【要請レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

財政分析ソフトを使った忠岡町財政の分析と課題


大阪府本部/執行委員 二重 幸生

 自治労大阪府本部執行委員(町村対策部長)の二重と申します。今日は、全国自治研における貴重な時間を頂き、大阪府本部が作成した財政分析ソフトについて、デモを含めて報告させていただけますことについて感謝申し上げます。それでは、早速ですが報告させて頂きます。
 自治労大阪府本部における財政分析プロジェクトの一環として、本年の5月23、24日の両日に開催された第16回地方自治研究集会の分科会の一つとして、『持続可能な市町村財政の確立に向けて』と題しまして、大阪府内市町村財政の現状と課題を探る分科会を開催しました。
 人口減少に伴い労働力が減少し、より一層少子・高齢化が進む中、地域社会と自治体の活力維持とともに、持続可能な市町村の財政運営が重要な課題となっています。そのためにはまず自分の自治体の現状を知ることから始める必要があります。
 しかしながら、財政というものは担当者を除いて余り興味の湧く対象ではないことから敬遠しがちなのが現状であります。
 そこで大阪府本部は、的場啓一静岡大学准教授の協力を得て、簡単に財政分析ができるソフトを開発し、各単組からの参加を頂いて、市町村「財政分析プロジェクト」を発足させました。プロジェクトとして、4回の会議を開催し、その中で各単組の参加者がそれぞれ自分の自治体の財政状況を分析し、最終的に自治研集会の分科会の中で報告していただきました。
 このプロジェクトに参加させて頂いた、個人的な感想でありますが、先ほど申し上げましたが、財政というだけで敬遠しがちな内容ですので、本当にこのような短期間(半年もなかったので)でどこまで出来るのか不安でありました。
 私自身は19年間財政課に所属しておりましたので、ある程度のことはわかるのですが、実際にプロジェクトに参加されたみなさんは、これまでに財政の経験がない人ばかりだったので、もっと不安だったと思いますが。
 しかしながら、この財政分析ソフトのおかげで、素晴らしいプロジェクトになったと、自負しています。それでは、私のほうから、簡単にソフトの紹介をさせて頂きます。
 このソフトの特徴といたしまして、近隣市との比較に重点を置いているところであります。首長としましては、近隣自治体の状況が一番気になるところではないかと思います。そういった意味で近隣自治体との比較を重点に置いたものとなっており大阪府内を4つのブロックに分けております。
 また、大阪府の特徴で、府内には43の市町村がありますが、そのうち町村は4分の1の10団体しかありませんので、町村は町村同士で比較出来るように作っております。
 各自治体のデータは総務省のホームページから、各自治体の過去10年間分の決算統計のデータをダウンロードし入力を行いました。この入力作業が非常に大変であったと聞いております。府本部の書記の方が手分けして入力したそうです。
 くどくどと口で説明するより、実際に見ていただいたほうが分かりやすいと思いますので、これからソフトを見ていただこうと思います。しばらくお待ちください。(実際にソフトを稼動)
 これは、わたしの出身単組の実質収支比率の推移をほかの町村と比較したグラフでありますが、見ていただくとわかるとおもいますが、赤いグラフが府内の町村の中でも2007年度までは常に一番下となっており、2008年度で急激に悪化し、その後V字回復を果たし、2011年度にいたっては府内で最高のレベルとなっております。このグラフを見ていただくと、先ず2007年度までずっと最下位という状況は何故か? 2008年度に大幅に赤字となった要因は何か? その後急激に黒字となったのは何故か? といった疑問が出てくると思います。
 これは、財政のことをわからなくとも、グラフを見れば誰もが思う疑問であると思います。このようにほかの団体と比較してグラフ化することで自分の団体の状態がどうなのか、どの部分がほかの団体と比べて劣っているのか、または優れているのか、といったことが一目瞭然となるのです。あとは、先ほどいいました何故なのか? という疑問を調査する必要があるわけですが、そこは実際に財政の担当者などに聞いてみるしかありません。
 その他にも、例えば、これは経常収支比率の推移ですが、これも見ていただいたら分かりますように、赤いグラフが常に一番上にあります。これはどういうことなのか? 経常収支比率が高いということは、良いことなのか、悪いことなのか? というような疑問が出ると思われます。
 つまり、このソフトを使うことによって、自分の自治体の財政状況が他の自治体と比べてどういう状況なのか? といったところがビジュアル的に分かるということであります。数字ばかりを比較してもなかなか比較しづらいと思いますが、このようにグラフで見ることにより、誰でもが、これはどういうことなのか? といった疑問を持てると思います。
 とりあえず、まず疑問を持ってみること。そこからいろいろな分析が始まるのだと思います。
 この分析ソフトの中には、今、実際にお見せしたグラフ以外にも、様々な種類のグラフがあり、いろんな角度から財政状況を見ることができるようになっています。
 今、見ていただいたものは、財政診断グラフというグループで、これだけでも23種類があります。
 その他にも、歳入状況診断グラフで、20種類。目的別歳出状況診断グラフで、40種類。性質別歳出状況診断グラフで、30種類あり、合計でなんと、113種類ものグラフがあることになります。
 つまり、100種類以上のグラフで各自治体の財政状況を他の団体と比べるわけでありますから、必ずなにかしらの疑問が出てくるものと考えられるわけであります。そして、最初の何故? から始まって、様々な分析をしていっていただくと、自分の団体の財政状況、他団体と比較した場合の状況などがわかります。
 それを分かることにより、組合として当局との交渉の際にも、「財政状況が悪いから……」といった、不明瞭な言い方に対しても、毅然とした態度で、反論が出来るという仕組みであります。ですから、理想としましては、全ての単組役員に対して、このソフトを分析してもらって自分の自治体の本当の状況というのを理解し、そのことを踏まえた上で当局との交渉に臨んで頂きたいと考えております。

 それでは、せっかくですから、実際に、わたしの出身単組であります忠岡町の財政状況と課題ということで少し、おはなしさせていただきたいのですが、さきほど見ていただいたとおり、決して良い状況ではありません。この経常収支比率に至っては10年連続で100%を超えております。どうして、こんなに高いのかということで詳しく見ていきますと、人件費についてはそれほど高いことはありません。しかしながら、公債費(借金の返済金ですが)については、かなり高い状態となっております。
 そもそも、どうしてこんな状況になったのか? ということでありますが、1998年度に完成した現在の庁舎が原因であります。庁舎といいましても、温水プールやホールといったものも併設してありますので、「シビックセンター」という名称で呼ばれております。このシビックセンターの総事業費として全体で62億円かかっております。本町の1年間の一般会計の総予算がだいたい60億円程度ですので、年間予算をつぎ込んだ一大イベントだったわけであります……。
 総事業費62億円のうち40億円ほどが借金で賄っておりますので、その返済で毎年3億5千万円程度の持ち出しとなっております。年間予算額の6パーセント程度がこのシビックセンターだけの借金の返済金であります。もちろんそれ以外にも返済金はありますが、返済金のほぼ半分程度がシビックセンターに係る分であったということで、公債費が高い原因というのはそういうことであります。
 シビックセンターの建設計画が出てきたのは、バブル真っ只中の平成の一桁時代ですので、少々の借金もすぐに返せるという楽観的な計画であったのですが、実際に完成した時には、既にバブルがはじけていましたので、非常に苦しい財政状況となってしまいました。そういう状況ですので、今から10年ほど前の平成の大合併の時に、本町も合併協議会を設置し、お隣の市と合併に向けて協議を重ねて参りました。
 ちょうどその時(2004年度ですが)、それまでは財政課の職員であったために、組合の執行部に入ってほしいという声もなかったので、執行部をやったことはなかったのですが、合併をするということで、職員数も減らされ、執行部になる職員がいなくなってきたということで、声がかかり、執行部として組合活動に従事することになりました。
 しかし、その時は合併をするものと、私を含め職員全員が思っていましたので、組合活動もすぐに終われるという、軽い気持ちで執行部に入りました。しかしながら、合併が破綻してしまいました。詳しくは述べませんが、最終的には住民投票で合併反対が7割以上を占めるという結果となりました。その結果として、単独でやっていくことになったわけですが、その時に新たにトップになった町長が、いきなり公立病院をつぶすと言い出しました。軽い気持ちで入った組合でしたので、首長と交渉するなんて夢にも思ってもいませんでしたが、その当時、私は書記長という立場でしたので、委員長と二人で、大阪府本部に相談をし、これからどうすればよいのか、ということを教えてもらいに行きました。思えば、そこから組合活動を始めて10年以上が経過してしまいまして、今では府本部の一員にまでなってしまいました。
 そういうことで、病院に配属されていた職員の身分保障や、それ以外の職員の給料カットなどといった、これまで経験したことのないような状況の中で、苦しい思い出ばかりですが、そういう苦しいことを職員全員で乗り越えてきたからこそ、現在も忠岡町は存続していると思っております。
 しかしながら、ここ4年間で毎年10人程度、合計で40人を超える新規職員が入庁してきました。職場の雰囲気としては、若い職員がいることで活気もあり、非常に喜ばしいことなのですが、先ほど述べた先輩職員の苦しみというのを知らない世代ですので、私のほうから若い職員に対して、説明会をさせて頂き、過去の苦しい時代のことを説明させてもらいました。
 本町のように、大阪という大都市の中で、日本一小さな町(関西国際空港より小さい)であり、町全域が市街地であり、新たに開発できるような土地もないまちですので、これからは、人(住民と職員)を育てて、いままで以上に住んでみたくなるようなまちにしていかなければいけないと考えております。若い職員を育てていくのは、われわれ世代の責任であります。いままでの、良いことや苦しいことの経験を生かして、未来へつながるような若い職員を育成していくことが、町を発展させるための課題であると思っております。それには、やはり自分自身がいろいろな経験をし、それを伝えていくということを考えております。今、ここで報告をさせてもらっていることもその一つであると考えております。
 続きまして、冒頭に申し上げた、自治労大阪府本部における自治研集会の分科会で実際に参加された方の報告を若干紹介させていただいて、終わりたいと思います。
 まずはじめに、東大阪市の方の報告書ですが、歳出の方で、人口千人当たり職員数が2003年で6.8人なのが2012年では5.3人と減少している。また住民1人当たりの人件費で見ても2003年88,060円が2012年では57,730円で約35%も下落している。その一方で住民1人当たり物件費(賃金・委託料)は、ブロック内でも従前より低位に位置している。ということで、この部分を分析していただいた結果として、下にありますように職員数の削減、退職者不補充、退職手当支給額の減少によるものと思われる。職員数は確実に減ってはいるが、その反面、物件費(賃金・委託料)が大幅に増えているというわけではない。その一方で個々の業務内容を洗い出して適切な体制に再構築するというようなことも行われていない。職員数は減っているが、これまでと同じ量の仕事を何とかこなしているという状況ではないか。市としては決算資料のなかで、「職員の削減後も安易なアルバイトの雇用や委託に頼ることなく、創意工夫による業務効率の向上を図った」と自負しているものの、各職場からは人員不足との声が絶えず寄せられ、超過勤務も減っていないとの声があげられている。という実際の職場の状況を危惧しており、結論として、本当に「市」として「公務員」が担わなければならない業務は何か、今の業務体制が最適であるのかどうかの検討(人員の過剰配置あるいは決定的に不足していることはないのかどうか)、時限的なものだとしてもメリハリのある人員配置。
 ……それに対し行政的な視点だけではなく、職員の目線から声をあげていくのが労働組合であり、今後市として新たな施策を打ち出していくためにも財政的な余裕を作りだしていけるのかどうか、市民への説明責任を果たすためにも、無駄を省かなければならないのは言うまでもない。財政分析をさらに進めて最適な財政構造がどういう形であるのか検討、検証し、確立していくことが求められる。そしてプロジェクトに参加された感想として、これまで労使間での財政的な議論については、形式的な説明を受けてきたに過ぎなかったのだなと痛感。これまで当局に単純に「財政が苦しいから」とだけ言われて「そうなのかな」ということで納得していたことを恥じなければならない。そういう意味では財政分析と言うのは組合として当局と議論していくうえでは欠かせないものである。また、今後の議論については、当局の説明をうのみにするのではなく、労働組合としても適切にデータを把握して分析して、何が問題であるのか。問題点を指摘するだけではなく、建設的な対案等も示していく必要があると感じた。きちんと理論武装して対抗していくことが必須である。というように締めておられます。
 また、次は阪南市ですが、歳入からの論点になりますが、ひとつめとして、標準財政規模が近隣市と比べて非常に小さい、ふたつめとして、住民一人当たりの地方税は低く、逆に地方交付税が高いとなっており、その背景として本市は、これまでベッドタウンとして発展してきたが、昨今の社会経済情勢等により、人口は減少傾向にあり、企業・事業所等も少ないため、本市の地方税は近隣市に比べて非常に低く、地方交付税に依存せざるを得ない状況である。これから、どうすればいいのかということでは、標準財政規模が非常に小さく、地方交付税などに依存している本市は、自主財源の確保が最大の課題である。税収入やその他の収入を確保するためには、市としての魅力(コンセプト)を明確にし、人口を増加させる施策等を打ち出し、対外的に発信する必要がある。また、歳出においては、積立金が毎年微増傾向にあり、特に2009~2011年度の伸び率が高くなっている。歳入確保及び歳出抑制等により、積立金が毎年微増しており、近隣市と比べてもここ数年は高くなってきている。今後は財政調整基金だけではなく、目的基金を設置し積み立てていく必要がある。積立金は、これまで同様、歳入の確保及び経費節減等に努め、少しでも増えるように取り組んでいく必要はあるが、財政調整基金のみならず、退職引当金などの目的基金を設置し、積み立てる必要がある。また、積立金は市の施策等によって大きく左右されることから、今後は、積立金残高の動向等も踏まえつつ各施策・事業を展開し、安易な独自給与削減措置等につながることのないよう提言していく必要がある。
 ☆本市のような小さい財政規模では、歳入に応じて歳出を執行、歳出の執行には歳入の確保と非常に厳しい状況にある。特に自主財源が小さいため、財源がなければ大きな施策を打ち出すこともできない。
 また、小さな失敗から、市民サービスの低下や職員給与への反映など大きな打撃につながりかねないため、適正な歳入歳出となるよう当局の動向を注視する必要がある。
 また、この方も参加された感想として、近隣市との比較を行うことで、本市の財政状況やブロック内での位置づけが分かり、非常にためになった。また、本市の弱点や課題などが抽出でき、改めて理解できたとともに、交渉材料の引き出しが増えた。交渉時において、"財政状況"という言葉が必ずついてくるが、一職員として「厳しい」というイメージだけをもって、"何がどう厳しいのか"という部分まで踏み込んで考えたことがなかった。(財政は難しいという固定観念もあり)しかし、今回の財政分析を通じて、職員としても市職執行部役員としても、一歩踏み込むことで何らかの課題や協議すべき事項が見えてくることが気づけた。今回の財政分析を通じ、市の財政状況等の基礎的な部分は理解できたと思うので、可能な範囲で他の市職執行部役員にも広げていき、市職執行部役員内での活性化やさらに踏み込んだ財政分析につなげ、交渉材料等を見出していきたい。
 また、今回の分析によって私が感じた"財政状況"の意味を十分に踏まえ、バランス感覚を持って当局と是々非々の議論・交渉を行っていきたい。

 というように、参加された組合員の方は、財政分析の意義、大切さを身をもって分かっていただけたというように、思います。みなさんにとっても、財政分析の必要性を改めて、感じていただけたとしたら、とても光栄です。
 以上で、私の報告を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

財政分析プロジェクト報告書【抜粋】
歳入分析票 東大阪市
歳出分析票 東大阪市
財政プロジェクトの参加した感想 自治労東大阪
歳入分析票 阪南市職員組合
歳出分析票 阪南市職員組合
財政プロジェクトに参加した感想 阪南市職
財政分析ソフトを使った忠岡町財政の分析と課題