1. はじめに
2014年3月23日、大阪都構想の是非を問うという名のもと、大阪市では橋下市長の出直し選挙が行われ再選された。
しかし、その後の実現に向けてのハードルは高く、中核並の基礎自治体として特別区を再編するための区割り案、事務分担の権限(その裏メッセージは、新大阪府が広域自治体としてどれだけの権限をもつのかを含んでいる)を決めるのは難航している。
このレポートを書いている間にも、今国会で通過した第30次地方制度調査会答申にもとづいた地方自治法改正案や地方分権一括法案と大都市制度改革案を折衷的に検討した「合区」案の検討(注1)や、7月2日には大阪維新の会と対立する大阪市議会の野党4会派が、法定協議会の市議メンバー全9人を引き上げ、維新のメンバーのみで法定協議会再開を強行するなど大阪維新対公明・自民・民主系・共産といった両党派でのけん制が続くなか、7月3日の法定会議で、来春としてきた大阪都構想の実現時期を、2年後の2017年4月に先送りする意向が示され、市長選への出馬も含みもたせるような記事も出ており、先の見通しが読めない状況である。
そういったなか、2014年5月23日・24日の両日にわたって自治労大阪府本部で「第16回地方自治研究集会」が行われた。メインテーマは「改めて、大阪市解体の是非を問う」という刺激的なものであった。資料によると、23日の全体集会では、大阪都構想をめぐる情勢報告を大阪市市会議員で、都構想の法定協議会委員であった長尾秀樹氏が行っている。
また、大阪市とおなじく政令指定都市であり、大阪市長選より遡ること半年前に政令指定都市の是非を問う、いわば大阪都構想の前哨戦ともいえる選挙で、維新候補を破り再選した堺市長竹山修身氏による記念講演も行われた。
集会2日目は「経営形態の変更と非公務員化」、「市民協働」、「自治研入門」、「地方財政」、「公契約条例」、「都市交通」の6分科会が開かれており、この2日間の議論を通じて考え得た未来の大阪市の自治について、その成果を佐賀自治研に反映していくことが、第16回地方自治研修会基調案として提案されている。
残念ながら、筆者は参加しておらず当日の詳細は不明であるが、資料によると、大阪都構想には、大阪市民と市職員によってこれまで培われてきた「大阪市の自治」が失われる懸念や、公共サービスの民営化によって市民サービスが受ける損失、そして労働組合の本分ともいえるそこで働く職員の労務政策・労使関係の破壊といった根源的な課題やテーマが、分科会として盛り込まれているようである。
ただし、残念なことに大阪市で働く「非正規公務員」が、この大阪都構想によってどのような痛手を受けるのかは、議論の大きなテーマになっていない。
しかし、大阪都構想にとって、自治労大阪が提起した課題、「非公務員化」や「公契約条例」といったテーマと同等に、「非正規公務員(臨時・非常勤全ての総称として今後使用)」の問題も大きな課題を含み持っている。
なぜなら、近年広く周知され、自治労が行った2012年調査でも明らかなように、全国で約70万人、自治体で働く労働者のおよそ3分の1が「非正規公務員」であり、大阪都構想をめぐる議論において、非正規公務員の行方は、今後の大阪の自治を考えるうえで、非常に大きな課題であると筆者は考えるからである。
ゆえに、この論文では、大阪都構想にまつわる大阪市の非正規公務員問題を掘り下げていきたいと思う。
2. 近年の大阪市の非正規公務員の数
大阪市人事室資料によると(労働組合側からの実数が調査されておらず、ここで公表できないのは、非常に残念なことである)、2012年、2013年の非正規職員数は図表1のような推移をたどっている。
図表1 大阪市非正規職員数の推移 |
各年10月1日現在 |
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2012年 |
2013年 |
任期付職員 |
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(一般職任期付※1) |
243 |
315 |
(育休任期付※2) |
88 |
100 |
臨時的任用職員(学校園除く) |
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(育休法第6条) |
57 |
61 |
(地公法22条) |
183 |
50 |
再任用職員(学校園除く) |
659 |
757 |
非常勤嘱託職員(学校園除く) |
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(地公法3-3-3 大阪市OB以外) |
3,006 |
3,459 |
(地公法3-3-3 大阪市OB) |
823 |
701 |
合 計 |
5,059 |
5,443 |
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アルバイト(延べ人数) |
14,389 |
13,342 |
(交通局、水道局、病院局、学校園除く) |
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大阪市人事室資料より筆者作成
※1 一般職任期付職員は、地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律第4条の規定に基づく任期付職員(フルタイム)
※2 育休任期付職員は、地方公務員の育児休業等に関する法律第6条の規定に基づく任期付職員(フルタイム) |
2012年10月1日時点で、学校園(教員・学校職員等)を除き、5,059人の非正規公務員が働いており(アルバイト述べ人数を除く)、わずか1年後の2013年には、5,443人と、384人増加している。
また、地方公務員法3条3項3号(以下、地公法3-3-3と呼ぶ)を根拠とする特別職の非常勤嘱託職員の数のみを比較すると、この1年だけで331人増加している(大阪市OB・OB以外含む)。付け加えるならば、2007年10月1日時点では、2,340人(大阪市OB以外1,859人、大阪市OB481人)であったものが(注2)、5年後の2012年で3,829人(大阪市OB以外・OB)と1.6倍、6年後には4,160人と1.8倍となっており、2倍に迫る勢いである。
これは、区役所単位でも同様の傾向がうかがえる。現在、勤務条件通知書・就業規則未作成問題(労働者性の高い特別職・地公法3-3-3の非常勤嘱託職員および技能職員 計37人が対象)で、管轄の労働基準監督署から是正勧告を昨年11月7日に受けた、筆者の勤務する福島区役所でも、特別職・地公法3-3-3の非常勤嘱託職員は22人働いており、正規職員(技能職員含む)が約120人近く所属している中で約15パーセントは特別職を任用根拠にもつ非正規公務員であるからだ。
また、細かいことだが、2012年から2013年にかけ①臨時的任用職員地公法22条での採用者が減少した理由、②学校園の非正規職員が除かれている理由、③アルバイトの延べ人数が減少している理由、といった3点にも注意するべきであろう。
はじめに、①臨時的任用職員地公法22条での採用者が減少した理由、については、大阪市では2012年から2013年にかけ、地公法22条による臨時的任用職員で雇っていた保育士を、特別職・地公法3-3-3の非常勤嘱託職員や、一般職任期付職員に任用替えを行ったためである。
人事室資料によると、2012年10月1日時点で地公法22条臨時的任用保育士が102人、一般職任期付の保育士が46人だったのに対し、2013年度は地公法22条で任用された保育士は3人、一般職任期付で任用された保育士は116人と、保育士の任用根拠が逆転している。
しかし、大阪市は保育士の募集を、常時HPに載せていることからもわかるように、保育士不足が常態化している。これは、公立保育所の廃止、民間委託など先行きが不透明であるなか、過酷な労働にもかかわらず、正規保育士の新規採用を行わずに、低賃金、雇用の不安定さ、責任の重さを抱えた非正規の保育士で補完しようとすることで矛盾が噴出しているからともいえるだろう。公立保育所で保育士が不足することで、疾患・障がい等をもった配慮の必要な児童への保育士の配置が充分に行えなかったり、児童虐待の早期発見といった子育ての地域のセーフティネットの役割を果たすことが難しくなったりしてきている。
また、生活保護のCW(ケースワーカー)の募集も常時行っている。これは、責任の重いハードワークを課されながら、同一価値労働同一賃金の原則が重視されず、待遇面で正規職員と大きな格差があるといった、保育士不足と同様の矛盾が噴出しているからといえるのではないだろうか。
次に②学校園の非正規職員が除かれている理由について、一般的に教員は、公立の小中学校・特別支援学校の設置運営は市町村の権限、定数の決定・採用・教職員の給与の負担は都道府県が行い「県費負担教職員」といわれている。さらに大阪市立の幼稚園、高校、大学、少人数学級編制への対応、就学困難児の学習支援員等といった「市町村費負担教職員」も混在している。そういった理由から教員・学校職員は人事室の計上とは別になっているからではないだろうか。
ただし、総務省「臨時・非常勤に関する調査結果について(2012年4月1日現在)」(注3)の大阪市の状況を情報公開請求して得た資料によれば、大阪市は教員・講師を1,061人(特別職・地公法3-3-3 197人、臨時的任用職員地公法22条2項・5項のフルタイム864人)採用している。
最後に③アルバイトの延べ人数が減少している理由についてであるが、筆者の個人的見解ではアルバイト職員は、非正規公務員の中でも、特に雇用調整弁として使われ、労働実態が見えない非正規公務員であるため、単純にアルバイトの採用人数が減ったとみるべきではないだろう。
最低賃金ギリギリの報酬、頻回な雇用中断、頻繁な職場替えといった可能性も高い。このことで雇用保険の未加入や、有給休暇の未取得といった、労働基準法で守られた権利が充分行使できていない可能性が考えられる。
また、大阪市の直接雇用の非正規公務員だけではなく、委託、派遣等といった公共サービスの重要な担い手もかなりの人数が大阪市で働いていると予想されるが、数として表に表れないことも大きな問題があることを付け加えておく。
以上まとめると、大まかには2012年度で任期付、再任用職員、教員・学校職員を含む大阪市の非正規公務員は約6,120人(5,059人+1,061人)となり、2013年は2012年の総務省調査で得られた教員学校職員数を人事室の非正規公務員数に加えると、約6,500人の非正規公務員が働いていると予測される。
以上のことから、2013年度時点で、一般行政・教育・消防・公営企業等部門含め35,690人の正規職員が大阪市で働いており(注4)、非正規公務員を6,500人と考えると、大阪市の非正規公務員率は約15.4パーセントであると考えられる。
全国的には、2012年4月1日時点で地方公共団体の正規職員は2,768,913人(注5)であり、非正規公務員の数は、603,582人となる(注6)ため、大まかには2012年時点で地方自治体で働く公務員約340万人のうち、非正規公務員の占める割合は、約18%と2割に近いものとなる。
ただし、自治労調査(注7)では短時間職員を含め推定70万人が非正規公務員として働いている実態があり、総務省調査を上回る、「3人に1人」が非正規公務員であるとしていることにも注意を払う必要があるであろう。
3. 大阪「都」構想がモデルとする中核市の非正規率
図表2 大阪市、中核市等 非正規公務員率 |
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人口
(2012年4月1日) |
非正規公務員(人) |
正規職員 |
全職員合計 |
非正規公務員割合 |
正規公務員
割合 |
男 |
女 |
合計A |
B |
A+B |
% |
% |
大阪市 |
2,670,701 |
1,887 |
2,473 |
4,360 |
36,885 |
41,245 |
10.6 |
89.4 |
豊中市 |
390,294 |
343 |
1,142 |
1,485 |
3,648 |
5,133 |
28.9 |
71.1 |
高槻市 |
357,137(3月末) |
278 |
863 |
1,141 |
2,452 |
3,593 |
31.8 |
68.2 |
東大阪市 |
503,378 |
309 |
921 |
1,230 |
3,567 |
4,797 |
25.6 |
74.4 |
(枚方市※1) |
406,123 |
253 |
480 |
733 |
2,608 |
3,341 |
21.9 |
78.1 |
堺市 |
842,642 |
462 |
951 |
1,413 |
5,562 |
6,975 |
20.3 |
79.7 |
大阪府 |
|
3,454 |
3,312 |
6,766 |
83,091 |
89,857 |
7.5 |
92.5 |
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※枚方市は、2014年4月1日に中核市に移行。
出典)総務省「臨時・非常勤に関する調査結果について(2012年4月1日現在)一般行政部門(福祉関係含む)・教育・警察・公営企業等含む
総務省「地方公共団体定員管理調査結果(2012年4月1日現在)より筆者作成
一般行政部門(福祉関係含む)・教育・警察・公営企業等含む
図表2を参考にしてほしい。総務省「臨時・非常勤に関する調査結果について(2012年4月1日現在)」では、特別職(地公法3-3-3)、一般職非常勤(地公法17条)、臨時的任用(地公法22条2項、5項)のみ計上したデータであるため、任期付職員、再任用職員、アルバイト職員等は含まれないことに注意しなければならないが、大阪市では、非正規公務員は4,360人(男性1,887人、女性2,473人)となり、同年の総務省「地方公共団体定員管理調査結果(2012年4月1日)」で得られた大阪市の正規公務員の数36,885人とを合算し、非正規公務員率を算出すると、10.6パーセントと約1割となる。
また、大阪都構想が特別区のモデルとして、大阪都市圏で人口規模、人口密度の類似する近隣中核市「豊中市」「高槻市」「東大阪市」(以上大阪府下)、「尼崎市」「西宮市」(以上兵庫県下)を選定し、特別区の職員体制を提示しているが、特に大阪府下の中核市(豊中市・高槻市・東大阪市)等の非正規公務員率はどうであろうか。
2012年段階で高槻市ではすでに約3割が非正規公務員となっており、その他豊中市28.9%、東大阪市25.6%と3割近くを非正規公務員で占めている。また、大阪市や堺市といった政令指定都市に比べ、中核市の方が非正規公務員の中でも女性が占める割合が高いことにも注目すべきであろう。
つまり、今後、大阪市が特別区として5~7区に分割され、中核市並の権限を有する基礎自治体になった場合、非正規公務員の比率が高くなり、活用がさらに進むと考えられ、特に女性の非正規公務員が増加すると予想される。
4. さいごに
今回、佐賀自治研がめざす方向性として、2010年愛知自治研のテーマ「なぜ自治労は自治研に取り組むのか」の考え方を土台に、2012年兵庫自治研で提案された「地域のコーディネーター役」を見すえたとき、それになりきれない職場・職員の課題を問いなおすことで、地域と職場をつなぐ自治研を取り戻す「再出発」をめざすことだとしている。
しかし、大阪都構想をめぐる自治労大阪府本部が「第16回地方自治研究集会」の2日間で議論し、考え得た未来の「大阪市の自治」の成果を今回佐賀自治研に反映するとしても、その中に非正規公務員の問題も提案されることが予定されているのであろうか? 共に大阪市の自治を担う自治体職員でありながら、その役割を政策立案自体に、盛り込まれていないという懸念がある。
筆者を含め、大阪市で働く非正規公務員の多くは、同じ大阪市で働く労働者が正規・非正規で分断されることや、労働組合の組合員ならば組合員同士で敵対することを望んではない。ただ、働き方が正規職員とは違っていようとも、公共サービスを担う自治体のメンバーシップとして扱われたいのである。
話は変わるが今回11月3日に第2回官製ワーキングプア大阪集会(注8)が開催される予定である。東京ではすでにこの8月30日に第6回集会を迎え、定着化しつつある集会である。
筆者は大阪集会の実行委員だが、昨年大阪実行委員間で議論し、具体的な企画として体現したかったのは「公務職場で増え続ける非正規労働者が、労働組合の枠、正規・非正規の壁を越えて集まる」ということであったと考えている。事実、昨年第1回の大阪集会では労働者弁護団、民主法律協会、NPO労働者と人権サポートセンター・大阪、非正規労働者の権利実現全国会議、そして東京を中心に精力的に非正規公務員の権利実現の活動を行うNPO官製ワーキングプア研究会が共催し、ナショナルセンターの枠を超えて当該の労働者を中心に協力しあえたと実感している。また、集会当日は様々な所属の非正規公務員が集い、立ち見が出るほどの熱気につつまれたものになった。
これは西谷敏氏が提言されたように、労働組合や、市民団体、各種NPO、政党などが協力しあって、ネットワークで繋がって、大きな運動を形成する試み(注9)に近いものといえるのではないだろうか。
つまり、筆者は何が言いたいのかというと、この拙い小論で述べたような大阪市の非正規公務員の現状や、過去の官製ワーキングプア集会の中で明らかになった非正規公務員特有の課題、自治労大阪が地方自治研究集会の大阪都構想議論の中で深めた大阪市の自治再考も、それぞれ独自の問題として閉じ込めてしまわず、壁を取り払う方法を模索したいということである。お互いの間につくられた見えない壁を取り払い、お互いを恐れず、同じ場所で課題を明らかにし、共通性を見い出すことや、未知の部分を理解し合うことができれば、敵対することや問題から逃げるのではない解決の糸口をみつけることができると思っている。そうすることで、(大阪市の)自治や労働組合はより強靭になると思うし、西谷氏の提言されたような大きな運動を形成する試みもさらに発展すると考えるのは、筆者の単なる夢想でしかないのだろうか?
また、従来正規公務員の問題とは切り離され、特殊で個別の課題とされがちな非正規公務員の問題を、佐賀自治研のような場所で、公共サービスを担う様々な「働き手」の問題として一般化、客体化できたならば、それはとても意義のある「再出発」になるであろう(事実、第一分科会はそこに力点をおいていると、筆者は理解している)。
「その都市は誰のものか?」と問われたならば、その土地にある自然や歴史、住むひとびと、集うひとびと、働くひとたちのものであり、共有財産であると思う。また、その環境や、安全、健康、自然、価値観、文化、ひとを大切にすること、大事に思うことは、自分たちがいなくなった後の未来を守るということにつながっていくと思う。
そして、その仕組みづくりや「再出発」には公務員と市民の協働が必要不可欠であるのは言うまでもないが、やはりその公務員という存在のなかに、非正規公務員が入っていないと感じてしまうのは、筆者だけなのであろうか。 |