【要請レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

避難自治体における財政の現状と課題


福島県本部/福島県議会「民主・県民連合」・県議会議員 宮下 雅志

1. はじめに

 2011年(平成23年)3月11日の大震災は、東日本の沿岸部を中心に未曾有の被害をもたらした。中でも福島県は地震・津波の被害に加え、東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質の影響により、16万人を超える県民が避難を余儀なくされ、被災町村はその機能自体を移転せざるを得ない状況となった。
 自治体機能を移転したいわゆる「避難自治体」は、被害や避難の状況、帰還への道筋などがそれぞれに異なることから、これまでたどってきた経過や今後の取り組みに大きな違いが生じている。今後の双葉郡の復興を考える上で町村間の連携は不可欠であり、一括りに出来ない異なるそれぞれの課題に対し、どのように対応していくかが復興へのカギとなると考える。
 今回、「避難自治体における財政の現状と課題」を考察するにあたり、大熊町と広野町の二町を取り上げ、それぞれがたどった経過と財政状況を示し、今後の課題について検証する。


2. 大熊町と広野町のこれまでの経過

(1) 大熊町
 2011年(平成23年)3月11日の発災後、翌12日には全町に避難指示が出され、隣接する田村市に避難を開始し、仮役場を同市船引町に設置。同日15時36分に第一原発1号機で水素爆発が発生。3月13日以降、住民の退避が必至となり、多くの住民が、仮役場が設置された田村市総合体育館に移動・避難(この時点で住民の避難場所は各地に散在)。
 3月14日11時1分、プルサーマル燃料の第一原発3号機で水素爆発。
 4月3日、会津地方へ二次避難開始。同月5日、会津若松市役所追手町第二庁舎に大熊町役場会津若松出張所を開設。同月16日、避難先の会津若松市で、幼稚園、小学校、中学校を開園・開校。同月22日、町内全域が警戒区域設定(原発から20km圏内)。
 6月1日、町広報誌の発行開始。同月21日、体育館等の避難所から仮設住宅への入居開始。9月16日、会津若松市に高齢者サポート拠点施設開設。10月11日、いわき市に町役場連絡事務所開設。同日会津若松市に認知症高齢者グループホーム開設。
 2012年(平成24年)10月1日、二本松市に町役場連絡事務所開設。
 12月1日、警戒区域が解除され、避難指示解除準備区域・居住制限区域・帰還困難区域に再編される。大熊町は居住地域の96%が帰還困難区域となる。町は「5年間は帰町しない」判断に踏み切る。
 2013年(平成25年)4月1日、大熊町役場現地連絡事務所開所。4月8日、大熊中学校会津若松仮設校舎開校。
大熊 人口・歳入・歳出の推移
 12月1日、いわき連絡事務所をいわき出張所に組織変更。同月14日、中間貯蔵施設の整備に関する国からの正式要請。
 2014年(平成26年)8月31日、中間貯蔵施設の条件付き受け入れ了承。
 以上が大熊町の経過の概略だが、他に住民説明会や住民アンケート、長期避難者の生活拠点整備や健康管理、住宅確保や雇用の確保、賠償問題への対応、復興計画の策定など、その事務は多岐にわたる。
 さらに事務の遂行を困難にしているのが、町民の避難状況である。
 2014年(平成26年)8月1日現在、町民10,882人のうち県内避難者8,266人、県外避難者2,616人。県内避難者のうち、いわき地域4,171人、会津地域2,166人、県中地域1,111人となっており、県外避難者に至っては埼玉県401人、茨城県388人、東京都316人、新潟県268人、千葉県236人をはじめに、北海道から沖縄まで全国36都道府県にわたっている。

(2) 広野町
 2011年(平成23年)3月11日の発災後、第一・第二原発の重大事故を受けて、翌12日には第二原発から半径10km圏内に屋内退避指示が発令される。これを受け、避難指示区域以外も含め全町民に自主避難を呼びかける。翌13日、第一原発1号機の水素爆発を受け、同日全町民に避難指示を発令。3月15日以降、役場機能を小野町の小野町民体育館に移転。4月15日、役場機能をいわき市の民間工場の社屋内に再移転し、広野町役場いわき湯本支所として設置。
 その後政府は第一原発から半径20kmから30kmの圏内に屋内退避指示を発令し、4月22日に町内全域が緊急時避難準備区域に指定される。これにより乳幼児と妊婦が居住制限を受けることになったが、引き続き全町民に対し自主避難を呼びかける。
 9月30日、緊急時避難準備区域解除。
 2012年(平成24年)3月1日、役場機能を元の広野町役場に戻し、2011年(平成23年)3月13日に発令した町独自の避難指示を解除。湯本支所は湯本出張所とし一部業務を継続する。
広野 人口・歳入・歳出の推移
 なお、除染については、2011年(平成23年)8月には3人の除染アドバイザーを委嘱し、10月には町独自に家屋の5点(門口、玄関、庭、屋根裏、雨樋)モニタリングを実施する。同年11月には国の除染モデル実証事業として、文教・公共施設を中心に31haの除染を開始する。同年12月「除染実施計画(第1次)」を策定。2014年(平成26年)5月時点で、一般住宅の97%、生活圏から20m以内の森林の92%、農地の93%の除染が完了している。
 2012年(平成24年)6月、個人線量計を1,427世帯に配布。8月、広野小学校、広野中学校の再開時に小学生にガラスバッジを配布。
 2013年度(平成25年度)には、線量計を、ガラスバッジを持った小中学生以外の個人1,113人と496世帯に配布。
 町民の避難状況は、2014年(平成26年)5月14日現在、町内居住者が1,530人、県内避難者が3,176人(内いわき市3,058人)、県外避難者が419人で、町内生活者は週3~4日の方を含めて2,000人から2,500人になっている。


3. 大熊町と広野町の財政状況

(1) 大熊町
① 歳 入
  大熊町は普通交付税不交付団体であり震災後も変わらない。地方債も発行していない。
  2011年度(平成23年度)以降の依存財源の伸びは、言うまでもなく震災関連の国県支出金及び特別交付税、震災特交による。
  税収では、市町村民税が大幅に減額しているが、これは避難により個人住民税の申告が出来ないか、申告後の減免措置又は課税の猶予期間のため(この猶予期間は1年間延長され、2015年(平成27年)3月31日まで)。一方、固定資産税は目立った減額になっていない。これは東電の大規模償却資産課税によるもので、新たに汚染水貯蔵タンクや第一原発1号機の建屋カバーも課税対象。

大熊 自主財源と依存財源の推移
大熊 歳入内訳の推移
大熊 地方税の内訳推移
大熊 地方交付税・特別交付税・震災復興税の推移
大熊 電源三法交付金の割合推移

② 歳 出
  総務費の主なものは復興交付金基金及び電源立地地域対策交付金基金への積立。
  2011年度(平成23年度)の民生費は、約7億円が住民への見舞金として支出。
  労働費は、震災前は殆ど支出していなかったが、震災後避難者の緊急雇用対策事業として支出している。
  農林水産費は貸付金で、避難先での営農再開への資金として貸付。
  商工費は2011年度(平成23年度)に2千万円で線量計を購入。
  土木費は2011年度(平成23年度)に約2億円で、地震で被災した家屋を保護するために屋根をビニールシートで覆う。
  農林水産費、商工費、土木費等が大幅に減額しているが、これは全町避難により通常の政策展開が出来ない状況にあることを示している。

大熊 性質別経費の推移
大熊 目的別経費の推移
 

③ 財政指標
  基金残高のうち、財政調整基金は約73億円で、これは震災前の歳入総額に匹敵する額。
  特定目的基金は復興交付金基金などの復興関連で、残高は約116億円となっている。
  これら基金は帰還後の復興財源に充てられる。

大熊 標準財政規模・基準財政収入額・基準財政需要額推移
大熊 地方債残高・財調・減債・特定目的各基金の推移
大熊 経営収支比率・公債費負担比率・実質公債費比率の推移
大熊 実質収支・単年度収支・実質単年度収支の推移
大熊 財政力指数・実質収支比率・公債費比率の推移

(2) 広野町
① 歳 入
  広野町も2009年度(平成21年度)は普通交付税不交付団体だったが、その後交付団体になる。東北電力広野火力発電所6号機の増設により、固定資産税の伸びが見込まれることから、2015年度(平成27年度)は再び不交付団体となる。
  震災後の依存財源の大幅な伸びは、交付税と国県支出金の増額によるもの。国庫支出金は殆どが復興交付金で、県支出金の殆どが除染費。2012年度(平成24年度)の県支出金約86億円のうち除染費が約74億円。
  税収では震災後落ち込んだ市町村民税が2012年度(平成24年度)には回復している。これは除染などの復興関連事業により法人の業績が好調なことから、法人分の市町村民税が伸びたことによる。
広野 自主財源と依存財源の推移
広野 歳入内訳の推移
広野 地方税の内訳推移
広野 地方交付税・特別交付税・震災復興税の推移
広野 電源三法交付金の割合推移

② 歳 出
  総務費の主なものは復興交付金基金の積立で、2012年度(平成24年度)は約27億円。
  民生費は殆どが除染作業委託で、性質別経費では物件費として支出。物件費では他に線量計の購入経費が含まれる。
  繰出金が2011年度(平成23年度)に大幅に伸びているが、これは下水道特別会計へ3億6千万円、簡易水道特別会計へ1億9千万円繰り出したもので、地震により破損した施設の復旧に充てる。
  普通建設事業費は2012年度(平成24年度)に前年を大きく上回っているが、これは除染廃棄物の仮置き場の造成費と、この年に再開した広野小・広野中の学校施設災害対策費による。

広野 性質別経費の推移
目的別経費の推移

③ 財務指標
  財政調整基金の残高が、2011年度(平成23年度)に比べ、2012年度(平成24年度)は1億4千万円以上減額となっているのが気になるところ。

標準財政規模・基準財政収入額・基準財政需要額推移
実質収支・単年度収支・実質単年度収支の推移
財政力指数・実質収支比率・公債費比率の推移
地方債残高・財調・減債・特定目的基金の推移
経常収支比率・公債費負担比率・実質公債費比率の推移

4. 大熊町と広野町の課題

(1) 大熊町
 大熊町の抱える課題は自治体の存続に関わる問題である。「何時になったら帰還できるのか」「帰還できるようになったときどれだけの町民が戻るのか」「放射線量は健康に影響のないレベルまで下がるのか」「子どもたちや妊産婦は大丈夫か」「大熊町で生活が成り立つのか」「仕事はあるのか」「中間貯蔵施設の影響はないのか」等の厳しい問いの全てに答えなければならない。
 町は「5年間帰らない」ことを決めたがその後の見通しが立っている訳ではない。現在大熊町では、町民のコミュニティ維持・絆を強めるための取り組みや情報提供の促進、復興拠点や集いの場作りに努めている。
 2013年(平成25年)10月に実施した町民アンケートの結果は、「町に戻りたい 8.6%」「戻らない 67.1%」「判断がつかない 19.8%」であった。長期化する避難生活の中で、町への帰属意識を繋ぎ止めるのは難しい。避難先自治体で新しい生活を始めることを望む町民も多い。
 国の直轄除染地域になっているが、居住地域の96%にあたる帰還困難区域の除染や森林の除染は進んでいない。
 今年8月31日には「中間貯蔵施設」の受け入れを条件付きで了承した。
 このような中にあって、大熊町は今年の3月に「大熊町復興まちづくりビジョン」を策定し、「中長期・段階的町土の復興・再生」の中で、2018年(平成30年)から2033年(平成45年)までの段階的な町土構造整備のイメージを示している。

(2) 広野町
 広野町や川内村のようにすでに帰還した自治体では、住民の帰還が思うように進まないことから、住民の帰還に向けた施策を、多少無理をしながらも、積極的に展開しており、今後財政的に厳しい状況に至ることが懸念される。復興計画の実現の中で、「広野駅東側開発整備事業」という大型プロジェクトが計画されており、財源確保が大きな課題となる。
 広野町の住民アンケートでは、「町に戻る」と答えた人が62.8%となっており、大熊町の住民との大きな違いが出ている。又、「戻りたくない」と答えた人の64.3%が「放射線の影響が不安だから」としており、その後汚染水問題などにより「原子力発電所の状況が不安だから」に変化してきている。町民の帰還のためには、原発事故の収束と除染の徹底が大きなカギをにぎっている。
 広野町の復興計画では、原発事故収束や除染、復旧作業、廃炉の最前線拠点であり、双葉郡の復興のための拠点を形成していくことが示されており、その先駆けとして2015年(平成27年)4月には双葉郡内の高校を統合した、連携型の県立中高一貫校が、広野中学校の校舎を活用して開校することになっている。


5. おわりに

 双葉郡の避難自治体は、「戻ったところ」「これから戻るところ」「戻れないところ」と、その状況が大きく異なっている。震災と原発事故以降、国は巨額の資金を被災自治体の復旧復興に投入してきた。そして3年半が経過した現在、除染や廃棄物処理、健康管理や避難者支援、産業振興等へのこれまでの取り組みの成果を検証するにつれ、避難自治体の復興はそれぞれの町村が単独で実現できる課題ではないように感じられる。
 復興のカギは、異なる状況の町村が連携を密にし、お互いが補い合い支えあって行くことであり、双葉郡の存続のために自治体の枠を超えて、心を合わせ、大きくまとまることも選択肢のひとつと考える。