【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第12分科会 ほんとうの住民協働とは? ~地元スペシャルになろう

 全国各地で少子高齢過疎化が進んでいます。住み慣れた地域で暮らしたいという住民を支えるには「地域づくり」の視点から地域全体のソーシャル・キャピタルを生かす取り組みが今後さらに必要になります。社会保障分野では医療・介護・福祉の連携に向けて地域包括ケアシステムの推進が進められています。飯南町では地域包括ケアシステムを生かして、地域そのものの活性化をめざしています。労働組合としての支援も含め報告します。



地域包括ケアシステムを活用した
住民協働・地域づくりへの取り組み
―― ソーシャル・キャピタルの活性化から地域活性へ ――

島根県本部/飯南町職員組合 田村  剛・後長 隆哉・本間 康浩・
山戸 由紀・森山 智博・嘉田 将典

1. はじめに

 厚生労働省によると、人口については、2005年に戦後初めて人口減少局面に入り、すでに当時、高齢化率は21.0%と世界のトップクラスとなっている。それから後も、少子高齢化は進み、特に高齢化率は2014年に26%となっている。その中で家族については、世帯人員数は大きく減少し、世帯構成別では特に三世代世帯数が減少している。地域については、職住分離が進み、都市集中が進んでいる。近所付き合いは大都市・町村ともに希薄となっている一方で、社会への貢献意識が高い。
 そうした中、近年、NPO法人や民間企業、住民などの地域の様々な担い手が主体となった特産品づくりや観光の開発といった地域活性化のための住民協働・地域づくり活動が、全国各地で取り組まれている。地域づくりの形は様々あるが、その多くは外部からの人口流入を促し、人口を維持・増加させることで教育・地場産業・地域内消費等を活性化させようという試みである。
 しかしながら、日本全体の人口が減り超高齢化社会となりつつある現状では外部からの人口流入だけに頼るだけでなく、地域の主体的な活動を軸とした、地域住民が長く元気に住み続けるための住民協働が重要であると考える。住み慣れた地域で温かい関係性の中で過ごしたいと願う地域住民や高齢者は多く、元気な高齢者が増えることは、地域そのものの元気につながる。住み慣れた環境を維持するには、地域全体を社会資源として把握し、住民協働・地域づくりに向けた草の根的な運動が大切である。飯南町においても、今後の大きな課題であるといえる。飯南町としての取り組みを、労働組合としての支援も含め以下に報告する。

2. 飯南町における取り組み

(1) 飯南町概要と課題
 飯南町は島根県中南部にある周囲を山々に囲まれた自然豊かな町である。高齢過疎化が進み、人口は約5,200人、高齢化率は40%を超えている。(図1)
 中国山地の自然の恵みや、神戸川の源流、斐伊川・江の川へ注ぐ清流、そして自然を活かした人々の営みなどが飯南町の特徴であるといえる。飯南町では、それらを生命の源としての"生命地域"と捉え、小さな田舎(まち)からの「生命地域」宣言を行い、「いのち彩る里 飯南町」をまちの将来像としている。急速な超少子高齢化社会到来の中、独居高齢者世帯・高齢夫婦世帯の増加が加速している。飯南町の人口は10年前と比べて、約1,000人減っている。(図2)
 買い物弱者や交通弱者の解決も急がれる。また、地域コミュニティの衰退により中高年者や高齢者の地域内孤立化も懸念され、認知症などの発症増加も危惧されるところである。実際に、介護保険の新規申請理由内訳では認知症が非常に多い。(図3)
 世帯数は人口減に反してここ数年横ばいだが、その多くが独居世帯、高齢者のみ世帯で、高齢者の核家族化を要因として多くが独居世帯となっている。
 飯南町は総合戦略の中で、①若い世代の結婚・出産・子育ての希望を叶える、②飯南町への人の流れをつくる、③飯南町でいきいき暮らせる「しごと」をつくる、④安心・快適に暮らせる「まち」をつくる、を大きな柱として掲げ、飯南町民のすべてが生涯を通じて健やかで安心して暮らせる地域づくりをめざしている。

 

図1

図2

図3

(2) 飯南町における地域づくりの視点
 地域づくりの視点は多様にあるが、保健・医療・介護・福祉の連携を基軸とした地域包括ケアの推進とソーシャル・キャピタルを活用した地域づくりは、今後さらに必要性が高まると考えている。
 地域包括ケアシステムとは、2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築をめざす仕組みである。また、長く住み慣れた地域で過ごすには、高齢になっても「自分らしく」生活できるよう介護予防の視点を地域全体に浸透させることが重要である。介護予防は、高齢者が要介護状態等となることの予防や要介護状態等の軽減・悪化の防止を目的として行うものである。特に、生活機能の低下した 高齢者に対しては、リハビリテーションの理念を踏まえて、「心身機能」「活動」「参加」のそれぞれの要素にバランスよく働きかけることが重要であり、単に高齢者の運動機能や栄養状態といった心身機能の改善だけをめざすものではなく、日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を促し、それによって一人ひとりの生きがいや自己実現のための取り組みを支援して、地域全体の健康長寿をめざすものである。
 地域全体の健康長寿に関連の深いものの一つにソーシャル・キャピタルがある。ソーシャル・キャピタルとは、ヒューマン・キャピタル(人的資本)と対応する概念で、人と人との間に存在する信頼、つきあいなど人間関係、中間集団(個人と社会の間にある、地域コミュニティの組織やボランティア組織など)の3つを含む概念である。住民協働が行える地域性もソーシャル・キャピタルの一部であると言える。
 ソーシャル・キャピタルが豊かな地域は、政治的コミットメントの拡大、子どもの教育成果の向上や、近隣の治安の向上、地域経済の発展、地域住民の健康状態の向上など、経済面社会面において好ましい効果をもたらしている。また、ソーシャル・キャピタルの豊かさは、人々は互いに信用し自発的に協力することにつながり、社会課題の解決に向かうことができるとされている。地域において、労働組合の活動もソーシャル・キャピタルのひとつとして分類できる。飯南町では独自の地域包括ケアシステムとして飯南町地域包括ケア推進局を設置し、その仕組みを介護予防・地域活性に発展的に生かしている。

(3) 飯南町地域包括ケア推進局の概要
 飯南町では2010年より飯南町生きがい村構想のもと、飯南町地域包括ケア推進局を設置している。飯南町生きがい村構想とは、飯南町全体をひとつの「生きがい村」としてとらえ、保健・医療・介護・福祉の連携を図り、将来的には、教育、文化、産業等の分野との連携も視野において、これを「飯南町生きがい村構想」とするものである。
 飯南町地域包括ケア推進局は、飯南病院長を局長として、飯南病院と保健福祉課を統合する形で設置している。住民に信頼され愛される地域包括医療をめざすことを理念とし、基本的な考え方を示してめざすべき方向性を定めている。

(4) 飯南町地域包括ケア推進局と住民協働
 飯南町地域包括ケア推進局では、救急医療をはじめとした地域医療の展開のみならず、地域包括ケアの推進に向けて地域住民と一体となった取り組みを行っている。
 1つ目は、地域医療を支援する会の設置である。飯南町では、地域住民と共に医療の確保のために何ができるかを学び、医療を守り、支えることを目的に、2010年に「飯南町の医療を守り支援する会」が設立された。その縁で、地元の住民には、病院および保健センター周辺の清掃活動などを行っていただいている。また、「飯南町の医療を守り支援する会」との協働により公民館単位での住民懇談会を開催している。公民館単位での聞き取りにより、多くの応援やご意見があり、飯南町全体の施策に生かしている。
 2つ目は、地域包括ケアの推進を目的とした地域住民への普及啓発である。年に1回、飯南病院と保健福祉センターが中心となり地域における健康づくりに向けて健康まつりを開催しており、毎年多くの住民の参加がある。2015年度は、認知症の重度化予防をテーマに開催した。男性の参加も多く見られ、関心の高さが垣間みられた。地域住民の意見も聞きながら、双方向的な情報提供が行えていると考えている。
 3つ目はソーシャル・キャピタルとしての、地域住民の主体的な取り組みに対する支援である。地域の健康づくりには、地域住民による主体的な活動も重要である。飯南町頓原地区では、2013年度から公民館が主体となり住みよい地域創造事業として地域づくりに関する活動を行っている。このようなソーシャル・キャピタルの拡充は今後の継続可能な社会保障制度にとって非常に重要な部分であるといえる。

 
来島地区住民懇談会の様子   生きがい村推進センター祭りの様子

(5) ソーシャル・キャピタルを活用した住民協働・地域づくりへの取り組み
 飯南町では公民館を単位とした地域運営の仕組みづくりや、地域課題解決のための「住みよい地域創造事業」が2013年度よりスタートし、それぞれの公民館が事務局を担当している。その一つである頓原公民館では、公民館と地域が一体となって課題解決へ向けた取り組みを進めている。活動の中に、中高年者(高齢者)の生活支援事業があり、その一つについて具体的な内容を紹介する。
 飯南町頓原地区では2014年9月から「はない茶屋」を開催している。「はない茶屋」は空き家を再利用した住民主体の運営による通いの場である。以前は魚屋であった「花井家」を、所有者のご厚意により使わせていただき、月に2回(第2・4木曜日 10:00~12:00)地域住民主体型のサロンを開催している。開催日には、"まかないさん"達がそれぞれ自慢の腕をふるって手料理を作り、参加者も一品を持ち寄り賑やかな時間となっている。
 「はない茶屋」は住民主体の通いの場であるが、そこに保健師・栄養士・理学療法士など保健・医療の専門職が立ち寄り情報交換をしながら相談に乗るなど、人的支援を行っている。空き家を再利用し、住民同士のつながりで主に運営されている「はない茶屋」は、「空き家」「つながり」「伝統料理」「通いの場」「防災」などといったソーシャル・キャピタルの集合体であり、地域と地域をよく知る住民によって運営されることで、「身近であること」や「寄りやすい」などの特性をより高めているといえる。地域の世代間交流の場としての役割も果たしている。
 加えて、飯南町立飯南病院・飯南町保健福祉課・飯南町福祉事務所の包括的組織である飯南町地域包括ケア推進局から職員が出向き、サポートを行うことで気軽に相談に応じることができ、結果として健康長寿の面から通いの場があることの意味づけが加わる。そのことが、より地域で必要とされ継続できる通いの場になると考える。
 「はない茶屋」には元気高齢者だけでなく、要介護・支援認定をもつ高齢者も参加している。厚生労働省は、これからの介護予防は、機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく、生活環境の調整や、地域の中に生きがい・役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど、高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた、バランスのとれたアプローチが重要であるとしている。「はない茶屋」の開催は要介護状態になっても、生きがい・役割を持って生活できる地域の実現に向けた一助であると言える。
 地域包括ケア推進にむけて、自助・互助・共助・公助の中の、自助・互助・共助が必要になるとされている。つまり、これまで一方的に「支えられる側」であった高齢者を、どれだけ「支える側」にまわってもらえるかが重要になる。その意味で「はない茶屋」は、「支えられる側」であった高齢者を、有機的な連携により「支える側」にまわってもらえる先進的な取り組みであるといえる。また今後、制度改正により要介護1・2の通所介護および訪問介護が地域支援事業へ移行されることが決まっている。その受け皿としては、地域資源を活用した多様な通いの場が期待されている。
 「はない茶屋」の中心は地域住民であるが、継続と発展のために、行政や各種団体が連携して支援をすることが必要である。行政の職員も地域住民として多様な通いの場の必要性と役割を理解しながら、一人ひとりがソーシャル・キャピタルの把握・創造に努めていく必要がある。

 
はない茶屋外観   はない茶屋の様子

 
飯南病院 理学療法士参加の様子   男性の集いの場にもなっている。

(6) 職員労働組合と住民協働
 人が暮らしていくために必要な4つの資源として、①所得、②時間、③社会サービス、④ソーシャル・キャピタルがあると言われている。
 労働運動は単に労働組合が単独で活動するのではなく、様々な組織と積極的にネットワークをつくり、場合によってはコーディネーターとしての役割を積極的に果たすということも、社会運動の中の労働組合としては重要になると考える。行政を始め、ネットワーク形成の主体たる立場にある組織は、そのようなネットワークを、これまで形成されてきた縦割り行政の仕組みや、官と民、組織と個人といった線引きを乗り越えて、柔軟に形成することが求められている。そういった意味で労働組合は地域におけるネットワークの「つなぎ役」であり地域のリーダー育成の一つの形であるといえる。
 地域社会の変容や住民意識の変化が進む一方で、終戦後のベビーブームに生まれた世代(いわゆる「団塊の世代」)が退職年齢に達し、職域を生活の中心としていた多くの人々が、新たに地域の一員として入っている。こうした人々を始めとして、住民が地域での活動を通じて自己実現をしたいというニーズは高まってきている。住民が主体的に福祉に参加することで、住み慣れた地域で、これまでの社会的関係を維持しながら、生きがいや社会的役割をもつことができ、より豊かな生活につながることが期待される。今後の地域における福祉のあり方を考える際、公的サービスの充実整備を図るとともに、地域における身近な生活課題に対応する、新しい地域での支え合いを進めるための地域福祉のあり方を検討することが重要であると考える。
 労働組合においても、地域との「つながり」や「絆」を深める活動が今後必要になると考える。「はない茶屋」には、地域を知り、地域と共に暮らしてきた元行政職員や自治労運動経験者が多く関わっている。そういった縁もあり、「はない茶屋」に対し、労働組合として支援を行うとともに、今後の活動方針の中にも住民協働・地域づくりを加え取り組んでいく予定である。
 私たち労働組合は、地域住民と共に学び、様々なネットワークを構築しながら、この「はない茶屋」の取り組みを支えていきたいと考える。これからの新しい地方自治・地域福祉・住民主権の意義や役割を推進するために求められる条件は何か、について考え方を整理し、住民と行政、労働組合の協働による新しい地域づくりのあり方を追求したい。

3. まとめ

 より良い住民協働・地域づくりへ向けて、飯南町職員組合も積極的な協働により進めていきたいと考えている。住民の元気は地域そのものの元気であり、このたび紹介した「はない茶屋」の事例は、まさに地域の元気の一つである。このような点が結びつき、線となり、線が輪、輪が大きな球となって地域を包み込んでいくことが希望であり、私たちの願う目標でもある。
 地方自治の最先端で、地域住民と向き合って働いている職員で組織されている労働組合としても、保健・医療・介護・福祉との連携にとどまらず、様々な分野のソーシャル・キャピタルを活性化させ、飯南町という地域そのものが、より元気になるよう挑戦していきたい。