【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 大阪市職員労働組合は商店街の空き店舗を活用して、市民交流スペース「みつや交流亭」の運営に取り組んでいる。2011年から地域と商店街の協力を得て、大阪市音楽団をはじめ多彩なジャンルの演奏者が参加する「三津屋音楽祭」を開催している。市民交流スペースを通じた、地域、市民、演奏者との協働の取り組みについて紹介したい。



地域・市民との協働による商店街音楽祭の開催


大阪府本部/大阪市職員労働組合

1. はじめに

 大阪市職員労働組合(大阪市職)では、大阪市淀川区三津屋の商店街空き店舗に開設した市民交流スペース「みつや交流亭」のネットワークを活用して、2011年より毎年商店街で「三津屋音楽祭」を開催している。大阪市音楽団の団員で構成される大阪市職教育支部音楽団分会をはじめ、様々なジャンルの演奏者、地域団体、商店街との協働で、ユニークな音楽祭となっている。


2. きっかけ

写真1 アンサンブル・ギリビッツォによるみつや交流亭での
    演奏(落語deカルチャ

 きっかけは、2010年春、三津屋商店街にある飲食店での、三津屋生まれ三津屋育ちのアマチュア演奏家である山科克佳さんの「音楽で地域、とりわけ商店街になにか貢献できないだろうか」というつぶやきだった。飲食店店主から「何か面白いことが実現できる場所」として「みつや交流亭」を紹介され、山科さんが交流亭で開催されたイベントに参加した。イベント終了後の交流会でヴァイオリンの演奏を披露すると、その場で定期的に交流亭が開催している「落語deカルチャ」への出演が決まった。「落語deカルチャ」は交流亭理事でもある笑福亭仁勇さんと様々な文化イベント・講座とのコラボ。山科さんが所属する室内楽団「アンサンブル・ギリビッツォ」から弦楽四重奏での登場となった。その後の交流会で、商店街で音楽祭をできないだろうかという話になった。
 みつや交流亭では、それまでも様々なジャンルの音楽の演奏会を開催してきたが、外から来る人が増えることによる商店街への好影響は期待しているものの、主目的は参加者に楽しんでもらうためだった。しかし、音楽で地域や商店街に貢献するという発想ははじめてのものだった。しかも、「三津屋音楽祭」のようなユニークなイベントを開催することになるとは、この時点では関係者のだれもが思いもよらないことだった。


3. 大阪市音楽団有志の参加

 大阪市には、「市音(しおん)」の愛称で親しまれ、日本で最も古い歴史とトップレベルの演奏技術を誇るプロの吹奏楽団「大阪市音楽団」がある。独特の「市音サウンド」が高く評価されるとともに、他都市にはない自治体直営の吹奏楽団として、これまで中学校や高校の吹奏楽部への指導などの教育的事業、市民コンサートなどによる市民への文化啓発的事業、福祉施設でのコンサートなどの福祉的事業など、特色のある活動を行ってきた。団員は自治体職員(音楽士)であり、大阪市職の組合員(大阪市職教育支部音楽団分会)でもある。
写真2 市音有志によるみつや交流亭での演奏
    (第2回三津屋音楽祭)
 大阪市職本部から教育支部を通じて音楽団分会に三津屋音楽祭への参加を打診したところ、団員有志が組合活動としてボランティアで参加していただけることになった。また、団員も自治体直営の楽団として地域と連携した市民協働の活動を模索しており、音楽祭の企画段階から実行委員として参加していただけることになった。ここから、とんとん拍子で音楽祭が実現化していくこととなった。

4. 実行委員会の立ち上げと企画

 実行委員会には地域、商店街、みつや交流亭、演奏者と多彩なメンバーが参加。委員長には地元連合町会会長になっていただき、市音からも団員が参加することとなった。

◆三津屋音楽祭実行委員会メンバー
実行委員長 泉水 清(三津屋地域振興連合町会会長)
実行委員 ▼地域・商店街 金谷豊光(三津屋商店街振興組合理事長)、辻本正彦(三津屋連合子ども会会長) ▼演奏家 山科克佳(アンサンブル・ギリビッツォ)、松本真珠(琴演奏家)、石井徹哉(大阪市職教育支部音楽団分会分会長)、山口 潤(大阪市音楽団)、高畑次郎(大阪市音楽団) ▼みつや交流亭 片寄俊秀(特定非営利活動法人みつや交流亭理事長)、辻本みゆき(子育てサークル「育児&育自 この指と~まれ」代表)、味方慎一(特定非営利活動法人もみじ理事長)、笑福亭仁勇(落語家)、乃美夏絵(タウン誌『ザ・淀川』編集長)、仁井宏有(大阪市職政策局次長)、山田俊文(大阪市職市民協働部長)、福田 弘(大阪市職政策局書記)

 以後、月に一度程度のペースで交流亭に集まって実行委員会を開き、一緒に企画を練った。まず共通認識として確認したのが、あくまでも地域・商店街に密着した音楽祭にしたいということだった。そして、演奏者の視点で、地域住民が日常見慣れた商店街の店舗や空間の魅力を再発見してはどうか、ということになった。
 地域、商店街、NPO、自治体労働組合と様々な立場からアイデアを出し、議論した結果、商店街アーケード下を1日限りの劇場に見立て、その各所で演奏を行い、商店街の北から南へ観客が順番に会場を移動していくという、ユニークなスタイルが考え出された(タイムテーブル参照)。
 企画の過程では、それぞれの意思疎通がうまくいかない場面などもあったが、交流亭が間に入ることによって調整することができた。それぞれの立場を背負いながらも、同じ交流亭のメンバーであるという、交流亭の特色が発揮されたのだろう。

5. 三津屋音楽祭の開催

写真3 SUZAKU NO.5による商店街マーチング
    (第2回三津屋音楽祭)
 2011年10月、第1回の三津屋音楽祭が開催された。
 司会は淀川区で地域活動もされている笑福亭仁勇さん。ジャグバンドによる商店街賑やかしマーチングから音楽祭は開幕した。商店街にあるデイ・サービスセンター「生活(いきいき)屋」のサロン「おいで屋」、商店会館、みつや交流亭と、会場を聴衆とともに移動しながら、琴、弦楽四重奏、吹奏楽など多彩なジャンルの演奏を楽しんだ。
 フィナーレは、商店街に隣接した三津屋小学校体育館に集合。三津屋連合子ども会の音楽クラブと市音のコラボが実現した。じつはこの音楽クラブは、2013年のNHK全国学校音楽コンクール近畿ブロック大阪府コンクールで金賞を獲得するという実力派。音楽クラブを指導していただいている三津屋小学校の先生の理解もあって、コラボが実現することとなった。日本を代表するプロの吹奏楽団との共演に、子どもたちもとても楽しみにしてくれていたようである。
写真4 市音と子ども会音楽クラブとのコラボ
    (第1回三津屋音楽祭フィナーレ)
 会場については、地域団体ではないNPOが小学校の施設を借りることは難しいが、子ども会に協力していただいて、地域主催の文化祭「三津屋文化のつどい」の会場をお借りするというかたちでの実現となった。冒頭、音楽祭実行委員長の泉水連合町会長から、「いろんな演奏者が三津屋のまちに来てくれた。外からの刺激でまちを活性化していこう」との挨拶があった。音楽クラブと市音の競演によって、音楽祭は感動的なフィナーレとなった。
 大阪市職も機関紙を通じて組合員に対して音楽祭のボランティアスタッフの募集を行い、会場の設営等に協力している。
 三津屋音楽祭は第2回、第3回と回を重ねているが、聴衆が商店街を移動しながら演奏を聴くというスタイルは変わっていない。しかし、音楽祭弁当や音楽祭缶バッジの販売など新しい試みも行っている。また、市音のホルン奏者の発案で、次の会場への受け渡しを古来伝達手段でもあったホルンで行うなど、「アーケード下の劇場」の魅力を発揮する様々な試みも行われてきた。このように商店街を劇場に見立てるというコンセプトを維持しながら、新しい試みもしている三津屋音楽祭だが、今後の課題としては、グッズ販売等による収益力の向上と、地域や商店街への影響の拡大があげられる。

◆これまでの三津屋音楽祭の出演者
第1回(2011年10月30日)
ザ・ランチタイム(ジャグバンド)、ザ・直球サプライズ(おやじバンド)、松本真珠&青島経善(琴&二胡)、アンサンブル・ギリビッツォ(室内楽)、大阪市音楽団有志(吹奏楽)、三子連音楽クラブ(合唱)
第2回(2012年10月30日)
SUZAKU No.5(鍵盤ハーモニカアンサンブル)、わく本初美と仲間たち(ゴスペル)、松本真珠(琴)、アンサンブル・ギリビッツォ(室内楽)、大阪市音楽団有志(吹奏楽)、三子連音楽クラブ(合唱)
第3回(2013年10月27日)
はなしか連(阿波踊り)、わく本初美と仲間たち(ゴスペル)、松本真珠(琴)、アンサンブル・ギリビッツォ(室内楽)、クリンゲン・ホルン・アンサンブル(ホルン)、ナグチャンプルー(沖縄音楽+ジャンベ)、大阪市音楽団有志(吹奏楽)、三子連音楽クラブ(合唱)

6. おわりに

 大阪市音楽団は現市長の方針によって条例が廃止され、今年4月から大阪市直営ではなくなり、一般社団法人として活動することとなった。大阪市職としても直営が継続され、自治体職員として特色のある活動ができるよう各方面へ働きかけてきたが、残念ながら方針を撤回させるまでに至らなかった。一般社団法人化にともなって、団員は自治体職員の身分がなくなり、労働条件も大きく低下したなかで、市民コンサートの開催や中高生への演奏指導など活動を続けている。厳しい状況であるが、大阪市職としても市民に親しまれ、三津屋音楽祭のように音楽で大阪を元気づける吹奏楽団であり続けてほしいと願っており、今後も何らかの協働の取り組みができればと考えている。
 三津屋音楽祭では、労働組合、商店街組合、NPO、地域住民など様々な主体が参加する「みつや交流亭」が、協働をとりもつ「プラットフォーム」として機能した。様々な調整とともに、市音から参加した実行委員が「地域のみなさんと直接話し合いながら企画するのははじめての経験で、大いに刺激になった」と語っているように、住民の視点と演奏者の視点とがお互いに刺激し合って、他にないユニークな音楽祭になったのではないかと考えている。最高の条件で最高の演奏を、という希望をプロの演奏家が持つことは当然だが、一方で地域との協働自体に関心を持ち、地域住民にとっては日常的な商店街を「劇場」として活用するアイデアを出してもらったことは大きな成果だった。
 大阪市の地域組織として設立された「地域活動協議会」にも「みつや交流亭」が地域の特定非営利活動法人として参加することとなり、今後も様々な活動を通じて地域・商店街と連携した市民協働の取り組みをすすめていきたい。




<参考文献>
片寄俊秀『おもろい商店街のなかのメチャオモロイみつや交流亭物語』NPO法人みつや交流亭(2014年)