【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第12分科会 ほんとうの住民協働とは? ~地元スペシャルになろう

 「極端な少子高齢化の地域にあって、孤立する高齢者・障害者が日常生活で困っていることに取り組む行動チームを編成。夕食弁当づくりを行い配達するチーム、通院・買い物などの移送サービスを提供するチーム、何に困っているかなど語り合うチームを組織化しつつ、集える『コーヒーお茶ハウス』『小規模多機能居宅介護事業』で、泊まることができて、通えて、訪問も行う取り組みの展開をめざし、人と人をつなげ高齢者・障害者を孤立させない」事業を展開している。



過疎地での高齢者・障害者の孤立を防ぐために
―― 助け合い「あいの手事業」の展開 ――

奈良県本部/公共サービスユニオン・あいの家分会
蛯原能里子・辻本 恵則


1. 現状と課題

(1) 過疎地の高齢者・障害者の現状

(景色は抜群、しかし空き家が目立つ集落)

 高齢化率50%を超える過疎地の高齢者や障害者の多くが、介護や手助けを必要としている状況にあり、公的制度の対象とならない人や介護認定を受けられた人でも、その制度のどこにも該当しない次のような日常生活での困りごとがある。
・食事作りが困難になり、バランスのとれた食事ができないでいる(栄養の偏りから、貧血、骨粗鬆症など)
・通院や自分で買い物をしたいなど、出かけたいが交通手段がなく困っている
・高齢化や一人暮らしでごみ出しや家具の移動ができないなど、日常生活のちょっとした困りごとが増えている
 極端な高齢化によって、近い将来に地域の助け合いシステムが完全に崩壊してしまう現状にある。一方で、長年培った仕事の技術や趣味を地域のために活かしたいが、その場がないと考えている高齢者や団塊世代の人たちが存在している。


(2) 「住み慣れた家で最期まで暮らしたい願い」を原点とした体験
 「がんの末期を自宅で過ごしたい本人と家族を支えるにはどうすればいいのか」私たちが取り組んだ実例を家族の了解を得て紹介する。
 Aさん男性、80歳、妻と二人暮らし。2013年末、膵頭部癌切除術を受ける。本人、家族にがんの告知あり。一ヶ月で退院。「術後経過は良好」であり、3月には「食欲が出てきた。何でもおいしい、お酒も」と笑顔で話し、畑に出る姿も見られたが、6月の検査で再発が認められた。主治医は抗がん剤や放射線療法を強く勧めたが、本人はそれらの治療については一貫して拒否を続けた。「ここまで生きさせてもらったのだから、十分。しかし、痛みだけは取り除いてほしい。」との主張を変えなかった。
 7月、胆のうの炎症による高熱と一時意識消失で救急入院。点滴で症状が治まるとすぐに、自ら希望し退院をした。村役場(地域包括支援センター)と連絡を取り、自宅訪問。本人と家族の気持ちを聴かせていただく。本人の思いや願いに変わりはなく、家族(妻)も、本人の願いに添うようにしたいとの思い。しかし、退院後の医療やケアについては、何も決まっておらず、白紙の状態であった。
 本人、家族が願うように「在宅で最期を迎える」ことへの支援をどのようにすればよいのか。隣町の訪問看護ステーションに協力を依頼し、かかりつけ医である村内の診療所医師に相談に行った。最初の答えは、「(自宅での看取りは)無理でしょ。今どき、家で亡くなる人はいないよ。奥さんも高齢だし、家族も入院したほうが楽だと思うよ。」であった。
 8月後半より食事をほとんど受け付けなくなっていた。梅干し大のおにぎり一つ、本人が好物のスイカやメロンは、妻がスプーンで口に運ぶと、三口ほど食べ、「おいしい」と笑顔も見られた。再度、訪問看護師と医師宅訪問。「本人は、できるだけ家で過ごしたいと願っている。奥さんも本人の望むようにしてあげたいと願っている」と「在宅での看取りについて医師の往診と協力を得たい」と再度願い出る。「休診日や夜間など、医師の不在時に急変があれば、介護者から連絡を受けてこちらが駆けつけ、状態を確認し、翌朝、医師に連絡する」ということで了解を得る。8月末より、水分や食事をまったく摂らなくなっていた。
 9月始め、訪問すると、昼夜の別なく本人に寄り添っていた妻がベッドの脚元で横になっていた。本人は身動きや寝返りもできないほどに衰弱していたが、「(妻は)どこへ行ったんだろう……」とつぶやく。「脚元で横になっておられますよ」と言うと、かすかにうなづき、微笑みを見せてくれた。2日後の深夜、静かに息を引き取られた。  
 在宅で最期を迎えるということ、がんの末期や他の疾患においても、「最期を家で迎えたい、家で看取りたい」という願いにどう寄り添うことができるのか、考えさせられた。
 本当の「最期の時」をどこにするのか。「病院搬送する・しない」をどう決めるのか。死期が近いと告知されたとき、短いかかわりであったとしても、本人・家族に寄り添い、その瞬間瞬間を、その人がその人らしく「今を生きる」ことができるような支援をめざす「地域づくり」が求められている。

(3) 人々が持っている介護・福祉への思いと課題
 普通の生活を営んでいた高齢者・障害者が突然、病院や介護施設へ入所されていく実態がある。なぜこんなに急に変化が起こってしまうのか、振りかえると「介護の世話にはなりたくない」と、辛抱していた人たちであること、孤立もあって誰にどのように相談すればいいのか、さらに介護を受けたいのに発信できないままの人など、頑張り続けた人が圧迫骨折や転倒であっけなく病院や都会の施設に入院・入所していくケースである。

(古民家を改修しデイサービス事業所「あいの家」)

 介護事業所で働く私たちの元には、「何ヶ月もお風呂に入れないでいる」「足腰が痛く、居間から動けないでいる」「食事は、電子レンジでチンをするだけで食べている」など、介護が必要なのに福祉サービスが行き届いていない高齢者の声が入ってくる。その都度、村役場に情報提供し、サービス提供につなげる取り組みを行っている。
 こうした取り組みを通して、介護保険制度の利用につながる場合と認定外になる場合、そして、介護保険サービス外の「ちょっとした困りごと」が、多くあることがわかってきた。家具を動かして欲しい、ごみの片付けをして欲しい、大掃除をして欲しい、草引きをして欲しい、電球を取り替えてほしいなど、介護保険サービス外の日常的な困りごとである。家族で頑張ってきた日常生活を公的機関にさらけ出したくない心情を心得た対応を行う必要がある。きめ細かな対応がどこまでできるか、私たちの質の高いケアが問われることでもある。


2. 課題に取り組む

(1) 小規模多機能型居宅介護事業に取り組む
 デイサービス、訪問介護、居宅介護支援事業などを6年間継続して、今、私たちに求められているのは、「通うことができ、訪問もしてくれる、そして何かの時には泊まれる場所」が地域にある事業展開だと捉えている。住み慣れた地域に、介護が必要となったとき泊まれる自宅のような場所があってほしい方々の思いを受け、2015年末から小規模多機能型介護事業の取り組みを開始した。空き家を購入し、改修と増築をして「古民家」の風情を残しながら8人が宿泊できる「あいの家多機能ホーム」を準備している。7月現在、奈良県の補助金交付決定待ちの状況にある。スタッフも本年4月に、3人を採用しており、ゴーサインを待つのみとなっている。9月には、家屋の改修と増築に着手し2017年1月開業をめざしている。

(2) 夕食弁当をつくって高齢者・障害者の皆さんらに配達する事業に取り組む
 2015年9月奈良県高齢者生きがいワーク支援事業の補助金を受け、地域の困りごとの一つである「食事を作って配達する事業」の立ち上げを本年2月に行った。現在取り組み5ヶ月目、毎週金曜日の夕食弁当を30食作り、定着しつつある。作り手は、主婦3人と有償ボランティア3人で担当している。午後1時から作り始め、4時には配達を開始し(1食600円)早めに召し上がって頂く。一人暮らしの高齢者や高齢夫婦の方も待ち望んで下さっている。食材と人件費に対し、売上金で収支バランスはとれているが、光熱水費、家賃、配達ガソリン代は、介護保険事業収入で賄っている現状である。単独で採算がとれる知恵を絞りながら、弁当を待ちわびて下さる方々の思いを、どこまでも大事にしていく生きがいワークでもある。

(3) 有償移送サービスで通院・買い物などに困っている方々の交通便を確保する取り組み
 過疎地有償運送事業に取り組んで8年目を迎えている。公共交通機関が、採算性が合わない山間へき地の路線を次々に廃止していった。結果、過疎地の高齢者・障害者は、通院、通学、通勤、買い物など、日常生活に困り果てている。過疎化が進んだから公共交通機関が撤退をしていったとも言える。こうした現状に、私たちは、陸運局、村役場、タクシー業界、地域の方々との協議を経て、運送法の許可を取って普通車で送迎し有償移送サービス運送を行っている。利用料で賄えるのは、運転手の賃金(時間給900円)とガソリン代。タクシーの半額以下で距離と待ち時間で料金設定をしている。車両の購入、車検、保険などの維持費は、別に実施している介護保険事業収入や企業の社会貢献補助金、2015年は、奈良県からの補助金で中古車を購入するなどで補填している。門口から目的地まで送迎し、通院の受付や乗降介助も要請に応じて行っている。会員制であることを義務づけられ、東吉野村を発着地とすることも条件とされている。利用者には、重宝がられており、地元の交通安全協会からも長年の取り組みに評価をされるようになった。担い手は、地域の団塊世代と介護保険事業スタッフの兼任で対応している。単独事業で採算のとれる事業ではないが、仕事づくりの一端を担っていることも間違いない。


(4) (仮称)「あいの家コーヒーお茶ハウス」開設の取り組みをめざす

(「コーヒーお茶ハウス」開設予定の空き家)

 地域の人々が集える場所づくりをめざしている。地域には、空き家が多数あり、目的を示し熱意を持って話をすれば貸して頂くことができた。集える場所の確保は、配食弁当づくりの炊事場を兼ねて借用し、テーブル設置など必要な備品購入費、人件費などは、社会貢献事業の補助金を獲得し整備する計画である。高齢者・障害者の困りごとはたくさんあっても、願いを出して頂くには、それなりの場所と聴き手が必要である。時間をかけてコーヒーやお茶でも飲みながらうち解け合ったとき、必要な取り組みが聞けるものと捉えている。
 聴き手となるには、介護や福祉の知識と取り組みへの意気込みを持った人材が必要である。人材養成のための連続まちづくり講座を開催し、専門家の話を聞くことと自らの話し合いを積み重ねることが必要である。2017年3月までに人材育成事業と空き家改修を実現していくことをめざしている。 


3. どんな地域づくりをするか

(1) 単年度の効果
 単年度でめざしている効果は、食事の栄養バランスが整い、交通手段が確保され、高齢者・障害者の方々の不安が解消されつつあること。利用者とサービスを提供する地域の方々がともに集える場所において、直接思いを聴き取ることで事業効果を確認する。
 空き家を貸して頂くことをはじめとして、地域の方の協力体制が整い、少子高齢化が極端に進行する地域であっても夢を実現できる活気が出てくる。地域に貢献したい私たちの熱い思いが伝わる実感を味わう一年をめざしている。

(2) 自治研活動を通して生み育てた民間団体の強み

 

 私たちは、6年間の介護保険事業を継続してきた。事業運営してきた母体は、自治研活動を通して2005年9月に結成した「東吉野村まちづくりNPO」である。資金面では、そう強くもないが、利用者さんとのつながりや介護スタッフなかまが存在している。地域の課題については、利用者さんの声から必要性を知り得たことである。
 本事業の発想も介護スタッフの中からアイデアが提案されている。これから先もなかまが一致団結して難問に応えていける強みを持っている。

(あいの家スタッフミーティング月1で開催)    

(3) 中期的な展望
 助け合い「あいの手事業」が好転するならば、地域の人々は「心地良く暮らせるだろう」と私たちは話し合っている。過疎化が進行し続ける地域の行き着く先に不安はあるが、癌にかかれば余命何ヶ月の宣告がなされることもある。予定がはっきりして最期の時の整理もでき、やすらかな死も迎えられるというもの。人としての尊厳を大事にされ、お互いを認め合い、死を受け入れることができる地域社会であるならば幸せなことである。生きている間にその喜びを味わうには、人とのつながりがどれほど大事であるか、自らの課題として事業展開に精魂をつぎ込むこと以外に方法はないとも話し合っている。自らが動けば、後継者は、必ず生まれることを確信して本事業の成功をめざし取り組んでいる。