1. 都市計画行政と建築行政
(1) 都市計画区域
都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する計画で、都市計画法2章の規定に従い定められたものをいいます。
(2) 都市計画区域の指定
都市計画区域は、一体の都市として総合的に整備、開発又は保全する必要のある区域として都道府県知事が指定する区域で、原則として市街化区域と市街化調整区域に区分されます。この区分を一般に線引きといいます。
(3) 市街化区域と市街化調整区域
市街化区域とは、既成市街地及び概ね10年以内に優先的、かつ計画的に市街化を図る区域で、原則として用途地域等が指定されます。また、市街化調整区域とは、当分の間、市街化を抑制する区域として用途地域等は指定されません。
(4) 建築基準法等に基づく規制
市街化区域では、用途地域をはじめ各種の地域・地区の指定等に伴って制限を受けることになりますが、この制限を担っているのが建築基準法や条例等という関係になります。言い換えれば、都市計画法の指定と建築基準法の制限は、表裏が一体として位置付けられています。
2. 建築基準法の規定の概要
(1) 単体規定と集団規定
建築基準法は、単体規定と言われる制限と集団規定と言われる制限に大別することができます。
「単体規定」とは、建築基準法の第2章に定められたもので、個々の建築物の構造上の安全や衛生上の基準等について定めたものです。建築物の使用に際して、空気、光、音などの適当な環境条件を保持し、建築物に付属した各種の装置や設備の機能を確保し、平常時は勿論、地震や火災に際しても安全な状態を担保することを目的として都市計画区域の内外を問わず、全国一律に適用されます。
一方、「集団規定」とは、建築基準法の第3章に定められたもので、都市計画区域内に限って市街地における建築物の立地条件、環境の整備、土地利用の調整、市街地の防災など、建築物の集団としての都市計画的な基準を定めたものです。言い換えれば、道路・河川・鉄道、水道・下水などのライフラインの整備と合わせて市街地をコントロールするための規制が地区特性に応じて制限されます。
(2) 状態規定
建築基準法の規定では、例えば建築物の構造耐力上の安全性に関して20条で、「建築物は、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして基準に適合するものでなければならない。」と規定されています。つまり、建物を設計するにあたって、例えば事務所として想定した積載荷重が、事務所とは異なる使い勝手により積載荷重が大幅に増えた場合、設定した荷重のキャパシティーを超えれば建物には危険が生じるわけです。
このことは建築確認を受けた事務所が、完了後に建物の用途を変更した時点で適法な建物から違法な建物に変わった結果であり、その時点で20条に違反する事由が発生したことになります。先日の韓国での客船事故も客室の増設や積荷の大幅増によって、船の安全性が設計上のキャパシティーを超えたことに起因した結果であり、同様なケースと言えます。
また、集団規定では、建築物のボリュームを制限する容積率制限がありますが、52条では、「建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合は、……数値以下でなければならない。」と規定されています。つまり、建築物のボリュームは、「……でなければならない」といった状態を建物が存在する期間キープしなければならないという規定となっています。こうした規定を一般に「状態規定」と言います。
(3) 既存不適格
建設当時は建築基準法等の各種規定に適合し適法だった建物でも、後に建築基準法が改正され、規定・基準が強化された場合や都市計画による指定の変更、例えば容積率の指定が変わった結果、建物の状態が法の規定条文に不適格となった場合、用途を変更した結果の「違反」と同様に違法になるのかという疑問が生じてきます。
建築基準法では、こうした不適格となる事由・原因が建物所有者や管理者自身にない場合は、建築基準法の3条で「適用の除外」として位置付け、法的には「既存不適格」といい、「違反」とは異なって一定の不利益不遡及の考え方がとられています。
法的な位置付けはそうですが、建築物に対する安全性について真に考えて見ると建物の経年劣化や想定(基準)以上の地震がくればどうなるかはわかりません。阪神・淡路の震災時、報道では1981年以前の旧耐震構造の建物が多く倒壊したと報じられましたが、新耐震構造の建物でも全く被害が出ていないわけではありません(※1981年に建築基準法における構造耐力上の規制・基準が大幅に改正されています。)。
つまり、最低基準として位置付けられている建築基準法の規定・水準は目安とはなりますが、建物は経年劣化等を見越した維持管理にも重要な要素を持っており、建築計画の水準設定等はあくまで所有者等の意思によって決まるといえ、そこには当然費用対効果というコスト問題が伴います。
人災は勿論、自然災害等により人命が失われることがありますが、そこには法律上の違反が絡むかそうでないかで責任の度合いは大きく異なり、近年では法的な違反がなかったとしても危険回避義務違反があったか否かで様々な責任が問われる時代に入ってきています。
3. 建築基準法に基づく手続き等
(1) 工事等の着手前(建築確認申請)
建築物を新築、増築、移転及び用途の変更を行う際、建築確認という手続き・審査を受け、合格しなければ工事等に着手することはできません。
建築確認制度を簡単に言えば、「これからこういった建物をここで建築します。内容はこの図面等で示します。」と国家資格を持った建築士が図書を作成し、その内容が法的に適合しているかの審査を受けるという制度です。
許可という表現を一般的に使いますが、建築基準法では「許可」は行政側の裁量が働くもので、建築確認はこの裁量は働かない、単に法律等に適合しているか確認しているに過ぎないという位置付けの下で、審査自体もアウトソーシング、つまり確認制度が民間開放されたという経緯があります。
しかし、確認とはいえ、条文上の解釈や判断は今や難解極まりなく、解釈の幅も例規や裁判判断で変わることが実態です。そうした中、審査する立場の民間確認検査機関では顧客獲得競争、つまり客側にとって都合の良い「手数料は安かろう・審査は早かろう・法判断は緩かろう」といったチェックとなり、確認制度が骨抜きになる危険性が指摘されているのも事実です。このことは姉歯元建築士による設計者と審査機関双方が持つ構造上の欠格として社会的問題となりました。
手続きや審査項目については建築基準法6条で位置付けられており、「建築主は建築しようとする場合は、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定等に適合するものであることについて確認申請書を提出して確認済証の交付を受けなければならない。」と規定されています。
建築基準関係規定とは、建築基準法とは別に、施行令9条で位置付けられており、消防法の9条、9条の2、15条、17条をはじめ、15に渡る別の法律に定められた各条文規定とこれらの規定に基づく条例が審査の関係規定となっています。
さらに、建築基準法のどこにも規定されていない、例えばバリアフリー法という法律の中で、いきなり建築基準法の関係規定と見なすという条項があるなど、新たな法律ができるたびにその法律の中で関係規定と見なすといった「みなし規定」が増えてきています。このように、常に新法が関係規定か否かを把握しなければならないという困難さが設計者側と審査側双方に求められます。
法律レベルはまだしも条例レベルになれば都道府県だけでなく、各区市町村毎に様々な条例を地方分権と相まって矢継ぎ早に制定しており、それも行政区域内を一律規制する条例もあれば、区内・市内のある区域に限定した条例もあり、情報管理だけでも大変な状況になっています。
なお、既存不適格建築物であっても増改築や大規模の修繕・模様替えを行う場合は、既存部分も含めて現行法に満足しなければなりません。つまり、既存遡及が生じることとなり、既存の改修を含めて建築確認申請でチェックを受けることになります。
(2) 工事の中間時(中間検査申請)
建築確認は、建築基準法施行規則や地方公共団体の施行細則に基づく一定の図面等を基本に審査されますが、その図面上で建築基準関係規定のすべてがチェックできるものではありません。また、少なくとも確認申請上の設計図に基づく施工がその通りに現場で施工されているのか工事途中の工程における節目、節目で確認し、併せて法令判断の再チェックも行わなければ真の法適合建築物は担保されません。
このため、法・行政庁によって中間検査対象建築物の指定や検査時期が決められます。
(3) 完了時(完了申請)
工事が完了した場合は、4日以内に到達するよう申請し、受理した場合は7日以内に検査しなければならないと規定されています。検査後、建築基準関係規定に適合している場合は検査済証を速やかに発行し、建築主に交付することとなっています。つまり、現物が出来上がった際に最終的な法適合の確認を行い、検査済証を取得して初めて建築主は建物使用が認められることになります。
これまでが独占だった行政庁による建築行政・公共サービスの提供の実態、バブル時代を含めこの四半世紀を見れば、建築確認の取得はしても中間検査や完了検査は受けないという物件が多くありました。その理由は建築確認を取得した時点で、その建築敷地が持つ土地の価値は立証できるため、実際に建築するものは確認申請とは異なった建築物、言い換えれば違反建築物の工事を始めるというものです。建築途中はあたかも建築確認を取得したものだと周りにカモフラージュでき、行政も逐次パトロールしているものではなく、合わせて最終的に検査済証取得に至らなかった違反建築物がまかり通っていた時代です(※行政庁の予算・マンパワー不足が生んだ負の遺産とも言えます。)。
しかし、近年銀行等の金融機関が持つ社会的責任が問われる時代に入り、融資もバブル時代の土地の価値評価のみならず、建物自体が持つ性能や法適合性も融資の条件等となってから、検査率や法適合性建築物も急激に上昇しています。これは確認審査・検査の民間開放、このことに伴う行政の違反取り締まり等へのシフト変更といった「公共サービスの組織的再編」の結果とも言えます。
【参考】特定行政庁(建築主事)・指定確認検査機関における検査済証交付件数・完了検査率の推移 |
※ 完了検査率=当該年度における検査済証交付件数/当該年度における確認件数
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※ 「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」(国土交通省H24・7・2) |
(4) 使用開始後(定期報告)
建築行政は建築確認時の法適合性を重視したものから、金融機関や民間確認検査機関の協力により建物完了時の法適合性にシフト変更され、行政庁は違反取締に重点を置く時代に入りました。
建物は自家用のものばかりではなく、賃貸契約等による収入を見込んだ中で維持管理費を捻出するパターンもあり、ライフサイクルコストは重要な要素になっていますが、特に建物完了後は契約というどちらかというと建築工事というカテゴリーとは別次元で不動産取引がなされます。
建物の維持管理については、建物自体に新たに手を加える場合のみならず、建物性能の維持欠如や使い勝手の変更等による「違反」という事由に、場合によっては重大な過失責任が伴うことを安易に考える現実があると言っても過言ではありません。
建築基準法では、こうした維持管理責任を保持してもらうため、建物が完了後は所有者又は管理者に定期的に建築士資格を持った者等に法適合調査をさせ、行政庁に維持管理報告をしなければならないと位置付けています。
(参考)定期報告制度の実態② |
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※ (国土交通省HP) |
(5) 違反に対する措置と罰則
「特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物等については、建築主、工事請負人若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは敷地所有者、管理者若しくは占有者に対して、当該工事の施工の中止を命じ、又は除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限など違反是正するために必要な措置を命ずることができる。」と位置付けています。
しかし、現実問題として違反の程度は多種多様あり、程度に応じて判断され、是正命令を出しても知らん顔という世の中の実態があります。
一方、建築基準法のみならず他の関係法令、条例も罰則を定めています。従って、違反事由が建築基準法の関係規定になっている他の法令、条例に2重3重となって罰則規定がかかる場合があります。
罰則規定は違反事由ごと、条文によって異なっており、懲役又は罰金に処するしくみとなっています。罰金刑の額も人命に係わる違反であっても比較的安い金額という印象や警察に告発するという手続きが行政組織の仕組み・実態の中でどう担保されるのか、抑止効果があるのかという社会的批判がなされてきましたが、姉歯事件をきっかけに大幅に改正され、最高1億円という規定も存在します。
また、違反事由が設計者、工事施工者はもちろんのこと、建築主、建築設備者等に対するものや違反実行者と法人又は使用者等との両罰規定も定められています。
最近の事例では、新宿歌舞伎町の雑居ビルで火災が生じ、多くの人命が奪われた事件です。テナントの原因者は勿論のこと、民事のみならず刑事事件としても関係者が罰せられました。さらに、建築基準法や消防法など様々な違反事由として、建物所有者やビル管理者など多くの関係人がそれぞれの立場でその社会的責任が問われました。
4. まとめ(所有者・管理者の一義的責任)
建築に関する世の中の仕組みというのは、ある意味では業界関係者への信頼とモラルで成り立っています。しかし最近の日本を見る限り、これまでの性善説は通用しない時代に入っています。本来、それぞれの立場で社会的モラルと責任を全うすれば法律等でコントロールする必要もないわけですが、現在の社会実態を鑑みれば仕方がないかもしれません。世の中全体が成果主義や業績評価を重視する一方で、責任所在や結果責任・罰という点でも「個」が問われる時代です。
建物所有者・管理者は何か事故や災害等があった際、自分はどう危機管理を行ってきたかが問われることになります。こうしたことからも、一義的責任を負う建物所有者等は建設する際の建設費のみならず、中長期的な修繕計画を含めた建物のライフサイクルコストを意識し、維持管理についての検討項目整理と計画を事前に立てておかなければなりません。 |