【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第12分科会 ほんとうの住民協働とは? ~地元スペシャルになろう

 地域には"困りごと"が山積しています。それに対応するのは自治体(行政)の重要な役割です。しかし、財政削減、人員削減が進められている今、すぐにできることは多くありません。そこで課題になるのが「協働」です。大分県自治研センター「社会保障専門部会」は、地域の取り組み例を紹介し、住民と自治体で共有し、いろんな地域で「協働」を広げたいと考え、「市民の困りごと」を知ることからはじめて、「困りごと」を「協働」に結びつけていく取り組みを行っています。



大分県自治研センター「社会保障専門部会」
困りごとアンケートから協働ガイドブック、
そして地域自治研活動へ

大分県本部/大分県地方自治研究センター・事務局長 佐藤 俊生

1. 「市民の困りごと」アンケートの実施

 「協働」とは、自治体(行政)と住民が力を合わせて問題を解決していくことです。お金がないのなら、知恵と力を出し合って、自分たちの努力で一つずつ解決していくことが必要になります。そんな考え方で取り組んで成果を上げている地域が県内のあちこちにあります。大分県自治研センター「社会保障専門部会」は、2011年度から「地域の中で、市民と協働していかに安心・安全の社会保障システムを構築していくのか。生活保護に関連して年金や就労などの生活支援や高齢者や障害者の地域や市民との協働やネットワークをどうやって構築していくのか」について検証作業を進めてきました。
 大分県自治研センター「社会保障専門部会」は議論を進めていく中で、「実際に市民はどんな困りごとを抱え、自治体(職員)にどんな要望を持っているのか、議論するだけでなく地域に出ていき直接地域住民の声を聴いてみよう」「まず市民の思いや願いを聴き、それをもとにして自治体(行政)として何をすべきかを考えるべき」「住民と自治体(行政)は対立するものではなく、協力・協働するものとして、一緒に考え力を合わせることによってよりよい地域を作っていくことができる」との認識に至りました。
 その結果、2012・2013年に地域の困りごとアンケートを以下の通り実施しました。対象は、県内全自治体で範囲を自治体内の市街地と周辺部の各最低20世帯以上の行政区に設定し、社会保障部会員と組合役員による直接聞き取り調査としました。


2. 「自治体職員の困りごと」アンケートの実施

 市民の困りごとアンケートの検証作業を進める中、「自治体職員にも『困りごと』があるはず」、「協働は自治体職員の困りごとを解決するためにも必要ではないか」という声が社会保障専門部会の中で出されました。
 私たちは地域住民だけでなく自治体職員の業務環境が厳しい中で、「地域住民と協働する」という視点が、特に社会保障関係の職場に携わる職員に求められている現状を踏まえ、自治体福祉保健関係職場の職員の困りごとアンケートについても、2014年に県内全自治体で実施しました。
 アンケートは、年代別(20代未満 20代 30代 40代 50代)、男女別、所属職場ごと(子育て関係 障害者福祉関係 高齢者福祉関係 生活保護関係 介護保険関係 その他福祉保健関係)、仕事区分別(専門職 保育士 保健師 看護師 社会福祉士 精神保健福祉士 臨床心理士 ケースワーカー 介護支援専門員 その他専門職 事務職)に行いました。
 アンケートは、①個人として職場での困りごと②個人として職場の困りごとの解決方法③職場単位としての困りごと④職場単位としての困りごとの原因⑤職場単位としての困りごとの解決方法⑥市民からのアンケートで自治体職員に「もっと地域に出てきてほしい」という声をどう考えるか⑦行政の窓口等に届いた住民の要望・苦情等以外に「市民の困りごと」は実際にはたくさんあると思うか⑧あなたが感じる「市民の困りごと」とは⑨「市民の困りごと」の主な原因は、事例より様々あると思うが主にどこに原因があると思うか⑩「市民の困りごと」に自治体窓口としてどのように対応すべきだと思うか⑪「市民の困りごと」を解決する手法として「市民との協働」を活用することについてどう考えるか⑫「協働」を活用した具体的な実践事例等の、12項目を聞き取りました。


3. 「市民の困りごとアンケート」から見えてきたもの

 高齢化社会の進展に伴い、生活全般におよぶ不安が現実化しており、なかでも介護への困りごとが切実なものとなっている。介護保険制度ではカバーできない、独居・高齢者のみの世帯、地域での人のつながりの希薄化、自治機能の低下等の問題が山積みにされている。介護の困りごとでは家族で介護を考えざるを得ない実態と介護が必要となっても「子どもが遠くにいる」「施設入所がなかなかできない」等が声として上がっている。当事者でなく「周囲に困っている人は」の問いに対しても、圧倒的多くの方が一人暮らし、高齢者のみの世帯が直面するであろう困りごとが、意見として出されている。
 困ったことを解決するために必要なことでは、地域での話し合い、助け合い若い人が増える環境づくり等の地域づくりが必要という声、気軽に相談できる所、専門的知識を持っている地方自治体や市民団体の組織的な協力体制が必要という答えもあった。
 これらの困りごとは、自治体職員にとっても他人事ではなく将来、自らが直面する問題でもある。地域の現状・実態を知って欲しい、住民の声をもっと聞いて欲しい、等自治体職員に対する住民の声に応えるためにも市民との協働が改めて必要であることが浮き彫りとなった。
 さらに、交通・買い物・医療・健康・子育て等に共通して言えることは、少子高齢化に輪をかけて市町村合併による過疎化が進行し自治体単独の公共サービスでは地域・市民の不安に対応の限界が出始めている。収入面でも雇用の場が無く生活に対する将来の不安が多くの意見として出されている。
 職員数も今後、市町村合併の一本算定による削減が5~6年後から行われ、職員数も減少せざるを得ない現実を考えたとき、自治体は地域・市民の声にどうやってこたえていくのか、非常に重たい課題となる。
 地域の高齢化が進むと、若年層が少なくなるとともに地域の人口も減少している。さらに、若年層は情報化社会により興味のある出来事の範囲が拡大する一方で、地域に対する関心については縮小し、世代間の考え方の相違などが以前に比べ大きくなっていることも考えられる。結果、地域に住む若年層が、地域に無関心となり都市に流出することに繋がっている。
 若年層の関心を取り戻すためには、地域の魅力を若年層に再確認させることが必要である。そのためにも、小さい頃から地域の行事への参加を積極的に促すなど、幼い頃から地域に関わってもらい、近隣住民との交流を大事にする環境が必要である。そして、地域では若年層の生活スタイルに配慮することも必要である。共働き家庭など子育てに困りそうな家庭には、育児の手伝いを行うなどのケアが必要である。また、年代ごとに困っていることを相談できるような会合を開き、世代間の縦の関係のみ見るのではなく、横の連携も築かなければ地域づくりは成功しないと思われる。
 また、自治体(職員)に対する意見は「少ない人数でよく頑張っていただいている」等の意見もあったものの大多数が「地域にもっと密着して欲しい」「もっと市民・地域の声を聞いて欲しい」との要望が挙げられた。このことは市町村合併により職員の本庁への集約化による支所機能の縮小と、市町村合併前の役場のように地元出身の職員によるきめ細やかなサービスが行えなくなっている実態がうかがえる。
 地域と自治体の距離を縮めるためには、市民との交流を深めるための仕組みが必要になってくると思われる。問題は、それをどのように設けていくのかであろう。一方通行ではなく、地域と行政とが連携し協働作業で積み上げていくことが重要である。さらに、東日本大震災を機に"地震、津波"を心配する意見が多い。子ども・高齢者・障がい者の避難方法など地域ごとに対策と周知を徹底していくべきであろう。
 最後に今回自治体(職員)に対する意見では、記載以外にも職員の給与・対応等で厳しい声も寄せられた。特に地方経済が低迷している中で、自治体職員の給与・勤務労働条件面について「給与が高すぎる」「休日も対応して欲しい」「もっと働くべき」等の意見が出されていた。今後、公務員制度改革が実現され人事院勧告制度が廃止されれば、これまでの自治体職員の勤務労働条件の指標が失われ、このような市民の声は議会で取り上げられる可能性が高くなる。加えて、これまではインフラ整備(公共事業)という地域・住民と共通の目的があり国や県の指示に応え、実現すれば地域・住民から満足してもらえたが、これからの自治体行政サービスは地方分権、地域主権の時代を迎え、地域の実情に合った自治体独自の対応が求められるとともに、先進的な取り組みを展開している自治体との比較が市民から行われるであろう。
 自治体職員としてだけでなく、地域住民として地域・市民から寄せられた要望や意見を、「現行制度では解決不可能」「自治体の権限の範囲・範疇外」「予算・人員不足」で片付けるのではなく、直ちに全て解決できなくても、何らかの支えあう仕組みはできないか、地域・市民の要望に思いをはせ向き合っていくことが、正に問われている。
 一方で事務局には市民から今回のアンケート(聞き取り)に対し、「初めて自治体職員が自分のところに困っていることはありませんかと尋ねてきてくれた。とても嬉しかった」との連絡も数人寄せられたことも紹介しておく。


4. 「自治体職員困りごとアンケート」から見えてきたもの

 「自治体職員困りごとアンケート」では、自治体職場の忙しさや困難さが浮き彫りになった。データとして見ても、その多忙ぶりは明らかであるし、記述回答でも「障害者福祉の範囲が広く、1人で複数の仕事を担当するが、担当者が少ないため1人でも出張等で不在にすると仕事が滞り、市民に迷惑をかけることがある。しかし、現状増員も見込めない」、「福祉関係の知識がないので、福祉専門分野にかかる部署に配属された場合、非常に苦慮する。最善の策を講じられているのか不安」、「子育て関係は年々子育てが難しい家庭が増えているため、それに伴うケース支援に多くの時間を費やしている」、「仕事の範囲が広く、量が多いと思う。急に問題が起きたりするので、残業できない日に困る」、「難しい問題を抱えた人たちが多くいるが、一人ひとりに十分な時間を充てることができない」など、市民の要望や困りごとに応えたくても十分に応えられない現状が述べられている。
 また「以前なら近所に住む方のトラブルを調整してくれる人がいたが、人口の減少やプライバシーのあり方から、関わる方が少なくなり相談事が増えている」と、地域住民のあり方の変化に対する指摘もある。
 この現状に対して、「困難ケースが多いが、色んな関係機関と一緒に取り組んでいる。それぞれの役割負担をし、それをまとめる人が重要だと思う」、「近隣の方、区長さん、民生委員さん等に相談し、必要に応じて関係者が一同に集まって話をする場を持った」、「区長をとおして解決できたり、地区内でできることなどは話し合ってもらっている」、「子育てに関するほとんどの事業はNPO法人に委託して行っている。行政では分からないお母さん目線(利用者目線)で取り組むことにより、より充実した子育て支援を行うことができるようになったと思う」、「地域の方に協力いただき、田植えや芋苗植え、芋ほり、餅つきなど貴重な経験を子どもたちにさせていただいている。そのためには、小学校や公民館、地域の会代表の方、保護者とそれぞれの思いや願いを聞き、伝える役割をしっかりできるよう心掛けている」など、問題解決のための取り組み例なども報告されている。
 自治体職員のなかで、職場の困りごとを共有するとともに、解決のための様々な手法や可能性などについても共有して、取り組みを広げていくことが、自治体職場の困難と市民の困りごとを解決する方向性の一つではないかと思われる。


5. 地域での自治体(職員)と市民の協働作業にむけて

 私たちは、地域の取り組み例を紹介し、住民と自治体で共有し、いろんな地域で「協働」を広げたいと考えています。これまでのアンケート結果を踏まえ、2014年から「市民と自治体職員のための協働ガイドブック」の編集に取り掛かり、2015年に「市民と自治体職員のための福祉協働ガイドブック」を作成しました。現在各地で、「困りごと」を知ることからはじめて、「困りごと」を「協働」に結びつけていく方法を紹介しています。
 また、県内各地域で市民団体の方々と福祉フォーラム・精神障がいフォーラム等の開催にも取り組んでいます。これらの活動は、市民の自発的な活動であるとともに、市民と自治体の"協働"の場としても有意義であり、市民参加による福祉を進める手法の一つとして効果を上げています。
 2016年のフォーラムの特徴は、「地域の自治委員・民生委員等が障がい者・家族や福祉・保健・医療関係者、そして自治体関係者と一緒に意見交換を行ったこと」「障がい当事者が講演・報告を行い、地域の在り方を一緒に考えたこと」などでした。
 さらに、これまで県内で開催した精神障がいフォーラムを行う中で、
① 精神障がい者は大分県内に約3万7千人いるが、障がいを明らかにできず周囲に知られないように暮らしているものが多い。
② 地域や企業の理解も不十分であるため、就労の受け入れも遅れている。
③ 障がいがある子どもを親が見ているケースが多く、親の高齢化や健康悪化とともに、親が子どもを見ることができなくなった後への不安が強い。
④ 自治研センター社会保障専門部会は大分精神障害者就労推進ネットワークとともに、これまで精神障がい者の就労の推進を中心課題として取り組んできたが、現在は就労支援にあたって障がい者本人と家族の将来(「親なきあと」問題)を考慮することが必要であり、就労支援を総合的な支援の一環として位置づけることが必要である。
⑤ 「親なきあと」問題は、親が元気な時から、本人、親、支援者、地域、行政等が連携して取り組むことが不可欠であるが、現時点ではそのような視点からの支援の考え方は確立していない。
ことが明らかになりました。
 こうした実態を踏まえ、2016年度は「精神障がい者と家族のための『親なきあと』支援マニュアル」を発刊しました。
 "少子・高齢社会"を迎えた今、これから福祉にかかわらず地域づくりに「協働」は欠かせません。併せて、地域の希望を自治体(行政)と住民が力を合わせて作り出していく手段として、自治体職員の地域活動、つまり地域自治研活動は欠かせません。
 自治体(職員)が地域で市民の身近な活動を行うことがいま私たちに求められていると確信し、現在大分県自治研センターは専門部会活動で得た経験とノウハウを生かし各地域の実態・特性、市民の要望を知り、地域自治研活動の取り組みをさらに加速していこうと考えています。