【要請レポート】

地域資源の発掘と都市との連携

長野県本部/原村職員労働組合・村づくり戦略推進室・企画係長 小林 千展

1. 原村の概要

 八ケ岳西山麓に位置する人口7,600人の原村では、豊かな自然の中で農業が営まれ、日本有数の高原野菜や花卉の生産が行われています。このような中、観光による村の活性化を図るため、環境を大切にし、自然と融合した保健休養地をテーマに2,500区画の別荘団地や90軒にのぼるペンション村の開発、観光施設の整備などを進めてきました。その中で、すばらしい自然環境や景観に惹かれ、都会からクラフトマンや芸術家などが移り住み、村の人口も増加の傾向にあります。しかしながら、観光入込み客数は最盛期の38万人から現在は23万人にまで減少し、観光の活性化が重要な課題となっています。

 

2. 諏訪地域6市町村合併の破たん

 諏訪地域の3市2町1村は、任意合併協議会から法定合併協議会に移行し合併を促進するに際して、2003年12月、アンケート調査や住民投票により民意を問いました。その結果、原村などが任意合併協議会を脱退し、現在諏訪地域の6市町村は合併を行わず、すべての市町村が自立の道を歩むことになりました。そのような中、原村は2004年1月には村政施行130周年を迎え、現在、恒久的な自立の道を模索しています。

 

3. 原村の自律にむけた考え方~原村の自律をより強固なものとするために~

(1) 行財政改革プラン
  ○ 2004年度「原村行財政改革プログラム」の策定
   ・職員による事務事業の洗い出し
   ・ヒアリングによる踏み込んだ改革案の練り直しと意見交換
   ・地区懇談会(15箇所)での住民への説明会(住民参画のタイミング)
(2) 夢のある村づくりプラン
  ○ 2005年度「第4次原村総合計画」の策定
   ◆ 生涯学習としての住民参加型の村づくりの推進
      ~住民が自ら考え、行動する村づくり活動に対して村が協働で支援する~
    ・村民の森づくり専門部会
    ・原村体験ツアー専門部会(どじょうプロジェクトなど)
    ・食用廃油を燃料にする会専門部会
    ・よみがえれ、八ヶ岳森林軌道専門部会(トロッコ部会)
    ・その他5つの専門部会
   ◆ 都市との連携と地域ブランドの必要性

4. 地域資源の発掘と都市との連携

(1) 【背景と必要性】
  ① 地方交付税が減らされ、苦しい財政事情が続く中、行政が新たに箱物を整備して住民の満足度を高めるのではなく、今あるものを活用して、住民の活動によって経済が活性化することで、「ハードからソフト」への村づくりの転換が図られていく必要があります。
  ② 団塊の世代の退職する2007年問題を来年度に控え、田舎志向やスローライフのニーズが高まる中で、活用されずに見過ごされてきた資源(施設、森林、遊休農地、人材など)を発掘し、その地域でしかできない住民との交流やふれあいが楽しめ、スローライフを体験できる滞在型の観光を提案していくことが必要です。

  ③ 農業関係の従事者が減少し、農地の荒廃化と農業後継者不足が進む中、多数を占める小規模農家が主体となって観光農園などの他産業との連携や、有機作物への転換などによる付加価値化を図りながら魅力ある農業を進めるとともに、「原村ブランド」として全国に通用する安心で信頼できる農作物の生産を推進していく必要があります。また、農産物の加工品の生産や直売所での販売などについては、やりがいのある農業を広めるため、積極的に検討していくことが必要です。

(2) 【原村における地域資源の活用の例】
  ① 「星の降る里」 ~全国の天文ファンが集う村
    八ケ岳高原では、夜になると星がさん然と美しく輝き始めます。これは大気が澄んでいるのと星の光をさえぎる光源が少ないからだと言われています。八ケ岳自然文化園にはプラネタリウムを備え、ここを中心に天体観測や星にちなんだイベントを開催し、「星の降る里」として星や宇宙に関する情報発信を行っています。
   ア スターダストシアター(星空映画会 7月中旬~9月初旬)
     夏の45日間、毎晩8時から園内の野外音楽堂で星空の下、映画上映を行い期間中1万2千人が訪れます。
   イ サマーホリデーin原村 星まつり(8/4・5・6)
     毎年8月初旬の3日間開催。全国から天文ファン6,000人が集い、星空観察などのイベントを通じて交流を行います。
   ウ 星空観望会(年間を通してほぼ毎月開催)
     5月の彗星観測の時は多くの方に来て頂きました。今年はペルセウス流星群、しし座群などの観察を行います。

  ② 「音楽の村づくり」~住民のやる気を地域ブランドに
    「高原の爽やかコンサート」としてペンションや八ヶ岳美術館、八ヶ岳自然文化園などの既存の施設を活用して、小さな会場ですが演奏者と観客が一体となった、ふれあいのあるコンサートが開催されています。これらの音楽イベントはすべて住民が主催の開催です。村は補助してはいませんが、ホームページなどで積極的なPRを行って支援しています。
   ア フォルクローレコンサート(6月18日)
   イ 星空のコンサートin原村(8月4日)
   ウ 八ケ岳サマーコンサート(8月上旬)
   エ 風と星の音楽会(8月半ば)
   オ マンドリンコンサート(9月半ば)
   カ クリスマス・ジャズコンサート(12月下旬)
  ③ 「森林の里親事業」 ~森林は都市との交流のお宝
    長野県が仲人役となり、環境保全活動に熱心な企業・住民・行政のパートナーシップにより地域の森林を守り育てていくという新しい森林づくりのしくみです。原村では趣旨に賛同した(株)ジャパンエナジーとの間で、「森林の里親」契約を締結し、『未来に残そう「原村・JOMOあゆみの森」』をテーマに協働で原村の森林を整備していくことにしました。
    2005年度から5年間にわたり、ジャパンエナジーより森林整備資金として年額50万円の支援を受けます。また福利厚生を兼ねて社員が原村を訪れ、ボランティア活動の一環として地元住民と一緒に森林整備作業を実施し、原村の自然に触れたり住民との交流を図ったりしています。

  ④ 「織りの里」~農村の古きよき伝統を引き継ぎ交流に結びつける
    ぼろ機織は、古くなった布を再利用して新たな布地を作成するという生活に密着した冬場の仕事として、昔は村内全域で盛んに行われていました。しかし、高齢化や時代の流れとともに年々減少して、最近では「機織保存会」がその伝統を引継ぎ、機織の体験学習も行われています。素朴な色合いと独特のやわらかい手触りは田舎の温かみを感じるものとして都会の人々にも人気で、年々関心が高まっていることから「織りの里 原村」のイメージづくりに取り組んでいます。

  ⑤ 観光施設の再生 ~有効に利用されていない資源を再生し活用
    原村は、2006年~2010年までの5年間、今ある自然、施設、人々などでより輝きが増すよう、事業内容を住民と協議して都市との交流を再生させ、現実に住民がいきいきと活動できる魅力と活力あるエリアの形成を目指し下記のような事業を展開しています。(国土交通省「まちづくり交付金」活用)
   ア 現在ある観光施設が有効利用されるよう、住民と共に問題点を洗い出し、協議しながら施設の再生のため必要なある程度の整備を行います。
   イ 車を降りて、八ヶ岳の大地のエネルギーがみなぎる高原の自然の中を爽やかに歩きながら各施設を廻れるよう、ウォーキング・トレイル(遊歩道)を整備し、人と自然にやさしいエリアの形成を目指します。

  ⑥ 景観や環境の保全 ~すばらしい自然環境は交流の舞台
    村では、1965年代後半に森林を活用して別荘団地やペンションの開発を行い観光による活性化を図ってきました。この観光開発においては、村独自で雄大な自然を大切にしながら、落ち着いた雰囲気のある保健休養地を目指してきました。この理念は受け継がれ、1981年の中央自動車道諏訪南インター開通の翌年には、原村環境保全条例を施行し、八ヶ岳中央高原をはじめとした村内全域を乱開発から守るため開発行為を厳しく規制して、良好な環境とすばらしい景観の保全に努めてきたのです。
    近年、当村の人口は年平均で50人程度の増加を示していますが、これは八ヶ岳中央高原のすばらしい景観と自然豊かな環境に憧れて都会から定住される方が後を絶たないためです。このことは、自然環境を保全する厳しい規制が村の活性化に結びついている現れと言えるでしょう。
    今後は、自然環境の保全とともに、道祖神や藁ニョウなどに代表される農村風景を守り、積極的にPRしていく必要があります。

  ⑦ 体験型農業による都市との交流
    原村にある八ヶ岳中央農業実践大学校では、修学旅行生や総合学習における農業体験として、全国の小中学校から15,000人が来訪して学習している実績があります。メニューとしては「おやき・ジャム作り体験」「乳製品加工体験」「森林作業体験」などがあり、都会では得ることのできない自然環境や産業、文化、民俗などの社会環境を肌で感じ、さまざまな実体験をしています。今後は、一般の方々を対象に体験メニューを整備する予定で、原村における農業体験をすすめる核として活用します。

  ⑧ 住民が自ら考え、行動する田舎づくり
    住民のみなさんが、失われつつある「田舎的環境」に注目し、農村の原風景や古きよき時代の歴史に目を向け、それを都会に向かって情報発信し、「田舎」の良さを積極的に情報発信しようという取り組みが芽生えてきました。
   ア 原村体験ツアー専門部会(どじょうプロジェクトなど)
   イ よみがえれ、八ヶ岳森林軌道専門部会(トロッコ部会)

5. 今後の都市との連携における考え方

(1) 田舎だからできることに注目しよう!
  【ブランド資源・コンテンツの発掘】
  ① 農村ならではの民俗・文化・産業など多岐にわたるコンテンツの素材を発掘し、体験メニューとして整備し、PRすることで、「スローライフ」の体験といった農村のよさに憧れるニーズに対応した観光客誘致のシステムを構築します。
  ② 都市住民からの高いニーズが予想される「農業体験」は、観光農園希望者や新規就農希望者の教育を目的に、ペンションなどに宿泊して体験ができる滞在観光を目指します。
  ③ 農作物の有機低農薬作物への転換などによる高付加価値化を図り、「原村ブランド」として全国に通用する安心で信頼できる農作物の生産を推進するとともに、そのマーケティングについて、消費者のニーズを探り、農産物加工品の商品化や農作物の直売所での販売などの方策を検討、実現を図ります。

(2) 埋もれている人的資源を発掘して都市との交流を進めよう!
  【長期滞在と定住の促進】
  ① 原村にIターンした多くのクラフトマンや芸術家などが、スローライフや田舎暮らしを希望する都市住民との交流やアドバイスを行い、宿泊施設への観光滞在を促進します。また、定住ないしは来訪する芸術家を巻き込んで芸術活動の拠点化を図り、「アートビレッジ」としてのブランド化を進めていきます。

(3) 田舎であるということに誇りを持とう!
  【田舎の魅力の再発見と誇り】
  ① 信州の「村」というイメージを大切にし、そこから連想される都会の人々の憧れを類推し、ニーズに対応できる埋もれた資源を発掘し、行政が協力してそれらをコーディネートする。そういったことがこれからのソフト中心の村づくりを進める担い手である行政マンに求められています。

(4) 農村の景色を大切にしよう!
  【田舎の風景と環境の保全】
  ① 豊かな自然と、美しい景観は都会の人々には得がたい農村固有のすばらしい財産です。別荘や住宅といった開発も必要ですが、一面ではその田舎らしさを前面に打ち出して、八ヶ岳山麓の雄大な自然と、農村らしい原風景を積極的にPRする必要がある。また、農村らしいエコ社会のモデルを目指し、情報発信していくことが必要です。

(5) 若者たちの描く理想郷を目指して!
  【法政大学との連携による地域づくり】
  ① 団塊の世代の退職時期を迎えて、少子・高齢化社会の進展が見込まれるなかで、今後は若者定住が大きな課題となる。若者の目で地域資源を見直したり、都市住民のニーズを把握したり、都市との交流を図りながら地域ブランドの情報発信をするための有効な手段として、都市の大学との連携を探ることが有効です。
  ② 原村においては2006年8月30日、法政大学と「事業協力協定」を締結し、「地域ブランド」や「持続可能な社会」をテーマに、学生のゼミ活動によるフィールド・スタディーを通じて、若者の視点で地域活性化のアイデアや提言を求めたり、地域資源の発掘・取材を行い、課題解決を進めていく活動が始まりました。