1. これまでの経過について
2011年に、名古屋市内の6支所管内図書館(富田・楠・南陽・志段味・山田・徳重)に指定管理者制度を導入するプランが浮上して以降、教育支部は図書館ブロックを中心に導入反対運動を継続してきた。
2011年には、図書館で活動するボランティア団体や支所管内地域で活動する住民団体に協力を求め、導入反対の学習会を積み重ね、同年12月からは請願署名に取り組んだ。その成果として、6図書館への導入は阻止されたが、守山区志段味図書館に指定管理者制度が試行的に導入されることが確定した。
教育支部としては、1年間の取り組みでの導入阻止をめざしてきたが、業者選定・検証期間を含めて、その先4年以上の長期的な取り組み方を考えていく必要に迫られることになった。
2. 「市民の会」再組織と取り組みの開始
2011年5月から始まった反対活動は、同年12月から2012年2月にかけて実施した請願署名(13万筆)の提出と、2012年3月に行った片山善博氏(元総務大臣・慶大教授)の講演会で実質的に終了した。
2012年3月26日に、緑区徳重コミュニティセンターにおいて、これまでの1年間の取り組みの反省と、今後の方針を話し合うために、「市民の会」世話人会を開催した。
話し合いの中で、図書館に関する活動を継続していくこと、新たに会則を定めて個人参加の会として活動していくことが決まった。2012年4月23日には「市民の会準備会」を行って新しい会則を施行し、名称は同じだが、新しい「名古屋市の図書館を考える市民の会」として再スタートした。
2012年の主な活動 |
日 時 |
内 容 |
4月23日 |
市民の会準備会・市民の会会則施行 |
5月7日 |
第1定例会 開催 |
7月1日 |
「図書館について考える集い in 志段味」を志段味地区会館で開催 |
9月1日 |
冊子『図書館の役割ってなあに?』を市民の会で作成 |
11月16日 |
清須市図書館(指定管理者TRC)を見学 |
11月23日 |
志段味図書館出前トークを開催 |
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2012年には4回の定例会を実施し、これまでの活動のまとめとして、片山氏の講演記録を含む冊子、『図書館の役割ってなあに?』を作成した。また、「市民の会」として、図書館について活動する市民団体の全国組織「図書館友の会全国連絡会」に加入した。
また、指定管理者制度が導入された図書館の状況を学習するため、清須市図書館の見学を行った。
指定管理者制度が施行導入される志段味地区においては、2回の集会を開催し指定管理者制度について学習活動を行った。
一方、2012年には志段味図書館の指定管理者の選定が行われ、株式会社TRC(図書館流通センター)が志段味図書館の指定管理業者に決定した。
3. 志段味図書館の試行導入検証と活動の拡大
(1) 志段味図書館の検証開始と情報公開請求の取り組み
2013年4月から、志段味図書館において指定管理者制度の試行導入がスタートした。それと同時に、教育委員会は名古屋市会で約束した指定管理者制度の導入検証を行うために、鶴舞中央図書館を事務局として「志段味図書館指定管理者検証委員会」を設け、検証がスタートした。
しかし、志段味図書館での検証はいきなり予測したものとは異なる形を示し始めた。私たちは、導入の検証は当然情報をオープンにした形で行われるものと思っていた。しかし2013年6月に開かれた第1回検証委員会において、事務局側から会議を非公開とする提案が行われ、それ以降の検証委員会は非公開となることが決定した。
それ以降、志段味図書館の検証は密室で行われ、議事録や資料、検証に使用したデータなどの、検証過程がわかる資料は、教育委員会からは一切公開されなくなった。
事務局は非公開の理由について
①検証過程を公開すると法人などに不利益を与えると思われる情報が含まれる。
②検証委員の率直な意見交換、意思決定の中立性が不当に損なわれる。
の2点を理由に挙げたが、同様の検証を先行して実施した横浜市では、すべての情報がオープンにされ、資料や議事録もHPで公開されている。
名古屋市図書館での検証過程が非公開とされていることは、図書館のあり方について様々な意見がある中で望ましい事態とは考えられず、教育支部は市民の会と協働して少しでも多くの情報を入手し、検証過程を僅かずつでも公開していく活動に取り組んだ。
「市民の会」では2013年6月の第1回検証委員会を傍聴したが、以後の検証委員会が非公開とされたため、2013年は、志段味図書館の検証がどのように行われているのか手がかりが得られず、苦しむことになった。
しかし、2014年には、情報公開請求を行い検証委員会の議事録・資料を入手していくことで、ようやく検証過程の分析が可能となった。
「市民の会」という枠組みの中で、情報公開請求を市民の会が行い、教育支部の図書館職員が入手した情報の分析と問題点の洗い出し、市民の会に参加している住民の方へ説明資料の作成を行った。
作成した資料を基に、疑問や問題点についての討議を行い、市議会議員および検証委員会委員に対して分析資料を送付し、働きかけを行うという形で、2016年3月まで取り組みを続けた。
(2) 新代表の選出と活動の拡大
「市民の会」は2014年1月に世話人会を開催し、新代表の選出や今後の活動方針について話し合いを行った。その中で、一つの目的だけで活動を継続するのではなく、名古屋市の図書館が抱える様々な問題について関わり活動を拡大していくことを検討した。
2014年3月第2回世話人会を開催し、「日進図書館サポーターズ」でも活動を行っている酒井信氏を新代表候補として推すことを決めた。また、新たに改築中だった瑞穂図書館や、施設の老朽化が懸念される千種図書館などについても市民の会として働きかけを行っていくことを確認した。
2014年5月19日に「市民の会」の総会を実施し、新代表に酒井信氏を選出するとともに、今後の活動方針を決定した。2014年には、新たな活動の方針に基づいて、千種図書館の早期建て替えを求める請願署名や、新瑞穂図書館への要望提出への協力、緑区への3館目の図書館建設を求める要望書の提出などを行った。
2015年は、昨年に引き続き千種図書館の請願署名や新・瑞穂図書館に関する要望提出に取り組むとともに、6月には、元滋賀県立図書館長・梅澤幸平氏を講師として、図書館について考える講演会を実施した。
また、市民の会側からの要望により、2016年1月には、市民の会に参加している住民と図書館職員による懇談会を実施した。職員側の参加者は多くはなかったが、図書館の現状や将来について、率直な意見交換を行った。
4. 「市民の会」との協働がめざすもの
自治労名古屋教育支部は、「名古屋市の図書館を考える市民の会」には団体会員として参加している。
「市民の会」は、2011年に指定管理者制度導入の反対運動を行ったときには、複数の市民団体・ボランティア団体と自治労名古屋教育支部・名古屋市職労教事支部が、とりあえず一つの会の名前で活動を行うための看板だった。
その後、2012年に新たに再組織化を行ったときに中心となったのは、緑区で活動し、徳重図書館の運営などにもかかわってきた「緑区東部街づくりの会」と、図書館ボランティアのネットワークである「東海子どもの本ネットワーク」のメンバーだった。教育支部は団体会員として会に加入し、図書館ブロックの職員が図書館についての専門知識の提供や、名古屋市図書館についての状況分析を行う形で、「市民の会」の活動とかかわってきた。
指定管理者制度の導入反対の活動が軸になってきたが、また一方では、住民・利用者が図書館に対して望んでいることを知ることができる場でもあり、図書館の月曜日開館の要望など、職員組合の立場からは素直に賛成できない要望提出などの活動も行ってきた。
少し県内に目を広げると、小牧市においては、2015年に全国の注目を集めた住民投票で、市長から示されたCCC(ツタヤ)を指定管理者とする図書館構想が、住民による反対活動によって真っ向から否定された。豊田市では、市が示した図書館への指定管理者制度導入に対する反対運動がいま現在も行われている。
全国的には、いわゆる「サポーター」「友の会」組織を持つ図書館はいくつも存在している。
利用者のサポーター組織をもつ図書館では、定期的に図書館と利用者側が話し合いの場を持ちつつ、図書館の事業実施に協力したり、図書館に関する議会などへの働きかけをサポーター組織が行ったりといった共存関係が構築されている。愛知県内では「日進図書館サポーターズ」や岡崎市立図書館のサポーターズなどの活動がよく知られている。2016年5月には、愛知県内の図書館サポーター組織が、県内での横断的な協力を行っていくための会合が開かれた。
「名古屋市の図書館を考える市民の会」も今後活動を継続し、職員組合とではなく、「名古屋市図書館」と協働関係を作ることが、いまの「市民の会」の目標になる。先のことはわからないが、いつか「市民の会」が図書館との共存関係を築くことができる道を今後も模索していきたい。
「市民の会」が作られるきっかけとなった、志段味図書館の指定管理者制度試行導入は、2015年度に主な検証を終え、図書館への指定管理者制度導入には、さらに検証が必要な問題を抱えていることから、試行を継続するという結論が出された。中長期的にも、また現在の運営にも様々な問題を抱えていることが認識されたのは、「市民の会」の取り組みの成果であると考えている。
名古屋市図書館は現在「アクティブライブラリー」と題する図書館の新構想を策定する最中にある。新たな図書館の将来像を検討するこの構想に対して、市民の会と協働して教育支部も積極的に関わっていきたい。 |