【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 小中一貫教育が注目を浴びている現在、多久市では2013年度よりいち早く小中一貫教育に取り組み始めた。開校して1年が過ぎたが、小学校の統廃合を行い、小中一貫校を開校するまでの過程や課題を振り返り、また1年を過ぎて見えてきたメリット、デメリットを検証していくうえで、多久市として今後の小中一貫校としてめざしていくべき方向性について考えてみたい。



多久市における小中一貫校開校について


佐賀県本部/多久市職員労働組合

1. はじめに

 現在、全国的に小中一貫教育が注目を浴びているが、多久市については、いち早く2013年度より小中一貫教育に取り組んでいる。しかも、市内すべての小学校、中学校を小中一貫校としているのは、全国的にも非常に珍しい事例である。少子高齢化、国際化、情報化など急速に変化する社会の中で、人々の意識や価値観の多様化に伴い、学校教育には、従来にも増して大きな期待が寄せられている。豊かな人間性や社会性、個性を培うための基本的な事項を習得し、真の学力を身につけた、たくましい心身ともに健康な子どもたちを育むために、現在次々と教育課改革が進められている。このような教育情勢の中、多久市では2004年度に第7次行政改革大綱(2005年度~2010年度)が示され、その中で学校規模の適正化について教育委員会で検討するように指示された。これが、多久市における小中一貫校開校の始まりであった。検討理由としては、少子化に伴う児童生徒数の減少に伴い、学校行事や運営に制約が加わっている小学校があったからである。そこで、教育委員会では、2006年度に『多久市立小中学校適正規模・適正配置検討委員会』が設置され、議論された結果、新しい教育課題に対処し、教育効果をも確保できる学校の在り方として、小中一貫教育を中核とした新しい教育システムの構築が必要との提言が示された。
 多久市においては、小中一貫校開校以前は、7つの小学校と1つの分校があったが、2007年度に分校が閉校、さらに、7つの小学校を3つに統合し、小中一貫校を開校するという小学校の統廃合を伴う流れであった為、市内でも小中一貫校開校に対して賛成、反対の議論が飛び交った。特に、廃校となる地元では反対意見が根強く、何度も話し合いが行われ、住民の理解を得る努力がなされ、小中一貫校開校という運びになった。
 2013年4月1日に市内3小中学校で小中一貫校が開校し、1年が経過したが、学校現場の意見を聞くと、様々なメリットがあるとの話を聞く一方、廃校となった跡地の活用策が中々見出せず、地元住民の不満が出てきているようである。
 本レポートでは、2008年8月『多久市立小中学校適正規模・適正配置検討委員会』で出された最終答申(6つの結論)を検証し、多久市として、子ども達が主役となれる小中一貫校をめざしていくべき方向性について考えてみる。

2. 『多久市立小中学校適正規模・適正配置検討委員会』で出された6つの結論の検証について

(1) 学校の統合・再編による小中一貫校の開校について
 多久市は1954年5月1日、5ヶ町村が合併し誕生した。その影響からか、今でもそれぞれの郷土に対する愛情と誇りが強い。中でも小学校は、その多くが明治初頭に開校されたものであり、学校の統廃合により地域社会の中軸を失われることは、地域の衰退、切捨てと捉える住民も多く反対意見が相次いだ。しかし、中には児童数の減少により複式学級が行われている学校もあり、子ども達の教育環境を考えていく上では、統廃合もやむを得ないという賛成意見もあった。
 最終答申の中では、「2011年4月1日の統合を目処とする」とされていたが、実際は2013年4月1日に統合されている。統合が2年遅れた理由として、廃校となる地域住民の反対意見が大きかったと考える。
 統廃合については、市内3中学校区に基づき実施された(表1参照)。学校統廃合は、子どもたちに望ましい教育環境を提供する為にはやむを得ないが、学校が地域で果たしてきた歴史的役割や地域事情に配慮し、保護者や地域住民と十分に協議を重ねられた結果、実現されていることについては、忘れてはいけないと考える。

(表1:統合前と統合後の小学校比較)
統合前
(2012年度末の学級(特支含)・児童数)
統合後
(2013年度初めの学級(特支含)・児童数)
納所小学校(4学級・42人) 東部小学校(10学級・223人)
東部小学校(9学級・203人)
南部小学校(7学級・87人) 中央小学校(21学級・612人)
緑が丘小学校(10学級・233人)
北部小学校(14学級・323人)
中部小学校(8学級・161人) 西渓小学校(10学級・204人)
西部小学校(5学級・55人)
7学校(57学級・1,104人) 合計 3学校(41学級・1,039人)

(2) 小中一貫校開校に向けた学校建設、改修について
 小中一貫校を行うにあたって学校施設の建設、改築は必然的に行うべき事業であった。2008年8月の最終答申を受け、小中一貫校3校を開校するにあたり、学校建設事業が2009年度~2012年度にかけて行われた。それぞれの学校建築内容については、下記のとおりである。
① 東部校 (小中一体型一貫校)
  既存の東部中学校に小学部の教室が入る。特別教室は、小学部、中学部共用で使用する。施設不足分については、増築棟を建築、また、職員室等の面積確保の為、管理棟を拡張した。教室棟については老朽化の為、外壁工事、屋上防水工事、床シート張替工事を行った。また、中学部の校舎に小学部が入る為、階段を小学生の高さに合わせる等、小学生が安全に学校で過ごせるよう、内部工事を行っている。
② 中央校(小中併設型一貫校)
  既存中央中学校の東側を造成し、新たに、中央小学校を建設。北棟(3階)、南棟(2階)、屋内運動場、屋外プール、放課後児童クラブを建設、小学校の教室は、多久市教育委員会がICT教育に力を入れていることもあり、教室の中央に電子黒板を設置している。また、造成工事に伴い、市道の付替、調整池の整備等も行った。既存中学校校舎、屋内運動場についても、築25年以上経過し、老朽化し始めてきた為、主に外壁工事、屋上防水工事を行っている。既存中学校とは、渡り廊下で繋がっており、職員室、校長室、事務室は小学校校舎にある。
③ 西渓校(小中一体型一貫校)
  既存の旧中部小学校と西渓中学校間に渡り廊下を建設し行き来できるようにしている。中学部の教室は、小学校校舎に入る。中学校校舎は、主に、中学部の特別教室に使用。職員室等の面積確保の為、管理棟を拡張した。
 特に、中央校については、新たに学校を建築する必要があった為、2009年度から造成工事に取り掛かり、約4年間工事を行った。当然、多額な費用がかかり、自主財源が乏しい多久市は、歳入を主に、国費及び過疎債に頼らざるを得なかった。東部校、西渓校については、基本として既存の校舎を活用しているが、両校とも、築20年以上経過していたり、また、小中一貫校を迎えるうえで、施設面積の不足等もあったので、増築・改修工事を行っている。

小中一貫校建築に伴う費用(2009年度~2012年度)
【歳 入】                                     単位:千円

 

中央校

東部校

西渓校

国費

863,041

0

0

863,041

県費

57,340

0

0

57,340

起債(過疎債)

2,058,900

515,300

197,000

2,771,200

文教基金

100,000

42,000

57,000

199,000

一般財源

322,436

9,981

11,816

344,234

3,401,717

567,281

265,816

4,234,815

 
【歳 出】                                     単位:千円

 

中央校

東部校

西渓校

事務費

15,206

815

689

16,711

委託料

200,545

33,231

16,812

250,588

工事請負費

3,095,447

533,234

248,316

3,876,997

公有財産購入費

73,489

 

 

73,489

補償補填

17,031

 

 

17,031

3,401,717

567,281

265,816

4,234,815

 

(写真①:中央小学校 北棟を望む)
 
(写真②:中央小学校 中庭を望む)

(3) 小中一貫教育の特色とは
 新たな義務教育9年間の学校づくりをめざし、小学校と中学校の滑らかな接続を作り上げる為に、義務教育9年間を
① 前期(1・2・3・4年) 【基礎期】学びの習慣化
② 中期(5・6・7年)   【充実期】学びの定着・発展
③ 後期(8・9年)     【発展期】自己学習力の形成

と捉え、連続性を生かした小中教職員の協働教育実践が行われている。具体的には、小中乗り入れ授業や異学年交流活動の実践等が行われているが、メリットとしては、小学生が通常体験できないような学習を体験することにより、小学生の学習意欲を向上させている。また、交流活動により小学生は中学生を見習おうとし、中学生は小学生の役にたてた喜びを感じたりする人間形成力の手助けになっている面がある。また、教職員についても小中学校それぞれの学校文化の違いを理解し、互いの良さを生かした指導法を学びあうことによって、教職員の意識と教師力の向上を図ることができている。小中一貫教育が始まって、まだ1年を経過したばかりであるが、このような良い点が見られるので、今後年数を重ね経験を積んでいくうちに、更なる小中一貫教育の特色がでてくるのではないかと期待している。

(4) 通学対策(スクールバスの導入)について
 統廃合による小中一貫校開校により、必然的に児童の登下校距離が長くなることが予想された。そこで、児童生徒の安全安心及び通学に係る心身の負担等を考慮し、小学生は自宅~学校間が2km以上、中学生は自宅~学校間が6km以上である場合、スクールバスでの通学とした。スクールバスは、29人乗りマイクロバスを16台、14人乗りハイエースを1台、計17台購入し、運行運営業務を民間業者に委託している。スクールバス利用者は3校合わせて約450人である。登校時は各コース1便、下校時には、時間帯により各コース3便走らせており、登下校以外にも、学校の校外学習や中体連等にも、利用されている。各学校のコースは①東部校2台、2路線、②中央校11台、17路線、③西渓校4台、5路線である。また、スクールバスはハイエース1台を除いて、すべて黄色の車体であり、様々な安全対策(SOSランプ、ステップ昇降台等)が施されている。
 課題としては、山道を走る路線もあり、道路の脇から木の枝等が覆いかぶさって来るため、運転に支障がでないように伐採を行う必要があるが、現在は教育員会事務局自ら作業を行っているため、かなりの業務量が発生している状況である。

(写真③:スクールバス)

(5) 多久市の特色を生かした学習について
 多久市は、300年前に当時多久を治めていた多久茂文公が孔子を祀る「多久聖廟」を建立し、身分の区分なく皆を学ぶことができた学問所「東原庠舎」があったとされ、「多久聖廟」は、創建以来現在もその姿が残されている。
 多久では教育の土台として、孔子の教えの一つである「恕」の心が今なお、息づいている。「恕」とは思いやって許すという意味を持ち、人を思いやって許すという深い人間愛の中でこそ人は育ち、学力と叡智を身に付けることができる。その力が「生き残る力」であり、未来をたくましく生き抜いていく大人になるために、「恕」の心が市内の学校教育でも導入されている。また、孔子の教えである「論語」の教えを子どもたちが身近に学ぶことができるように、論語カルタ大会の開催、論語の暗唱到達度による「スーパー論語名人への道」が実践されている。

(6) 廃校となった跡地・跡施設の活用について
 これまでは、小中一貫校開校に伴って良かった点ばかりを紹介してきたように思われるが、廃校となった跡地・跡施設の活用については、今後、多久市としてどのように活用していくか大きな課題である。小中一貫校開校に伴い廃校となった小学校は6校あるが、一貫校開校決定以降は、その活用について検討されてきた。屋内運動場、屋外運動場については、体育施設として、利用されているが、校舎については、1校が、廃校当初から東部小の放課後児童クラブや、市役所の備品倉庫として利用されており、1校が社会福祉施設として、社会福祉団体に無償譲渡されることとなった。また、1校が地元住民団体とNPO法人との共同利用を行い、地元の活性化の一助として利用されることとなった。しかし、残りの3校については、様々な案はあるものの、具体的には活用策が決まっていない。廃校となり、利用されていなくても、施設を維持していく為には、かなりの費用と人手がかかっており、昨年度は、いたずらによるガラスの破損被害や、水道管老朽化による漏水事故等も発生している。今後、跡地・跡施設のよりよい活用方法について、行政・市民一体となって検討していくべきであると考える。

3. まとめ

 『多久市立小中学校適正規模・適正配置検討委員会』で出された6つの結論の検証を行い、統廃合に伴う小中一貫校が開校してから1年間のメリット、デメリットを取り上げてきた。1年間で、小中一貫校についての結論を求めることも無理な話ではあるが、学校で過ごす児童・生徒にとっては、小学生と中学生の交流等が、「恕の心(思いやり)」の育成につながっているようである。しかし課題もあり、まず中学部の部活動の問題である。小学校は統廃合して7校が3校になったが、中学校はそのまま3校である。現在、市内の中学校の規模は、中央中学校以外の2校(東部中学校、西渓中学校)は、小規模校であり、部活動の選択枠が限られていたり、部員不足により大会等の参加に支障が出てきたりしている。このような課題については、例えば、部活動について、人数が不足する部については、学校間を超えて合併して大会に参加する等の対策を行う必要があるのではと考える。
 次に、廃校となった跡地・跡施設の活用策である。廃校となり1年が経過し、活用に目処がついたのは、6校中半分の3校であり、残りの3校は未だに決まっていない。確かに、地域住民の意見を聞きつつ慎重に活用策を考えていくことは、重要であるが、なおかつスピード感を持つことも重要である。いつまでも、活用策が決まらずに、維持管理を行っていくことは、住民も望んでいないはずである。新しい視点に立った発想を持ち、今の多久市にはない施設、例えば、人工芝のサッカー場やそれに付随する施設などを建設してみてはどうだろうか。確かに、費用はかかってくるが、中途半端に跡地・跡施設を活用するより、市外からも人が集まるような施設を建設した方が、多久市にとっては、プラスになるのではと考える。
 多久市における小中一貫校開校にあたっては、長年にわたる議論、統廃合により廃校となった地域住民の感情と理解、校舎建築に伴う多額の費用がかかっている。多久の子ども達が、スタートした小中一貫教育の中で健やかに学び、将来素晴らしい大人に成長してくれればと願っている。