1. はじめに
水戸市は県の中部に位置する人口270,944人、面積217.32km2、県庁所在地である。
第2代水戸藩主徳川光圀が水戸黄門として有名ですが、徳川光圀が編纂を始めた大日本史の影響を受けた水戸学の舞台となった。1841年に第9代藩主徳川斉昭によって日本最大の藩校として弘道館がつくられた。
学問の教育・研究としては、当時広く行われていた文系のほかにも、一部の自然科学についても行われた。当時の藩校としては規模が大きいことから、また(水戸藩の財政が潤っていたとはいえなかったにもかかわらず)水戸藩の教育政策の考え方がうかがえるといわれている。
学問は一生行うものであるという考え方に基づいて、特に卒業の概念を設けず若者も老人も、同じ場所で学んだといわれている。
このような歴史がある水戸市には、市立図書館6館(中央・東部・西部・見和・常澄・内原)があり、それぞれ特色を持って展開している。中央図書館は蔵書410,000冊、故深作欣二監督の蔵書などの郷土資料の収集を中心に、朗読会の開催や市民センター図書室の支援事業など、多くの事業に取り組んでいる。東部図書館は蔵書111,000冊、地域のボランティアとともに、子どもへの読書の働きかけを行っている。西部図書館は蔵書103,000冊、映画「図書館戦争」のロケ地としても注目を浴びている、見和図書館は蔵書92,000冊、商業地に立地しており、会社の創業・起業や経営全般に役立つビジネス書及び関連図書、雑誌の収集整備に努めている。常澄図書館は蔵書52,000冊、旧常澄庁舎を活用した施設で周辺に大串貝塚、六地蔵などがあることから考古学関係や、古代史関係などの歴史関係図書等をそなえている。内原図書館は蔵書50,000冊、1938年から終戦にかけて内原地区に、満豪開拓青少年義勇軍訓練所があったことから、旧満州及び満豪開拓関連の資料に努めている。それぞれが地域の拠点として多彩な活動を続けている。また、子どもたちに向けては、ボランティアとの協働により、「親子で絵本」事業やお話会を開催するとともに、学校図書館支援事業に取り組んでいる。
2. 水戸市立図書館の指定管理者制度導入に向けた経過
2012年、水戸市長より図書館指定管理者制度導入を進めるよう教育長が指示を受け、教育長から中央図書館長へ指定管理者制度導入に向けた指示が出された。
各図書館から1人選出し(係長)ワーキンググループを設置、先進市視察(神戸・明石市)を実施し、2013年6月議会で報告を行った。
6月議会で教育長は次のような答弁を行った。
① 図書館の役割と任務については、市民の読書要求や学習要求などに応えるため、図書を始めとする様々な資料を収集・整理・保存し、それを市民等へ提供し、その提供が調査研究に資するものと認識している。
② 全国の公立図書館の内1割を超える図書館が、民間企業を指定管理者として移行し、利用者の増加サービスの向上が図られる例があることから、昨年度図書館にワーキンググループを設置し、先進視察や状況調査を始め制度活用による、有効性についての調査等に着手し検討を進めている。
③ 2009年度文部科学省が実施した、「図書館・博物館等への指定管理者制度導入に関する調査研究報告書」において、制度導入の効果について市民サービスの向上、民間企業等による創意工夫やコスト削減効果等様々な効果が報告されている。
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3. 水戸市職員組合の取り組み
水戸市職員組合は、市民が身近で一番利用する公共施設の図書館が、指定管理者制度ありきの議論の中で、市民サービスの低下が想定される指定管理者制度を認める事は出来ないと判断し、自治労茨城県本部と水戸市臨時嘱託職員労働組合と連携して、「公立図書館への指定管理者制度導入阻止闘争委員会」(仮)を設立した。
(1) 活動計画
① 水戸市立図書館に勤務する正規・非正規組合員へのオルグを通し、図書館から闘争委員会へ参加できる組合員の掘り起し。
② 市民運動を通して指定管理者制度導入を阻止した先進市への視察。
③ 図書館協議会委員への資料提供等を含めた接触。
④ 図書館勤務の嘱託職員への水戸市臨時嘱託職員労働組合への加入促進。
⑤ 図書館を活動基盤とする市民グループやNPOとの連携。
⑥ 市民運動へ発展させるための母体設立。
⑦ 市民運動を通しての署名活動。
(2) 闘争委員会の活動
① 2013年9月5日、水戸市立指定管理者制度導入に関する対策会議を開催し、元水戸市立見和図書館長 坂部 豪氏を講師に講演会を実施した。
② 闘争委員会視察は2013年9月19日、市民と導入阻止に向けたたかいを行った、練馬区立石神井図書館および調布市立中央図書館の視察を実施した。
・視察実施のまとめ
住民運動を立ち上げるためには、理論的支柱が必要になり図書館学が専門の先生を担ぎ上げる必要がある。
住民運動は指定管理者制度反対ではなく、水戸市立図書館を市民サービスの観点からより良い方向にするためにどうあるべきかの論点を展開する必要がある。
③ 図書館読み聞かせ団体との話し合い、2013年10月7日見和図書館、「もこもこの会」代表磯崎様との協議、2013年10月9日西部図書館、「朗読の会」代表今井様との協議。2013年10月12日東部図書館「四葉の会」代表西村様との協議を実施した。
よみ聞かせ団体の意見としては、指定管理者制度反対ではなく「水戸市立の図書館をよくするための運動」であるならば協力したいとの意見が多かった。
④ 2013年12月3日市民団体設立準備会の開催をし、役員体制や活動目的等を決定した。
・活動目的
水戸市立図書館を市民に近づけ、望まれる図書館にするための提案・提言。
市民が図書館の役割を学び、ともに育つための学習会・講演会の開催。
・役員体制
会長 斉藤 典生 茨城大学特任教授
副会長 磯崎 洋子 もこもこの会代表
事務局長 坂部 豪 千葉大学・聖徳大学非常勤講師
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※ 先進視察や読み聞かせ団体等の協議で、確認できた事は指定管理者制度導入反対では、読み聞かせ団体等の理解や協力を得るのは難しい、図書館の提供する市民サービスの観点から直営なのか、指定管理者制度なのか、どうあるべきなのか議論を展開する中で市民の会を設立して、市民運動を拡大する中で水戸市職は全面に出ないで市民運動を支援する役割に徹した方が多くの市民の理解を得られると判断した。
※ 図書館に勤務する嘱託職員の労働組合加入については、何度もオルグを実施した結果6人加入した。さらには数人が市民の会の役員等として活動した。
4. 水戸市立図書館を育てる市民の会の設立
2014年1月27日茨城県総合福祉会館コミュニティホールにて「水戸市立図書館を育てる市民の会」設立総会を開催し目的・活動・2013・2014年度活動計画・役員体制等を100人を超える参加者がある中確認した。会員約100人で設立。
(1) 目 的
水戸市立図書館が市民により親しまれ、望まれる図書館になるよう、支え育てていくことを目的とする。
(2) 活 動
① 望まれる図書館に成長するための提案・提言
② 市民が図書館の役割を学び、ともに育つための学習会・講演会の開催
③ その他、本会の目的を達成するために必要な活動
(3) 2013・2014年度活動計画
2013年8月、水戸市立中央図書館協議会に対して、市民サービスの維持・向上及び効率的な運営を図るためとして図書館の運営に指定管理者制度を導入することの可否についての意見を求めた。
私たちは、広く市民の意見を聞くこともなく、市立図書館のあり方を根本から変えようとする動きを見過ごすことはできません。
私たちは、水戸市民としてこの問題にどう向き合ったらよいのか、市民に親しまれる図書館像とはどのようなものなのか等々について、多くの市民の皆さんと知恵を出し合う中で、公立図書館として様々な活動に取り組んでいる、水戸市立図書館を育てるために、次の活動を行う事を確認した。
① 2013年度活動計画
・2月24日指定管理者制度についての学習会開催
・3月中に図書館における指定管理者制度についての学習会開催
② 2014年度活動計画
・シンポジウムの開催
・定例学習会の開催
・会報の発行
5. 水戸市立図書館を育てる市民の会の活動
2014年度の活動
(1) シンポジウム開催
「指定管理者制度で図書館はよくなるの?」茨城県総合福祉会館コミュニティホールを会場に開催し、約110人が参加した。
① 基調講演「公立図書館の役割と指定管理者制度」講師 千錫烈氏
「千氏は大学院時代に水戸市立図書館で臨時職員として、働いた経験も踏まえ読書と読解力向上の関係に触れながら、教育の効果が目に見えるようになるのには時間がかかる、図書館運営の経費削減という短期的利益のために、長期的利益を失ってはいけない」と指定管理者制度の導入に疑問を提言した。
② パネルディスカッションの開催
山口洋氏(町田市立図書館協議会会長)、船見康之氏(潮来市立図書館・シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社)、齋藤典生氏(水戸市立図書館を育てる市民の会代表)からそれぞれに報告をもらい、パネルディスカッションを行った。
ディスカッション終了後、水戸市立図書館への拙速な指定管理者制度導入を、見直すアピールを採択するとともに、水戸市立図書館が直営で運営を続けることを求める署名活動を提起した。
(2) 定例学習会の開催
2014年2月24日テーマ「指定管理者制度ってなに?」
2014年3月15日テーマ「図書館指定管理者制度の現状」
2014年4月28日テーマ「水戸市立図書館の今と指定管理者制度」
2014年7月25日テーマ「水戸市立図書館協議会答申(案)を読む」
2014年11月22日テーマ「水戸市立図書館に望むこと」の5回開催した。
(3) 会報の発行
1号2014年4月14日、2号2014年6月5日、3号2014年7月9日、4号2014年11月4日、5号2015年2月21日に発行した。
(4) その他
① 水戸市立図書館の直営維持を求める署名活動
高橋市長に面会、署名提出 2014年8月28日 3,674筆(市内1,624筆、市外2,050筆)
② 「改革=指定管理者制度導入」ではありません!! (指定管理者制度導入の是非を考えるための資料集)を作成し、マスコミ各社へ配布
③ 駅頭ビラ配布 水戸駅(2015年1月30日)、赤塚駅(2015年2月25日)、内原駅(2015年3月11日)
④ 2015年4月実施の水戸市長選、水戸市市議選の各候補に対する公開質問状
6. 指定管理者制度導入へ
水戸市議会は2015年6月30日、「水戸市立図書館条例の一部を改正する条例案」を賛成多数で可決した。これにより、中央図書館は従来通り直営という形で運営されるものの、5つの地区館、東部、西部、見和、常澄、内原(中央図書館の耐震工事期間中の、2年間は中央図書館の機能が移るため2018年度から導入)は2016年4月1日から、指定制度導入がされることが確定した。
水戸市は、「類似都市に比べて図書館利用率が若干劣っている。それを引き上げるには現在の体制では困難である。一層のサービス向上、新たなサービスの展開には民間活力の導入が必要である。指定管理者制度の導入によって、より柔軟な対応が可能になる」旨、語っている。しかし、こうした市の考えた方が十分にしらされないまま図書館のあり方を、大きく変えることになる、決定がなされたことに強い疑問を感じる。市として市民に対して十分な情報を開示し、きちんと説明する機会を設けたり、または指定管理者制度導入について、パブリックコメントを求める等の、丁寧な進め方がとられるべきであったと考える。市民が一番利用する公共施設の重要な変更を市民が知らない間に、決めてしまったとの印象はぬぐえません。
7. まとめ
○市民の会としては、図書館の運営形態を大きく変えようとのこうした動きに対して、私たちは当初から強い疑問をもった。市民に親しまれる図書館とはどのようなものなのか、また知の拠点としての図書館をより充実・発展させるためには、何ができるのかすべての市民が、豊かなサービスを受けるためにはどのようにしたら良いのか、指定管理者制度や図書館のあり方に関する、学習会及びシンポジウムの開催等を通じて、市民の方の意見を聞きながら検討を重ねた。
○結果5年程度で指定管理者が交代する可能性があるこの制度の下で、専門性を具えた司書の確保や育成は可能なのか、一定の限られた指定管理料のなかで、新たな市民サービスの提供は可能なのか、等々の問題点が明らかになった。市民にとっての「知の拠点」である公立の図書館は、指定制度にはなじまない公立の図書館は、自治体の直営を維持すべきとの確信にいたった。
○指定管理者制度導入に反対する署名活動も市長との会見、駅頭でのチラシ配布等など、市民へ様々な形で指定管理者制度導入に関して情報提供してきた。
しかし日常的に図書館を利用している人以外に、運動が広がらなかった事や、水戸市が指定管理者制度を導入すれば、開館日が増え、開館時間が延びる事に重点を置いた傾向があるように思われる。
○市民の会の活動は、市民にもっとも身近な公共施設である図書館、「地域の拠点」としての役割が、今後ますます大きくなる図書館が今後どのように成長するのか、あるいは退化するのか、時には批判的に、時にはいろいろ提案しながら市民の目線で見守っていきたい。旨を指定管理者導入決定を受けて2015年10月1日発信した。
○水戸市職は市民の会事務局を「水戸市職員組合内」に設定して活動してきた。さらには書記長が、市民の会の役員会に参加し様々な取り組みに協力してきた。
今回水戸市職としても公共施設の指定管理者制度導入に対して、市民の会を設立、市民の会の活動の支援をしてきた。市民としては「誰が公共サービス」を提供するのではなく「どのような公共サービス」が提供できるかが市民としては重要な事になる事が再認識できた。
今後民間活力の名の下に安易な「公共サービスの産業化」が推進される可能性があり、サービスを受ける市民と連携しながらどのようなサービスが「公共サービス」にふさわしいのか議論する必要があるのではないだろうか。
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