身的な働きであり、ライフラインの復旧経過を見ても、現業直営部門に蓄積された経験や技術は、自治体にとって、市民にとって"なくてはならない財産"である」ことを確認した。
 しかし、伊勢市においては、行財政改革が推し進められる中で、業務と職種のバランスを無視し、定員管理計画による「数」の管理だけで職員が削減されてきた。特に市民生活に直結する直営部門、とりわけ現業部門では、2003年以降、退職者不補充、新規採用の見送りが続いてきた。この状況が続けば、高齢化、核家族化、人口減少といった社会的背景の中で、多様化する市民ニーズに応えていくことが難しく、市民サービスの質の低下が懸念され、公の果たすべき役割を失っていくことにつながりかねない。
 2011年のレポートを原点に、私たちは、これまで当局に対し、労働者の立場から、市民生活を支える職場における「将来にわたって安全なまちづくりに資する公務労働のあり方」という課題に対し、「市立伊勢総合病院の存続」、「保育所・幼稚園の配置」について考え方を示してきた。
 今回は、現在も当局と労使協議を継続する「現業業務の将来展望」における議論の途中経過とこれまでの具体的な取り組みを報告する。

2. 伊勢市における現業職場の現状

 伊勢市は市町村合併後、10年を経過した。合併当時(2005年11月1日)は296人が在職した技能労務職員は、2015年4月1日現在151人、2016年4月には143人まで減少し、合併当時から半数以上の職員が削減されている。この間、国の集中改革プラン等もあり、市当局は業務量等を考慮せず、削減を前提とする2度の定員管理計画を進めてきた。また、2003年以降、技能労務職員についてはほとんど新規採用がなく、年齢構成をみても、20歳代の職員は1人、30歳代は5人、40歳代は44人、50歳代は93人とかなり歪な状態になっている。
 このままでは、現業職場で培った経験・知識・技術の伝承が困難になり、安心・安全な市民サービスを安定的に提供出来なくなることが危惧される。

(1) 職種別職員数の推移

(各年4月1日現在)
 自動車
運転手
看 護
補助者
調理師技能士業務員削減数
の累計
2005年2488827149296
2010年1266822107215▲81
2015年65432077151▲145
2016年65392073143▲153

(2) 現業職場及び配置人数

(2016年4月1日現在)
職 場職員数
正 規非正規
(うち再任用職員)
上水道192(1)
下水道(施設管理)4     -
保育所給食17 21(0)
清掃業務473(3)
道路等補修業務1110(1)
学校給食2077(1)
学校業務13 25(0)
庁舎管理・車輛管理業務3 2(0)
環境衛生業務2     -
病院給食2 4(0)
看護補助5 44(0)
143188(6)

(3) 年齢構成

(2016年4月1日現在)
 
20歳代101
30歳代325
40歳代321244
50歳代623193
9845143

3. 継続的な人員確保の取り組み

 伊勢市職員労働組合では、毎年、各職場で職場実態調査とその調査をもとに各職場代表(分会長)から聞き取りを実施し、さらに調査結果をもとに執行委員会で緊急度に応じたランク付けと要求人数を議論しながら精査し、職場の声を人員要求書にまとめてきた。
 要求書を首長に提出し、部長交渉、副市長交渉のほか、数回にわたる当局との事務折衝を繰り返し実施し、要求実現に向けた交渉を継続している。
 さらに、現業評議会では独自要求活動を展開し、その前段では、現業評議会内の6部会(上下水道部会・清掃部会・学校給食部会・学校業務員部会・保育所給食部会・維持課部会)において、各部会長が中心となって職場別要求書の作成、所属長交渉を実施し切れ目のない運動体制を構築している。
 このように、人員を確保するため精力的に交渉を行い、採用の必要性を訴えてきたが、市当局からは明確な理由が示されないまま、2003年以降、正規職員の採用が見送られてきた。

4. 将来を見据えた現業職場のあり方の確立に向けての取り組み

(1) 取り組みの基本的な考え方
 伊勢市職労では、これまで、執行部内に職場別対策委員会(病院対策委員会、保育所・幼稚園対策委員会、現業対策委員会)を編成し、重点課題・職場に対する闘争体制を強化してきた。2012年からは、現業対策委員会において現業職場の将来のあり方に関する協議を開始し、その結果に基づいて当局と協議を行うこととした。
 まずは、各職場の現状と課題について、執行部が各職場の組合員に直接話を聞くことから始めた。各職場の業務内容を洗い出し、個々の業務を直営で実施していく意義、民間業者との違い、非正規職員でなく正規職員で行う意義など、細部にわたり話し合いを重ねた。
 議論を重ねていく中では、直営の優位性や正規職員による職場体制の確保の必要性を明確に示すこととした。職場組合員との話し合いを重ねていく過程で、「今のままでは職場が無くなるかもしれない」と将来への不安が多く聞かれた一方で、「今までのやり方をこう変えていけばもっと仕事の効率が良くなり、人員も削減できるのではないか」など、働く者の目線に立って業務全体を見つめ直し、「現状の仕事量で最低何人の正規職員がいれば仕事が円滑にできるか」など、より良い直営サービスを安定的に提供し続けていくための具体的な職場の組織体制について、かなり踏み込んだ議論を行ってきた。特に学校給食職場などは、他の部会に比べ、非常に多くの議論回数を経て、自分たちの職場の将来のあり方について議論した。


(2) 議論の中での意識の変化
 12年もの間の退職不補充により、非正規職員の置き換えが進み、正規職員と非正規職員の配置人数の割合が逆転している職場もある。現在、業務内容の区別が設けられないまま、ほとんどの職場で非正規職員は、低賃金の条件の下で正規職員と同じように仕事を担っている事態が発生している。市当局においては、業務に対する責任という認識が欠落し、非正規雇用という不安定雇用「正規職員でなくても非正規職員で仕事をこなせる」と思い込んでいる。
 組合員との話し合いを重ねるごとに、組合員一人ひとりの業務に対する意識も「自分たちの職場を守るために何が必要なのか」、「どのような行動をしていくべきなのか」を主体的に考える機会となった。
 以下には、各職場別にまとめた現業職場の将来のあり方を示す。

■上水道
・培ってきた技術・技能を継承し、業務の安定化をしていくために直営による現状の業務を維持する。
・業者への指導・監督業務などリーダー制の確立。
・各係の業務の確立・自立性の向上に向けた主任の配置。
・技能士を継続的に採用し、将来にわたって業務を維持できるよう人材を育成する。
・上水道有収率向上のため、漏水箇所の修繕を行うとともに漏水調査にも取り組む。
・市内の上水道埋設管の管理体制確保。
・上水道課に所属する正規職員は、現場の技術の発揮だけではなく、課内の事務職が減少する中、積極的に事務処理を行っている。
・将来予測されている災害にも、上水道の安心・安定・安全な市民サービスの迅速提供を意識し、日々、上水道の技術の取得や向上に取り組み、知識の取得に努める。

■下水道(施設管理)
・培ってきた技能・技術を継承し、業務の安定化をしていくために直営による現状の業務を維持する。
・業者への指導・監督業務などリーダー制の確立。
・各係の業務の確立・自立性の向上に向けた主任の配置。
・技能士を継続的に採用し、将来にわたって業務を維持できるよう人材を育成する。
・市内の下水道設管の管理体制確保。
・現場の安心・安定・安全な施工・指導・監視を行い、下水道の知識・技能を最大限に生かし、現場すべてを遂行して行く。
・下水道施設管理課に所属する正規職員は、現場の技能の発揮だけでなく、課内の事務職が減少する中、積極的に事務処理を行っている。
・将来予測されている災害にも、下水道の安心・安定・安全な市民サービスの迅速提供を意識し、日々、下水道の技術の取得や向上に取り組み、知識の取得に努める。
・上水道は、生活に密着して必要と認識されているが、下水道は、認識されにくいため個別説明でご理解・ご協力をきめ細かく説明でき、事務・技能・技術のすべてが発揮できる技能職員が今後のあり方である。

■学校給食
・主任を配置したリーダー制を構築し情報共有の元での調理の実施。
・グループ化による各学校間の連携(4~5校)。
・1校に1人の正規職員の配置を基本とし、大規模校(配置基準で4人以上の学校)である御薗小、小俣小、明野小、二見小、有緝小、小俣中の6校は、2人配置とする。

■学校業務
・直営の利点を活かし、直営業務を維持する。
・5つのグループに正規職員を配置し、グループのリーダーとしての役割を担う。また、教育総務課に、3人の正規職員を配置し、全体を統括する。

■保育所給食
・自園方式によるきめの細やかな対応ができることの良さを生かし、園児の成長や体調に合わせた給食内容の変化に機敏に対応。
・正規職員としての自覚と認識を高めリーダーシップを発揮しながら、嘱託職員への指示や指導に努めるとともに、連携もとり情報の共有化にも取り組みながら安全・安心な給食を提供。
・1園1人の正規職員の配置を基本とし、大規模園である大世古保育所、きらら館、しごうこども園、ゆりかご園、御薗第一保育園の5園は、2人配置とする。

■清掃業務
・直営の利点を活かし、直営業務を維持する。
・現状の主査・主任・副主任の体制を維持し、各班・各係の連携により業務のスムーズな思考が行える。
・現場・地域性等を熟知していることから、ノウハウを生かした収集コースの作成やごみカレンダーの作成が行える。
・班体制は、現状の3係・6班体制を維持し、次のとおりとする。
 係長3人 副班長(主査・主任)6人、班長補佐(主査・主任)6人、副班長6人、正規職員32人、非正規職員1人、再任用職員3人

■道路等補修業務
・直営の利点を活かし、直営業務を維持する。
・市民からの要望が増加していることから、現状の体制(4班12人)に加え、1班3人の増員が望まれる。
・各班における業務の自立性を確立するため、各班への主任配置を継続する。
・全体を統括する主幹(各班の動きを把握している主幹が詰所に常駐し、事務所や市民からの連絡を受けて各班に支持を出す)を1人配置する。
・班体制は、3人(主任1人・正規職員2人)5班とし、全体を統括する主幹1人を配置。公園部門とパトロール 1班は非正規9人で対応する。

■環境衛生業務
・直営の利点を活かし現状を維持する。
・苦情対応等のノウハウを継承していくため、2人の正規職員を配置する。

■庁舎管理・車輌管理業務
・培ってきた技能・技術・経験を活かし、庁舎及び車輌管理の安定化をしていくために直営による現状の業務を維持する。
・将来にわたって業務を維持できるよう人材を育成する。

5. 市民に現業職場を理解してもらうための活動

 伊勢市職労では、これまで職場で培った知識・技術を市民に還元することで、直営業務の重要性を市民の方に少しでも理解をしてもらうため、2007年から2010年まで、例年10月に開催される市民祭り「伊勢まつり」の会場の一角で、自治対策部・現業評議会・病院支部が中心に「生活のヒント展」を実施してきた。
 2013年、2015年10月には、自治対策部・現業評議会・学校給食部会が、伊勢志摩労働者福祉協議会が主催する「福祉フェスティバル」の会場で、学校給食が子どもに提供する給食メニューを同フェスティバル来場者に提供し、直営による給食業務の優位性を訴える行動を展開した。現業職場のあり方を議論し始めた時期でもあり、「学校給食調理師の普段の仕事をPRしたい。実際の給食を提供してはどうか」という現業対策委員会での提案から企画がスタートした。

 提供したメニューは、学校給食では今も昔も一番人気のカレーライスで、学校給食と同じ調理方法で提供した。来場した子どもたちはもとより、その親の世代にも大変好評で、私たちが担当したブースは大盛況となった。また、調理から配膳作業の際、調理師たちは日常着用している調理白衣を身にまとい、さらには、調理風景や災害時における炊き出し訓練の風景などのパネルや、家庭でも気軽にできる給食メニューのレシピを掲示したりと、「自分たちの出来ることをもっと理解してほしい」、「直営業務をもっと認めてほしい」と願う給食調理師たちの思いを込めた企画とした。


6. まとめ

 市当局との協議を重ねた結果、上下水道職場や保育所給食職場などは労使双方が同様の考え方を持つことが確認できた。このことを受け、2016年4月の職員採用に向けた採用計画を巡り、2015年6月に組合から人員要求書を提出し労使交渉を行った結果、同月に市長から最終回答が示され、上水道職場に2人の新規採用(プロパー採用)を行うことが明記された。これは、常に職場組合員の声に基づいた議論を重ね、市民のセーフティネットとして公の責務を果たす上で、直営サービスの存在がなくてはならないことを要求し続けてきたことを市当局に再認識させた成果であり、また、ライフラインの復旧現場の最前線での上水道課技能士の高度な技術と対応力を実際に市上層部が目の当たりにしたことがきっかけにもなり、技能労務職員の正規採用の再開に向けた大きな第一歩となった。そして今年4月、実に13年ぶりとなる技能労務職員の新規採用が実現した。
 その一方で、学校給食職場については、昨今、アレルギー対応など多岐にわたる複雑な業務内容となりつつある中で正規による新規採用が行われていない。組合が求める各校1人以上の正規職員の配置の考え方に対し、2016年4月現在、非正規職員のみの配置が小学校24校中5校発生しており、フルタイムの非正規職員の確保もままならない中、業務をパート職員による継ぎ接ぎ状態で補うなど、「安全・安心」な給食を安定的に提供することが困難になっている。私たちは、2016年度、学校給食職場の人員確保を最重要課題と位置づけ、給食が「食育」において重要な役割を果たすこと、そのための「安全・安心」な給食の提供体制の構築を訴えている。
 将来的な現業職場のあり方の協議では、当局が示す考え方は、全体的には民間委託、非正規職員への置き換えを推し進める内容も多く、まだまだ組合側の思いとは大きくかけ離れている。高齢化社会などの社会情勢の変化に対応し、多様化する市民ニーズに応えつつ、安心・安全な市民サービスを安定的に提供するため、粘り強く現業職場の将来のあり方に関する協議を継続し、市民に必要とされる質の高い直営サービスの提供が可能な体制づくりを強く求めていく必要がある。
 さらには、近年頻発する集中豪雨や、今後発生が懸念されている南海トラフ巨大地震、津波被害への対応を迫られている。今年4月に発生した熊本地震の被災地に向け、当市からも職員が派遣され、給水活動、ごみ収集活動などの支援活動に加わった。あらためて、直営部門を残すもう一つの大きな意義を感じさせるものである。東日本大震災復興支援活動に参加した経験なども活かし、市民サービスの最前線でセーフティネットの役割を遺憾なく発揮する直営業務の存続をさせる取り組みを強化する。