【自主レポート】

新たな観光資源「宍道湖」づくり

島根県本部/松江市職員ユニオン

1. はじめに

 観光都市「松江」を標榜し年間観光客数1,000万人の来訪を目指し、現在、多方面からなる積極的なアプローチを行っている。そこで観光における島根県・松江市の現況を分析し、更なる観光客の誘致、ひいては松江市総体としての活況につなげたいという想いから、今回、観光客の視点に立ち、自由な想を考えていきたい。現在、松江の広告・CMの大部分は宍道湖の美しい風景が前面的に押し出され、観光客の多くもそれを期待して松江に来訪する。しかしながら、観光バスが停車して宍道湖観光している所を見たことが無く、宍道湖を観光資源として活用されているのは県立美術館に訪れる観光客のみであろう。そこで我々は、観光資源としての宍道湖を観光客で溢れかえるような企画を考えた。

2. 松江市観光の現状

 2004年島根県観光動態調査結果の観光地点アンケート(宿泊客)によると、島根県への旅行回数は2回以上が約60%と高くなっている(特に5回以上は30%以上)。この数字は島根県に旅行に訪れた方の多くが、リピーターとなり再度訪れている事を示している。それと同時に、多くの方が好印象を抱いたまま、旅先での自由な時間を島根県で満喫し、精神的・身体的なリフレッシュをされていたことも示している。
 たとえば、スローライフ獲得のために旅行をし、自身の価値向上を見出すために訪れている方もいれば、スローフードのブームに乗り旅行先での郷土料理を楽しみに訪れている方もいるかも知れない。いかなる理由にせよ、県都である松江市もその役割の大きな部分を担っている事は間違いない。
 人が旅をしたい時、色々な理由・目的をもって旅行先を決定している。家族サービスを含めて遊ぶという目的のテーマパーク、お祭り・ライブなどのイベント、自然を満喫したいという欲求を満足させるためのキャンプ・スキー・スキューバーダイビング、買い物等による気分転換、あるいは、旅行先にしかない歴史的建造物・街並みや風景等の観光、地方独特の特産品やおいしい食べ物、落語・漫才・歌舞伎など伝統芸能の鑑賞、スポーツ観戦、心身ともにリラックス・リフレッシュすることを目的とした温泉旅行など様々な要因が考えられる。
 旅行先である未知なる土地・自然、旅先に住む人々に直接触れることによって、日々積み重なってきたストレスを発散し、かつ現在住んでいる土地とのギャップが新鮮な驚きとして認知され、非日常的・非現実的空間が安らぎとなり癒しの空間となる。
 このような目的・理由を充足させる為、島根県に旅行に訪れた観光客の多くがリピーターとなり再び来県されることは、島根県に住む者にとっても誇りであり、自慢でもある。
 それでは次にその役割の大きな部分を担っているであろう松江市には、全国に誇れる観光施設・特産品・観光スポット等にはどのような物があるのか見てみよう

【松江城】
 慶長16年(1611年)に初代城主堀尾吉晴が5年の歳月をかけて築きあげたもの。千鳥が羽根を広げたように見える千鳥破風の屋根が見事なことから、別名「千鳥城」とも呼ばれる。全国に現存する12天守の一つで山陰では唯一の天守閣である。
 5層6階、高さ30mの天守閣は黒塗りの下見板で覆われており、その荘重かつ優美な姿は訪れる人々を魅了する。さらに、最上階の望楼から360度にわたって見降ろす街並みの眺めは圧巻である。2001年には南櫓、中櫓、太鼓櫓を約125年ぶりに復元。園内は桜やツツジの名所で、桜の時期には「お城まつり」が開催され、多くの観光客で賑わっている。



【堀川遊覧船】
 堀川遊覧船は、松江のシンボル松江城を囲む堀を巡る遊覧船。
 1997年に運航以来、観光客だけではなく地元住民にも楽しまれている。一周約50分、10人~12人乗りの船から眺める松江は、武家屋敷あり、小泉八雲記念館ありと松江の風情を満喫できる。また、船頭さんの出雲弁混じりの話やスリリングな操船も楽しみの一つである。



【ルイス・C.ティファニー庭園美術館】
 ステンドグラスの窓やテーブルランプ、花瓶、ジュエリーなど、美の巨匠、ルイス・C.ティファニーのコレクションが堪能できる複合庭園美術館。美術館の周辺にはイングリッシュガーデンやステンドグラスがはめ込まれたチャペル、温室などが建ち、宍道湖畔には遊歩道が整備されている。



【島根県立美術館】
 宍道湖のほとりにあり、水との調和をテーマにした美術館。絵画、彫刻、工芸、写真等、各分野の優れた作品を収集。特に水を画題とする絵画などが展示されている。美術館から宍道湖の夕日が見られ、日没の時間に合わせて閉館時間が延長する。



【武家屋敷】
 松江藩600石程の中級武士が住んでいた屋敷。200年の歳月を経て尚、ほとんど当時の姿を残している。長屋門をくぐり、回遊式庭園を廻ると各部屋を眺めることができ、家具調度品700点もそのまま配置され、当時の武家の生活を垣間見ることができる。




【松江しんじ湖温泉&玉造温泉】
松江しんじ湖温泉……1971年、松江市によるボーリングが成功し、宍道湖畔の地下1,250mから湧き出る温泉。湖岸に面して近代的な旅館が建ち並んで温泉街を形成している。中心地である一畑電鉄松江しんじ湖温泉駅前には足湯があり、のんびりと足をひたしながら地元の人々との交流も楽しめる。温泉街のはずれにある湯元には大地の恵みに感謝して建てられたお湯かけ地蔵があり、子宝祈願やお湯くみの人々で賑わっている。




玉造温泉……宍道湖湖畔から2kmほど玉湯川を遡った場所に湧き出る温泉。大国主命とともに国造りをした少彦名命が見いだしたと伝えられ、『出雲国風土記』にも「ひとたび濯げば形容(かたち)端正(きらぎら)しく…」と、効能が記されている歴史ある温泉地。周辺は古くからメノウの産地で知られ、古代の玉作り工房跡などを見学できる。玉湯川に沿って緑豊かな庭園のある温泉旅館や趣向を凝らした露天風呂が自慢の宿が立ち並び、足湯を巡って温泉街散策を楽しめる。



【松江フォーゲルパーク】
 宍道湖に面した日本最大級の花と鳥の公園。全展望型の展大温室には、年中満開の花々と、国内最大級の熱帯鳥類コレクションが鑑賞できる。
 また、子供達と鳥のふれあいゾーン、遊興を備えた屋外広場、水鳥達が群れる水鳥池、展望台からは、宍道湖の眺望を楽しむことができる。



【宍道湖】
 全国7番目に大きい湖。わずかに塩分を含む汽水湖には、スズキやシラウオ、アマサギ、モロゲエビ、鯉、鰻、シジミなど多種類の生物が生息する。
 冬にはコハクチョウをはじめ、マガモなど多くの水鳥が越冬し、西日本有数の水鳥の渡来地となっている。


 宍道湖で捕れる魚介類の代表的な7種を宍道湖七珍と言われ、7種類揃うのは冬場の一時期に限られる。(スズキ、モロゲエビ、うなぎ、アマサギ(ワカサギ)、シラウオ、鯉、シジミ)





【八重垣神社】
 スサノオノミコトとクシナダヒメノミコトを祀る縁結びの神様。本殿には日本最古といわれる神様の壁画が描かれている。本殿裏の森の中には、稲田姫が鏡として使ったといわれる鏡の池がある。




 この池は、和紙に硬貨をのせて浮かべ、その沈む時間によって縁談を占う占いの池として有名で、今でも良縁を願い訪れる方が絶えない。



〈その他の松江市観光資源〉

 

 今回、ここで紹介した観光資源は2005年版松江市観光白書に記載されている施設を主として紹介しており、下記表は観光施設利用状況表と松江の観光入り込み客数推移表である。

観光施設利用状況(2005年松江市観光白書より)
(単位:千人)
 
2002
2003
2004
2005
 松江城
259
242
225
213
 堀川遊覧
346
328
325
314
 ティファニー
247
188
154
152
 県立美術館
308
238
247
215
 武家屋敷
141
120
115
107
 フォーゲルパーク
199
215
190
250
 *松江城の人数は、登閣者数

観光入り込み客数推移表(2005年松江市観光白書より)
(単位:千人)
 
2002
2003
2004
2005
 入込み客数
4,629
4,616
4,501
8,080
 県内・県外別内訳
県内
1,389
1,385
1,350
 
県外
3,240
3,231
3,151
 
 宿泊・日帰別内訳
宿泊
 929
 923
 900
1,859
日帰
3,700
3,693
3,601
 
 *2005年からは合併後の数値。したがって、2004年までの数値は参考値。

 本来ならば、ここに記載すべきはずの観光施設・特産品・観光スポットなどは紹介しきれないほど存在し、地元の方のみがひそかに楽しんでいる場所・イベント等も多数存在している。

 

3. 新たな観光資源『宍道湖』づくり

 前章で列挙したように身近にある自然、情緒ある街並みあるいは風景、歴史的建造物など松江の観光地としての良さは、風情・情緒と歴史及び近代化との絶妙なバランスが売りの都市であるという点に尽きる。これは2004年島根県認知度調査からも推測できる。同調査によると島根県で行ってみたい場所のうち松江市に関係する場所では、宍道湖が一番興味を惹き、次いで堀川遊覧、温泉、松江城と続いている。
 旅行する目的は年齢層により、大きく違う。30~40代の家族連れは主にアミューズメントパークを目指すし、もう少し若ければ、自分の趣味を満足するような場所へと赴くだろう。50代以上であれば、都会の喧騒を抜け出て、ひと時の安らぎを求めるのではないだろうか。
 島根県・松江市が収蔵している様々なアンケートや調査の結果がこのような推察を追認している。松江に訪れる観光客は、安らぎ・風情ある街並みを求める方が多数であり、特に50代以上の観光客には圧倒的な支持を受けている。そこで、今回我々は観光として実質上利用の無い宍道湖を観光客で溢れた観光施設へと変貌し、楽しさや面白さを享受できるような奇抜な企画を提案する。
 第三回松江市観光調査によると来訪者の多くが美しい風景と町並みに重点を置き、松江に来訪している。また、こうした観光資源は松江でしか体験できず、来訪する最大の要因でもある。そして松江の観光認知度の中で最大の特徴は宍道湖であり、我々も意見を出し合う中で最高のアピールポイントは宍道湖及びその夕景であるという点に一致点を見出し、その周辺を再生・開発することに絞って考えた。
 我々が考えた案は以下のようなものである。
① シジミ採り体験
  宍道湖はシジミの日本一の産地であり、現在、その資源を枯渇させないように宍道湖漁協は自主規制を行っている。しかし、地元の市民はかつて宍道湖岸でシジミの採取をしており、その面白さは言葉では表現しにくい。実際に体験する機会を設けることで、新たな発見につながるのではないか。盛り土し、潮干狩りのようにシジミ採り体験のできるエリアを設け、付近にはシジミを散布。
② 松江温泉通りの整備
  末次公園から松江しんじ湖温泉に至るまでの宍道湖岸を水の都にふさわしく、松江温泉噴水通りと名称変更し、国内海外を問わず様々な噴水でうめつくす。夜はライトアップ。
③ 屋形船での宍道湖遊覧
  主として昼食か夕食。宍道湖七珍が堪能できる。屋形船から望む夕日、宍道湖面上から望む松江城など新たな眺望の可能性。
④ 噴 水
  夜にヤマタノオロチをイメージした大規模な噴水ショーを行い、毎夜ライトアップ。噴水ショーは定期的に変更。

⑤ 大衆浴場
  松江城を模したもので、風景・景観を楽しむために全面ガラス窓をすえる。地下を駐車場に1階をお土産ショップとし、お茶がゆったりと飲めるような長いすを設置する。隣に催し場を設置し、どじょう掬い・安来節・銭太鼓などの体験学習会を企画する。2階は食べ物ミュージアムを設置。3階天守閣に大衆浴場を開き、長時間に及ぶ滞在型の施設。

⑥ 花 火
  毎週末50発程度の花火の打ち上げ。または、仕掛け花火の設置。
⑦ 嫁が島への橋
  嫁が島に立ち寄ってみたいという宍道湖周辺に住む子供の頃からの夢を現実のものに。日本古くからの建築方法で大規模な橋を建設。夜はライトアップ。

 松江市役所から松江しんじ湖温泉付近の宍道湖岸をAエリアとし、②③④⑤を設置する

 県立美術館から袖師公園へと至る国道9号付近の宍道湖岸をBエリアとし、①⑥⑦を設置する

 

新たな観光資源『宍道湖』構想図

 Aエリアは主として夜がメイン、Bエリアは昼がメインとして機能する。既設の堀川遊覧と新設の屋形船・噴水とで水の都「松江」をアピールし、噴水ショー・花火・ライトアップで夜の観賞を可能にする。宍道湖特産のシジミを体験採取し、そのまま屋形船・宿泊施設で堪能できることもシジミのPRと直結する。地元住民と観光客のために大衆浴場を建設し、良質な泉質と島根・松江の食材を生かした食堂街で島根・松江ブランドのPRにつなげる。また、訪れる回数が増えるほど旅館に泊まる比率が低下することからも郷土料理を提供できる場所が増えることにもなる。嫁が島へ渡るための橋は現実離れした案ではあるが、橋を造ることで日本にここだけしかない景観と憧れの嫁が島に触れることのできる重要な観光資源となる。また、嫁が島伝説にちなんだ鏡の池のような風説が生まれれば日本で一番有名な湖と変わるのではないだろうか。
 松江の観光という認知度は低く、また交通の便も良くないことから旅行する際には敬遠されがちであるが、今までの「見て感動する観光」からの脱却を図りながら「見て感動し、体験して楽しむ観光」へとシフトしていく。そうすることで、来訪してはじめて可能となる体験が増え、さらにイベント・施設を企画・建設することで、夢の世界へと誘うような観光地となる。そして若い年代から松江に来ていただき、年齢を重ねながら幾度となく来訪したくなる。また、50代以上の観光客にも成人した子供たちを伴っての家族旅行という違う目的で旅行する機会もつくることになる。また、松江市民も自ら体験することで宍道湖の良さを再認識し、家族や県外に住む友人・知人にも宍道湖及び松江をPRし、観光の認知も向上するのである。

4. まとめ

 今回、宍道湖周辺の観光地を再生・開発したが、今後も松江の良さである自然・情緒あふれる観光地を大切にしながら、観光客や住民のニーズに合わせ、既存の観光スポットの見直しや再発見をしていくことが必要である。また、これはそのような市民の多数の意見を過不足なく吸い上げるシステムの構築につながる。そこで集約された意見を元に、考え出された具体について情報を公開する必要性が増大する。加えて、行政の職員も一人の市民として将来の松江について考え、市民と議論しながら一丸となり、夢ある観光都市「松江」を構築していくことが要求されるようになる。そうしていくことで、市民が行政を身近に感じ、かつ、観光や街づくりに直接関与していることから今まで以上に松江を好きになる。さらに市民が自ら率先して観光都市「松江」をPRするようになり、多大なる観光客の誘致にもつながる。

5. おわりに

 今回のレポートを作成するに際し、観光部門に関する様々なことを調査した。そのなかで松江市の観光部門やその他の団体が様々な政策もしくは活動を行っており、多くの効果をあげていることを知った。今回の案にも記載している宍道湖のシジミ採り体験や水中表参道を利用した嫁が島へ渡島体験も定期的に実施しており、多くの市民が参加している活動として定着している。先進自治体の成功事例に基づいた政策展開も広く実施しており、松江市の観光部門における将来的な発展の展望に期待を持つとともに職員としての認知不足を痛感した。これからの自治体運営は住民ニーズの多様化に伴いより高度な知識と意識が必要となる。今後は部・課を越えた情報の共有化と松江市のあらゆる分野での将来展望を見据えた業務運営を実施していくことを目標とし、今レポートを終了する。
 最後に職員の皆様におかれましては、我々のために忙しい時間を割いていただき、貴重な資料・調査結果等の快い提供に感謝申し上げます。


〈参考資料〉
● 平成16年 島根県観光動態調査結果
● 平成16年 島根県観光認知度調査 結果報告書
● 平成16年版 松江市観光白書
● 平成17年版 松江市観光白書
● 第3回松江市観光調査
● 松江市役所HP