2. 具体的な取り組み―一体となった請願行動―
(1) 運動のはじまりは保育園から
筆者にも2人の子どもがおり川崎市内の公立保育園に通園しているが、当該事故に遭われた子どもたちも筆者の子どもと同じ保育園に通園していた。筆者は保育園では保護者会会長を務めていることもあり、事故直後に事故の概要について保育園側から情報提供をいただいた。事故直後は園内の子ども、保護者はもちろん保育士の動揺、混乱への対処に直面していたが、翌日以降の報道を目にすると次第にあたかも「三人乗り自転車」、「シートベルトの着用」に問題があるという風潮になっていた。しかし、事故発生現場付近を知る人間であれば問題の所在は道路にあるのは明らかであるにも関わらず、全国の子育て世帯の声で認められた三人乗り自転車や本来被害者である母親の責任に問題があるように捉えられていることは許し難く、何より「一人の尊い生命が失われてしまった」ということを受け止め、当該市道の改善に向けて取り組む決意に至った。
取り組みにあたっては市職員・組合員個人としてでは困難であることは予測できることから手法を検討した結果、住民として、子どもをもつ親として、そして被害者に寄り添う立場として川崎市議会に対して意見要望する方法が最適だろうと判断し、協力関係にある市議等と相談を重ねた結果、市議からの紹介を要する請願を提出することとした。その直後には緊急の役員会を開催して保育園保護者会として請願行動を行うこと、提出にあたって多くの署名が必要となることから署名活動に取り組むことを確認した。ここから市道改善に向けた本格的な取り組みが始まった。
(2) 総力を挙げた署名活動―人と人とのつながりで―
こうして取り組む方向性を決め、すぐさま署名用紙や要請文、請願文書の作成に取り掛かり、2月22日より署名活動を開始した(資料③署名用紙を参照)。この活動は保育園内の各クラス役員を通じて精力的に取り組まれた。園内保護者およびその家族はもちろん、保護者の友人、職場、町内会をはじめとする地域などにも及んだ。
一方、取り組みを開始した時期には既に市議会の2013年度第1回定例会の会期中となっていた。つまり、この会期中(2013年2月14日から3月19日)に請願を提出できなければ委員会付託も遅れることから、委員会審査、採決までの日程も遠くなってしまう。だが当該市道の危険性、何より生命を落とすこととなった女児のことを想えば先延ばしにできない、一刻も早く改善しなければならない問題であることは明確であったことから、協力市議と協議を重ねて署名集約に先行して請願のみ提出し、署名については追加署名として後から提出することとした。そして、より確実な採決を求めるために協力市議と連携して市議会各会派に対して請願の趣旨説明及び協力要請を行った。すると各会派ともに当該事故の重大性、危険性を認識していただいていたことから、結果無所属含め全会派からの紹介をいただくことができた。よって請願書については2月27日提出した(請願第59号、資料④請願書参照)。
そして署名活動については当該保育園保護者会を中心に取り組んでいたところから全市的な取り組みへとひろがっていった。まず市内公立保育園を中心に市内50園以上の保育園保護者会に対する署名協力の要請を実施した。その結果、依頼した全ての保育園保護者会から署名が届いた。その中には、事故が大きく報じられたことから同じ年代の子どもを持つ保護者として亡くなった児童を悼む声や早期の道路改善を望む声など多くの手紙も寄せられた。また、公立保育園の保育士が所属する川崎市職労民生支部を中心に署名協力を要請したほか、多くの組合員からも協力をいただいた。さらに事故現場付近の町内会にも依頼したところ、町内会内でも道路改善を市議に対して要請しようとしていたことからも当請願に全面的に協力いただけることとなった。
また会期中の市議会3月定例会では、予算審査特別委員会の場でも数人の市議から当該事故について触れられ、道路改善を市側に求める発言も出るなど、次第にこの事故が自転車ではなく道路に問題があるという意識がひろがりはじめていた。
さらに時期を同じくして、事故現場の踏切が存在する区役所、教育委員会、小学校、警察署、JR東日本、町内会が一体となって当該踏切を中心とした交通安全対策についても協議されるようになった。協議が重ねられることによって、踏切付近では自転車を押し歩くように啓発するパネルの貼り付けや、当面警察官が立ち注意喚起すること、登校時に教職員が踏切付近に立つ取り組みを通年化すること、町内会の交通安全対策として踏切付近の注意喚起を重点化して取り組むことなどが実施されることとなった。道路改善を求める一方で、今できることをそれぞれの立場から積極的に取り組んでいただいたことに改めて感謝したい。
3. 取り組みの結果―市議会での採択から道路改善へ―
(1) 寄せられた多くの署名と、市議会「採択」
こうして取り組まれた署名活動の結果、約2カ月で署名の数は「9,557筆」となり、これらを追加署名として4月に提出し、市議会まちづくり委員会での議論を待つこととなった(資料⑤署名の写真参照)。
資料⑤ 請願署名 |
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こうして迎えた2013年5月24日、市議会まちづくり委員会において請願の審査が行われることとなった。委員会内での議論が交わされ、審議の結果、委員会として全会一致の「採択」となり、2013年市議会6月定例会の場においても全会一致の採択が確認された(資料⑥採択通知を参照)。この結果について、すぐさま当保育園の他、協力いただいた全ての保育園及び保護者会、支部、関係各所にお知らせし、多大なる協力に対する感謝の意を表した。
なお、まちづくり委員会で議論された内容については、下記に概要を掲載する。
(まちづくり委員会における議論について)
―事故発生現場付近の状況について―
・当該市道は歩道1.45m、車道6.94mの総幅員9.84mとなっているが、歩道には電柱や標識柱が設置されており、さらに狭あいな箇所も存在している。それに加えて車両出入り口の切り下げにより歩道が急こう配になっている、いわゆる「波うち歩道」であり、車道路肩部には車両出入り用の乗り上げブロックが設置されている箇所も存在
・交通量について調査したところ、朝7時から夜7時までの12時間で歩行者1,419人、自転車が2,482台、車両が7,353台となっており、そのうち大型車が23%を占めるという大型車の交通量の多い路線となっている
―事故、そして請願を踏まえた行政としての対応―
・車両に対し、速度抑止や注意喚起を促す路面標示や車道のカラー化、また踏切内の歩道部のカラー化を実施。
・事故発生現場付近に「自転車は降りて押し歩きをする」という注意喚起を促す路面シールの設置
・車道路肩部に設置している車両乗り上げブロックについて、所有者に撤去指導を行う →上記下線部について、市内のその他の地域において事故現場と同様に交通量が多く、歩車道の幅員が狭い道路で乗り上げブロックが設置されている危険個所を調査したところ、31路線110カ所を確認した(2013年5月時点)。これらについては撤去指導を行い、川崎市の行政広報紙「かわさき市政だより」においても乗り上げブロック撤去を呼びかけた(資料⑦市政だより抜粋参照)
・これまで続けられてきた警察や地域住民と行政が連携した交通監視活動については、引き続き平日登校時間を重点的に継続して実施 ・波うち歩道の解消については、当該年内に歩道のセミフラット化(資料⑧セミフラット図)を実施。住民個人による切り下げではなく市が実施する工事として住民の費用負担は発生しないことを確認 →従来、市道に対して住民が車両出入りのために歩道切り下げを行う場合、住民側が土地の切り下げ工事の申請を行い、自己負担によって切り下げを行うこととしている。そのために住民側が段差解消を目的に道路法で禁止されている乗り上げブロックを設置することが多くなっていたが、行政側では対処してこなかった。だが事故を受け、前述のとおり全市的に乗り上げブロックの撤去を指導していくこととなった
・歩道狭あいの原因でもある標識については交通管理者と協議の結果、小型化とすること、電柱についても電柱管理者と協議し、2本のうち1本を撤去することとした。また川崎市では2013年度までが第6期の計画期間である「川崎市無電柱化整備基本方針」が策定されており、次期計画策定にあたっては当該市道を含めた計画の策定を検討
・当該市道については1957年に幅員12mで都市計画決定されているが、道路整備については現在2008年から7カ年の道路整備プログラムの期間中ではあるが、次期プログラム見直しにあたっては、JR南武線立体交差化事業と併せて、歩行者、自転車、自動車が安全に通行でき得る適切な幅員構成かどうかを検討し、見直しの可能性を図っていくこととした。
・請願で求めてきた「自転車専用レーン」については、当該市道の幅員12mでは困難であるが、自転車が通行すべき路側帯を色分けする措置を実施
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