【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 2008年施行された平取町自治基本条例。施行後6年を経過してようやく見直し作業が開始された。「4年を超えない時期に」という条例に違反してようやくのスタートである。条例を策定するのに参加した役場内職員の「検討チーム」と、町民で構成された条例を「つくる会」。それぞれの思いで策定された条例だが6年を経過した現在、策定に参加した人々は現在の状況をどう見ているのか。語られる言葉の重みに私たちの取り組みは。



公平で公正、納得性のあるまちづくり
―― 職員は条例(憲法)を守り、住民は育てるもの ――

北海道本部/平取町職員労働組合・自治研推進委員会

1. 3回にわたる検証活動

(1) 平取町自治基本条例(2008年4月1日施行)
① 総合計画で条例制定を謳う
  平取町では2005年度策定の「平取町第5次総合計画(2006年から2015年)」で自治基本条例を策定することが謳われました。ほかの町とは少し違うスタートでありましたが、役場内職員の「検討チーム」と住民参加の「つくる会」それぞれで条例策定に熱い思いを持ち作業が進みました。深夜遅くまで白熱した議論を交わしながら1年以上にわたる議論の末、策定にこぎつけました。途中、住民を巻き込んだシンポジウムや地区別説明会などを開催し、条例の実践を行うことで条文を整理していきました。特筆すべきは、役場で行われている業務を「まちづくり住民講座(びらとろん)」として開催されたことでした。「職員のわかりやすい説明と町民の的を得た質問。参加者同士の意見交換」など条例施行に向けて具体的な実践活動が行われました。

(2) 3回の検証活動(自治研レポート)
① 知らない条例(2009年 北海道自治研)
  条例が施行された2008年。条例の認知度について不安を持った労働組合が、自治研活動として「知っているか・知らないか」の住民アンケートを実施しました。その結果、職員で32%、住民で56%が知らないと答え、現実の厳しさに残念な結果となりました。この「知らない条例」について、北海道自治研で報告しました。
② 食育計画(2010年 愛知自治研)
  具体的な実践活動として新たな計画「食育計画」策定にあたり、条例を意識した取り組みが行われました。住民アンケートの実施、識者による講演会や計画素案でのシンポジウム、関係団体への説明と意見交換会の実施。委員会や講演会開催時の託児所の開設。さらには、計画策定には各委員の発言から文言整理を行うなど条例を丁寧に実践しながら計画が策定されました。この計画は、全道的にも稀な計画として識者からも高い評価を得ております。その愚直な取り組みについて、愛知自治研で報告をしました。
③ 森林整備計画(2012年 兵庫自治研)
  担当者の異動に計画策定がついていくような形で、2011年「森林整備計画」の大幅な変更がありました。策定委員に一般公募を入れることが出来ませんでしたが、関係者へのアンケートやシンポジウムの開催。素案説明会での意見を計画に大胆に入れ込むなど、条例をトレースしながら計画の変更が実施されました。しかし、真摯に取り組む職員がいる一方で、条例を無視したような「計画」が決定されるなど、職場における条例の深化の度合いには大きな差があることも事実でした。そのような職場実態について、兵庫自治研で報告しました。

2. 原点に返った運動

 自治研活動として検証活動を続ける中で具体的に取り組んだことは、①条例解説本の転入者への窓口配布、②新人職員に対する学習会の実施でした。なかなかうまく進まない状況に2013年度においては、原点に返った運動として条例を全国に広げたニセコ町にあらためて触れる(視察)、民主的な町制運営の継続から条例を生み出した逢坂誠二元ニセコ町長の話を聞く(研修)計画を実施しました。また、推進委員会全員でもう一度条例を声に出して読み直すことにも取り組みました。
 さらに、行政側が条例の見直し(レビュー)を行うことに対して、2008年当時策定に関わった職員(検討チーム)と住民(つくる会)のメンバーとの意見交換会にも取り組んできました。見直しのPDCAサイクルを回すということは、まずは最初に関わった人に「現状をどう見るか」話を聞くところからスタートすべきと判断しての取り組みでした。

(1) 職員研修(行政側主催)
 例年、総務課が主催する職員研修に自治研推進委員会(労働組合)から要請し、元ニセコ町長逢坂誠二さんに「あらためて自治を考える」と題して講演をしていただきました。過去、職員研修会は8割以上の職員が参加していましたが、最近では3割程度の出席しかなく低迷していました。多くの職員の参加で「触れて・聞いて」から始まる意識改革を期待しましたが、参加率は39%と残念な結果となりました。
 逢坂さんからは「民主主義とは、多様な価値の中から結果(結論)を導き出す。そのプロセスが大事。結果として、納得性を高めることである。自治の原点は、自ら考え行動すること。課題解決にはその過程が大事である」と教えられ、参加者はあらためて自治の原点に返ることができました。 
 その夜、3年目になる「自治基本条例新人職員学習会」(組合主催)にも逢坂さんの出席が得られ、条例の思いについて、新人と推進委員会のメンバーは貴重な話を聞くことができました。

(2) ニセコ町視察(推進委員会主催・行政側参加)
 条例第6条で謳う「情報公開」と「情報の共有」のツールとして、「ファイリングシステム」について現場を直に見ることからはじめようと、先進地ニセコ町の視察研修を行いました。この研修は、推進委員会(労働組合)として提案し、総務課職員も参加しました。労働組合と当局が同じ目的で行動を共にするということは、今まで当町では考えられませんでした。条例の実践で「ファイリングシステム」導入が必要であるという認識だけは一致していました。しかし、その後は予算化をすることも無く、研究会を立ち上げる雰囲気も無く、当局の参加はポーズ、「言い訳」でしかありませんでした。
 片山ニセコ町長から「ニセコまちづくり基本条例ポケット版」を片手に、①自治体職員の仕事は公共課題の解決、②政策意思形成過程において住民の意見を取り入れる住民参加、などについて90分にわたり講演をしていただきました。特に、職員の資質向上のため、研修に多額の予算を投資している点に、ほかの町との違いをあらためて感じるものでした。

3. アンケート結果や意見交換会で見えたもの

(1) 町民アンケートの結果から
① 認知度の比較
  条例施行直後の2008年と、施行6年後の2014年では、「知っている」と答えた割合が45%から26%へと、認知度が低下しました。条例施行直後は、町民の関心も高かった事や、条例の制定にあたり「つくる会」の活動や、各種の住民説明会が活発に行われていた事で、町民の条例(名称や内容等)に対する意識が多かったためと考えられます。その一方現在では、自治基本条例を意識する機会が減少しています。この間、推進委員会では、職員研修の一環として条例を取り上げたり、転入者に対して解説書を配布するなど一定の活動を行ってきました。しかし、全町民に対する啓発普及活動までは実行できませんでした。
  年代別では、2008年は50~60歳代で最も高かったのが、2014年は60~70歳代が高いことから、認知度のピークがただ単にスライドしていることがわかります。40歳以下、とりわけ20歳~30歳代における認知度は依然として低くなりました。条例は行政と密接に結びついており、行政への関心度や接点が多い者程、見聞きする機会が増え認知度が高まります。若年層における認知度の低さは、裏を返せば行政への関心の低さとも言えます。

② 情報公開と町民参加について
  自治基本条例の中核である「情報公開」と「町民参加」については、「十分・ある程度行われている」と評価した割合が29%でありました。女性より男性が、若年層より高齢層で、肯定的意見が多くみられました。このことから、行政との関わりが多いほど、評価がしやすく肯定的な意見が多くなることが予測されます。一方、「分からない・無回答」も含めると半数近くが判断できないようでした。その理由は、情報公開や町民参加の基準が不明瞭だったり、具体的に情報公開を行っている事例や、町民参加の機会が町民からは見えにくいためとも考えられます。
  条例施行後、各種会議の一部が公開される事例がわずかながら増えていますが、原則、全ての会議や情報が公開されるべきであります。施行以前と比べ積極的に公開している分野もみられ、アンケート結果でも評価が高くなっています。しかし、行政全体に浸透するにはまだ至っていない事や、実施上公開可能な会議であっても周知がされておらず、結果的に非公開となってしまう事も多くみられます。これらの積み重ねが、否定的意見や判断できないという評価に繋がっているものと考えられます。
③ 役場が変わったか
  「平取町自治基本条例」によって役場が「変わった」と回答した割合は、43%から12%と大きく減少しました。このことは、施行直後と現在における条例認知度の関係が深いと考えられます。すなわち、行政のどの部分が条例に基づいて実施されているのかが分からなければ、町民は役場の変化を判断する事はできないと思われます。

(2)  関係者との「語る会」で出された意見
① 検討チーム
  当時の検討チームメンバーと意見交換をする機会を得ましたが「条例の実践が必要だ」との強い意見は出されませんでした。
  ◆職員としては「条例が施行されているという意識がない」、「条例に対する温度差はあるが、ある程度やってきている」の二通りの意識がある。
  ◆実践できない理由として、「時間と人手が足りない」という意見。
  ◆実践すれば、「町民に文句を言われる」という意識。
  ◆条例は施行されたが、「条例の実践は仕事」との意識が低く、「やりたくない、この程度でいいのでは」という意識。
② つくる会
  当時に15回(52時間)の熱い議論を行った「つくる会」のメンバーが集まり、意見交換を行いました。推進委員からアンケート結果の報告、条例の実効度や具体的な取り組みについて報告。さらに労働組合として、この間の取り組んできたことを報告し、話し合いを行いました。
  会議の案内を直接もらって「そんなときがあった」と思い出した。「行政の実践が不十分だが、組合で検証活動に取り組んでいることは知らなかった」などの素朴な意見や厳しい意見、具体的な提言をもらうことができました。  
  この会議は、推進委員がメンバーに直接会い、会議の意味を了解したうえで集まっていただきました。会場借用の時間ぎりぎりまで話し合われ、最後に「これ1回で終わりか?」と、次回開催の積極的な要望もありました。
  ◆職員の中には「罰則規定が無いから、条例実践の必要はない」、「実践しなくても大丈夫」という意識があるのではないか。職員間でも条例に対する知識や思いの格差があるのではないか。
  ◆町民には、この間の行政の政策決定に対して「しらけている」、「なげやり」、「あきらめ」の気持ちがあるのではないか。中には最初から行政に関心ない者もある。
  ◆評価・公表・公開が進まないから改善にならない。
  ◆町民の「意見」に対して行政は「文句」と捉えているのではないか。
  ◆行政側から「条例を町民と一緒につくる」と言い出したのに、条例に謳われている見直し(レビュー)が遅い。
  ◆職員は条例を守り、住民はそれを育てるもの、条例を守ってほしい。

4. 提言書「これからの道」

(1) 提言書の要旨
① 徹底した情報の発信
  住民との協働には情報の公開が原則、徹底した公開に挑戦すべき。起案文書等は「公開・非公開」の記入欄を設け、非公開には明確な理由を添付すべき。会議も原則公開で、隔週発行される「まちだより」の行事予定欄で「公開・非公開」の表示(非公開は理由を伏す)など、議会等はネット配信や夜間・休日の開催で公開をアピールする。他の一般の会議も公開を原則とし、役場で保有している情報も、広報・まちだより・HPなどで周知する。
② わかりやすい条例の周知
  もっと見やすい「解説本」や、条例がひと目でわかるカレンダーやクリアホルダーの作成。職員に対しては継続的な研修を進める。条例が定着するまで、「この情報は、自治基本条例に基づき公開しております」など「公募・説明・議論等を実施する」ことを付記する。
③ 具体的な情報公開の方法
  公共施設に専用のPC設置。役場や支所で予算書や各種計画書を常設する。

(2) 運動の展開
① 首長との懇談会
  検討チームやつくる会との意見交換会「語る会」を開催した結果を推進委員会で議論した後、それを持って特別職と推進委員会の懇談会を実施しました。町長からは「強制的に職員に実践させるものではなく、職員自ら積極的に取り組んでいくものだ」。副町長からは「浸透していない実感はある。町民がどう受け止めているか。現実は委員などを公募しても応募がないのが実態」。教育長からは「町の条例・規則が機能するのには組織体制が不十分。法務支援室などの整備が必要」などと、それぞれの意見をもらうことができましたが、町長の強いリーダーシップを求める推進委員会の思いとは大きな乖離がありました。
② 総合計画策定にあたり
  平取町では現在、条例の見直しと同時進行で、第6次総合計画の策定のための手続きに入りました。全体像が見えておりませんが、条例の6年間の反省のもと丁寧な作業に期待をしています。
  まずは、第5次計画の実績から「何ができて、何ができなかったのか」の検証と社会情勢の変化などを議論し、次期計画へ引き継ぐものを洗い出し、地域の現状を再度見つめなおし将来ビジョンを明確にします。その際、議論の場は策定委員会だけでなく、関係者や関係団体などできるだけ多くの町民と議論を徹底して行うべきと考えます。
③ これからの道
  現在行っている検証作業で出された課題の具体的取り組み内容を、ロードマップ化し全体化した取り組みが重要と考えます。継続した取り組みを町民と共につくりあげるためには、毎年進捗状況について行政が報告会等を開くことが大事になってくるのではないでしょうか。それが「PDCAサイクル」を回し、「継続的な改善」につながることになります。また、検討チームとの「語る会」で出された「時間と人手不足」という意見がありましたが、「条例実践は、私たちの仕事」と発想を切り替えていくことが重要です。条例の実践には愚直で丁寧な作業が求められ、「ローマは一日にして成らず」というように、1歩ずつ確実に前進するしかありません。

5. 編集後記「6年のたたかい」

 2008年4月1日から条例施行は始まりました。いや、それ以前の2006年11月8日からこの「検証活動(たたかい)」は始まりました。7年以上にわたる時間は、幾度も私たちを諦めさせるに充分な時間でした。諦め・嘆きの中で運動を継続させたのは、一部の声の大きい人によるまちづくりではなく、「公平で公正、納得性のあるまちづくり」をしたい、という信念でした。そして、その成就のための手段・ツールが、最高規範である「自治基本条例」です。これからも、小さなことからコツコツと条例の深化をめざし、私たちは検証活動を継続していきます。