【自主レポート】 |
第35回佐賀自治研集会 第1分科会 住民との協働でつくる地域社会 |
公園経営の取り組みの1つである「なごやかベンチ事業」。他都市では10年以上前から類似事業が行われているが、事例を比較検討することで、より喜ばれる商品(制度)を設計することができた。本レポートでは、寄附を単に「お願いする」ものとして捉えず、市民が持つ「想いに応える」ことをテーマにした一連の過程を示すとともに、事業を企画・実践していく上でのキーワードをまとめている。 |
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1. はじめに
これは、「なごやかベンチ」に寄せられたメッセージの1つである。メッセージには寄附者の名前を入れることが可能であるが、この方は匿名で「鶴舞公園のファン」としている。メッセージにあるように、鶴舞公園に対してとても愛着を持っていることが伝わってくる。このような心あたたまるメッセージが、新しいベンチ50基とともに名古屋を代表する公園に誕生した(図1参照)。
先行事例である東京都の「思い出ベンチ事業」によって設置されたベンチを実際に見に行くと、日比谷公園、代々木公園、井の頭公園、上野公園と、気がついたら合わせて100以上の寄附者のメッセージを写真に収めていた。東京都の事業の目標の1つとして「公園を訪れた人たちは、メッセージに興味を持ち、公園を楽しみながら散策する」とあるように、1つ1つのメッセージを見て歩くだけで楽しかった。子どもへ、親へ、亡くなった大切な人へ、短いメッセージであるがその背景にある想いが伝わってくるメッセージが多いのに気がついた。 なごやかベンチ事業は、市民や事業者の方からの寄附によって都市公園にベンチを設置するもので、寄附いただくベンチに、寄附者のメッセージを記したプレートを取り付ける事業である。本稿は、なごやかベンチ事業について一連の記録と考察を記すものであるが、新たな公園経営の取り組みを企画・実践していく上で少しでも参考になれば幸いである。 |
2. 課題の整理とテーマ設定 (1) 課題とマーケティング 次に、ベンチやプレートのデザインに関してである。東京都のベンチは寄附ベンチ事業用のオリジナルデザインであるが、他の都市の場合は大体がメーカーの既製品のベンチの中で少し高級感あるシンプルなものを使用している。全体を見ると飽きのこないシンプルなデザインの方が好まれる傾向にある。 ベンチ本体同様、プレートも様々なものが使用されている。東京都のように真鍮製で文字がしっかりエッチングされたものから、ステンレス製でやや簡易に見えるプレートまでデザインも多様である。 2点目の営業・広報に関しては、寄附商品の考え方やPR方法の違いである。寄附ベンチ事業を行うほとんどの都市ではベンチのみの寄附募集を行っているが、東京都江戸川区では他の公園遊具などと共にカタログ化している。また、東京都のようにしっかりとデザインしたパンフレットを用いてPRすることは少ないようである。 以上のような違いが見られるが、名古屋市で効果的に事業を進めていくため、先行事例を参考にしながら望ましいテーマを検討し、設定したことについて次項で説明する。 (2) テーマの設定(寄附商品として求められるもの) |
3. 具体的な取り組み (1) 仕組み |
寄附者からの申込みからベンチ設置までの一連の流れは図2に示すとおりである。特徴は、通常の寄附の受付と異なり、中間に一般社団法人日本公園施設業協会(中部支部)が存在するという事である。
(2) 商品開発
事業の仕組みづくりで最も注意したのが「寄附金控除」に関する税務署(国税局)への確認である。通常、地方公共団体への寄附については、確定申告を行うことによって寄附金控除の適用を受けることができる。しかしながらこの事業において疑問となるのは、寄附金を市が直接寄附者から受けず、日本公園施設業協会を間に通す点である。同じ仕組みである東京都においても税務当局の確認を受けており、名古屋市でも同様に認められるか名古屋国税局へ確認する必要があった。 確認に向けた相談や調整に3か月以上を要したが、結論としてベンチが公園利用者に供されることや、記念プレートが広告に当たらないこと、名古屋市が寄附を受けた事実として物件受領書を寄附者へ発行することなどから、寄附金控除の適用を受けられる旨の回答を得ることができた。 また、合わせて工事費も寄附金額に含めることができるかも確認している。東京都の場合はベンチの製品代のみであったが、名古屋市の場合は設置工事費も寄附金額に含めることを検討していたためである。 |
4. 寄附の募集開始と反響 第1期の設置対象は、名古屋市が設置した第1号の都市公園であり、また、市政アンケートにおいて「一番好きな公園」として最も多くの市民が答えた鶴舞公園で募集を行った。募集期間は2013年2月1日から2013年6月28日までの5か月間、価格を背付きベンチ195,000円、背無しベンチ145,000円に設定した。申請書は、寄附者の利便性を考え、窓口への持参や郵送のほか、ファックスや電子メールでの申し込みも可能とした。
また、メッセージが上手く作文できないという方からの相談には、寄附の動機や公園への想いを聞き取りし、文案をこちらで作成することもあった。このような特別な例でなくとも、プレートへの記載完了イメージを送付し確認いただくなど、寄附者とのやり取りを丁寧に進めるよう心掛けた。 ベンチの現地設置完了の報告と寄附への感謝を伝えるため、鶴舞公園の納涼まつりの日に合わせ寄附者を公園に招待し、ベンチで記念撮影会を行った。事務的には物件受領書を送付すれば完了であるが「市民や事業者の持つ想いを綴るサービスを創意工夫する」というテーマからしても感謝を形にしたいと考えた。後日、物件受領書と一緒に撮影した記念写真(欠席された方へはベンチの写真)とそれぞれのメッセージプレートの写真をお送りした。ちょっとした工夫ではあるが、わざわざお礼の電話をいただくなど喜ばれるサービスとなった。 後日、鶴舞公園のなごやかベンチの様子を見に行くと、たくさんの人がそれぞれ思い思いに居心地の良いベンチを見つけて座っていた。公園を愛する市民・事業者・行政の3者がつながる「なごやかベンチ」となった。 |
5. おわりに なごやかベンチ事業は、東京都の思い出ベンチ事業をベンチマークとして開発した事業である。そこには単に真似をするというだけではなく、なぜ成功したのか、換言するとなぜ寄附者に受け入れられたのかを考えたからこそ多くの寄附者に賛同いただけたのではないだろうか。快適なベンチを提供したいという行政職員の気持ちだけでなく、公園に対する市民や事業者の気持ちを表せる「思い出になる商品」にできるかがポイントであった。
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