【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第12分科会 ほんとうの住民協働とは? ~地元スペシャルになろう

 越前市を代表する環境イベント「アースデイ越前」。本イベントでは、市内外から市民団体・NPO・企業・グループ・個人を問わず沢山の参加者が集まり、行政とともにイベントを作り上げています。本レポートでは、アースデイ越前のこれまでの活動事例から、市民と団体・企業、行政の協働の取り組みを紹介します。



市民、団体・企業、行政の協働の取り組み
環境イベント「アースデイ越前」

福井県本部/越前市職員組合 三好 拓朗

1. はじめに

(1) 越前市の概況
 越前市は、福井県のほぼ中央に位置し、2005年10月に旧武生市と旧今立町が合併して誕生しました。
 面積は230.75km2であり、福井県域の5.5%を占めています。人口は83,149人で、世帯数は29,397世帯です(2016年7月1日現在)。
 本市の歴史は、継体大王伝承に見られるようにたいへん古く、越の国と呼ばれた頃から拓けた地域で、旧武生市には「大化の改新」の頃に国府が置かれ、政治・経済・文化の中心地として栄えました。「源氏物語」の作者・紫式部が、越前国司として赴任した父・藤原為時とともに1年余り暮らした地でもあります。
 また、モノづくりが盛んで、越前和紙や越前打刃物、越前箪笥などの伝統産業から電子部品等のハイテク産業まで幅広い産業が集積し、福井県内有数の工業製造品等出荷額を誇る産業都市であります。
 なお、本市は、4年後完成を目途とした新庁舎建設とともに、2018年開催の福井国体に向けた施設整備、2026年末に予定されている北陸新幹線の開業に伴う福井県内唯一の新設駅建設と、半世紀に一度のまちづくりに挑戦しているところです。

(2) 越前市の環境に関する取り組み

 本市の環境に関する取り組みの代表的なもののひとつに、コウノトリをシンボルとした里地里山の保全再生による、自然豊かな魅力ある里づくり・まちづくりの取り組みがあります。この取り組みでは、各種団体等と連携した活動を推進し、コウノトリの野外定着に向けた環境整備を市の西部地域に重点をおきながら、その活動を市内全域に広げています。さらに、市内外の応援団を増やすことで、交流の拡大や経済効果に結び付ける取り組みを行っています。
 もうひとつ、環境に関する取り組みの代表的なものとして、「アースデイ」の取り組みがあります。これは、衣食住の身近なところから自然環境保全や温暖化防止など地球規模に至るまでの「環境」に関することについて、市民と行政が一緒に考え、行動するイベントです。今回は、この「アースデイ」の取り組みについて報告します。
「コウノトリが舞う里づくり」
イメージキャラクター 「えっちゃん」


2. 越前市のアースデイ

 1970年、アメリカのG・ネルソン上院議員が、4月22日を"地球の日"であると宣言し、アースデイが誕生しました。学生運動・市民運動がさかんなこの時代に、アースデイを通して環境のかかえる問題に対して人々に関心をもってもらおうと、それは当時全米学生自治会長をしていたデニス・ヘイズ氏による、全米への呼びかけへとつながりました。そして、1970年の最初のアースデイは、延べ2,000万人以上の人びとが何らかの形で地球への関心を表現する、アメリカ史上最大のユニークで多彩なイベントとなりました。

(1) 越前市のアースデイの歴史
 越前市においては、旧今立町で1993年から6回、旧武生市では2000年に開催した後中断していましたが、2005年に旧武生市と旧今立町が合併して越前市となった後、これまでアースデイに関わってきた人々の熱い思いで、2008年に「アースデイ越前」の名でアースデイが復活し、2016年まで9年連続で開催されています。イベントは、出展者を募るマルシェ形式で行い、あわせてステージ企画等を行っています。毎年30を超える出展があり、子どもから大人まで食べて遊んで体験できる楽しいイベントです。

(2) アースデイ越前に関わる人たち
 2008年、2009年と、実行委員会方式をとり、市内外から市民団体・NPO・企業・グループ・個人を問わず広く参加を募集し、イベント全体のプロデュースやコーディネート、イベント当日の運営を行ってきました。この参画をきっかけとして、越前市を中心に活動する環境関連の団体・個人で作ったネットワーク「エコラブえちぜん」が誕生しました。2010年以降はこのエコラブえちぜんが実行委員会の中核となり、アースデイ越前を作り上げています。今現在、エコラブえちぜんは12の団体会員と3人の個人会員で構成され、地元で長く活動をされている方から、世界をフィールドに活動されている方まで様々な団体・個人が集まっています。越前市環境政策課は実行委員会員として、またエコラブえちぜんの団体会員(事務局)として参画しています。

3. アースデイ越前の作り方

(1) 適材適所の役割分担
 アースデイ越前は例年5月上旬に開催しており、準備は前年の秋頃から始めます。11月以降、会議を月2回開催し、今年のテーマや企画、企業や団体の協賛・出展の募集、チラシ・ポスターデザインなど順に決めていきます。
 「環境」をキーワードに、様々な団体・個人の方が集まります。肩書も一市民から元市議会議員、NPO団体代表や会社社長など様々で、年齢層も20代から60代と幅広く、会議ではたくさんの自由なアイデアや意見が飛び出します。その中には、行政主導では実現が難しそうなものが盛りだくさんで、私が担当になり初めて会議に出た時には、「企画はまとまるのだろうか、本当に開催できるのだろうか……」と不安になることばかりでした。しかし、その心配もすぐに吹き飛びました。
 企画が決まると会員の皆さんが各自得意な分野で役割を分担し、即行動に移ります。例えば、プレイベントで映画上映会を開催すると決まれば、環境問題を取り上げたドキュメンタリー映画を配給会社から手配する人、メイン企画の講演会の講師やステージ企画の出演者をリストアップし交渉する人、チラシやポスターをデザイン・発注する人、SNS等を利用し広報する人、関係企業や団体に協賛・出展の呼びかけをする人など、適材適所で行動します。
 皆さんの行動力と実行力、ネットワークの広さにはいつも驚くばかりです。決められた準備期間の中で、本当にスピーディーな意思決定と行動選択で、これは、私の職場では大変心強く、どんな企画でも開催できると感じています。
 行政の主な役割は、予算の作成や会議資料作成、会場・駐車場の手配、関係機関への申請手続き、市民への広報です。行政らしい地味な役割ですが、会員の皆さんが行うには煩わしい諸手続きや連絡・調整の部分をフォローしています。
 こうして、各々が自分の役割・仕事を遂行し、「アースデイ越前」が作り上げられます。当日は、会員のみなさんもブース出展して飲食物や物品の販売、活動紹介等を行い、自分たちも楽しみながらイベントを運営します。もちろん、市もブース出展し、イベントを盛り上げています。

(2) 自主財源の確保・運用
 アースデイを開催するにあたっての財源は、団体・企業の出展料や協賛金、プレイベント映画上映会でのチケット売上金から確保しています。その中で、講師謝礼や備品賃借料、消耗品代、水道仮設工事代などイベント運営に係るすべての費用をまかなっています(毎年約25万円程度)。市はイベント運営に直接関係する費用は一切負担していません。広報用の横断幕の作成とチラシの印刷のみを市が行っています(約15万円程度)。これにより、イベント運営時に自由な目的で財源を使用することができます。

(3) 行政が関わることのメリットとデメリット
 いちばんのメリットは、市が事務局として携わることで、会場施設や関係機関への手続きがスムーズになることだと考えています。
 デメリットですが、アースデイの趣旨は、民族・国籍・信条・政党・宗派を越えて、誰もが自由にその人の方法で、地球環境を守る意思表示をしようとするものですが、行政が入ることにより、「誰もが自由に」という部分を制限してしまうこともあります。実行委員のメンバーは、基本的にはどのような主義・主張を持った方でも広く受け入れたいとの思いがあり、この件で議論になったこともあります。この点がデメリットだと考えています。

4. アースデイ越前 企画事例

 これまで開催されたアースデイ越前の中から、特徴的な企画をいくつか紹介します。

(1) プレイベント映画上映会
 2011年以降、アースデイ越前の開催に先駆けてプレイベント映画上映会を開催しています。上映する映画は食物や農業、衣服など様々な側面から環境問題について考えるドキュメンタリーが主で、身近な生活の中から環境について考え、行動してもらうきっかけになればとの思いで行っています。毎年200人以上の方にご来場いただいています。この売上金をアースデイの運営に回しています。

(2) アースミュージック
 2011年から2013年にかけて、ライブを開催しました。地元出身で県外でも活躍しているバンドやアーティストを招いての野外ライブや、地元中学校の吹奏楽部を招いての演奏会を行いました。

(3) 餅つき体験会
 毎年恒例の企画のひとつで、「コウノトリが舞い降りる田んぼづくり」でとれたもち米を使って餅つきを体験してもらい、できたお餅を召し上がっていただくものです。前述の中でコウノトリをシンボルとした自然豊かな魅力ある里づくり・まちづくりを紹介しましたが、この活動の中心となっている市民団体が体験会を企画しています。親子で楽しめる人気の企画となっています。

 
アースミュージック ライブの様子餅つき体験する親子

(4) 学校調理員との共同企画
 今年のアースデイでは、学校調理員との共同企画として、カレーのふるまいとマイ食器持参キャンペーンを行いました。調理員さんは、自らの活動を紹介するとともに、地場産の食材を使ったカレーを100食限定でふるまいました。その際、器やスプーンは提供せず、来場者自ら持参するよう、事前にお知らせしました。正直なところ、本当に持参いただけるか不安もありましたが、当日は自分の食器を持った方の行列ができ、すぐに完売となりました。

(5) 市内在住の絵本作家とのコラボレーション
 2014年、市内在住の絵本作家ひらたひさこ氏に依頼し、チラシ・ポスターを作製いただき、以降そのデザインを利用しています。これは、ひらたさんと知り合いの会員の提案から始まったもので、アースデイの企画趣旨にご賛同いただき、快く引き受けていただきました(作製費もかなり良心的でした)。
 今年は、ひらたさんから企画(舞台)の提案があり、絵本の世界をストーリーテリング・映像・演奏・ダンスの豪華なコラボレーションで表現した舞台の上演を行いました。これには、約250人の方が来場され、子どもだけでなく大人まで、絵本のやわらかで美しい幻想的な世界に引き込まれました。

 
   
カレーをふるまう調理員さんたち舞台上演の様子アースデイ越前ポスター

5. 課題と今後の方向性

 アースデイ越前は2008年の復活以来、来年で10回目を迎えます。本市の代表的な環境イベントとして定着しました。現在はエコラブえちぜんが中心となり企画・運営を行っていますが、構成団体・個人各々の活動や仕事が忙しいこともあり、準備の段階で十分な意見聴取や議論ができないこともあります。組織の活性化とネットワークの拡大に向けた新規会員の加入も必要だと考えています。
 また、以前に比べ、企業の「協賛」は増えましたが、「出展」が大幅に減りました。アースデイ越前にご来場いただく方は親子連れの方が多く、企画も子どもが楽しめるものが主になっています。ある企業に出展のお願いに伺った際、「企業としてブース出展・展示してもあまりメリットがない」とのご意見をいただいたことがありました。企業にメリットのある企画について、会議でも何度も議論してはいますが、いかに企業を巻き込んでいくかが大きな課題となっています。
 アースデイ越前は、子どもから大人まで楽しめるイベントとしてこれからも継続していきます。来年は10回という節目の開催になりますが、エコラブえちぜんとして特に派手なこと、目立つことをしようとは考えていません。ただ、アースデイ越前が、多くの市域内外の方に環境のことについて考えてもらうきっかけとなり、それがさらに広く波及していくよう、ロゴマークを使ったキャンペーンを画策しているところです。
  アースデイ越前のロゴマーク

6. おわりに

 私はアースデイの担当になり2年余りですが、当初は受動的で戸惑いも多かったものの、現在は様々な考え方・立場の方と一緒にひとつのものを作り上げる中で沢山のことを学び、幸せを感じています。人間的に魅力ある方ばかりで、皆さんの熱意、行動力、実行力は、いつも刺激になりますし、自分もこうなりたいというモチベーションの向上にもつながっています。また、通常業務の中だけでは触れられないような考え方や感じ方、知見を得ることもできます。そしてなにより、立場を超えた人と人とのつながりの大切さを実感しています。行政の立場でイベントがスムーズに開催されるよう裏方の仕事をこなすだけでなく、一個人として、企画提案や情報発信に積極的に携わりながら、アースデイ越前をさらに盛り立てていきたいと思います。