1. 背 景
2011年、東日本大震災復興支援活動に参加した経験を通じ、自治研レポート『東日本大震災の復興支援活動から見えてきたもの』をまとめた。その中では、「いざというときに被災者の生活を支えたのは自治体職員の献身的な働きであり、ライフラインの復旧経過を見ても、現業直営部門に蓄積された経験や技術は、自治体にとって、市民にとって"なくてはならない財産"である」ことを確認した。
しかし、伊勢市においては、行財政改革が推し進められる中で、業務と職種のバランスを無視し、定員管理計画による「数」の管理だけで職員が削減されてきた。特に市民生活に直結する直営部門、とりわけ現業部門では、2003年以降、退職者不補充、新規採用の見送りが続いてきた。この状況が続けば、高齢化、核家族化、人口減少といった社会的背景の中で、多様化する市民ニーズに応えていくことが難しく、市民サービスの質の低下が懸念され、公の果たすべき役割を失っていくことにつながりかねない。
2011年のレポートを原点に、私たちは、これまで当局に対し、労働者の立場から、市民生活を支える職場における「将来にわたって安全なまちづくりに資する公務労働のあり方」という課題に対し、「市立伊勢総合病院の存続」、「保育所・幼稚園の配置」について考え方を示してきた。
今回は、現在も当局と労使協議を継続する「現業業務の将来展望」における議論の途中経過とこれまでの具体的な取り組みを報告する。
2. 伊勢市における現業職場の現状
伊勢市は市町村合併後、10年を経過した。合併当時(2005年11月1日)は296人が在職した技能労務職員は、2015年4月1日現在151人、2016年4月には143人まで減少し、合併当時から半数以上の職員が削減されている。この間、国の集中改革プラン等もあり、市当局は業務量等を考慮せず、削減を前提とする2度の定員管理計画を進めてきた。また、2003年以降、技能労務職員についてはほとんど新規採用がなく、年齢構成をみても、20歳代の職員は1人、30歳代は5人、40歳代は44人、50歳代は93人とかなり歪な状態になっている。
このままでは、現業職場で培った経験・知識・技術の伝承が困難になり、安心・安全な市民サービスを安定的に提供出来なくなることが危惧される。
(1) 職種別職員数の推移
| 自動車 運転手 | 看 護 補助者 | 調理師 | 技能士 | 業務員 | 計 | 削減数 の累計 |
2005年 | 24 | 8 | 88 | 27 | 149 | 296 | - |
2010年 | 12 | 6 | 68 | 22 | 107 | 215 | ▲81 |
2015年 | 6 | 5 | 43 | 20 | 77 | 151 | ▲145 |
2016年 | 6 | 5 | 39 | 20 | 73 | 143 | ▲153 |
(2) 現業職場及び配置人数
職 場 | 職員数 |
正 規 | 非正規 (うち再任用職員) |
上水道 | 19 | 2(1) |
下水道(施設管理) | 4 | - |
保育所給食 | 17 |
21(0) |
清掃業務 | 47 | 3(3) |
道路等補修業務 | 11 | 10(1) |
学校給食 | 20 | 77(1) |
学校業務 | 13 |
25(0) |
庁舎管理・車輛管理業務 | 3 |
2(0) |
環境衛生業務 | 2 | - |
病院給食 | 2 |
4(0) |
看護補助 | 5 |
44(0) |
計 | 143 | 188(6) |
(3) 年齢構成
| 男 | 女 | 計 |
20歳代 | 1 | 0 | 1 |
30歳代 | 3 | 2 | 5 |
40歳代 | 32 | 12 | 44 |
50歳代 | 62 | 31 | 93 |
計 | 98 | 45 | 143 |
3. 継続的な人員確保の取り組み
伊勢市職員労働組合では、毎年、各職場で職場実態調査とその調査をもとに各職場代表(分会長)から聞き取りを実施し、さらに調査結果をもとに執行委員会で緊急度に応じたランク付けと要求人数を議論しながら精査し、職場の声を人員要求書にまとめてきた。
要求書を首長に提出し、部長交渉、副市長交渉のほか、数回にわたる当局との事務折衝を繰り返し実施し、要求実現に向けた交渉を継続している。
さらに、現業評議会では独自要求活動を展開し、その前段では、現業評議会内の6部会(上下水道部会・清掃部会・学校給食部会・学校業務員部会・保育所給食部会・維持課部会)において、各部会長が中心となって職場別要求書の作成、所属長交渉を実施し切れ目のない運動体制を構築している。
このように、人員を確保するため精力的に交渉を行い、採用の必要性を訴えてきたが、市当局からは明確な理由が示されないまま、2003年以降、正規職員の採用が見送られてきた。
4. 将来を見据えた現業職場のあり方の確立に向けての取り組み
(1) 取り組みの基本的な考え方
伊勢市職労では、これまで、執行部内に職場別対策委員会(病院対策委員会、保育所・幼稚園対策委員会、現業対策委員会)を編成し、重点課題・職場に対する闘争体制を強化してきた。2012年からは、現業対策委員会において現業職場の将来のあり方に関する協議を開始し、その結果に基づいて当局と協議を行うこととした。
まずは、各職場の現状と課題について、執行部が各職場の組合員に直接話を聞くことから始めた。各職場の業務内容を洗い出し、個々の業務を直営で実施していく意義、民間業者との違い、非正規職員でなく正規職員で行う意義など、細部にわたり話し合いを重ねた。
議論を重ねていく中では、直営の優位性や正規職員による職場体制の確保の必要性を明確に示すこととした。職場組合員との話し合いを重ねていく過程で、「今のままでは職場が無くなるかもしれない」と将来への不安が多く聞かれた一方で、「今までのやり方をこう変えていけばもっと仕事の効率が良くなり、人員も削減できるのではないか」など、働く者の目線に立って業務全体を見つめ直し、「現状の仕事量で最低何人の正規職員がいれば仕事が円滑にできるか」など、より良い直営サービスを安定的に提供し続けていくための具体的な職場の組織体制について、かなり踏み込んだ議論を行ってきた。特に学校給食職場などは、他の部会に比べ、非常に多くの議論回数を経て、自分たちの職場の将来のあり方について議論した。
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