【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 全国の現業職員は地域住民の安心安全な暮らしのため、住民の身近な場所で日々業務を行っている。しかし人員削減や民間委託化により、自分達が考えるきめ細かい住民サービスを提供できない。前橋市も同様であり、前橋市役所現業労働組合はこの現状を変えるため、まず住民から真に必要とされる職場・職員とならなければと考えた。そこで市民向けアピール活動「市役所現場ではたらく人たち展」を企画開催した。



職員自らの声で市の業務を紹介
― 現業労組「市役所現場ではたらく人たち展」開催レポート ―


群馬県本部/前橋市役所職員労働組合・前橋市役所現業労働組合

2014年4月末日現在人口及び世帯数
計(人) 世帯数
166,175 173,948 340,123 141,724

1. 前橋市の概要

 本市は、2001年には特例市の指定を受け、2004年12月5日には、大胡町・宮城村・粕川村と合併。2009年4月には県内初の中核市へ移行するとともに、5月5日には富士見村と合併し人口は約34万人になった。2012年には市制施行120周年を迎えた。

2. 前橋市役所現業労働組合について

 前橋市役所現業労働組合は、1962年(昭和37年)10月20日に現業評議会が結成されたのち、1977年(昭和52年)4月1日前橋市役所現業労働組合として組織を改め、今年で結成から51年を迎えた。結成当時417人の組合員は、最大で500人を超える組織となったが、退職者不補充により現在323人となった。職員が働きやすい職場環境を整えることが住民サービスの向上にも繋がる考え、賃金及び労働条件の改善のため諸課題に取り組んでいる。

前橋市現業職員数の変化

3. 組織の実態(2014年4月1日現在)

組合員総数  323人(栄養士・任用替え職員含む)

前橋市現業職員人数
(職種別)
  前橋市現業職員人数(業務別)
職 種 名 人数
自動車
運転技士
74
用務技士 101
清掃技士 4
機械操作技士 46
運転管理技士 5
管理栄養士
(非現業)
2
栄養士
(非現業)
1
調理技士 73
公園技士 14
ボイラー技士 2
動物愛護
管理技士
4
合計 323
 
職 場 名 人数
行政管理課 (印刷室) 1
保健所   4
児童文化
センター
  1
斎場   8
保育所
(13カ所)
用務 12
調理 27
栄養士
(非現業)
3
清掃(収集) 西部清掃事務所 50
清掃(工場) 六供清掃工場 21
亀泉清掃工場 9
荻窪清掃工場 15
道路補修
センター
  12
公園管理
事務所
公園管理事務所 9
ばら園 2
前橋公園 3
亀泉霊園 1
職 場 名 人数
給食 東部共同調理場 12
西部共同調理場 11
北部共同調理場 13
宮城共同調理場 4
粕川共同調理場 3
富士見共同
調理場
4
給食運転者 東部共同調理場 3
西部共同調理場 2
南部共同調理場 3
北部共同調理場 6
学校
(用務)
小学校(50校) 53
中学校(22校) 27
高校(1校) 2
幼稚園(4園) 4
養護学校
(1校)
2
任用替   3
合計   323

4. イベントの概要

(1) 企画背景
① 住民アピールイベントを企画した背景
 ア 前橋市行財政改革推進計画の中で進む現業職場委託、指定管理者制度導入。
 イ 定員管理計画により10年続く退職者不補充。
※自分たちの職場の存続の為に、これまで市当局から委託化提案が出される度に交渉を行い自分たちの職場の必要性、直営で行うことの意義を訴えてきた。しかし本市の財政事情や業務の効率化などを理由に委託化と嘱託化が進んでいる。
② 退職者不補充が続くと
 ア 職員の高年齢化-現業職員の平均年齢は50歳に近づき高年齢化が進行している。
 イ 現場の仕事は体力が必要-今まで通りの業務をこなしていくことが困難に。
 ウ 技術の伝承が滞る-今まで職員が培ってきた経験と技術は市の財産とも言える。引き継ぐ人がいなければ消滅していく。
  住民により良いサービスを提供したい。しかし、退職者不補充・給料減額などで職員のモチベーションは低下。なかなか明るい見通しの立たない閉そく感が漂い前向きになれない職員が多い。
  →この状況を打破するためにはこれまでの(人員要求、処遇改善を中心とした)内向きのみの取り組みでは困難。
  外(地域住民)に向けて発信し、地域からの信頼を得るために自ら打って出る取り組みを行う。

(2) 開催目的
 市民に必要とされる職場・信頼される職員をめざす。
① 住民へのアピール活動
  まず住民に自分たちのことを知ってもらう。
  →公園管理や道路補修などが市役所の仕事として行われていることはあまり広く知られていない。
② 住民ニーズの把握
  直接住民と接する中で、住民が行政に求めていることを吸い上げる。
  経費の削減だけが市民サービス向上なのか? 直営の業務を委託や指定管理者制度導入で外部に出し、経費を削ることだけが市民サービスの拡充ではないはず。
  今以上に住民が求める公共サービスを提供できる職場をめざす。
③ 職員の意欲向上・職場の活性化
  イベントで市民と直接触れ合い日頃の業務の意義を再認識できる機会としたい。
  「がんばっても好転しない。現状はかわらない」
  あきらめムード・閉そく感を打破するための起爆剤に。
  →職場の職員の意識改革を促し、職場の活性化に繋げたい。
④ 市役所内のアピール効果
  同じ市役所の職員でも職場が離れているとお互いがやっている業務についてはよくわからない。
  →現業職場同士の情報交換。横のつながりの強化。
  非現業職員・管理職に対して現業職場の紹介を行う。

5. 過去の経緯
2010年8月に開催した「現業展」。この時の課題が2年後の新イベントに活かされた
実行委員会の様子

(1) 2010年 現業展(パネル展)開催
 2010年8月「前橋元気21」1階、にぎわいホールで「現業展」を開催。
 パネル展示と職員の説明で各職場の業務の様子を紹介。約100人の市民が来場。
この時に得た課題
◎事前の周知が少なかった。
◎パネル展示のみで他に興味を引くものがなかった。
◎準備期間が約1か月と短かった。
 この経験を踏まえて2012年、現業職場をアピールする新たなイベントを企画。

(2) 他の単組の取り組み事例 
 「越谷市 市役所お仕事展」-2010年から開催。現業職だけではなく消防も参加するなど年を追うごとに展示内容を拡大してスケールアップ。前橋から2011年・2012年・2013年開催時に現地に出向き視察と意見交換を行った。

6. 新たな市民アピールイベント開催準備
イベント告知チラシ

(1) 実行委員会設置
① 実行委員会構成 -各職場(分会)より選出の実行委員20人
② 実行委員の役割 -各職場から選出された実行委員と現業労組執行委員で構成。イベントの準備・運営を各職種(分会)の企画・立案を行う。

(2) 2010年現業展の経験を踏まえ
① 広報活動を強化
 ア 市教育委員会に許可を取り市内公立保育所・公立
   小学校(低学年)向けにチラシを配布(約15,000枚) 
 イ 市民が来場する私有施設の広報コーナーの棚にチラシを設置
② 業務紹介パネル展示のほかにスタンプラリー等の来場者に楽しんでもらえる企画を職種ごとに考案。
③ 実行委員体制を整え、約半年間の期間を設け準備を行う。

7. 12月2日(日)第1回市役所現場ではたらく人たち展開催

(1) 冬の寒い日にもかかわらず来場者数500人を超えるイベントに
屋内会場 前橋プラザ元気21内 中央公民館3階・5階  屋外会場 Qのひろば
日 時  12月2日(日)10時~15時
前橋市長を来賓に迎えオープニングイベントを開催。この後市長は、展示を見学。現業職場に対し理解を深めてもらった 試食の整理券を持った人が長蛇の列となる
学校用務技士による工作教室コーナー
学校の剪定枝と針金でフォトスタンドづくり
清掃(収集)
パッカー車にごみの投入体験

(2) お仕事紹介パンフレットを当日来場者に配布。
 職員が手作りで用意したパンフレットを来場した方に配布。A4版40ページ。現場の仕事について写真やイラストを多く盛り込み、わかりやすく紹介。展示を見てもらいながら、また持ち帰ってから見てもらい、このイベントをより印象付けてもらえるようにした。
パンフレット表紙 会場案内図と実行委員長のあいさつ 職種ごとの紹介ページ(写真は保育所調理)
2012.12.16上毛新聞 掲載記事

(3) アンケートで市民の声を聞き、ニーズを把握
◎イベントの感想
 ・現場の仕事をいろいろ見せていただいて、普段見ることのない仕事内容を知る良い機会となりました。
 ・参加できる体験コーナーは特に子ども達も喜んでいました。
 ・何も話かけられないブースがあり、展示だけしてれば良いと思っている感じがしました。
◎前橋市に要望することは?
 ・街が高崎市に比べ、暗いので開発に力を入れて欲しい。
 ・保育所の保育時間の延長、学童保育を4年生まで受け入れて欲しい。
 ・街中には子ども達が遊べるような公園(遊具がある)が少ないので増やして欲しい。

 

(4) 開催の様子は後日、組合機関紙や上毛新聞で紹介
2013.1月号 前橋市職労機関紙
「Johsenまえばし」掲載記事

チラシもよりわかりやすく目を引く内容にリニューアル

8. 8月18日(日)第2回市役所現場ではたらく人たち展開催

(1) 夏の暑い日にもかかわらず300人を超える市民が来場
 屋内会場 前橋プラザ元気21 1階にぎわいホールと中央公民館5階
 屋外会場 Qのひろば
 日 時  8月18日(日)10時~15時

 第2回市役所現場ではたらく人たち展開催告知として公立の保育所・小学校(1年生~6年生)にチラシを配布。小学校は1学期の終業式にあわせて各学校に配布を依頼

スタンプラリーの台紙を団扇にして来場者に配布 屋外の暑さ対策として会場内にミストファンを数台設置
熱中症予防の為の冷却剤をスタッフに配布


西部清掃事務所〔ごみ収集〕によるごみ分別釣りゲーム。ごみの分別方法を遊びながら覚える。

給食の試食は揚げパン(500食)とすいとん(150食)を用意。

若手非現業職員によるバンド演奏。若手の事務系職員には現業職場のことをよく知らない人が多いためイベントに参加してもらい紹介することができた。 工作をしながら用務技士の仕事を体験できるコーナー。

(2) 来場者の声を反映させてよりわかりやすく楽しいイベントに
 ・分別魚釣りゲームが楽しかった。(5) 釣った後の係の人の分別の説明もよかった。
 ・スウィーツデコレーションなどもあるとすごくいい。
 ・わかりやすい掲示や体験が多く、親子姉妹で楽しめました。
 ・小さい子どもにも丁寧に接して頂き、嬉しかったです。
 ・子どもたちが働く人たちのことを見ることができてよかったです。(2)
 ・昨年とくらべ、仕事の内容を係員が多くなったと思います。仕事のアピールなのでとても良いことだと思いました。
 ・広告(宣伝?)が足りないのでは? とても良いイベントなので市民の方にたくさん来てもらいたいです。
 ・普段ごみの分別に悩むものを教わることができて良かった。
 ・試食は有料でもいいので充実させたらよいのでは。体を動かすものが多いと良いです。
 ・役所の事業内容が分かりやすく説明してあり良かった。

9. 反省点と課題

 大きなトラブルもなく予想を上回る大勢の方が来場したことは概ね成功と言えるが今後の課題も多く残った。
 開催から2週間後(8月29日)に実行委員会総括会議を開き、アンケート結果等を基に反省点、改善点を話し合った。
 ◎開催時期の見直し     ― 温暖な季節に開催し更なる来場者数アップをめざす。
 ◎スタッフも楽しめるイベント― 継続させるために負担を軽減し迎える側も来場者と一緒に楽しめるイベント制作を。
 ◎結果が表れにくい     ― 成果として、職場を守るため活動としての効果はすぐには表れにくい-遠い到達点だけではなく小さな目標を設定し職員の士気向上を促す。

10. 今後について

(1) 目 標
① 定期開催をめざす - 住民アピール活動は継続して行わなければ効果を発揮しない。
② さらに住民との距離が縮められるイベントをめざす - 業務を紹介するだけでなく住民と交流できる場などを設け、行政についての発信と受信ができるイベントに。

(2) 将来的にめざす姿
① 市役所と住民のインターフェース。住民の生活に最も身近な職場ではたらく職員として行政と住民をつなぐパイプになる。
② 住民の声を反映した業務提案、政策提言を現場から発信できる職場をめざす。
③ 住民の信頼の上に成り立つ業務を行い、協力関係の構築に取り組む。その上で現業職員が直営で行う住民サービスの意義を高める。

(3) 第3回開催に向け始動
 第3回市役所現場ではたらく人たち展の開催に向けて実行委員会が2014年4月22日に発足。議論を重ねて更に楽しんでもらえる、そしてアピール効果の高いイベント開催をめざす。