3. 住民との協働でつくる地域社会
(1) 実践事例① 佐賀市勧興公民館
「高齢者生活の実態調査と課題解決への取り組み」
勧興校区は、佐賀市の中心に位置し、人口6,500人・世帯数3,200世帯で、JR佐賀駅から県庁を結ぶ中央大通りを中心に、東西に広がるコンパクトな町である。徒歩圏内に、病院・スーパー・役所等が点在しており、退職後にこの街を選んで転居してこられた方も少なくない。
2011年の調査によると、勧興校区の高齢化率は24.3%(佐賀市全体22.92%)。高齢化率が高い地域(旧富士町・旧三瀬町)では、在宅高齢者に占める「単身・高齢者のみ世帯」が低いのに対して勧興校区ではその割合が、56.6%と高い割合を占めている。つまり、高齢者だけの世帯でも暮らしやすい環境が整っている地区だと言える。
以前から「一人暮らしの高齢者が多い」とは感じていたが、公民館に来館されない高齢者の実態は、把握できていなかった。この調査を機会に、高齢者の生活の実態を調査・分析し、これからの地域づくりのヒントにしたいとの思いがあった。さらに、調査によって判る高齢者の生活の様子を地域の方と共有したいとも考えていた。
下記のような講座を計画し、10月~1月にかけて「高齢者の暮らし」について調査および住民ワークショップを実施した。実態調査はインタビュー形式とした。
日 程 |
内 容 |
手 法 |
8月末頃
~10月 |
○調査対象・内容・分析方法の検討
○調査員・協力者の検討
○調査票の作成 |
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第1回
10/30 |
高齢者の暮らしを知るには ~高齢者の声に耳を傾ける~
(聞き取りの手法を学ぶ) |
講義・演習 |
11月 |
○調査期間 |
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12月 |
○調査結果の入力 |
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第2回
12/14 |
高齢者が住みよいまちとは ~聞き取りからみえてきたもの~
(聞き取りの整理とまとめ) |
ワークショップ |
第3回
1/18 |
高齢者の社会参加を考える |
講義・演習 |
1月~
25年7月 |
○調査結果・ワークショップの分析
○調査員への追加の聞き取り調査
○報告書の作成・発行 |
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調査員は、民生児童委員・生活介護支援サポーター・社会福祉協議会委員等、校区の地域福祉にかかわる方々にお願いし、第1回は「インタビュー調査」の意義や意味、そして手法を学ぶ講座を開催した。1ヶ月程度の調査期間を設定し、第2回の講座では「聞き取り」から見えてきたものの分析と、「高齢者の孤立化を防ぎ、いきいきと地域の中で過ごせるための具体的な取組み」をテーマに「ワークショップ」を行った。各グループから多くの意見がだされ、事業を具現化していくヒントにつながった。インタビュー形式にしたことで「選択肢」を準備していないものも数多くあり、「聞き取り」や「まとめ」の作業は大変だったが、調査対象者それぞれの特色が出て、各々の「人生に対する考え方が見えてくる」ような結果となった。
その後、「インタビュー調査」と「ワークショップ」が終了してからも、調査をしてくれた方が公民館に来館された時に、インタビューのことが話題となり、意見を交わすことも多々あった。
その中には「世間話」や「井戸端会議」で済ませてしまうのも勿体ない内容があり、急きょ講師も交えて調査員への聞き取りを計画した。10人以上の「高齢者インタビュー」を担当した調査員の方に、それぞれの事例の結果をもとに、「高齢者の課題」「高齢者の知恵や経験」に関する気づきについて、発言をお願いした。
各々の発言の中から、次の4つをまとめることができた。
① 80歳が大きな分かれ目、身体的衰えの差が最も大きいのは80歳。
② マンション住まいの高齢者に対する対策。
③ 孤立した高齢者への働きかけのヒント。
④ 高齢者が、自らプログラムをつくりだす機会の創造。
このように、「インタビュー調査」を実施したことで、これまでは「現在」の1点でしか見ることができなかった「個人」を、その方の意識や考え方、歴史をより深く知ることで「立体的」に捉えることができた。
調査員の方自身が、その「高齢者の暮らし様」を課題と見ることで、地域の課題に向き合う当事者としての意識が強くなったと考えられる。
調査やワークショップの内容から、高齢者自身が「主体的にいきいきと生き抜く」ためには、「高齢者の孤立を解消すること」「近場の交流の場が必要であること」「買い物等、歩くこと」、そのことが合わせて「介護予防の解決策となる」のでは、との結果があり、公民館の主催事業として、2013年4月から「あつまれ水曜」と「ふれあい和風食卓」の2つの「高齢者の居場所づくり事業」を立ち上げた。
元飲食店経営者を講師に実施した「食を通した居場所づくり事業(ふれあい和風食卓)」は、定員超えの盛況であったが、「三々五々集まってください」「場所を提供します」「あなたのやりたいことをやってください」「井戸端会議でも、ものづくりでも……」との声掛けで開いた居場所(あつまれ水曜)は、なかなか参加者が集まらない。
「近くに(用事がなくても)気軽に行けて、おしゃべりができる場所があることは、大切なこと」「友だちを誘って少しずつ仲間を増やしていく」とまとめた「ワークショップの見通し」は、間違っていたのだろうか。
4月・5月・6月と空回り状態で、参加者と支援者を合わせても10数人ほどにとどまった。この状態を打開するために「昼食を作って、皆で食べる」「井戸端会議だけではなく、活動してみる」などの手立てを考えた。
さらに、そこに集まった皆さんと一緒に「どうしたら参加者が多くなるか?」を考えた。本来の趣旨とは違ってきたが、7月からは「企画を考えて、それに誘う形で参加を勧めよう」ということになった。
「トランプあそび」「脳トレクイズ」「マスコットづくり」「凧づくりと凧揚げ」、それに、おたっしゃ本舗の「健康相談」も加えた。
このようにして、「公民館職員が主体となって進めてきた居場所づくり事業」だったが、社会教育関係者の勉強会で、この事業の報告をした時に「本来の公民館職員の役割を考えてみること」との意見をいただいた。
「住民とともに考え、住民の力をひきだし、住民自らがその当事者として取り組むように」を、常に心がけていたはずだったのに、「みんなで協力してくれるだろう」との甘い考え、そして「事業を成功させたい」「やらなければならない」の思いが強すぎて、一番大切なことを見失っていた。
2014年3月、この事業を見直す意味で、地域福祉にかかわっている各団体に声をかけ「高齢者の居場所は、本当に必要か?」をテーマに話し合う場を持った。
これからの「介護保険のあり様」や「国の方針」なども勉強した上で、この事業の「意味」と「意義」を検討した。各団体の会議でもこの内容を伝えていただき、皆で共有した上で、「居場所づくり事業」は、今後も継続することになった。さらに、関係5団体が、月別に企画を受け持つことも決まった。
「なんばすっとよかと?」や「自分の町区のサロンの内容も考えんといかんとに……」とか「今月はみんなで民謡ば踊ろう」「特に企画しなくても、しゃべりの場として誘ってくるとよかやんね」などと様々な愚痴やアイディアが出ている。
ひとまわりしたところで「ふりかえり」を行い、もう一度、皆で話し合うことも決めている。「ふりかえり」を繰り返しながら、その時々の課題を共有したり、必要であれば方法を変えながら、各団体や支援者が無理なく、継続して取り組めるような仕組みをつくりたいと考えている。
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聞き取りの手法を学ぶ |
聞き取りのまとめ |
ふれあい和風食事 |
あつまれ水曜 |
(参考資料:勧興校区高齢者の生活実態調査) |
(2) 実践事例② 佐賀市開成公民館
「地元を知ろう! I ♡ (アイラブ)開成~じぇじぇじぇの再発見~」
佐賀市では、1951年に佐賀市立公民館が設立されて以来、平成の町村合併前まで、小学校区を単位としてまちづくりが行われてきた。
しかし、開成校区は、もともと田園地帯だったところが、35年ほど前からの宅地化に伴う人口増加により、鍋島小学校校区と新栄小学校校区の一部を25年ほど前に、分離併合した新設の校区である。
その経過からか地元の小学校にあまり愛着がない住民が多く、まちづくりを考える際、他の校区に比べて校区単位でのまとまりが弱いのが課題である。
その一方で新しい校区を立ち上げるのにむけ、自治会ごとの町区では自分たちのまちづくりについて、議論が重ねられた経緯があり、町区での単位ではまとまりがあるのが特徴である。
高齢者の現状としては、かつて自治会ごとにあった「老人会」が、会員の高齢化による活動の衰退や会員減少による運営費不足や住民の意識が老人会の組織に馴染まなくなっていることなどの理由により、組織数が減少していることがあげられる。
しかし、「佐賀市社会福祉協議会」が行っている「サロン事業」に取り組むグループは近年増えている。この事業は、近所の気が合う人達同士で仲間づくりを始められ、また歩いて行ける地域の自治公民館で行われることもあり取り組み易い。老人会がなくなった地域では、新たな高齢者の身近な居場所づくりに一役かっている。そのサロンにも、「代表者の人だけに、膨大な負担がかかっている」という悩みがあった。
宅地化とともに移り住んだ地域住民の多くが退職を迎えている。60~70代となった彼らによる地域活動が活発化していかなければならないときに、その受け皿である老人会組織の減少に表れているような「高齢者同士のつながりの希薄化」を公民館では、地域課題と捉え「高齢者が充実した生活を送るためには、何が必要なのか?」を模索していた。
そこで、地域での一人暮らし高齢者にアンケートをとってみた。すると、年齢とともに活動範囲が自宅周辺と狭くなるにもかかわらず、相談相手は「近所ではない市内の友人」や「離れた場所に住む兄弟姉妹や子ども」であった。そして、やってみたいことでは「旅行などの日常とは違う体験をしたい」ということと、「人の役に立ちたい」という要求も強かった。
アンケート結果から気付いたことは「まだ身体が元気で自分の力で車や自転車による移動が可能なうちは、近所同士の付き合いの必要性に気付かない」だが「車や自転車に乗れなくなると、途端に孤立してしまう可能性がある」ということであった。
そのことは「早い段階から近所と繋がりをもっておく必要がある」ということ。高齢者は他者から奉仕してもらうだけの存在ではなく「できる範囲で他者への奉仕者であり続けることが、生きがいとなる」ということであった。私たちは、彼らが「生き生きと活動できる場を創出しなければならない」ということである。
そこで公民館では、地域課題解決のアプローチとして、通常行う校区単位での事業はなく、開成校区の特性を生かし、町区単位のサロン事業をターゲットにして支援を行うことにした。
最初に取り組んだことは、サロンの内容に対する支援だった。それは、各サロンの代表者が公民館に立ち寄り、「毎月サロンで何をしようか? いつも悩んでいる」「みんなが喜びそうなことを教えてくれる先生を紹介して!」と度々言われていたからである。しかし、講師を紹介しても反応は必ずしも良くなく、結局はサロン代表者が毎月のネタ探しをしている現状に変わりはなかった。
そこで私たちが気付いたのは、サロンの内容としての「ネタ提供」ではなく、「代表者だけがすべての世話をし、会員はサービスを受けるだけ」であり、その結果「代表者が疲労困ぱいする」という現状を会員みんなが力を合わせ、自らを当事者として運営して行くよう「人材を育成する」ことが、公民館がやるべき支援であるということであった。
しかし「人材育成」といっても人の意識を変える取り組みであり、どこからどう手を出してよいのか悩んでいた。丁度その時、佐賀県生涯学習センター(アバンセ)事業で、アバンセと市教育委員会と公民館、それぞれの職員が協働で「地域の課題解決に取り組む」という事業の募集がかけられた。
この事業を通じて、このサロン事業の支援を行うことにした。3者と講師との間で話し合った結果、でき上がったのが、以下のプログラムである。
講座名 |
地元を知ろう! I ♡ (アイラブ)開成~じぇじぇじぇの再発見~ |
目 的 |
高齢者自身が、町区単位での高齢者同士の交流を通して、地域のことや人を知り、地域にかかわることの大切さに気付き、自主的に地域にかかわろうという人材を育成する。 |
対 象 |
1 回 目 開成校区内の各町区サロンの代表者
2~4回目 モデル地区のサロン参加者 |
内 容
1回目 |
各サロンの代表者を対象に、「地域のリーダーとして、まちに関わることの大切さを学ぶ」というテーマで講演を行い、その後、事業についての説明とモデル地区の募集を行った。 |
2~
4回目 |
モデル地区に手を挙げたサロンを対象に、「まち歩き」と「地図作り」それに対する「発表」を行い、自分の住むまちに愛着を持ってもらう。
また、個人で書いてもらう「ふりかえりシート」に、「まちに対する自分の思い」や「自分の趣味」「地域に対してできること」なども書いてもらい、「人材バンク」を創った。
そして、最後のまとめで、講師から、サロンの運営を「みんなで協力しておこなうことの必要性」について話してもらった。
また、各回の前後に必ず「反省」や「次回の計画」のための会議を開いたが、その中で、サロンの代表者に、「地域の人材育成のためには、自分たちだけががんばる」のではなく、「意識的に手を抜く」ことの必要性を説いていった。 |
成果と
課題 |
この事業の成果は、地域の「人材バンク」を創ったことと、「まち歩き」によって参加者が「地域に愛着」をもつようになったことである。
しかし、サロンの運営に関しては、必ずしも意図していたような方向に進んでおらず、私たちとの事業が終わったあと、「若い世代の支援者」が増え、逆に「高齢者のお客様」状態が助長されたようである。
私たちは「高齢者が主体的に運営できるサロンづくり」をめざしていたので、「現状を聞き、人の意識を変える」ことの難しさを痛感した。 |
この事業の特徴は、1回目は校区全体を対象としたが、2回目以降はモデル町区のみに限定し、そこの町区に出向いて事業を展開する。というアウトリーチ的手法を用いたことである。アバンセとの事業は単年で終わったが、公民館は引き続きサロンの支援を通して、高齢者が主体的にまちづくりに関わっていくような人材育成を行い、その取り組みが開成校区全体のまちの活性化につながるよう、事業を展開していきたい。
(3) 地域の特性を活かした課題解決プログラム
私たち公民館職員は「公民館指針(公民館の目的)」に基づき、「公民館を拠点とした社会教育活動の推進」をはかることで「人づくり、地域づくり」を行っている。
そのためには、まずは「地域の現状の把握」を行うことが大切である。
地域の現状を探るなかで「人と人とのコミュニケーション力」「地域の課題を共に考え、解決に向けた学習機会の提供や場の提供」など、活動計画にあわせたファシリテート力が必要である。
社会的課題は、「どの地域においてもあまりかわりない」と思う。しかし、解決策は「地域にあわせた取り組み」でなければならない。
今回の2つの事例報告は、どちらも地域課題が「高齢者問題」だが、「取り組みの仕方」は全く違っている。
地域の歴史・人口・高齢化率・産業・学校との関係、地域に暮らす人々の人間関係など様々な要因によって形成された地域の特性(地域性)を、公民館職員が十分に把握し、そして理解し、地域へ効果的かつ適切な働きかけを考えている。
地域の現状に合わせた方法だからこそ、地域住民も参加・参画しやすい状況が生まれ易くなり、住民意識も高揚して行く。
佐賀市では「地域と行政」とが連携し、住民が主役となって「地域課題に対応するまちづくり」をめざして、「地域コミュニティづくり」を推進している。安全安心なまちづくりにむけて、校区の「夢プランづくり」や実践する体制づくりが行われている。
そして、2014年4月1日「まちづくり基本自治条例」が施行された。「地方分権」「地域主権」改革の推進とともに、自治体には「自己決定」や「自己責任」が求められ、「地域の考え方」に基づいて、その運営に取り組む時代となっている。 |