【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第11分科会 じちけん入門!! ~じちけんから始まる組合活性化~

 近年、公立病院における給食業務は委託が進むなか、松阪市民病院の栄養管理室は給食業務形態は直営で行っています。直営での強みを活かして、季節ごとのお弁当や年間を通しての行事食などを取り入れ、患者様に喜んでいただける日本一美味しい病院給食をめざし、日々病院食の改善に努めています。今回、減塩食のコンテストに参加しグランプリを受賞しました。その取り組みを通し、病院食の大切さについて提言します。



S1gグランプリ獲得への道のり


三重県本部/松阪市民病院職員組合・栄養管理室

1. 松阪市民病院について

 当院は急性期病院として広く地域の患者を受け入れています。2008年からDPC、PDPSを導入しており、松阪市内には同じくDPCを導入している厚生連松阪総合病院、済生会松阪総合病院が存在し、この3病院で救急輪番体制を維持しています。
 2012年には呼吸器センターを開設、それに続き2013年に消化器・内視鏡センターを開設、2014年には地域医療支援病院にも認定されました。
 栄養管理室としては、給食業務形態は直営で行っており、調理に重点を置くため2010年から洗浄と切菜業務は委託しています。年間季節ごとに行事食や季節のお弁当、月に一度の手作りパンの提供を行い調理師の得意分野を生かし、患者様にも喜んでいただいています。


2. 栄養管理室の改革

 年々患者様の食事に対する要求は高くなってきています。
 患者様にとって入院生活の中で食事は一番の楽しみであり、食事から栄養をしっかり摂取し、より健康になり早期退院していただくことが私たちの願いです。
 その為今後さらに当院の直営ならではの強みが必要であると考えました。
 そこで全国的にも有名な三重県立相可高等学校食物調理科の卒業生を栄養管理室に迎え入れ調理技術の向上、専門知識を取り入れてきました。
 同校で調理指導を担当している村林先生の指導もあり、年々卒業生も増えていき現在12人在籍しています。
 調理師・栄養士それぞれに卒業生が増えてきたことにより、学んできた得意分野を生かし協力し合える体制を整えました。学生時代に切磋琢磨した仲間、ライバルが卒業後も同じ職場で技術や知識を高め合える恵まれた環境になりました。
 また調理師一人ひとりのレベルアップの為に病院調理師の資格取得をすすめ8人合格、給食用特殊料理専門調理師の資格取得には12人合格しております。


3. 日本一美味しい病院給食をめざして

 この言葉は当院の院長の言葉です。現在栄養管理室の目標であり大きな柱となっています。この言葉から「具体的に何を改善していくべきか」「どうすればもっと美味しい食事になるか」話し合いを重ねました。その結果患者様アンケートより声が上がっていた「野菜のお浸しが水っぽく、味付けも薄い」「朝食の味噌汁が薄い」この二つが特に最優先で改善すべきところだと考えました。


・お浸しについて……以前までは茹で上げた野菜を絞り、醤油での味付けを実施。
 食材によって変化しますが、時間が経ち患者様の喫食時間には野菜から水分が出てきてしまい水っぽく味も薄くなることが原因でした。

・味噌汁について……塩分制限は治療の面からどうしても必要になってきます。普段家で食べているものと比べるとやはり薄く感じてしまいます。

 料理の基本として、やはり美味しい「だし」が重要なポイントです。
 まずはだしの検討をすることに決め、改善することでうま味がきいた味噌汁が作れます。さらに美味しいだしを用いて八方だしを作りお浸しに使用することに決めましたが、一言にだしと言っても材料は何十種類もあります。何度も繰り返し試作や味見をして選別していきました。配合・抽出方法・濃度・料理との相性についても調理師、管理栄養士と検討を重ね、抽出方法や濃度をマニュアル化する事で味の均一化を実現。
 独自の八方だしの分量を決定し、それを使用したお浸しの味が格段に美味しくなり、味噌汁も味噌の塩分量は同じでもうまみが感じられ美味しくなりました。
 その結果、患者様からの評価も上がり、私たちにとって、美味しい減塩食の考えを深めるきっかけとなりました。


4. コンテストを知るきっかけ

 だしの改善は栄養管理室にとって大きな出来事であり、目に見えた成果がでたとてもやりがいのあるものでした。
 この取り組みを資料にまとめて発表し、院外の多くの方に知ってもらうべきだと考え、また今後の活動にもつなげていきたいという思いがありました。
 2014年3月に行われた松阪地区地域栄養管理ネットワーク研修会にてだしの改善を含めた減塩食への取り組みを、私の先輩でもある調理師濱田が発表し、その発表により当院の取り組みを知った松阪保健所健康増進課から国立循環器病研究センター主催の「ご当地かるしおレシピプロジェクト」への参加を勧められました。
 減塩食については知識が乏しく、これから勉強していかなくてはと考えていたところで「国循の美味しい かるしおレシピ」から減塩食の献立を参考にしておりました。今後の栄養管理室の献立作成に大きく貢献できると思いコンテスト参加を決断しました。


5. チーム結成と試作

 まず調理師と管理栄養士でチームを作ることになり、相可高校出身の調理師の濱田・長谷川、管理栄養士の中桐が選ばれました。
 相可高校出身ということで、日ごろから意見を交換したり仲間意識を持っておりました。
 濱田は高校在学中日本料理を専攻しており、だしの改善も中心的に活動してきたこともあり、和食での挑戦。
 長谷川は高校卒業後イタリア・フランス料理を専攻していたので洋食での挑戦。
 2人の特色を生かして、中桐には管理栄養士として栄養面での計算などとそれぞれ分担しチーム結成となりました。

 コンテストには「定食部門」「惣菜部門」「単品部門」の3部門がありました。
 それぞれ条件は異なりますが、チームとして応募するには定食部門が最善であると考え和食、洋食ともに定食部門で参加。

定食部門の条件は一汁三菜を基本としたセットメニュー
 一食あたり500キロカロリー台・たんぱく質25g~30g・脂質エネルギー比25%・塩分量2g未満・野菜(海藻、きのこ含む)使用料150g以上を目安とする。

 これらの条件を満たした献立を調理師それぞれが考えることになりました。
 料理の本を見たり、減塩の調理のポイントなどを考えてイメージを膨らませていきました。
 また料理には器が肝心です。病院で使用しているものは熱に強く耐久性のあるメラミン食器が基本です。今回は一次審査が書類選考ということもあり、陶器の器や綺麗なお弁当箱を使うことになりました。病院にはそれらが無いので、相可高校の村林先生に相談に乗っていただき、コンテストの説明をすると快く食器など貸していただき応援してくれました。

 そして9月に第1回目の試作を実施。
 午前中から調理をして正午には盛り付けまで完成、写真撮影をしてその後試食を行いました。
 濱田の作品は美味しいだしを活かし、野菜もたくさん使用したとても美味しいお弁当です。第一回目の試作で完成度が高く、ほぼ改善すべきところもなく無事に終了しました。
 長谷川の定食は見た目に華やかで彩りはいいのですが、実際食べてみると、思っていたより味がぼやけていることや、インパクトがない、定食で考えた時の相性など改善点がいくつかでてきました。
 また、地域の特産品を使用することが重要な採点基準になります。地域の特色を生かした食材の選定をもう一度考え、3月が最終選考なのでその時期に旬を迎える食材も取り入れることに決定致しました。

 チームの濱田、中桐、そして3月末で退職された管理栄養士主任の池山から意見や助言をしていただき特産品のマイヤーレモンを使用し塩レモンを作り味付けのポイントにする。
 地元、松阪特産の春に旬を迎えるあおさを使ったソースを作る。全体のバランスを考えサフランライスにする。コクを出すためにマヨネーズを少量使用、以上4点を重要なポイントと位置づけ改善し、2回の試作を重ね完成しました。
 その後栄養計算を中桐が中心に行い応募書類を作成しました。
 条件に合うようにカロリーや塩分量を抑える事も相談しながら、試行錯誤の上すべての書類が完成して11月末に提出することが出来ました。


6. 最終選考に向けて

 年が明けてしばらくたった頃、一次審査の結果が発表されました。
 昨年の応募総数から考えても、最終選考までは難しいかもしれないと内心思っておりましたが、長谷川の作品がなんとか一次選考通過しました。大きな驚きと共に大喜びしました、しかしこれからが本番だと改めて気合いが入り身が締りました。
 今年の応募総数は137チーム。その中から3部門合わせて20チームが二次審査に進みます。
 最終選考は3月7日。審査は調理と応募者によるプレゼンテーションです。
 普段は調理師としての仕事が主なので、大舞台で大勢の方を前にしてのプレゼン発表はまったく初めての経験です。
 資料はパワーポイントを使用してチームで協力し資料を作成しました。発表の時間が1チーム3分間厳守なので時間内に収まるよう練習も重ねました。
 また調理審査が一番重要になります。
 調理会場に審査員ももちろんいます。調理の手順や仕事のスピード、清潔さ、パフォーマンスなどが肝要になってきます。
 母校で調理コンクールの経験は少なからずありましたが、卒業後かなり期間が空いているのでポイントとなる箇所を村林先生の指導を受け練習しました。


7. 最終選考当日

 数日前から準備をして荷物をまとめ、前日大阪へ出発しました。夕食に中桐と同級生である卒業生が働くお店で食事をとり、明日のコンテストに向け3人の気持ちをひとつにしました。
 夜が明け、いよいよ最終選考当日です。会場である相愛大学南港学舎へ調理器具、食材とともに向かいました。受付を済ませ、オリエンテーション、調理準備で荷ほどきをしながら最終の打ち合わせをしました。他の参加チームの雰囲気からも徐々に緊張も高まってくる中いよいよ調理開始です。
 練習や打ち合わせをしっかりしていたこともあり、落ち着いて3人で調理を分担しながらスムーズに進めました。調理時間にも少し余裕があったので、スープは再加熱し温かい状態にして一品一品丁寧に盛り付けました。

 調理審査の後はすぐに参加者によるプレゼンテーションです。
 私たちの順番は後半だったので他の参加チームのプレゼンをじっくりと聞く事が出来ました。みなさん地域の特色を生かして、ゆるキャラを連れてきていたり被り物をしたり個性豊かで観客を楽しませ、しっかりとアピールしていました。
 いよいよ順番がきて舞台の前に立ったとき、直前までかなり緊張していたはずが喋りだすと徐々に落ち着いてきました。早口にならないように気を付け、料理のポイントなどをアピールしました。そして制限時間内に無事終了しました。私たちの発表では他のチームのような目を引く見せ物もなく、真面目なスーツでの発表でしたので、審査員の方にどのように映ったかとても不安でした。

 その後講演会や演奏会を聞きいよいよ結果発表です。
 もちろんめざすところはグランプリ。ドキドキしながら次々に発表されるチームに拍手を送りました。残りの賞がグランプリのみになったとき、もしかしたらとわずかな可能性に懸けました。
 「グランプリは松阪市民病院」
 呼ばれたときはチームの3人で顔を見合わせて、驚きました。舞台で表彰状を受け取り、頑張った甲斐があったなと喜びを感じました。
 表彰後は懇親会で他の参加チームの方や国立循環器病センターの方と交流を持ち楽しいひとときを過ごしました。まさに私たちにとってハレの日となりました。


8. グランプリ受賞報告会

 今回の受賞に際し、様々なところから反響がありました。ありがたいことに国循より松阪市民病院に活動費として賞金100万円を頂いたので、それを活用し地域での減塩活動を広め、将来的に松阪市民の平均塩分摂取量を下げることを目標に掲げました。
 3月7日今回のグランプリ受賞を報告する場を設け、今後の活動につなげていく為、日ごろから協力していただいている病院内の方、地域の保健所の方などを対象に行いました。
 当日は国立循環器病研究センターの高田彰先生、三重県津保健所の印南京子様を迎え講演を行っていただきました。その後受賞報告と試食会を行い、実際に食べていただく事で感想を聞くことができ、お世話になった方にご挨拶ができ非常に実りある会になりました。


9. まとめ

 今回の取り組みは減塩活動の第一歩として、今後継続的に病院内や地域での活動を進めていく必要があります。減塩であっても美味しい食事のご提案とご家庭でも実践しやすい調理のコツをまずは病院内から紹介していき、地域での公民館活動などでも紹介させていただく予定です。松阪市民病院が地域の減塩食に対する意識改革を行い、家庭に浸透させていくことが今後の役割だと認識しています。

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