【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第12分科会 ほんとうの住民協働とは? ~地元スペシャルになろう

 2015年1月、JR鯖江駅2階に、新たな鯖江の賑わい拠点施設『えきライブラリーtetote』がオープン。本の貸出しや返却、予約した本のピックアップだけでなく、昼はカフェスペースで一息つきながら読書をしたり、また、夜にはライブスペースで音楽を楽しんだりすることもできる。



市民協働による賑わい創出
―― えきライブラリープロジェクト ――

福井県本部/鯖江市職員労働組合 吉本 幸生

1. はじめに

 私がこの「えきライブラリープロジェクト」に参加した際に担当課から最初に聞かされたのは、「駅の2階に店作るで、ちょっと設計と工事頼むわ」という一言でした。なぜ駅の整備なのに市役所が? 疑問を抱きながら担当課職員に連れられて現地で説明を受けたことを覚えています。
駅2階の状況 元は立食い蕎麦屋
 今考えれば、仕事の一部のはずが、どんどん事業者や市民の方の熱意に引き込まれ、仕事というよりは活動に変わっていきました。


2. 事業の発端

(1) 学生提案をまちづくりに
 事業の発端は、学生連携に積極的に取り組んでいる鯖江市が行った事業「鯖江市地域活性化プランコンテスト」でした。これは、全国からの大学生が2泊3日の合宿で地域活性化プランを競うものです。このコンテストで一昨年の夏出された案が、30年近く空きスペースとなっていた駅2階に図書館の分館「鯖江セレクト図書館」を置くというものでした。この提案は市民が自分でセレクトした本を提案できるなど、楽しいアイディアが盛り込まれていて、学生グループの発表を聞いた市民の方にも大変好評でした。
 ただし、実際に事業を行うためには多くの課題があり、すぐに実現できるわけではありませんでした。

(2) すぐに反応した市民
 そのプラン発表を聞いていた中に、市内で障がい者等が関わるコミュニティ・カフェを運営するNPO法人「小さな種・ここる」、そして市の文化センターを指定管理業務として受託しているNPO法人「Comfortさばえ」の関係者がいました。元々、現在活動中の施設のほかにサテライトとして使える拠点の設置を模索していた関係で、この学生提案に注目しました。
 両団体が話し合い、カフェ、ライブハウスとして運営を行いながら、合わせて市の図書館の分館機能を代行するという協働事業案「えきライブラリー」を練り上げました。

(3) 市民協働事業として
 鯖江市には、市民自らが作った協働条例「市民活動によるまちづくり推進条例」があり、その条例に市民等が新しい公共サービスを提案できる「協働パイロット事業」という制度があります。この場合、NPOや行政から提案を受けた新たな事業案を、協働事業としてふさわしいかどうか審査をするのが、全員市民で構成される市民協働推進会議という組織です。
 両NPOから「えきライブラリー」の事業提案を受けた市民協働推進会議の10人のメンバーは、2013年の年末から早速検討に入り、提案団体からヒアリングを行ったり、駅を利用する高校生たち100人にアンケート調査を実施したりしました。また2月にはより幅広い市民の意見を聞くために、さばえNPOサポート企画・福井県主催の「NPOと行政との意見交換会」との共同開催で「市民ワークショップ」を開催。約60人の市民が参加し、活発な意見交換が行われました。
 そうして集約した市民意見を踏まえ、2014年3月には「①市民の期待の大きさ、②官民協働による効果の高さ、③実現性の高さ」という観点から協働事業としてふさわしいとして、市民協働パイロット事業「えきライブラリー」が指定されることとなりました。


3. 改修設計における官民の関わり方

(1) 鯖江市の支援策
 協働事業としての「お墨付き」を得て、鯖江市では積極的な支援策を打ち出しました。JR西日本との賃借協議、図書館との運営上の課題調整、改修費用の捻出など、各種協議を行っていきました。いろいろな動きがある中で、情報共有を第一に進めることができたことがよかったと思います。

(2) 改修設計の調整
 各種調整の中には、改修工事の調整もあります。当然ながら改修の仕方やデザインについては、各関係者の一番の関心事であり、思いが複雑に絡み合いますので、定期的な総合協議と単体の組織との個別協議を繰り返していきました。
 例えば、「ここにカウンターを配置したい」と意見が出ても、「どんなデザインイメージ?」、「水道はどうなるの?」、「従業員とお客様の目線の高さが……」、「設備工事の際に駅を利用するお客様に影響はないのか?」など、みんな思いがそれぞれです。協議が終わるといつも頭の中は整理が付かない状態になりました。それらの意見をみんなで縫うように繋げていきましたが、協議すればするほど、みんなのイメージがずれていることが分かってきました。
実際の大きさと配置を再現 その場でイメージと色決めを協議
 「実際の大きさで椅子とか置いてシミュレーションしてみましょう」そんな意見から文化センターの一室を借りて、実物大の中で図面と建築材料のカタログを見ながら協議したことが突破口になりました。その後、イメージを共有できたためか、お互いの信頼も生まれ、何とか設計を完了することができ、施工もスムーズに進むことに繋がりました。「段取り八分仕事二分」とよく言いますが、まさにそのとおりで、この設計協議の時点で関係者との調整を十分にできたことが成功の近道だったように思います。


4. 完成後

 たくさんの関係者の期待を背負い、2015年1月9日に無事オープンしました。オープン後はたくさんのお客さまが訪れ、改めて多くの方が関わっていたことを再認識することができました。
 公益財団法人図書館振興財団の機関誌でも取り上げていただくなど、市民との協働によるリノベーションに非常に高い関心があることも窺えました。
 今後は財政難により十分な公共施設の水準が保ちにくい状況にあります。このような状況の中でリノベーションは注目されており、実施の際には、今回のような市民協働が有効な手段だと思います。
プレオープンの様子 最後の調整も同時進行
機関誌の表紙と特集に取り上げていただきました