【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第11分科会 じちけん入門!! ~じちけんから始まる組合活性化~

「憲法カフェ」で学ぶ自民党改憲草案


京都府本部/自治労京都市職員労働組合 奥田 友美

 6月19日、自治労京都市職女性部で憲法カフェを開催し、自民党改憲草案について学びました。「憲法カフェ」とは、カフェなど身近な場所で憲法の話をして、憲法を気軽に学ぶことです。2014年7月、閣議決定で憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を容認し、昨年9月19日、安全保障関連法を「成立」させた自民党安倍政権は、2016年7月の参院選において改憲発議に必要な3分の2の改憲勢力の議席確保をめざし、いよいよ憲法改正に向かおうとしています。
 では、「自民党のめざす憲法改正とはどのような内容なのか」、「どのような問題があるのか」というと、私たち市民には分かりにくいものとなっているのではないでしょうか。「私たちがあまり危機感を持たないうちに、憲法改正の議論が進められてしまっていた」、「問題に気づくのが遅かった」というのでは後から後悔することになりかねません。そうなる前に、「憲法について知っておかなくては」ということで企画しました。

1. 現行憲法と「自民党改憲草案」はどう違うのか?

 憲法カフェでは、自民党が2012年4月に決定した「自民党改憲草案(現行憲法対照)」の冊子を手元に見ながら、伊山正和弁護士(京都自治総研監事)と予定時間を超え3時間にわたり憲法について話しました。「憲法カフェ」の名の通り、コーヒーやジュースを飲みながら、「自民党改憲草案で何が変わるのか」、「どこをどう変えようとしているのか」について、伊山弁護士と参加者とで気軽に話しながら学ぶことができました。「自民党改憲草案」の冊子は一見すると読む気も起こらないものですが、伊山弁護士の分かりやすい解説と気さくで話しやすい人柄のお陰で、難しいテーマではありましたが興味深く学ぶことができました。そして、自民党改憲草案を通してしまってはまずいと実感することができました。
 また、今の日本国憲法が私たちにとってとても大切な内容であることを改めて理解することができました。ここでは、伊山弁護士と参加者との自由なやりとりの中で、とくに印象に残ったところをまとめました。

2. 憲法前文を全文書き換え

 憲法前文には、「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義」という3本柱が全部書いてあります。「ここに主権が存することを宣言し」と国民主権が書かれています。「日本国民は、恒久の平和を念願し」と平和主義も書かれています。「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」、「その福利は国民がこれを享受する。」と、基本的人権が大事だということも前文に書いてあります。3本柱が前文にきっちりとうたわれています。いちばん最後のところには、「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」と書かれ、日本国憲法は絶対にこの考え方、こういう価値観は今後変えないということを前文でうたっています。日本国はこういう国家のあり方なのだと現行憲法では決めているはずなのです。
 ところが、自民党改憲草案では、「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって……」という文言から始まり、前文がすべて書き換えられています。「平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し」と書いてはあるものの、「戦争放棄」ということはどこにも書かれていません。平和主義はよいのですが、それをどう実現していくのかを何も書いていません。
 また、「国民主権の下」と書いてはありますが、国民主権がどういうものかは書いていないし、「基本的人権を尊重」と書いてはあるものの、それを大事にしないといけないということは何も書いてありません。最後の結びは典型的で、「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。」と書いてあるように、決めた理念を守っていくということを考えておらず、3つの理想をどうしていくかということは何も書かれていません。「良き伝統と国家を継承する」と書いてあり、「国を大事にしましょう」「伝統と国家を継承していくために憲法をつくりましょう」といっているのだから、価値観が違います。人のことについては考えておらず、その根本的なところが違ってしまっています。

3. 憲法でいちばん大事なのは何条か?

 憲法でいちばん大事なのは9条ではなく13条です。「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」という条文です。人は、「個」の存在として尊重されるということが絶対の原理だと考えられている、だからその人を尊重するため国の制度のあり方全部が決まっていくのだという考え方が書いてあります。だから戦争してはいけないのだし、だから基本的人権は尊重されるのです。だから国民主権だということで、最終的に個々の人々のために政治が行われなくてはならないのです。
 しかし、自民党改憲草案では、「すべて国民は人として尊重される」となっていて、「個人」から「人」に変えられています。あえて「個」というのを外しています。先ほどの、「国家を継承させていく」「国の伝統を継承させていく」という価値観です。一人ひとりではなく全体としての国を大事にしていく、だから人として尊重はしていくけれども「個」のことは後退させてくれというのが自民党の考えです。
 また、同じく13条で「公共の福祉に反しない限り」となっていたのが自民党改憲草案では、「公益及び公の秩序に反しない限り」と言葉を変えられています。まず「公、公益、全体」があって、それからの「個」であることを自民党は明確にしようとしているのです。今度の選挙で自民党が勝てば、価値観をそちらにシフトしていくことになります。憲法を変えるということは、日本のあり方を変えるということです。「個」が後退してしまい、全体に埋没してしまえば、基本的人権の尊重は「個」の人のためにあるのではなくなり、抽象的な理念になってしまいます。そうすれば戦争放棄もなくなり、国民主権もあまり意味のない形だけのものになってしまいます。「国を守るため」ということで徴兵制にもつながります。
 ところで、この「公共の福祉」と「公益及び公の秩序」は、字づらはよく似ていますが何が違うのでしょうか。人権はみんなが持っていますが、人権と人権とがぶつかることがあります。「公共の福祉」というのは、ぶつかったときに人権をお互いで調整するという原理です。だから、「この人の権利を多数で抑えよう」という原理ではないのです。多数に対して一人がたたかっていける権利が人権です。けれど、「公益及び公の秩序」と置き換えられれば、「多数の人が言っているのだからあなた我慢しなさい」という原理になってしまいます。字づらは似ていますが全然違います。「公共の福祉」と「公益及び公の秩序」の違いは重要です。
 集会結社の自由、言論・出版・表現の自由について書かれた21条第2項でも、「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。」という項目が新たに付け加えられています。国家に都合が悪かったら「お前ら黙れ」ということになります。今行われているデモ行進も、「公益及び公の秩序」を害することを目的としていると言って、都合の悪いものを規制できてしまいます。「テロ対策」を名目に入れられた項目ですが、それにしても制限することが酷過ぎる内容なのに、こんなことが自民党改憲草案に入っていることをどれぐらいの人が知っているのでしょうか。

4. 国家権力を強化

 自民党改憲草案では、緊急事態条項が新設されています。日本がどこかから攻め込まれた場合に、とりあえず内閣総理大臣に全部権力を集中させて、とりあえず自衛隊が家を壊したり基地を置いたりして、とにかく国防のために一時的にそうするという条項を憲法に置くというのは一つの選択肢かもしれませんが、そうすると緊急事態で人権が制約されることになります。だとすると緊急事態条項は人権をどこまで制約できるかという人権のことが書いてあるところの例外として書かなければいけないのです。ところが、自民党改憲草案では、緊急事態条項が「第9章」としてわざわざ独立の項目がつくられています。「第3章 国民の権利及び義務」の第11条のところで、基本的人権はとても大事だが「例外の時のみ」国家緊急権で止めるという入れ方ではなく、原則として入れています。これも自民党の考え方であり、もっとここのところをおかしいと言うべきなのです。
 また、99条で「憲法尊重擁護義務」は国家権力を行使する側に課されていましたが、自民党改憲草案では、「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。」という項目が追加されました。憲法尊重義務が、国家権力を行使する側の義務から、意図的に国民の義務にすり替えられています。「国を縛るもの」であったのが、「個を縛るもの」になるのは怖いことです。自民党は、「自分を犠牲にしてでも、公のために」という国民にしようとしているのです。


5. 改正手続き自体を変更

 憲法改正手続きについて、96条では、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」で国会が発議することになっていましたが、自民党改憲草案では、「衆議院又は参議院の議員」が発議できるようになっています。簡単に発議することができてしまいます。そして、「両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し」国民に提案することができるようになります。
 また、もともと国民投票は「その過半数の賛成を必要とする」となっていて、有権者の過半数なのか投票の過半数なのかはっきり書かれていませんでしたが、自民党改憲草案では、「有効投票の過半数」と書かれ、改正しやすくなっています。変えやすくされていますが、憲法は日本の「最高法規」なのだから、憲法を変えにくくすることが重要です。
 第10章「最高法規」97条では「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」とあり、「憲法は変えないよ」と書かれています。このため、自民党改憲草案では、この97条は削除されてしまいました。憲法をつくり上げた当時の人たちが、「この国家は憲法を変えてしまうかもしれない」、「だから日本国憲法を変えさせてはいけない」と考え、憲法を変えにくいように硬性憲法にしたものであったのにです。

6. 身近な人と憲法カフェを開こう

 やりとりの中では、「9条守れと言うだけでは、国民には響かない。」という辛辣な指摘もありました。私たちには憲法の内容の重要性をより深く理解し市民に訴えていく必要がありそうです。そうしなければ、自民党安倍政権による強力な改憲の流れを止めることはできません。まとまりのない報告になってしまいましたが、自由な議論ということでご容赦下さい。最後に、伊山弁護士は「呼んでもらえれば話に行きますよ」とのことです。皆さんの身近な場所で、憲法カフェを開催しませんか? 身近な人と憲法について語り、主権者である私たち自身の手で、一人ひとりの基本的人権が尊重される社会をつくりましょう