【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第12分科会 ほんとうの住民協働とは? ~地元スペシャルになろう

 地域の過疎問題において、近年様々な対策が議論されています。過疎問題について自治体が抱える悩みは複雑に絡みあっております。また、人の生活基本になる「衣」・「食」・「住」を支えていかなければいけない行政としては大きな責任が課せられています。従って「衣」を魅力・「食」を「職業」・「住」を「生活スタイル」と思考を変えてみた。
 本レポートは、行政と住民が信頼関係を構築し、若手が活躍できる場づくりや過疎化を防ぐための地域活動について提言します。



ほんとうの住民協働とは?
~地元スペシャルになろう

青森県本部/青森県西目屋村役場・産業課・主事 西澤 直人

1. はじめに

 1999年平成の大合併により、政令指定都市・県庁所在地を中心とした都市部への人口移動や、少子高齢化などが原因となって過疎問題が深刻化した。過疎化が進行すると、生活道路や農業用水など地域資本の管理、農業(田植え・稲刈りなど)や茅葺き屋根の葺き替え時の助け合いといった互助機能、冠婚葬祭や消防団など地域社会の機能を維持することが困難になるとともに、利用者減少と自家用車利用の増加による公共交通網の崩壊(鉄道や路線バスの廃線・撤退や大幅な減便など)、商店街の衰退、医療機関の機能縮小、学校の廃校などといった社会資本(インフラ)の喪失が同時に進行する。
 また、地方自治体(市町村)の地方税収が落ち込み、独自財源を失うことによる財政規模の縮減や財政再建団体への転落、これに伴う住民の負担増がますます深刻化し、十分な行政サービスを提供できなくなる、地域産業の衰退を招くことで過疎化に拍車がかかるなどの問題を引き起こす。この上に、民間事業者が撤退した路線バスを引き継ぐ廃止代替バスの運行や公営診療所の維持といった新たな行政負担も発生することになる。特に過疎地域における医療サービスの確保は深刻な課題となっている。


2. 現 状

 西目屋村の人口は1,404人(2016.4.1現在)である。高齢化が進み、次世代への後継者不足が懸念される。
 当村は、青森県で1番人口が少ない村であるが、日本でも4つしかない知床、小笠原諸島、屋久島と並ぶ世界自然遺産に登録された「白神山地」をかかえる自然豊かな村である。
 「衣」・「食」・「住」を以下の内容で取り上げてみる。
①「衣」(魅力)     世界自然遺産白神山地

②「食」(職業)     第1次産業【農 業  26%】
             第2次産業【建設業  31%】
             第3次産業【サービス 43%】

③「住」(生活スタイル) 若者定住促進住宅【資料①参照】
             少子化対策としての子育て支援【資料②参照】

定住促進住宅【資料①】
 整備:2005年 6戸、2007年 8戸、2009年 8戸
 定住促進住宅に住む子ども数の推移:
子どもの数(人)世帯数(世帯)
2007.4月1514
2009.4月3022
2010.4月3222
2011.4月3122
2012.4月3622
2013.4月3322
2014.4月3822
2015.4月3822

具体的な支援策について【少子化対策としての子育て支援 資料②】
 村民の負担ゼロ(完全無料化)事業「11件」
支援策先駆的施行・開始年度
① 子ども医療費無料(高校3年生に相当する年齢まで) ※所得制限なし、入院費・食事代も含む東北初・2008.4月~(中学3年生まで)
2011.4月~(高校3年生に相当する年齢まで)
② 0歳児以上の保育料完全無料 3歳児以上 県内初・2009~
2歳児以上 県内初・2013.4月~
0歳児以上 全国初・2014.4月~
③ たしろ保育園の入園時の無料送迎 
④ 妊婦健康診査(国の指定検査)に付随する妊婦検査費用無料 ※検査項目・助成金額・回数ともに無制限全国初・2009.4月~
⑤ 産婦健診無料化(項目・上限なし)全国初・2009.4月~
⑥ チャイルドシート無料貸し出し2000~ 2006~無料化 2014~新生児対応
⑦ 児童福祉施設利用時の自己負担の無料化(療育支援)2011.4月~
⑧ 妊婦歯科健診の無料化2011.7月~
⑨ 4種類(季節性インフルエンザ・おたふく・ロタウイルス・B型肝炎)の任意予防接種費用の無料化 ※2015~季節性インフルエンザは全村民無料、2013.4月より全ての任意予防接種が無料となった。季節性インフルエンザ(新型含)は2009~無料
⑩ 中学生に対するピロリ菌撲滅事業(検査・治療費無料)県内初・2015.2月~
⑪ 新生児聴覚検査費用全額助成事業県内初・2015.4月~

 支援・補助事業「4件」
支援策先駆的施行・年度
① 高校生奨学補助金(1人付 年額10万円/年)1982~、2009増額
② 高校生・大学生・大学院生奨学育英資金(高校18万円/年 大学等60万円/年)2000.4月~/大学院生に関しては2013.4月~
③ 子宝育成奨励金 『第2子 出産祝金15万円 小学校入学10万円』『第3子 出産祝金20万円 小学校入学15万円』 『第4子 出産祝金20万円 小学校入学17万円』 『第5子 出産祝金30万円 小学校入学20万円』2000~、第2子に関しては2011~
④ 季節性インフルエンザ予防接種費用の一部助成 ※高校生から74歳(課税世帯)は自己負担1,000円2010~

 国施策に先駆けて実施した事業「3件」
支援策先駆的施行・年度
① 子宮頸がんワクチン接種事業完全無料県内初(個別)・東北初(集団)2010.6月~ ※2011年2月より国で接種費用助成無料
② ヒブワクチン予防接種補助金支援事業県内初・2010.6月~ ※2011年2月より国で接種費用助成開始
③ 水ぼうそう予防接種補助金支援事業2013.4月~ ※2014年10月より国で接種費用助成開始

 緊急支援事業「1件」
① 全村民を対象とする新型インフルエンザ予防接種費用の完全無料化及び医療機関無料送迎、予防マスク無料配布


3. 活 動

 4年ほど前から、村助(ムラスケ)を立ち上げ首都圏等の大学生等が当村の活性を応援している。きっかけは、村外からの新規就農者(担い手)を確保しようという取り組みである。全国規模で農家の高齢化が進む中、担い手不足は深刻化しており、それは本村も例外ではない。特に村の主産業である米やりんごは重労働であり、高齢農家は大きな負担が強いられる。このような状況が続くと近い将来、離農者が増え、耕作放棄地が増え、村の農業が衰退し、地域の活力は失われていく。
 その将来を危惧しスタートしたのが、村と明治大学との「地域担い手育成五カ年計画」である。
 まずは、「村の人口減少や農業環境を考えると村内のみを対象とした担い手づくりは困難」との課題から「村外の人も対象とした幅広い担い手づくりをしよう」という発想で、行政と農業機関、そして同大学で協議を重ね、「外部の方々が来やすい環境づくり」「地域に受け入れてもらうことが必要」「地域を知ることが必要」ということから、農業支援や地域行事への参加など村民と交流を図ることから始めた。また、交流だけが彼らの任務ではなく、新たに訪れる学生や社会人のための農業体験プログラムの作成や外部の方々が移住しやすく、定住しやすい村づくりも同時に、色々とアイディアを出し合い、その会議室での議論は、何度も夜遅くまで続けられた。
 これまで延べ百六人の学生や社会人が村に訪れているほか、徐々に村民の意識も変わってきているのが感じられる。「おめだぢ今度いづ来るのや」「本当に助かるじゃ」「今度えさ(家に)泊まりに来い」「まだ来いへぇ」など、いわゆる「外部の人たち」との壁は少しずつではあるが取り除けており、気疲れしがちと思われる対応ではなく、いつもどおりの気軽な対応が学生たちと村民との心の交流に寄与している。
 観光目的で村を訪れる多くの若者は、バスや車で各集落を通り過ぎまっすぐ白神山地へ向かうため、なかなか住民の目にも触れることはない。しかし、この事業によって首都圏の学生たちが農家を問わず村民と接している。村民の意識が向上すれば、外からの見方も変わってくる。それが地域の活性化につながり、「住んでみたい村」へと変化していく。
 当村は豪雪地帯であり、病院もスーパーもない。雪の降らない地域から村に移住し定住することは、それなりの覚悟が必要である。移住を決意するに至るためには三つの大きな要因がある。 
 「仕事」と「住居」と「交流」である。住居対策は行政が進めるにしても、見知らぬ土地で新規就農に取り組むことは大きな不安と負担がある。しかし、これまで「個」で行われてきた農業であるが、今では「集」で行う農業が増えてきている。「集落営農」である。集落営農によって、新たな就農者の不安や負担は少なからず解消される。
 明治大学との取り組みは農業と観光、そして教育、福祉までに及んでおり、学生たちは真剣に村のことを考えてくれている。集落営農によって村の人たちが相互に助け合い、そして村内外の人たちが村を良くしたいと必死で議論を重ね、現場に赴き肌で感じながら、村を活性化したいと想う人たちを拡大していきたいと願っている。
 その取り組みをするチームを「村助(ムラスケ)」と学生たちは呼んでいる。西目屋村を活気ある村にしたいと思いを持った人たちのことで、「村で共に助け合う」が基本理念である。村民と村民が助け合い、気持ちを通わせながら1歩1歩進んでいく。年配方が、自分の孫のように可愛がり活力を見出してくれる。若者が増えることによって村全体が明るくなり、新しい創造を問いただしてくれる。当村のイベントにも参加し、観光PRによる宣伝にも一生懸命である。作品である白神ギフトが完成した。当村を想う熱い気持ちが詰まった作品である。
 また、住民主体型組織1,400人実行委員会を立ち上げ、今年初めての開催となる「にしめや冬フェスティバル」を開催した。まだ組織とイベントの規模は小さなものであるが、人口を1,400人からの減少を食い止めたいという思いと村民全体が参画することをめざし、イベントの企画立案をし、当村を盛り上げるために設立された。


4. 課 題

 以上のような活動から、これまで見られなかった若者の動きも徐々に見えるようになってきたが、依然として若者のマンパワーが不足している。農業の魅力普及、仕事づくりと雇用の確保など一度村を離れた人たちが帰村して定住できる環境づくりが必要である。
 また、併せて子どもたちが自身の村の魅力を学ぶための地域教育を続けていくことが必須である。子どもたちが村に誇りを持つことで、今まで村の活動と一線を画していた大人たちも変わり、大人が変われば地域が変わるという中・長期的な取り組みではあるが、ここをおろそかにはできない。「地元スペシャル」を子どもたちに根付かせていくべきと考える。


5. 結 論

 青森県で1番人口が少ない村「西目屋村」。
 「衣」を魅力・「食」を職業・「住」を生活スタイルに変え、主に「生活スタイル」を「住民協働」として考察した。小さな村はどうしても行政主導になりがちであるが、持続可能な地域社会を実現するためには「住民主体」が不可欠である。そこに住む住民がその地域に魅力を感じ、この小さな村を子々孫々まで残したいと思い行動することこそが地域へ活力を与える。その取り組みに、村外の方々は興味を持ち、共感し、人が人に魅力を感じて、そこに暮らしてみたいと考える。
 山間地の過疎化が進む中、住民の福祉の向上、生活環境の改善、自然との調和こそが西目屋村の将来の発展を支えることになる。小さな村であることを利点としてとらえ、西目屋村独自の価値を追求することにより、自立した村づくりを構築できる。村民が自らの村に愛着を持ち、自信と誇りを感じながら「好きです にしめや」という気持ちで胸を張ってふるさとを語れることをめざし、住民協働の「小さくてもきらりと輝くむらづくり」に努めていきたいと思う。