1. はじめに
これまでの直営による公園管理は、ハード面での定常的な作業が中心でしたが、多様化する市民ニーズに応えていくには、市民に安心して安全かつ快適に公園を利用してもらうためのサービスの提供と、公園や緑を質・量ともに充実させていこうとする、自主的な市民活動等とのパートナーシップの形成が必要です。
一方で、公共緑地(公園)は市民のものであり、行政は市民の財産である公共緑地(公園)を管理する責任を担っています。今後、市民の自主性を尊重し、かつ財産を有効に活用していくためには、市民を主役とした事業の運営がますます重要となっています。
この間大阪市では、公園管理や緑化普及は、直営作業を主体に愛護会をはじめとした地域団体や企業、緑化リーダー・グリーンコーディネーター等の協力のもと、取り組みを進めてきました。
大阪市従業員労働組合公園支部として、今後も、人と環境にやさしい地域コミュニティの拠点としての公園や緑を、持続的に発展させていくため、コーディネートやサポートを軸とした役割を公園事務所が担い、市民が主体となって活動を行う協働事業について提言します。
2. 大阪市の状況
(1) 大阪市緑の基本計画
大阪市が策定中の「緑の基本計画(改訂版)」の基本理念に「みどりの魅力あふれる大都市・大阪」を掲げています。しかし、市街地及びその周辺を自然の緑に囲まれた横浜市や神戸市等とは異なり、大阪市は市街地の大半が沖積平野からなり、しかも急速な市街化によって緑やオープンスペースの確保が十分なされてこなかったという、歴史的、地形的経過を有しています。
大阪市緑の基本計画とは、
① 地球と人にやさしい、だれもが住みたいと思う"みどりの基盤"の構築
② みどりを市内及び周辺につなげていく"みどりのネットワーク"の構築
③ 大阪の個性を特徴づける自然・歴史・文化の"みどりの骨格"を形成
④ 大阪の潜在力を活かし、"みどりの都市魅力"の創出
⑤ 市民・事業者・行政が将来像を共有し、みどりのまちづくりを推進する"仕組み"を構築
の5つの基本方針からなります。①~④についてはハード整備を伴うものが中心で、緑のボリュームを実感いただく指標である「緑被率」を高めるために、壁面緑化や屋上緑化を推進しています。しかし、公園を新たに整備するには用地の確保が不可欠であり、昨今の経済情勢等を鑑みると莫大な経費が必要となります。一方、⑤についてはソフト整備に分類されます。
(2) 公園緑化事業の現状
2006年に市政改革本部が主導した公園緑化事業の「事業分析」が出されました。当時の大阪市は、公務員厚遇化問題がメディアで大きく取り上げられ、とりわけ現業部門に対する厳しい評価が示されていました。
この「事業分析」は、横浜市をはじめとした政令指定都市における公園緑化事業に携わる直営範囲を比較検討し、その結論として、大阪市の公園現業職員は現行の4分の1で事足りるとされましたが、人件費のみを比較した偏った分析であることと、委託費をはじめとした物件費が他都市の2分の1~3分の1であることが伏せられるなど、まさに大阪市による現業減らしのための分析でした。
これを受け公園支部として、これまでの公園現業の職域にこだわっていては未来がないと判断し、対案参画として、私たち自身でこれまでの仕事を見直す「直営業務再編プロジェクト」を本局で立ち上げました。
そして、直営業務再編担当課長の下に、主任級以上によるプロジェクトチームを編成、1年間で見直し案を完成させるとともに、その案に基づいて、業務執行体制を確立していくことを支部-局間において労使合意しました。
(プロジェクト最終報告から抜粋)
① 大公園については順次指定管理者制度へ移行
② 小公園については樹木・除草業務について民間委託
③ 安心・安全・快適に利用できる公園管理のための業務維持
④ 公園緑化に関する市民活動の窓口業務のさらなる推進
以上を業務の方向性としてまとめ、現業管理体制の下に現業職員が行政職エリアにも踏み込み、公園事務所所長が係長級の公園職場(当時10事業所のうち4事業所)について、現業職員で管理運営していくことを目標に、従来の現業職域に固執しない「職の確立」をめざしました。
3. 公園支部における現業職員の業務と役割
(1) 大公園の維持管理業務
大公園における樹木の剪定や刈り込み、除草や潅水、花苗の植え付けなどの植物の維持管理や、施設管理を含む一般管理業務を行っています。
加えて、それぞれの大公園で専門的な管理技術を必要とする植物(バラ・花菖蒲など)の生育や展示も行っています。
(2) 緊急対応業務(安全管理班・施設管理班)
市民に安全・安心な公園を提供するために、公園の巡視点検などの安全対策を行うとともに、市民からの要望・苦情の処理、現場立会、各種調整などの初期対応業務や、施設保全にかかるメンテナンス・公園施設の補修・撤去などの施設管理業務も行っています。
(3) 適正化対策業務
公園内に起居する野宿生活者との面談を行い、自立支援策につなげていくとともに、公園内における新たな野宿生活を防止するための巡回、指導・相談業務を行っています。
併せて、公園の不法占拠や不正使用に対する対策業務を行っています。
さらに「公園ねこ適正管理サポーター制度」は、排除ではなく共存の発想で注目されています。
(4) 電気設備維持管理業務
施設保全にかかるメンテナンスや消耗部品の交換、老朽化した設備の更新など、公園・スポーツ施設等に関連する電気設備の維持管理業務を行っています。
(5) 民間委託業者への監理監督業務
小公園の樹木維持管理や除草業務などの委託化に伴い、委託業者への指導・監督業務、樹木管理に関する市民からの要望・苦情の対応、現場立会、各種調整などの対応業務を行っています。
(6) 事務業務
日常的な事務業務や、イベント開催における各種調整業務など、行政職の業務エリアに踏み込んだ業務を行っています。
(7) 動物園飼育業務
天王寺動物園における「種の保存と環境教育」を柱とした動物飼育・展示業務を行っています。
(8) 局本課
公園緑化部の現業職域に関わる統括業務を行っています。
(9) 企画調整業務
技能職員が培った技術を活かし、スタッフ職として市民ボランティアの育成、緑化普及啓発の市民協働の推進、
区と連携しながら公園緑化事業にかかる地域の自律的運営のサポート業務等を行っています。
4. 企画調整業務について
(1) 体制と業務内容
◇局企画調整担当:3人
◇公園事務所企画調整担当:38人(10事業所)
① 局(本課)企画調整担当の具体業務
◎各公園事務所企画調整業務の総括
企画調整会議(月1回)、市民ボランティア活動支援助言業務担当者会議(年6回)
バラ実務担当者会議(年4回) その他
○総合的な地域緑化の担い手としてのグリーンコーディネーター(GC)の育成と運営
・年間36講座、2012年度末までに308人認証
○ネットワーク事業(各区の緑化ボランティアの横断的な交流と啓発事業推進)を推進
・はならんまんの開催、民間とのコラボによる普及啓発イベントを調整
○広報活動~緑化普及啓発広報紙「ひふみ」を月1回定期発行
・各公園事務所企画調整担当業務主任から編集担当者を選任し、管轄する地域の公園愛護会活動や緑化ボランティア活動等の記事提供、広報紙の編集発行に向け月1回広報紙編集担当者会議を開催
・月7,000部発行し、各区役所、公共施設、公園愛護会長、公園緑化ボランティアに定例的に配布するほか、各種イベント等で啓発を目的に配布
○局技能職員研修の実施
・具体実施にあたっては、公園事務所企画調整担当部門監理主任が研修担当主任を兼任し、研修担当者会議を適宜開催
② 公園事務所の具体業務
◎地域の公園は地域が主体となって管理していくことをめざすための業務
○公園愛護会等市民ボランティア活動支援・助言業務
*公園愛護会は876公園で活動
・月1回の愛護会巡回、地域からの要望等を連絡調整
・公園愛護会と学校園との連携による地域ふれあい清掃等を調整
・愛護会が主体となった公園の活性化・緑化(ふれあい花壇事業等)を推進
・愛護会を対象とした遊具の安全利用講習会の実施
・草刈り機の安全講習と安全な草刈り作業の啓発
(2) 企画調整業務の効果
① 定期的な巡回により顔の見える関係を構築出来ています。
予算等の問題で即対応できないことの調整や、新たな制度の展開を公園で進める際、公園愛護会との調整が円滑に出来ています。
② 愛護会が主体となったふれあい花壇の実施により、公園の花と緑のボリュームアップが出来ています。
③ 遊具の安全利用講習会実施により、愛護会員による事故防止に向けた見守りの意識が向上しています。
④ 草刈り機の安全講習会及び貸出し実施により、公園維持管理の除草にかかる苦情が減少しています。
⑤ 地域ふれあい清掃等、公園をフィールドに地域の世代間交流を促進し、やりがいにも結び付いています。
⑥ 公園愛護会役員が地域団体の役員を兼ねることが多く、地域の実情や課題の把握だけでなく、公園緑化事業について地域理解を求める場合、円滑に進めることが出来ます。
5. 企画調整業務の課題と今後の対応
(1) ハード整備・ソフト整備の現状と課題について
① ハード整備については、現在の大阪市財政では予算的に新たな公園整備が極めて困難な状況です。
市民参画による新たな公園をつくる「わくわく公園づくり」についても凍結中、既存公園のリフレッシュ事業も必要最小限に抑えられています。
そのような状況の中、緑のボリュームを実感する指針「緑被率」を高めるため、壁面緑化や屋上緑化を推進しています。
② ソフト整備については、花と緑の担い手として緑化リーダー(3,700人)、総合的な地域緑化を推進するグリーンコーディネーター(現在308人)等の緑化ボランティアを育成しています。
今後も、緑化ボランティアを中心に、市民主体の地域社会づくりの実現に向け、公園緑化事業にかかる市民ボランティアとの取り組みも進めていきます。
(2) 自律的な地域運営の一環としての公園管理への関わりについて
地域のことは自らの地域が決める自律的な地域運営の実現に向け、従来の地域振興会を改編し、小学校区(約300)を基本とした地域活動協議会(地活協)が、2013年度末に全区でスタートしました。今後、地域単位での公園緑化事業を推進していく上で、現在の区長権限が強化された状況下では、区役所の意向を踏まえつつ、直営・委託・地域管理の区分と必要な予算の確保が求められています。
(3) 市民協働による総合的な緑化推進について(街路緑化ボランティアの検討)
他都市では、街路景観を高めるとともに駐輪対策も兼ねた街路花壇の取り組みがありますが、大阪市では街路愛護会的なものが系統的に組織化されていなかったため、全市的には取り組みが進められていません(西成区で一部実施)。また、現在、緑化ボランティアの自発的な要望で、港区内磯路地区で低木や地被類主体の街園を花壇化する取り組みが行われています。
さらに地活協の結成を受けて、点の緑化(公共施設・民間施設、公園等)と線の緑化(街路)を結び面の緑化(地域全域)を検討していきます。
(4) 担い手の育成
市民にとって安心・安全な公園利用を担保するため、プロジェクト報告に基づき、直営による維持管理作業から監理監督業務へ、さらに花と緑のまちづくりを推進していくために、植木職から公園緑化事業全般のコーディネーター業務へ転換を図ってきました。
これまでは、先人たちの経験を財産にして企画調整業務を担う職員のスキルアップを各公園事務所で取り組んできましたが、今後は公園緑化部がめざすべき方向を明確にして、技能職員研修のあり方も含めて事業の継続性と、そのための人材育成のあり方を整理していく必要があります。
6. 今後の方向性
冒頭でも述べましたが、大阪市は地理的条件から、自然の緑を活かした都市形成が困難の中、多額の予算を投入して緑を形成して来ました。
しかし90年代以降、景気が長期的に低迷し、市税の落ち込みが続く中、投資的経費が大幅に削減され公園緑化事業も、その影響を大きく受けています。「新規事業=新規要員」の時代はすでに終わり、今ある緑をいかに活用して、持続可能なまちづくりにつなげていくのかが大きな課題です。
また、環境保全・地域コミュニティの核・防災等、公園や緑が果たす社会的役割は大きなものがあります。このようなことからも、今後の公園職場における技能職員の雇用を守っていくためには、技能職員が培った技術を活かし、前述した公園・緑の社会的役割を着実に実行していかなければなりません。そのためにも、市民ボランティアの育成・緑化普及啓発・市民協働の推進することで、企業や市民との連携を深めるとともに、公園緑化事業にかかる地域の自律的運営をサポートするなど、市民を中心とした地域における公園緑化事業に対して、どれだけ深く関わっていくことが出来るかが重要です。
同時に、広域避難所に指定されている多くの公園を管理していく立場から、阪神・淡路大震災や東日本大震災の教訓を生かし、災害時に迅速に対応できるようなスキルを身につけていくことも、将来的な技能職員の確保、さらには『職の確立』へと繋がると考えます。
7. まとめ
2014年は、橋下市長らによって進められている大阪都構想が、具体化するか否かの分水嶺となります。乱暴な制度設計によって、都構想自体がいつ崩れるかもしれない状況であるものの、一方で大阪府・市ともに、財政的に非常に厳しい状況下は変わりません。したがって、住民にとって必要かつ重要な公共サービスの切り捨てやコスト論に拍車がかかり、現業部門の民営化や切り捨て攻撃が、より一層進められることが安易に予想できます。しかし、このような状況であっても、反橋下・維新の会の視点のみではなく、今一度市民・地域住民の立場に立って、本当に必要な公共サービスとは何か、あるべき市政改革をどのように再構築していくのか議論を行いつつ、現業職場のあり方を現業労働者自らが見つめ直し、事業の「選択と集中」を明確にした、直営堅持の理論根拠を明らかにしていく必要があります。
大阪市従公園支部は、公園職場が私たちの「働く職場」であると同時に、住民生活に密着した「花と緑あふれる都市におけるオープンスペース」として、市民協働による公園づくりを進めることで、失われつつあるといわれる地域コミュニティを再構築するとともに、その地域社会のあり方についても、改めて創造することのできる仕組みづくりを推進していきます。例えば、公園の利用者と周辺の住民とは公園に対するニーズが異なり、その捉え方も違っています。職員が仲介することで問題の解決を図るのではなく、住民同士がさまざまな価値観をお互いぶつける中で、問題の解決策を見い出すことのできる人間関係を構築するとともに、公園(地域)が自分たちを表現出来るスペースであると意識していただけるよう、今後もサポートしていきたいと考えています。さらに、これらの実践によって現業職員による直営業務が、真に住民からも必要とされることで、大阪市の公園緑化事業にも存在し続けることができると考えています。
今回紹介させていただいた市民協働事業を、これからも具体的に推進していきながら、地域住民とともに「共にやりがいのある公園(地域)づくり」を実践していきます。さらに、労働組合として、市民に必要とされる職の追求を引き続き行う中で、今後の公園緑化事業における技能職員の役割・必要性を明確化するとともに、どのような情勢下でも揺るがない公園職場の『職の確立』に向け、全力で取り組みを進めていきます。
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