1. はじめに
2006年4月、障害があっても地域で安心して自立した生活を送ることができる社会を構築していくために障害者自立支援法が施行されました。この法律により、一元的に福祉サービスを提供できる仕組みづくりや、障害者の就労を支援する体制強化などが進められるようになりました。
また、この法律では障害者の就労支援が1つの柱となっておりますが、障害者の方からは「働きたくても働けない」という声が聞かれるなど、各自治体における障害者の就労支援の在り方が課題となっています。
伊万里市においてもどのような支援を行っていくか検討を行ってきましたが、当市では福祉事務所と連携して行った「特定信書便事業」の業務委託に取り組みました。この特定信書便事業は、「民間事業者による信書の送達に関する法律」の施行により民間事業者も参入できるようになり、本市の事例は当時としては全国初となる福祉事業所の参入事例となりました。本レポートでは、自治体における障害者の自立支援の事例として、本市が取り組んだ特定信書便事業をご紹介させていただきます。
2. 特定信書便事業について
(1) 信書とはなにか
信書とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」と郵便法及び信書便法に規定されており、具体的な例としては、図1のように区分されます。
こうした信書の送達を行う事業が信書便事業であり、「一般信書便事業」と「特定信書便事業」の2つに分けられます。
図1 具体例 |
信書に該当する文書 |
信書に該当しない文書 |
■書状
■請求書の類
【類例】納品書、領収書、見積書、願書、申込書、申請書、申告書、依頼書、契約書、照会書、回答書 等
■会議招集通知の類
【類例】結婚式等の招待状、業務を報告する文書
■許可書の類
【類例】免許証、認定書、表彰状
■証明書の類
【類例】印鑑証明書、納税証明書、戸籍謄本、住民票の写し
■ダイレクトメール
・文書自体に受取人が記載されている文書
・商品の購入等利用関係、契約関係等特定の受取人に差し出す趣旨が明らかな文言が記載されている文書 |
■書籍の類
【類例】新聞、雑誌、会報、会誌、手帳、カレンダー、ポスター
■カタログ
■小切手の類
【類例】手形、株券
■プリペイドカードの類
【類例】商品券、図書券
■乗車券の類
【類例】航空券、定期券、入場券
■クレジットカードの類
【類例】キャッシュカード、ローンカード
■会員カードの類
【類例】入会証、ポイントカード、マイレージカード
■ダイレクトメール
・専ら街頭における配布や新聞折り込みを前提として作成されるチラシのようなもの
・専ら店頭における配布を前提として作成されるパンフレットやリーフレットのようなもの |
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(2) 特定信書便事業とはなにか
信書便事業は、「一般信書便事業」と「特定信書便事業」に分かれますが、今回のレポートでは後者の「特定信書便事業」を取り上げており、その役務については次のとおりとなっています。
また、特定信書便事業を行うためには、それぞれの役務について事業許可を得る必要があります。
① 長さ・幅・厚さの合計が90cmを超え、又は重量が4㎏を超える信書便物を送達するもの(1号役務)
② 信書便物が差し出された時から、3時間以内に当該信書便物を送達するもの(2号役務)
③ 料金の額が1,000円を下回らない範囲内において総務省令で定める額(国内における役務は1,000円)を超えるもの(3号役務)
3. 取り組みに至る背景・経緯
(1) 伊万里市が抱えていた課題
本市では、郵便料の削減及び事務の効率化を図るため、従来から各出張所及び各町の公民館や伊万里町周辺の区長(駐在員)への文書の送達を民間業者に委託していました(図2)が、郵便法の関係から幅広い業務ができない状況でした。このようななか、2003年に「民間事業者による信書の送達に関する法律」が施行され、信書の送達業務など幅広い送達業務に民間事業者が参入できるようになりました。
このため、当時の文書逓送業務を受託する民間業者やこれまでの入札参加業者に信書便事業の事業許可を取得されるよう周知を行いましたがいずれの業者も消極的であり、また、当時は佐賀県内においても事業許可を取得した事業所がない状況でした。
そこで、当市では従来通り業務委託を行うのではなく、高齢者や障害者の雇用の拡大も視野に入れながら、業務の委託について市内の団体に打診することになりました。
図2 出先機関及び市民等への文書の配布方法 |
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(2) NPO法人小麦の家の概要と抱えていた課題
① NPO法人小麦の家の概要
小麦の家は、知的障害児をもつ保護者が、子どもの将来を考え、楽しく働ける作業所を作りたいとの願いで、1993年7月に発足されました。以来、クッキーやケーキ等の焼菓子の製造・販売を活動の中心に据え、2000年より通所利用希望者の受け入れ、小規模作業所として運営を始められています。
現在では、社会福祉法人 小麦の家 福祉会として、利用者17人、専従者9人、ボランティア2人の総勢28人で運営を行っているところです。また、小麦の家の運営については、利用者から通所負担金及び送迎費を徴収しない方針を取られており、利用者が通いやすい福祉事務所をめざして運営されています。また、その一方で月5万円の賃金支給を目標に掲げられており、利用者と職員が一体となってステップアップできるよう日々取り組んでおられます。
② NPO法人小麦の家の抱えていた課題
市が特定信書便事業の打診を行った当時、小麦の家も課題を抱えていました。
ア 月5万円の賃金支給を目標にしていたものの、実際には月1万円の支給となっており、賃金の向上に苦慮していた。
イ 2008年度に市内養護学校からの卒業生を多数受け入れることが決まっており、事業の新規開拓を行う必要があった。
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