【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 不祥事」とは、一定の社会的な地位を持つ者・著名人・組織・団体・企業などが引き起こす社会からの信頼を失うような出来事。一般社会よりも報道機関が好んで用いる。2013年度の後半から、日田市の職員の行動がマスコミに多く取り上げられ、それらは一様に「不祥事」であるかのごとく報道された。「ヒト」が係るものすべてに単純なミスや失敗は付き物であるが、公務員という枠に当てはめられればミスや失敗も「不祥事」として扱われる。その「不祥事」の極めつけとして公金の横領が発覚。住民や議会から多くの批判が浴びせられ、職員の士気は急激に低下した。
 度重なる「不祥事」の原因はどこにあるのか―。職員個々の裁量をはかるだけでは「負」の連鎖は止められず、組織をあげて信頼の回復に努めることが重点課題となっているが良策はあるのか。



不祥事の要因を探るため組織の背景を検証する


大分県本部/日田市職員労働組合 諌山  智

1. リーダーの影響

(1) 首長の姿勢
 2011年8月、大方の予想を覆し誕生した現職原田市長は、選挙公約に「職員の総人件費2割削減」を掲げた。この公約がどれほど有権者の投票意欲を刺激したのか定かではないが、職員の動揺を誘ったことは紛れもない事実である。このため、組合は市長の着任交渉をはじめ、あらゆる交渉の場で再三にわたり原田市長の真意を確認。議会においても、たびたび一般質問で取り上げられ公約の進捗状況を質されているが、市長は都度「単純に職員の給料を削減することではない、事務事業を見直すことで総人件費を抑制する」などの答弁を続けている。しかしながら、政争の具として使われた職員給料が脚光を浴びる状況で、果たして住民サービスの低下を招かないような士気を職員が保てるのか。責任を転嫁するつもりはないが「業務に身を入れる」意識が少しばかりそがれた始動ではなかったか。
 原田市長の着任以降、多くの組合員から給与削減について相談が寄せられた。2015年の8月まで任期を残しているが、現段階では国からの理不尽な要請を受け実施している削減を除き「独自の給与削減」は行われていない。組合員にも多少、安堵の色が戻ったように見受けられるが、組合がおそれることは原田市長が再選を表明したときである。そう、2期目の公約に再び、いやそれ以上の「給与削減」を打ち出しはしないかというある種の恐怖感が芽生えている。

(2) 緩んだ空気
 現職市長のふだんの対応は紳士的である。争いごとを好まず職員への接し方も温和な雰囲気をかもし出している。「優しく、かつ怒らない」という印象が広がっており、「兄貴分」的な存在である。このことは、決して否定されるものではなく職員との一体感を生み出すことからも、むしろ歓迎される状況である。また、前職市長が職員に非常に厳しく接し、さらには頑として自身の意見を曲げなかった状況と比べると空気の差は格段である。
 ただし、言い換えると職員は首長の「人間的性格」に異常なまでに左右され続けている状況にないだろうか。本来、首長の性格など度外視し、職員の真摯な態度と懸命な努力によって住民に良好なサービスが提供されるものであるが、「市長の顔色を窺う」状態から「市長は大目に見てくれる」状態へ転換した感が否めない。特に、市長の指示を直接的に受け、その指示によって部下を指揮する幹部職員の行動が変わったように見受けられる。幹部職員にとって現職市長は「組みやすし」であり、そしてその心情は緊張感を奪い去り次第に「緩んだ空気」へと変わっていく。

2. 職員の意識

(1) 意識改革、意識の向上
 市が指し示す行革大綱などには、随所に「職員の意識の向上をはかる」といった現状の謙遜と今後の意気込みが表されている。議会でもそのことが注文され、さらにはネット等でも「職員の意識が低い」ことをさまざまな表現でこきおろす輩も見受けられる。いわば、市役所の職員は「意識が低い」から、たびたび「意識の向上」を謳わないと職員の意識はさらに低下し、市政が機能不十分に陥ってしまう―。
 「意識が改革され向上すれば万事うまくいく」。そのような洗脳的な手法で、マンパワーが発揮されると躍起になっている連中が多くいればいるほど組織は崩壊の一途を辿る。そもそも「意識改革」などと声高に叫ぶ人間にどれほどの高尚な意識が備わっているのだろうか。また、人間が幼少の頃から培ってきた経験と周囲の環境、そして自己の性格が混ぜ合わさって現在に至った「個々の意識」は簡単に変わるものではなく、変えようとするには相応の期間と方策が必要である。
 それならば、組織がその機能を果たすために重要視し、まためざすべきことは「意識の統一」であり、多少の思想や思考に違いはあれども、「一定の目標にむかった統一的な行動」を展開していくことではないか。何事も「職員の意識」に収めてしまおうとする傾向が特に強く感じられるが、前項で述べたように職員の意識は市長の姿勢に左右され過ぎている。

(2) 悪化する勤務労働条件
 労働組合は「組合員とその家族の暮らしを守る」ことを使命の本流としているが、組合員の労働に対する意欲はこの使命感の濃淡に左右されることが多い。職員の士気の維持、高揚をはかり、さらには業務の遂行に対する積極的な意欲を掻きたてるためには勤務労働条件(環境)の整備が不可欠である。多少、飛躍的な表現になるが、勤務労働条件の整備・安定をはかること、まためざすことは「住民サービスの質の保全・維持・改善」につながる。
 しかしながら日田市役所の実態をみると、市町村合併後の極端な人員の削減とそれに伴う業務量の増加、そしてその増加は時間外勤務の増大につながり、職員の疲弊が目に余る職場も見受けられる。時間外勤務の縮減をはかるため時短検討委員会を立ち上げ、さまざまな縮減策を講じているが目立った効果は表れていない。数字的には時間外勤務が減少した職場もあるが、実態を詳しく調査してみると勤務実績を記録していない、いわゆる「サービス残業」で片付けられていることが多い。組合員には、時間外勤務のあり方(労働基準法)などを説明する機会を設けてきたが、職場内において所属長を巻き込んだ討議には至っていない。また、賃金についても前述のような理不尽な削減が示すように定期昇給の維持に止まっている状況だ。今夏に予定される「給与制度の総合的見直し」によって、さらに職員の士気が低下することが懸念される。

3. 人材育成に係る意識調査で判明したもの

(1) 調査の背景
 日田市は1997年「人材育成基本計画」を策定。同時にこの計画を人材育成に係る基本方針とし人材の育成に努めてきた。しかしながら、当初計画の策定から15年以上が経過し地方自治をとりまく様相に大きな変化がみられることから、この計画の見直しに着手することとした。多様化する住民のニーズと目まぐるしく変化する社会環境への対応をはかり、さらには組織力と結束力を高めていくため、あらゆる分野において核となる人材を育成することは重要な課題である。人材の育成は避けては通れない課題であり、組織形成のための命運を握っているともいえる。
 市当局は計画の見直しをすすめていくうえで、人材の育成には相応の研修の実施が欠かせないと判断し、労使から選任された職員で構成される「研修委員会」を立ち上げた。委員会の役目は研修計画の策定に取り組むと同時に、研修を人材育成の基本施策のひとつと捉えた基本方針の策定にも関与する。このため、職員が業務の遂行にあたり重要視する姿勢や意識の分析を主眼とした「意識調査」を実施した。なお、この基本計画の見直しや意識調査の実施は不祥事を防止するための一策ではなかったが(続発した不祥事を受けた対応ではない)、時期や意識調査の結果がはからずも不祥事の再発防止に係る有力な手立てを検証するための格好の材料となった。

(2) 調査結果
 調査はすべての職員(臨時・非常勤職員を除く)を対象に、無記名(性別・年齢・職名は記入)で実施された。36項目にわたる設問に回答するもので、中には複数の回答(選択)が認められる設問もあった。回答率が70%をわずかに超える程度に止まったことが、これまでに述べた「組織の脆弱性」を示しているといえる。

【主な(興味深い)設問および回答状況】

<設問> 職員として特に重要であると考える能力(複数選択可)
<回答状況>
 「行動力」が最も多く14.65%、以下「コミュニケーション能力」14.43%、「分析・理解力」9.82%、「決断力」8.99%、「企画立案能力」8.23%、「調整能力」6.12%、「専門実務」5.59%、「政策形成能力」5.36%の順。

<設問> 現在担当している業務に対し、「やる気」を持って取り組めているか
<回答状況>
 「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」83.41%。男女別の集計においてもほぼ全体と同様の傾向。
 職種別では、技術職員の「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答した割合が91.51%。

<設問> 業務を遂行するうえで求められる行動(複数選択可)
<回答状況>
 「職員間の協力、協働体制を整えていく」が最も多く11.89%、「より早く、より質の高い仕事を行う」が10.72%、「問題認識とその解決のための行動」9.15%、「責任感を持ち決断する」8.39%、「積極的なコミュニケーションなど、職場の活性化に取り組む」7.52%、「職務に必要な知識や技術を習得し発揮する」6.99%、「組織内の情報の共有化を図る」6.76%。

<設問> 業務を通じて組織を活性化するために大切なこと(複数選択可)
<回答状況>
 「組織内、職場内で適切な情報共有を図る」が最も多く18.46%、以下「職員同士が良好な人間関係を築く」16.86%、「自分が所属する組織(部、課、係)の目標を理解して業務を行う」が16.28%、「日田市全体としての組織目標を理解して業務を行う」15.37%、「他の部、課、係との協力体制を築く」が13.53%、「職員一人ひとりが適切な目標設定を行った上で業務にあたる」10.09%。

<設問> どのような研修・教育が必要か(複数選択可)
<回答状況>
 「業務の専門知識を深める研修」が最も多く21.19%、「政策能力を向上させる研修」9.86%、「財務、文書など市職員としての汎用的な知識の研修」8.64%、「プレゼンテーション能力向上研修」7.42%、「派遣研修(民間企業・他団体)」5.70%、「法務能力を向上させる研修」5.38%、「リスクマネジメント研修」5.22%の順。

<設問> 自己啓発に取り組んでいるか。
<回答状況>
 「大いに取り組んでいる」「取り組んでいる」39.46%。


(3) 「組織力」を重要視
 本調査は設問項目も多く、回答に熟考を要したことからわかるように極めて真面目に取り組むべき調査であったといえる。巷で頻繁に囁かれていること、上司が常に口走っていること、業務に対する感情などを可能な限り脇に置き、「日田市役所」の現況を打ち破るとともに活性化をはかる。そのうえで「人材の育成」につながる真摯な回答が求められた。
 まず「職員として特に重要な能力」については、多くの選択肢の中から3つまで選択が可能な設問となっている。結果として、「行動力」や「コミュニケーション能力」が多く選ばれたが、このような能力は個人により判断基準に大きな差異が生じる能力である。「決断力」や「調整能力」など誰もが推し測れる能力にさほど注目しない傾向は「曖昧さ」の象徴といえ、組織の中心となるリーダー不在の状況を裏付けているのではないだろうか。さらに、目を見張ったことは管理職員の回答において、「決断力」を重要視する職員が僅か4.17%であったこと。これは、全体回答の8.99%と比較しても低い割合であり、自身の立場や職責をわきまえていない証拠である。過重な業務量を決められた期間内に捌くことが求められているとき管理職員の決断力は重要な要素となる。時間外勤務が横行、増大している現況には、この「決断力」の欠如が多分に影響していることを認識する必要がある。
 次に、「業務を遂行するうえで求められる行動」に注目してみる。この設問に対する回答は、あくまでも個人の力量によって仕事を片付けていくタイプとチームワークによって片付けていくタイプにくっきりと分かれたようだ。ときどきの業務の内容によって、ふたつのタイプを使い分ける職員も存在するであろうが、組織全体を見渡した回答が望まれた。結果として「職員間の協力、協働体制を整えていく」を選択した職員が最も多かったことは、今後の展望に期待が持てるものとなった。自治体の業務はさまざまな部署と連携をはかり遂行していくものが多く、部署間や職員間で競走が必要とされる業務はまず見当たらない。通常の業務に限らず、特に困難な案件には「協力、協同」が重要であり、そのための体制の整備は永遠の課題だ。そして、最も注目すべきは「職員間の協力、協働体制を整えていく」の選択は女性の割合が高いということ。また、女性は「業務を通じて組織を活性化するために大切なこと」という設問に対しても、「組織内、職場内の適切な情報共有を図る」と回答した割合が全体回答の割合より高く、さらに「職員同士が良好な人間関係を築く」などの回答の割合が高いことにある。このように女性が男性よりも「組織形成」や「協力、支援体制」を重んじる傾向にあることが顕著に表れている。

4. 求められる方策と自己啓発の重要性

(1) 不祥事再発防止委員会
 不祥事の再発防止をはかるため、市当局は「不祥事再発防止委員会」を発足。組合側も委員会の構成人員となり、不祥事の「再発防止行動指針」の作成のための取り組みをすすめている。委員会が最初に手を付けたことは「リスクの洗い出し」。それぞれの職場で想定されるリスクの洗い出しが開始され、洗い出されたリスクは3,600件を超えたと報告されたが、リスクの範囲が明確でなく、また洗い出しされたものが「リスク」と呼べるかどうかも不明な中で、妥当かつ当然の件数であると判断される。ただ、この洗い出されたリスクをもとに防止策を検討していくことは容易ではない。組合側は、この洗い出しよりも「市役所という組織に欠けていること」「忘れ去られてしまったこと」などを自由に討議し、小手先だけの方策に頼らない真に迫った方策が導き出されることを期待していた。

(2) 住民とのコミュニケーションが剥奪される
 前出の意識調査の項で触れた職員としての重要な能力として選択回答された「コミュニケーション能力」。この能力が必要かつ重要なことは否定しない。むしろ、この能力が備われば職場間や組織内の活性化、さらには住民との対話、交流がはかられ、自治体職員としての存在感を大いに示すことが可能となる。であるならば、その能力の形成のためには何が必要であるかを紐解いていくことが肝要である。職員が住民とのコミュニケーションを必要とする職場は多種、多彩であるが、住民と心の通う職場は民間委託や指定管理などの導入によって公の手にはない。社会教育、保育、文化振興、さらには図書館など「住民と直属的にコミュニケーションがはかれる」職場が剥奪され、コミュニケーション能力の育成に歯止めをかけられてしまったことは暗く大きな影響をもたらしている。

(3) 女性の「存在とパワー」
 日田市の男女平等に係る施策の進捗や事業の展開は極端に遅れておらず、また抜きん出て進んでいることもなく「程々」の状況ではなかろうか。しかしながら日田市役所という組織を省みたとき、「女性の登用」においては非常に芳しくない状況が続いている。人員確保闘争に止まらず、女性部の主動によって現状を打破していくための交渉や協議の場を設けてきたが、市当局の女性の登用に関する「固定的な概念」は払拭されていない。女性が家庭で担う役割や子育てなどの必要性などから女性職員の業務遂行に対する意識の沈下が必然であるかのような概念が渦巻いている状況は閉塞感をもたらしている。
 ある研究機関の調査およびデータ分析によると、女性管理職の割合が低い企業や長時間労働の職場では不祥事が生じるリスクが高いとされている。このような状況は「チェック機能」が疎かになり、さらには女性が持つ「社会防衛」の観点が活かせない状況にあるようだ。女性の持つ本質的な能力を置き去りにすることは、組織力の向上の妨げになるばかりか不祥事の温床と化してしまうおそれを十分に認識することが必要である。

(4) 労働組合の存在意義
 組織を重要視し、不祥事の要因と防止のための方策を導き出してきたが、一朝一夕では達し得ない困難な課題が並んだ。しかしながら、勤務労働条件の整備(賃金闘争、時間外勤務の縮減など)や男女平等社会の実現(女性の登用、ワーク・ライフ・バランスの推進など)をはかることは、労働組合が常時取り組むべき課題である。さらに、当局が不祥事再発防止委員会や研修委員会に組合側の参画を呼びかけたように、組合の関与と協調が必要とされていることが証明されている。
 また、意識調査で自己啓発に取り組んでいる職員が半数に満たないことからわかるように、自分自身で道を切り開いていくことに対する無頓着性が浮き彫りとなった。自己啓発の方法は自己の判断に委ねられることが望ましいが、労働運動が自己啓発に連結することを広めていくことも大切である。そのうえで、住民の信頼を取り戻すため労使が一体となった「再起に向けた行動」を起こすことが重要であることは言うまでもない。

 このレポートが不祥事の要因を他人・他事に押し付けていると捉えらることが懸念される。報道された「不祥事」に対し、すべての職員が反省の意を持つことが重要であり、未だ個々の怠惰な姿勢によって報道に至らないミスや失敗が時折存在する。ただ、これほどまでに疲弊してしまった原因を探ることは必要であり、組織を立て直すための方策には常に労働組合が関与してきたという歴然とした事実を再認識することも重要である。
 「不祥事」の重なりには必ずや何らかの要因があって、その要因は年月を重ね次第に膨らみを増す。その膨らみが弾けたときでは遅いということを痛感したゆえのレポートとして受け止めていただきたい。