1. 佐賀県の消防団の現状
佐賀県の消防団は、消防団組織率(人口1,000人あたりの消防団員数)で全国一ですが、消防団員数は全国的な傾向と同様に減少傾向にあり、10年で1,440人、20年で3,046人減少しています。
これを県内の市町別に見ると、大きく減少している市町もあれば、横ばい又は微増の市町もあり、市町毎、地域毎に団員数の推移が異なることがわかりました。
また、団員のうち、約76%が被雇用者であり、全国の約72%と比較しても高く、平日昼間の動員力が課題となっています。
さらに、団員の年齢構成を見ると、1983年は20代以下が約43%、40代以上が約10%だったのに対し、2013年では20代以下が約25%、40代以上が約30%と高齢化が進展し、若手団員の確保が大きな課題となっています。
2. 佐賀県消防団員確保対策検討会の立ち上げ
消防団員の減少、団員の被雇用者化、高齢化が進んでいることから、将来を見据えた地域防災力の確保に向けた検討を行うことが急務であるとの認識に立ち、消防団員の確保、消防団活動の充実を図るため、県、市町、県消防協会、県消防長会で構成する「佐賀県消防団員確保対策検討会」を2013年2月に立ち上げました。
この検討会の中では、
① 県内全消防団員19,516人に対するアンケートの実施 (回答率約70%、全24項目)
② 全市町消防団員との意見交換会 (全20市町、参加者253人)
③ 事業所ヒアリングの実施 (12事業所、2組合)
を実施し、団員の声を拾い上げ、現状・課題を整理し改めて分かったのは、多くの地区で消防団員の確保は厳しい状況にあるということ。また、その事情は様々で、取り組むべき課題は多岐にわたり、「これさえやれば」という画一的な、また、特効薬的な対策はなく、それぞれの事情・課題に応じた対策を複数方向から講じ、粘り強く取り組んでいく必要があるということです。
これらの結果を受け、検討会では2本の柱と12の必要なことを設定し、県、市町、県消防協会がそれぞれ必要な施策を講じることとしました。
3. 佐賀県の取り組み
佐賀県消防団員確保対策検討会の取りまとめ結果を受け、佐賀県では次の事業に取り組むこととしました。
① 消防団PR事業
消防団の必要性、重要性等を県民に広くPRし消防団のイメージを改善するため、若年層をターゲットとし、佐賀県出身のガールズバンド「たんこぶちん」を採用したテレビCM及び市町毎に消防団員が出演するテレビCMを製作し放送するとともに、YouTubeやTwitter、Facebook等のSNSを活用したPRを行っています。
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消防団CM |
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新聞広告掲載例 |
また、家族の理解促進や団員のモチベーションアップのため、新聞1面の突出し広告欄に団員や団員の家族等を顔写真入りで紹介するとともに、新聞中面の広告欄では分団又は部の紹介を、2~3日に1回の割合で掲載しています。
② 市町、県消防協会の取り組み支援
検討会のアンケートや意見交換会での団員の声に基づき、各市町及び県消防協会がそれぞれの実情に合わせて実施する消防団員確保対策事業に対する取り組み支援として補助金制度を導入しました。
③ 県職員の入団促進
県職員で構成する佐賀市消防団県庁部を発足し、勤務時間中の平日昼間に活動を行うことにより、県職員に対し消防団活動のPRを行い、入団促進を図ることとしました。
また、新規採用職員に対する研修の中で、消防団の紹介を行ったほか、庁内イントラの掲示板に消防団CMを掲載し入団促進を図っています。
4. 佐賀市消防団県庁部の発足
(1) 発足の経緯
検討会のアンケートや意見交換会の中で団員が抱える課題として多かったのが、サラリーマン化(被雇用者化)による平日昼間火災の団員動員力が困難な事、このため平日昼間火災における自営業者の負担が大きくなっていることが上げられました。
一方で、サラリーマン団員からは、勤務時間中は地元ではなく、勤め先周辺でなら消防活動ができるとの意見もあったことを踏まえ、平日昼間の消防力維持のための方策の一つとして、事業所に機能別分団の役割を担っていただくことも有効ではないかと考えました。
しかしながら、佐賀県内には機能別分団として活動する事業所の例がなく、ノウハウがないことから、まずは、多くの現役消防団員、OB団員が在籍し、平日昼間は県庁(本庁)所在地の佐賀市城内に勤務している県庁自らが取り組むこととしたところです。
(2) 発足にあたっての準備等
発足にあたり、佐賀市消防団の設置者である佐賀市をはじめ、佐賀市消防団の幹部と協議を行ったところ、佐賀市からは「大賛成! 是非取り組んでいただきたい。」と大変好評で、さらには消防車両及び活動服等の資機材についても佐賀市に準備していただけることとなりました。
団員の構成としては、基本団員ではなく、活動する機能を限定した支援団員(機能別団員)の取扱いのため、佐賀市の条例で定められた「消防団員若しくは消防吏員としての経験が5年以上ある者又はこれらに準ずる経験を有すると団長が認める者」の条件を満たす必要があるため、佐賀市以外の市町で活動している現役消防団員又は消防団OB及び消防業務従事者として消防防災課職員現職、OBの25人で構成することとしました。
団員の募集にあたっては、現役消防団員又は団員OBを探すことから始まり、県にプラスワン活動として報告している職員に直接声をかけ、県庁部発足の趣旨を説明し、入団していただきました。
この現役消防団員の入団にあたっては、居住地団員と勤務地団員の2つの市町でそれぞれの消防団員として任命することとなるため、報酬、出動手当、退職報償金の取扱いについて、消防庁へ確認を行いました。
消防庁からは、報酬及び出動手当については、それぞれの消防団から受給して差し支えないこと、退職報償金については、主となる一つの消防団で支払を行う旨の回答をいただきました。
なお、勤務時間中における消防団活動の取扱いについては、2005年に県職員課が県人事委員会事務局に対し、包括協議を行い、職務免除の取扱いの承認を得ているため、職免での取り扱いが可能となっています。
(3) 発足式
2014年4月7日に県庁の県民ホールにて、県の防災監である副知事をはじめ、佐賀市消防団の幹部等が出席して発足式を行いました。
この発足式では、佐賀市消防団幹部からの辞令交付、訓示、県庁部部長の新入団員としての宣誓のほか、消防庁長官からもお祝いのメッセージを頂きました。
発足式へは多くのマスコミが取材に来られ、新聞やテレビ等で大きく報道されました。これは、消防団に対する関心、期待が大変大きいことがわかると思います。
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発足式集合写真 |
発足式新聞記事 |
(4) 訓 練
発足後、消防団員としての知識や技能の習得及び向上を図るため、消防団教育訓練を県消防学校にて2回行いました。
本訓練では、消防団員としての基礎となる各個訓練のほか、佐賀市消防団で装備しているポンプの取扱いや佐賀市の消火活動、放水のルール等を学んでもらうために実施したものです。
当日は消防学校教官の厳しい指導の下、団員は大きな声を出しながら基本動作の確認や、放水訓練を行い、ここでも、多くのマスコミからの取材を受け、新聞やテレビで報道されました。
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訓練新聞記事 |
(5) 初出動
2014年5月12日11時49分に佐賀市の繁華街の雑居ビルで火災が発生し、佐賀市消防団県庁部が初出動しました。
団員はあらかじめ登録している佐賀市の消防団員専用メール及び庁内放送にて火災を覚知し、活動服に着替えた後、7人の団員が消防車両で現場に急行しました。
幸いにも火災はぼやで済み、放水等の機会はありませんでしたが、現場本部の指揮下に入り活動を行いました。
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初出動新聞記事 |
(6) まとめ
佐賀県のみではなく、全国的に消防団員数が減少する中、各地方自治体では団員の確保対策に苦慮されていることと思います。そのような中、2013年12月には国において「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律」が制定されました。この法律では、消防団を「将来にわたり地域防災力の中核として欠くことのできない代替性のない存在」と規定し、消防団及び地域における防災体制の強化を図ることとされています。
この法律を受け、国をはじめ、各地方自治体でも様々な消防団の更なる充実強化のための取り組みをされていると思いますが、この、佐賀市消防団県庁部がマスコミをはじめ、他の自治体からの問い合わせも多く注目が高いことから、今回紹介させていただき、他の自治体や民間の事業所でも取り入れていただくきっかけになればと思い提言します。 |