【自主レポート】
石垣市の学校適正化計画(統廃合)を考える
沖縄県本部/石垣市職員労働組合 桃原 直
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1. はじめに
石垣市教育委員会は2005年3月に石垣市立幼稚園・小学校及び中学校学校適正化計画を策定しました。
取り組みの背景には、全国的な少子化が進み、本市も例外でなく児童生徒数もここ10年前と比較すると小学校で23%、中学校で32%減少しており、また向こう10年間も減少が予測され、学校が小規模化の傾向にあり、特に、人口集中市街地以外の北部地区、西部地区、中部地区の学校は全てが過小規模校で、中には「複式学級」あるいは、ある学年に児童生徒がいない学校もあります。
このような状況を踏まえ、市教育委員会では特に過少規模校の児童生徒の教育上の観点から検討し、教育環境の整備の必要性から同計画が策定されました。
また、もうひとつの観点は、年々厳しさを増す地方自治体を取り巻く財政状況の悪化の中で、学校施設の建替えや維持管理、教材、備品購入等の予算確保の問題、人件費抑制を図るための職員の不補充や賃金化などもあり、今後、行財政を取り巻く環境が劇的に好転する見込みがない中で将来に向かっての問題提起という意味合いもその根底にあるものと思われます。
市教育委員会は、この計画に住民の意見や要望を反映させる目的で、2005年5月から、適正化計画の対象となっている学校校区の公民館を会場に地域住民との意見交換会を開催、一巡したのち、学校を会場に直接保護者や、教職員を対象とした意見交換会も開催されました。
地域住民や保護者の反応は、発言者の立場や地域によっても相違があり、メリット・デメリットや教育的効果の考え方も十人十色であり、この問題は、市町村合併よりも難しく、意見をまとめるには時間をかける必要があると思われます。
なぜ、学校統廃合が検討されなければならないのか、教育的効果とはなにか、学校の存在とはなにかを考える時期にきていると思われます。
2. 石垣市の小中学校の現状
(1) 児童生徒数、学級規模
終戦後、石垣区教育委員会各校の児童生徒数の増加は著しく、特に中心市街地においては2千人を上回る過大規模校も出現しました。また、大浜区教育委員会管轄の平久保小や伊野田小、野底小の児童生徒数は200人を超える時期もありました。
石垣区及び大浜区教育委員会管轄の合計児童数は、1960(昭和35)年度の7,852人をピークに毎年減少を続け、現在では率にしてピーク時の55%までになりました。
2005年5月時点で小学校の児童生徒数は3,413人で、10年前と比較すると23%減少しております。また、過小規模校及び小規模校においては、ほとんどが緩やかな減少あるいは横ばい状態です。
また、中学校の生徒数は1964(昭和39)年度の4,122人をピークに毎年減少を続け、率にしてピーク時の57%までになりました。過去10年間では、ほぼ毎年減少し、2005年5月時点での中学校生徒数は1,831人で減少率は32%になっています。なお、過小規模校及び小規模校においては、ほとんどが緩やかな減少あるいは横ばい状態です。
学級数は2005年5月時点で小学校157学級、中学校65学級あり、市街地においては適正な学級規模ですが、市街地以外では「複式学級」を取り入れている学校が小学校で11校、中学校で2校あり、ある学年に生徒がまったくいない学校も小学校2校、中学校で1校あります。
(2) 学校規模
石垣市においては、以前は市街地に二つの大規模校があり、その一つの石垣小学校から新川小学校が1970年に、もう一つの登野城小学校から八島小学校が1992年に新設分離しました。また、市街地西部の双葉地区に、真喜良団地をはじめ新興住宅が増え、新川小学校が大規模校になりつつあったため、1997年に真喜良小学校が創立され、現在では市街地の小中学校は適正規模化が図られています。
しかし、北東部、西部、中部、東部の小学校及び中学校は10年前と比べると、名蔵中学校を除いて緩やかに減少しており、過小規模校あるいは小規模校に位置づけられています。
学校規模においては、小学校は学校教育法施行規則第17条において「小学校の学級数は12学級以上18学級以下を標準とする」とされ、中学校も同条規則第55条において小学校の規定を準用するとされています。
3. 石垣市学校適正規模・適正配置計画の概要
学校の過小規模化に伴う諸問題として
(1) メリット
① 家庭的な雰囲気で個に応じた指導が容易である。
② 教員にとって児童生徒の状態を把握しやすい。
③ 学力向上対策が実施しやすい。
(2) デメリット
① 単学級のため学級編成替えができない。
② 子どもどうし、保護者どうしの関わりが固定化し、多様な人間関係を確立することが難しい。
③ 体育等での集団競技や、ダンス、合奏など集団規模が小さいと学習そのものの成立が難しい。
④ 配置される教員数が少なく、一人一人の教員の負担が大きく、特に複式学級の教員に係る負担は大きく、ゆとりある充実した授業体制がとりにくい。
過小規模校を解消するには
このような状況を踏まえ教育委員会では、教育効果を高めることを最優先に学校の規模適正化・適正配置計画の基本方針を策定します。
基本方針
今回の学校適正規模・適正配置計画の構想において、石垣市の通学拠点を北部地区、西部地区、中部地区、南部地区、東部地区の5ブロックに分けてあります。
計画の基本方針として、まず初めに教育効果を高めるためにはある程度の集団学習が必要で、そのためには学校数を調整あるいは統廃合も視野に入れて考える必要があります。次にこれらを実施するには、必然的に大幅な通学区域の見直し
と、原則として小中学校併置校の廃止の検討も必要です。
通学距離については、文部科学省が学校の統廃合を行う際の適正な条件として一定の基準を定めており、本計画もおおむねその範囲内に沿っています。
なお、学級編成に当たっては、沖縄県公立小中学校学級編成基準を取り入れてあります。
学校統廃合後の規模別比較表
現 状
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学校統廃合の場合
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学校規模
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過小規模
(1~5)
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小規模
(6~11)
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適正規模
(12~24)
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学校規模
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過小規模
(1~5)
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小規模
(6~11)
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適正規模
(12~24)
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小学校
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平久保(2)
明石(3)
野底(4)
伊野田(3)
富野(3)
吉原(3)
川平(4)
崎枝(3)
名蔵(5)
川原(3)
大本(3)
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宮良(6)
白保(6)
大浜(11)
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新川(16)
石垣(14)
登野城(18)
平真(15)
八島(12)
真喜良(13)
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小学校
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明石(3)
野底(4)
伊野田(3)
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川平(6)
川原(6)
白保(6)
宮良(6)
大浜(11)
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新川(16)
石垣(14)
登野城(18)
平真(15)
八島(12)
真喜良(13)
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中学校
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伊原間(3)
富野(2)
川平(2)
崎枝(1)
名蔵(3)
白保(3)
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大浜(11)
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石垣(20)
石垣第二(15)
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中学校
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伊原間(3)
川平(3)
名蔵(3)
白保(4)
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大浜(10)
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石垣(20)
石垣第二(15)
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4. 他自治体の学校統廃合の取り組み
(1) 国頭村の場合
国頭村は2004年4月1日から学校統廃合を実施。二つの小中学校併置校を解消し、中学校を全て国頭中学校に統合し、小学校の1校を廃校にした。
同村教育委員会は、2001年にそれぞれの校区で、教育懇談会を実施した結果、地域の要望等は主に次のとおりであった。
① 中学校は早急に統合してほしい。
② 統合場所は国頭中学校が良い
③ 少人数の学校は部活の選択ができない。
④ 小学校は残してほしい。
ここで、注目すべきことは、小学校も統合の視野に入れてほしいという意見も一部あったが、大方の意見は小学校は存続してほしいとのことであった。その理由は地域から学校がなくなることへの不安がかなりあった。
これを受け、同村では、議会で中学校統合推進を表明、教育委員会では中学校統合廃止推進委員会を設置した。そして、同年、議会で国頭村立学校統合推進委員会設置条例を全会一致で可決した。 委員にはPTA役員、区長会、学識経験者等12人で組織し、教育長が委嘱。
その後、推進委員会の国頭中学校に全て統合する案で、地域住民とのコンセンサスを得て、特に問題なく統廃合計画を実施した。
(2) 那覇市の場合
那覇市教育委員会は2002年6月に「那覇市立学校適正規模等審議会」を設置して、市立学校の適正規模、適正配置及び通学区域について諮問し、2003年9月に答申を得た。その背景には同市においても児童生徒が減少し、特に中心市街地においてドーナツ化現象が著しく、児童生徒数と学級数に学校間格差がある。
同教育委員会においては、答申を尊重し、学校の適正配置に関する方針及び計画、その他学校の適正配置に関し必要な事項を検討するため、2005年5月に「那覇市立学校適正配置検討委員会」を設置し、那覇市立学校適正配置基本方針を策定した。
この基本方針の説明会をブロック別に開催し、その後、パブリックコメントを市民から聴き、現在そのまとめに入っている。
学校適正規模、適正配置及び通学区域の具体的計画については、2006年度に検討委員会で策定作業を進めていく予定である。
なお、マスコミでも報じられているように、同市の場合、方針として小規模校(6~11学級)は学校再編の対象としていることから、一部住民からすでに反対の署名運動も起きるなど、今後の課題は大きい。
5. 教育的効果とは
学校統廃合については、日本全国各地で進められていますが、それは自治体の財政難を背景とした小規模校の整理統合的色合いが強く、そこでは学校規模と教育的効果が盛んに論じられています。
その中心となるのが、「学校のみんなが名前も顔も人柄もよく知り、人間らしいふれあいが自然に深まる」「教師が児童生徒個々について把握しており、個々に応じた指導が容易である」といった観点から、小規模校の教育上の利点が強調されています。
また、国際的にも世界の国々では「小さな学校」が大事にされています。『ユネスコ文化統計年鑑1998』によると、例えば初等教育(修学年限5~6年)の学校規模(学校の平均子供人数)をみると、日本の331人に対し、ヨーロッパをはじめ主な国ではほとんど100人台です。
一方、大規模校には大規模校のメリットもあります。より多様な人間関係を確立することができる。より多様な考え方に触れることができる。「切磋琢磨」し、競争力を高め、向上心を養うことも大きなメリットと考えられます。
小規模校での、入学から卒業まで、ごく限られた固定された人間関係のなかでは培えないものです。
大規模校、小規模校にはそれぞれメリット、デメリットがあり、それぞれに教育的効果は意義をもっているものだと思います。
さて、本市の市街地校以外の北西部の学校は、学級数1~5学級、児童生徒数8人~52人の、小規模以下の、いわゆる過小規模校です。
もちろん、複式学級があり、一人の先生が2学年の子供をひとつの教室で教える。
単純に、1学年に教えるエネルギーは単式学級の半分、というふうに考えることができ、学力向上という観点から望ましい姿ではないのが本市の過小規模校の実情です。
過小規模校同士の統合が実現しても適正規模にはならないまでも、小規模校への転換や、複式学級の解消につながることができ、よりよい学習環境をつくることができるものだと思われます。
通学距離が拡大することになり、スクールバスの整備など、安全な通学方法の確保が条件となってきます。
6. 学校と地域活性化
学校統廃合の問題への反対意見に、教育的効果とともに、地域によってはそれよりももっと重要な位置付けで、地域の衰退、過疎化へつながるという意見が必ずといっていいほど出てきます。
これは人間的心情として、自らの母校への愛着や、地域コミュニティーセンターである学校の場合、ある程度やむを得ないものでしょう。
特に石垣市の場合、中部地区や北西部については、戦後の開拓移民として入植し、集落を形成した歴史があり、その中で唯一の公共施設として学校を創立してきた経緯から、地域のシンボルとしての学校に対する思い入れは他の地区より強いものがあり
ます。
近年、島内の社会資本である、道路などのインフラが整備され、もともと集落の近くにあった農場等へ、市街地から「通勤」できるようになったことや、買い物や病院など、便利さを求めて2世3世が市街地に住居を求め、その結果「過疎」という現象が起きております。
行政は農業振興や過疎化対策の一環として、農村集落に市営住宅を建設しており、一定の効果はあらわれておりますが、しかし、児童生徒数が著しく増加するまでには至っておりません。
そのような中、地域住民が学校に地域活性化を求めることや、学校がなくなれば地域も衰退すると考えることも当然の成り行きかも知れません。
たしかに、小規模校では、個々の学校行事に祖父や祖母、保護者でない地域の大人をPTA準会員として地域ぐるみ巻き込んできており、ここへきて子供の教育的観点からという理由で地域を切り離すことも難しいことでしょう。
しかし、学校は子供たちの教育の場であることは明白であるし、教育行政を預かる教育委員会が、過小規模校の抱える問題を解決する手段として学校再編を考えるのもこれもまた当然の流れともいえます。
7. 財政的見地から
学校適正化計画は「教育環境をどう高めるか」を大きな目標として策定され、住民との意見交換会を通して問題提起してきておりますが、行政の財政難ももうひとつの視点であります。
学校の維持管理に係る経費は、人件費を除き1校あたり小学校で平均約500万円中学校で約1千万円かかっております。
普通交付税の基礎数値のなかに、学校数、学級数、児童生徒数があり、学校1校あたりの交付税試算は約1千万円参入されていることを考えれば、単純に学校数を減らすことが、そのまま直接経費の節減にはつながることにはなりません。
しかし、市費職員の人件費(県費教職員の方が影響は大きい)、そして施設の老朽化に伴う修繕や建て替えなどの施設整備費、それに伴う起債の償還などがあり、また近年検討されている交付税制度の見直しなど、中長期的にみれば、教育予算の確保と効率的・効果的配分のためには学校数の削減は意味があることになります。
また、学校数の減少により発生する余剰人員を、用務員や事務職員などの未配置校に職員を配置することができますし、幼稚園については、現行一人で保育している園に複数の職員を配置したり、延長保育も可能になるなど、より充実した学習環境をつくることにつながります。
8. おわりに
石垣市教育委員会の策定した学校適正化計画は2005年4月から意見交換会が開かれ、地域を2巡してきました。
現在、各地域から出た意見を集約し、計画を再検討しながらそのテーマである「教育環境をどう高めるか」を最優先に、そして地域活性化を学校に託す住民の理解が得られるような計画策定という難しい課題を突きつけられました。
しかし、少子化の進行による過小規模校の問題を解決し、よりよい教育環境をめざすための学校再編と、地域コミュニティーの活性化を切り離して考えることができないと、この問題はどこまでも平行線を辿り、地域の活性化という「大人が考えるべき課題」を、本来「子供たちの教育の場」であるはずの学校に求め『学校はこどもの教育のためだけにあるのではない』と言い切ってしまう住民との話し合いは容易ではないようです。
意見交換会を受けて、地域公民館や学校PTAなどから計画の撤回、見直しを求める署名がとどけられています。
また、市教育委員会もワーキングチームを中心に計画の再検討を行い、今後は行政内部だけでなく、市民も加えた検討委員会で論議を重ねる予定です。
古くて新しい問題、タブー視することなく問題提起された学校統廃合、その背景になにがあるのか、一つ一つの検証が必要であり、また自分の立場からだけでなく、全てを自らの問題として考える必要があるでしょう。
そして、なにより私たち大人が最も大事にしなければならないのは、次代へ引き継ぐ子供たちにとってなにが最良なのか、視点を間違わないようにしたいものです。
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