【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 少子・高齢化等社会環境の変化により、住民の要望は多様化しています。様々な住民ニーズに応えるためには、行政だけでなく、住民、コミュニティ組織、NPOなどとの協働が求められています。そのような中、地域の課題は地域の特性を生かし地域住民自らの手で解決する、自主的・自立的な地域づくりをめざし、地域の元気推進事業を実施しています。本レポートでは、これまでの取り組み状況と今後の課題について提言します。



地域の元気推進事業について
―― 自主的・自立的な地域づくりをめざして ――

佐賀県本部/伊万里市職員労働組合 小川 徹也

1. はじめに

(1) 伊万里市の概要
 伊万里市は、佐賀県の北西部にあって、東松浦半島と北松浦半島の結合部に位置し、西は長崎県佐世保市と松浦市に接しています。また、三方を山々に囲まれ、西北部からは波静かな伊万里湾が深く入り込むなど、豊かで美しい自然に抱かれています。
 伊万里は天然の良港を擁しており、古くから大陸との交易で発展し、江戸時代には有田や伊万里周辺で生産された陶磁器の積出港として繁栄し、『IMARI』の名を世界に広めました。
 臨海部においては古くから干拓が行われ、近年では広大な工業用団地が整備され、東アジア地域にも至近距離にあり、伊万里港においては地理的な優位性を活かし、韓国・釜山、中国・大連、上海などとの国際コンテナ定期航路が開設されています。
 特産品としては、梨の生産が盛んで、西日本一の生産量と品質を誇っています。また、伊万里焼は遡ること江戸時代に、佐賀鍋島藩の御用窯としてその技法を守るため、大川内山に優秀な細工人等を集め、色鍋島などの製陶にあたらせたのが始まりであり、現在、その伝統と技法を受け継いだ30数件の窯元が大川内山に軒を連ねています。

(2) 伊万里市の現況

国勢調査 各年10月1日現在

 人口は2001年を境に6万人を割り込み、その後徐々に減少は続き、現在約5万7千人となっています。そのうち65歳以上の高齢者が約1万5千人であり、高齢化率は26%を超えています。逆に、0~14歳の年少人口は年々減少し、現在約8千人(14.7%)で、少子・高齢化が進んでいることが分かります。
 また、人口は減少しているにも関わらず、世帯数は増加傾向にあり、核家族化の進行が見られます。

2. 地域の元気推進事業の概要

(1) 背 景
 前述のとおり、伊万里市は少子・高齢化が進んでおり、これは今後ますます進行していくことが明らかです。少子・高齢化や価値観の多様化等による社会環境の変化により、地方分権、地域分権の流れが進む一方で、地域の課題は増加し、そのためには画一的な行政サービスから、住民のニーズに合った課題解決の方法が強く求められています。その大きな流れの中、「地域における住民サービスを担うのは行政のみではなく、住民、コミュニティ組織、NPOなどの民間とも協働し、相互に連携する新しい仕組みづくり」を構築する必要がありました。

 そのような状況を踏まえて、市民が等しく市政に参画する権利を保障するための基本的な事項を定めて、市民の自主的な地域活動を促し、さらに市民と市が協働して市民が望んでいるまちづくりを進め、市の発展を図ることを目的として、2006年6月に「伊万里市民が主役のまちづくり条例」を制定しました。この条例には、市民参加の推進、市民と市の協働、市民活動団体の役割等について定めており、まちづくりに係る全ての活動が、この理念を基に推進していくこととしています。

(2) 目 的
 「伊万里市民が主役のまちづくり条例」に謳う市民と行政との協働の理念のもとに、町(地区)公民館を単位(13地区)として、相互扶助の意識向上とともに、地域の身近な課題は地域の特性を生かし、地域住民自らの手で解決する自主的・自立的な地域(コミュニティ)づくりを推進し、自助・共助・公助の補完性の原則に基づく地域分権型社会システムへの転換をめざし、事業を開始しました。
 伊万里市では本事業開始前から、公民館を核として町単位で様々な活動が行われており、また、地域活動に密接な関係を持つ小学校の校区と地区公民館の範囲がほぼ同じであることから、一番自然に取り組みやすい形として、公民館を活動拠点として取り組んでいます。

(3) 経 過
 2007年度取り組み開始地区 モデル地区(波多津、二里)
 2008年度取り組み開始地区 推進地区(牧島、立花、黒川、東山代、山代)
 2009年度取り組み開始地区 大坪、南波多、大川
 2010年度取り組み開始地区 伊万里、大川内、松浦
 現在は、全13地区が本事業に取り組んでいます。

(4) 基本的方策
 町(地区)の取り組みとして、まずは町ごとに町民が望んでいるまちづくりに対する思いを集約し、まちづくりをどのように進めていくかを決定する役割を担う「まちづくり運営協議会」の組織化を図りました。その後、今後のまちづくりの方向性を定める「まちづくり計画書」を策定し、計画策定の翌年度から計画に基づく具体的な実践活動に取り組んでいます。
 また、町の取り組みに対し、行政は「地域の元気づくり交付金」を創設し、財政的な支援を行うと共に、地域支援職員のサポートによる人的支援を行っています。

3. 各町(地区)まちづくり運営協議会の取り組み

(1) まちづくり運営協議会の組織化
 本事業開始前から、各町には様々な目的を持った協議会等の組織があったため、同じ目的を持つものを一つの部会として整理し、各部会の意見を吸い上げて、最終的にまちづくり運営協議会で決定する仕組みづくりを、各町(地区)にお願いしました。
 このような形をとることにより、町全体として、まちづくりの方向性を住民自らの手で決定していく枠組みが出来上がりました。

(2) まちづくり計画書の作成
 自分たちの住む地域をどのようにしたいのか、という想いを住民同士で共有することで、そのための具体的な実践活動が可能になることから、地域住民自らの手で、概ね5年間のまちづくり計画を策定しました。計画策定の方法としては、アンケート等で町の課題を整理し、その解決策としての具体的な実践活動について地域住民で議論を重ね、最終的にまちづくり運営協議会において継続的、発展的な地域づくり事業を選択し、計画書を策定しています。

(3) まちづくり計画に基づく実践活動
 各町(地区)では、計画策定(初年度)の翌年度から、まちづくり計画に基づき、地域の課題解決のため、地域の特性を生かした様々な活動が行われています。
① 和笛マイスターゼミナール(東山代町) 歴史文化継承事業
  指導者を招き、浮立に使用する和笛を作成し、演奏する教室を開校しました。浮立地区の頭領に子ども達への指導をお願いすることで、年代を越えた交流が図られると共に、子ども達が地域の伝統文化に触れることで、地域への愛着が生まれることを期待した取り組みです。

② あぐり山監視硝の整備(波多津町) 歴史文化継承事業
  戦時中、敵の襲来に備え上空を監視する「監視硝」が、あぐり山と呼ばれる場所にあります。この場所を戦争遺跡として後世に伝えると共に、展望台としての機能も併せ持たせるため、住民の力で周辺樹木を伐採し、取付道路の整備が行われています。

③ 国際交流ふれあい講座(立花町) 青少年育成事業
  佐賀県国際交流協会と連携して、中国やインドネシアからの留学生を講師に迎え、小学生を対象にインドネシア料理等を一緒に作り、食することで異文化に触れる機会を設けています。

④ 里山保全(二里町) 環境保全事業
  年々拡大する竹林から里山を守るため、住民の手で炭焼き窯を整備しています。高齢者や団塊の世代などのやり甲斐も生まれています。また、炭焼き作業を町内の小学生に体験してもらうことで、自分たちが住んでいる地域への愛着が生まれると共に世代間の交流の輪が広がっています。

4. 行政の取り組み

(1) 財政的支援 地域の元気づくり交付金
 行政の支援の一つとして、地域の元気づくり交付金により各町(地区)まちづくり運営協議会へ財政的な支援を行っています。
 地域の元気づくり交付金には、前述のまちづくり計画を策定し、又は改定するための「地域の元気計画策定交付金」と、まちづくり事業に取り組むための「地域の元気チャレンジ交付金」の2種類があります。「地域の元気計画策定交付金」については、人口規模に応じて交付を行っています。「地域の元気チャレンジ交付金」は人口規模に応じた基礎額に、市長が特に推奨すべきと認めた事業については市長特認枠事業として地域の元気チャレンジ交付金を増額し、その合計を上限額として交付しています。市長特認枠事業は、庁内関連部署で組織する審査会で審査を行い、交付金額を決定しています。

(2) 人的支援 地域支援伊万里市職員制度
 人的支援として、各町(地区)まちづくり運営協議会の発足や運営等を支援し、地域での行政と市民との協働の推進体制を確立するために、地域支援伊万里市職員制度を創設しています。2014年7月現在、各町(地区)当たり3~6人、全体で69人の職員を地域支援伊万里市職員(以下「支援職員」という。)に任命しています。支援職員は、市の職員であると共に、「地域の住民でもある」という認識のもと、まちづくり運営協議会に地域のコーディネーター役として参画・支援することにより、地域課題の発見力、企画力、地域住民とのコミュニケーション能力など、市職員としての資質を高める機会としても捉えています。
 支援職員の主な役割としては、住民自治の充実、強化を図るための各町(地区)まちづくり運営協議会の設立に向けた支援があります。立ち上げ期において、各種団体間の調整役を担っており、また、地域の合意形成を図る手段としてワークショップがありますが、事業開始当初には、ワークショップや会議の進行役としてのファシリテーション研修を支援職員向けに行っており、部会などでは進行役としての役目も果たしています。
 また、まちづくり計画の策定や見直しを行う際、職員として保有する情報などの提供を行うなど、円滑な会議運営・事業実施に向けた助言や情報提供などを行います。
 さらに、地域におけるまちづくり活動と全市的な施策との連絡調整として、地域からお尋ねがあった場合などに説明をしたり、担当外の分野については担当課への引き継ぎや確認を行います。

5. 成果と課題

(1) 成 果
 本事業は、事業開始当初より2008年度から2012年度までの5年間を第1期として事業を推進し、2012年度に2013年度以降の事業実施のための検証を行っています。
 検証方法は、各町(地区)まちづくり運営協議会に対し、事業の成果等について聞き取り調査を行い、さらに、庁内関連部署において、各町(地区)まちづくり運営協議会が実施した個別事業について評価を行っています。それらの結果等を踏まえて、庁内で組織する「行政への住民参加促進部会」において事業に対する意見の集約を図り、下記の効果を確認しました。
① 事業を推進する中で、本事業の目的である「地域のことは地域で、自分たちのことは自分たちでやる」という相互扶助による自主的・自立的な地域づくりの意識が、住民の間に芽生え始めているという手応えを多くのまちづくり運営協議会が感じている。
② 関連部署による事業評価において、一定の評価(平均3.46点)が得られた。

※事業評価の方法
 各町(地区)で取り組まれた全事業について、関連部署へ評価を依頼。
 効果の評価基準:4点(非常に高い)、3点(やや高い)、2点(やや低い)、1点(低い)

(2) 課 題
 一方で、課題等もいくつか生まれています。
 まず、地域のリーダーとなる人材不足や若者の地域活動離れがほとんどの地域で進んでいることです。各町(地区)まちづくり運営協議会では、それぞれに対策を検討されていますが、効果的な対策がないのが現状です。
 また、住民意識の差があります。市内でも地区によって取り組み時期に差があり、周辺部に比べ中心部が住民間のまとまりが悪いなどの地域性もあります。もちろん、同じ町(地区)住民間でも意識の差はあり、その差をいかに埋めていくかが課題として挙げられます。

6. まとめ

 地域の元気推進事業では、各町(地区)において、まちづくり運営協議会を中心に、行政と協働しながら、地域の課題解決に向けた様々な特色ある取り組みが行われています。これまでの地域力を生かしたまちづくりにより、実際に地域が豊かになり、住民間の相互扶助意識が醸成され、自主的・自立的な地域づくりの下地が築かれてきています。
 しかしながら、人材不足や財源不足、町(地区)によっては事業の硬直化が見られるところもあり、様々な課題があることも事実です。
 今後は、市民と行政の連携をさらに深め、各町(地区)の意見等を十分に踏まえながら、地域の課題解決のための事業により重点的に支援が行えるよう、制度の見直しも含めて検討していく必要があると考えています。