【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

 2014年3月、国は能力及び実績に基づく人事管理の徹底及び等級別基準職務表の条例義務化などを中心とした「地方公務員法の一部を改正する法律」を成立させ、自治体へ職場環境の悪化を招く恐れのある「人事評価制度の導入」を行財政改革の名のもとに強制させようとしている。行財政改革は本来、地域に活力をもたらすために行われてきたものであるが、国が強制させる行財政改革は、地域を切り捨て、我々地方公務員の職場環境をも疲弊させていることは明らかな事実である。本レポートは網走市の行財政改革の背景でその実態がいかなるものかを研究し、本来あるべき行政改革について考察する。



行財政改革に伴う職場環境の変化と対応
―― 網走市における行政改革のあるべき姿 ――

北海道本部/網走市役所労働組合・自治研推進部

1. はじめに

 度重なる自治体の行財政改革(以降「行革」)の流れはとどまることを知らない。網走市においても第3次行政改革推進計画に基づき、2011年、網走市役所労働組合連合会は市当局より「賃金の独自削減」提案を受けるに至った。
 この20年余り地方自治体は、政府が押し進める行革のしわ寄せを受け、次から次へと独自に行革を実施させられてきた。いや、実施せざるをえない環境を作られてきた。その行革の矛先は常に我々地方公務員に向けられ、行革が打ち出されるたびに職場環境の変化を余儀なくされ、ついには職場環境を悪化しかねない「人事評価制度の導入」が検討されているのが現状である。
 本レポートは、政府が進める行革に対して、地方自治体はどのような対応を迫られてきたのか、行革の推進によって我々地方公務員の職場環境がどのように変化してきたのかを自らの職場を対象に明らかにし、本来あるべき行革の姿、組合がめざすべき活動の指針を模索することを目的とする。


2. 網走市における行財政改革の推進経過

(1) 地方分権時代における網走市の行財政改革
 1990年代、当時の自治省(現総務省)より二度にわたり「地方行革指針」(1994年地方行革指針、1997年新地方行革指針)が出され、全国の自治体に対して、行革大綱の策定、事務事業の見直し、組織機構の見直し、定数・給与の適正化、行政の情報化などが求められた。これを受けて全国の自治体は1980年代に引き続き、行革大綱を策定・改定するとともに、合理化を中心とする行財政改革を迫られた。
 網走市では、1998年2月「網走市行政改革推進計画」(計画期間:1998~2007年)を策定し、「退職勧奨制度」と「退職者不補充策」を活用した職員の削減が実施された。また、2000年7月「地方分権一括法」が施行され、政府主導で「平成の大合併」が強行される中、網走市でも周辺町村との合併が模索されたが、財政指数の悪化などが原因で他町村との合併には至らなかった。

(2) 三位一体改革下の網走市の行財政改革
 2001年、小泉政権が発足するや否や、「三位一体改革」(国庫補助負担金の廃止・縮減、地方交付税の一体的見直し、税財源の移譲)が推進され、網走市では地方交付税の縮減により財源不足が生じることとなり、さらなる自主的行革に迫られ、2002年「網走市財政再構築プラン」(計画期間:2003~2007年)を策定するに至る。
 財政再構築プランの策定は、従前の積み上げ式予算編成から、シェアリング式への予算編成へと予算編成作業の仕組みが大きく変更され、政策的順位の低い事業は必然的に見直しせざるを得ない状況となった。
 また、財政再構築プランの策定により、取り崩し可能な基金を繰入したとしても5ヵ年で約44億4千万円の収支不足が見込まれるとして、2005年「網走市財政リニューアルプラン」(計画期間:2006~2021年)を策定し、内部管理費の縮減(旅費規程、被服貸与、車両台数、事務購入品の見直し等)、税・使用料等の収納率向上、施設管理費の縮減(外部委託費の縮減)、補助金・負担金の削減、建設事業・施設整備規模・実施時期の見直し等が行われ、市民サービスの縮減、職場環境の悪化をもたらすきっかけをつくった。

(3) 地方交付税削減下の網走市の行財政改革
 「三位一体改革」による地方交付税の削減政策は、全国の自治体の財政基盤を揺るがす事態へと発展し、2006年、とうとう夕張市が財政破綻した。これを契機に国は2007年「財政健全化法」を施行し、国が全国の自治体の行革に深く関与する体制を整えた。
 網走市においても、財政健全化法の施行を目前に中期的な財政を見通すため、2006年「第2次網走市行政改革推進計画」(計画期間:2006~2010年)を策定し、より一層の行革を実施することとした。その内容は、図書館の祝日開館、住民票等の業務時間外交付といった一部の市民サービスの向上策を掲げつつも、組織のスリム化(職員数削減、より一層のアウトソーシングの実施)、補助金・負担金のさらなる見直し、使用料・手数料の改定を通じてより一層市民や職員のその付けを負わせる中身であった。
 そうした中、2009年に民主党を中心とした政権が発足し、2010年度に三位一体改革前の水準まで回復した地方交付税は、東日本大震災の復興財源確保、予想を上回る社会保障費の増大を背景として、またも削減される状況に至る。
 そのような情勢の中、2011年、網走市においてはさらなる行革指針として「第3次網走市行政改革推進計画」(計画期間:2011~2015年)が策定され、総人件費の抑制、公共施設の外部委託、歳出削減、歳入確保、特別会計の健全化を一層進める内容の合理化案が示された。

表1 網走市の行政改革推進計画と合理化提案
市の対応 合理化の内容 示された提案 背景

1998

2006

網走市
行政改革
推進計画
(97年度
策定)
部・課・係の再編整備、
各部課所管業務の見直し
①職員配置基準の見直し
(定数削減・係統合)
②01~02年の新規採用の凍結
地方行革指針
新地方行革
指針
給与制度・運用の見直し ①人事院勧告に準じた給与改定
②各種手当(寒冷地手当・退職手当)の見直し
③期末勤勉手当の役職加算の凍結
④臨時職員・パート職員の加給金の廃止
公共施設の設置及び
管理運営の適正化
①公共施設に対する指定管理者制度の導入
②水道部門における下水道終末処理場業務の一部民間委託
③生活環境部門の一般廃棄物・資源物収集業務の民間委託
④一部学校間での親子給食の導入
2006

2010
第2次
網走市
行政改革
推進計画
(06年度
策定)

組織のスリム化、
アウトソーシングの推進、事業の選択・見直し

①生活環境部門のパトロール業務の民間委託
②保育園用務員業務の民間委託
③体育施設の一部に指定管理者制度の導入
④水道企業会計の窓口業務及び
料金徴収業務の民間委託
⑤市立保育園(1園)の閉園
⑥職員配置基準の見直し(定数削減・係統合)
集中改革
プラン
財政健全化法
給与の適正化 ①持家に係る住宅手当を廃止
②特殊勤務手当の一部廃止
③旅費支給基準の見直し
④期末勤勉手当の役職加算の凍結
2011

2015
第3次
網走市
行政改革
推進計画
(11年度
策定)
人件費の見直し、職員数の削減 ①給与の減額改定(2012~15)
②現業職を退職不補充とする(~2015)
③退職手当の改正
④職員配置基準の見直し(定数削減・係統合)
東日本大震災
復興財源
社会保障費の
増大
アウトソーシングの推進 ①一部学校間での親子給食の導入
②水道部門の週休日・祝祭日における
浄水場監視及び漏水対応業務の民間委託
③2019年4月を目途とした市立保育園(2園)の閉園 ほか

3. 網走市における行財政改革下の職場環境

 国の行政改革の影響を受け、網走市では「退職者不補充」、「外部委託の導入」、「職員定数の削減」、「職員給与の抑制」等々、様々な改革に着手し、その度ごとに職場環境の変化を余儀なくされてきた。
 網走市労連としては、「住民サービスの低下を招かぬよう、当局として明確な根拠を持ち提案をしているのか」、「その提案を受け入れることによって、どのような住民サービスの向上、職場環境の改善が図られるのか」といった視点で交渉を進めてきたが、全ての合理化案の提案根拠は、「行財政改革のもと財源不足が生じるため」という、「財政問題」に起因したものであった。当局は常に「財源がないから見直しせざるを得ない」、「財源がないから住民サービスの低下を招かぬよう、職員に負担をお願いしたい」といった回答に終始し、組合側が求める住民サービスの向上や職場環境の改善につながる提案はほとんど見られることはなかった。
 国主導の行革の根幹は、国が標榜する「小さな政府」を理想とした予算の圧縮策であり、その過程において、自主財源の乏しい自治体を地方交付税の削減を通じて、国のいいなりにさせるものであるといっても過言ではなく、その背景では常に地域住民と地方公務員とが犠牲になってきた。
 以下においては、国主導の行革の背景で、地方公務員職場がどのように変遷してきたかを具体的に示したい。

(1) 職員定員数削減下の職場環境変化
 網走市における過去9年間の職員定数(配置数)の変遷をみると、2005年当時、358人であった管理職を除く職員数は、行革推進により2013年現在、312人まで減少し、削減率は実に△12.8%に上っている(図1参照)。また、この背景で「係の統廃合」も進められ、2005年85あった係数は、2013年75係と10係減少(△11.8%)した。職員定数の削減と係数の減少は、職員一人当たりの業務負担率を上げ、それに伴い精神疾患を患う職員を増やしてしまった。2004年当時、1週間以上の欠勤者の内、精神神経系疾患者は22%であったのに対し、2012年時の同数値は32%で、おおよそ10%の増加となった(図2参照)。行革推進下においては、職員数を減らす一方で、業務内容を見直すことも併せて進められてきたはずだが、業務の劇的改善は図られず、むしろ急激な行革の推進から、業務の過密化が顕著になったといえる。
 第2次行政改革推進計画(2006~2010年)は、5ヵ年間に管理職を含む職員数を385人から357人へと28人(7.8%)減らすことを盛り込み、実際に396人から360人(△9.1%)の人員削減を実施してきた。この間、採られた具体的政策は「現業職員の不採用」であり、住民サービスに直接関わる多くの職場で実際に現業職の不採用が実施された。今まで網走独自の住民サービスとして守ってきた「学校給食の自校方式」や「市立保育園の直営」は、現業職の不採用により、「親子給食の導入」や「直営保育園の廃止と民設民営認定こども園の設置」などに変更させられ、その前段には、既に「ごみの収集業務」が完全に民間委託となってしまった。「民間ができることは民間に」が行革のスローガンであるが、民間委託の実情は、財源不足を補うため、公務員職場の人減らしを強行し、安い管理費で民間へ業務を丸投げする仕組みそのものであり、実際、現場で責任を持って仕事をする人材を失ってきたのが現状である。

図1 網走市の職員数の推移

図2 長期欠勤者にみる精神神経系疾患者の割合

(2) 賃金抑制政策下のモチベーションの低下と地域への影響
 ここ数年にみる地方公務員給与は、若年層に一定の配慮をしつつも、2006年の「給与構造改革」や「国公準拠の徹底」が押し進められ、総じて減額の傾向にある。網走市においても事実、行革推進下において国に準じて「期末勤勉手当の削減」や「寒冷地手当の削減」等々各種手当の削減が実施され、2005年には「新給与表の導入」が行われ、賃金カーブの抑制が図られた。実際、2005年時、一般行政職の平均給料月額は349,800円であったのに対し、2013年時では303,000円となり、職員の平均年齢が下がってはいるものの、△13.4%もの削減幅となっている(図3参照)。
 さらにこの間、当局は認めてはいないが、時間外勤務時間の抑制を図るため、残業時間枠を各部に割り当てるという「時間外枠の強制」が実施され、暗黙の了解のもと、職員は未払い超勤を強要させられてきた。頑張っても総体的な賃金は減少傾向にあり、さらに時間外手当も満度に支給されない状況となれば、必然的に職員のモチベーション低下をもたらし兼ねない状況となる。
 また、さらに地域においては市役所の給与水準が地域の経済を支えていることを忘れてはならない。つまりは、地域における多くの民間職場においては、市職員の給与水準に基づき職員給与を定めている職場も多くみられ、行革がもたらす賃金抑制は地域経済をも衰退させていることも忘れてはならない。

図3 網走市職員の平均給料月額の推移

(3) 独自削減の受入れと地域格差の拡大
 2011年12月5日、網走市役所労働組合連合会は市当局より「賃金の独自削減」提案を受けた。独自削減の実施は組合史上初めてのことであり、その内容は2015年度までの5ヵ年に約27億円の収支不足が見込まれることから、その解消策の一つとして「人事院勧告に準じて給与改定を実施するとともに、職員の役職に応じ2012~2015年度までの間、職員給与を△1.5~4.0%削減する」というものであった。団体交渉の結果、青年女性部層に一定程度配慮した△1.2~4.0%の独自削減を受け入れることに至ったが、その2年後の2013年5月21日、当局はさらに国の要請に応じる形で、東日本大震災の復興財源の確保を理由とした国家公務員給与の削減を背景に、以前の独自削減に△3.0%を2013年7月から2014年3月までの間、期限付きで上乗せする提案を示し、交渉の末、やむなく受け入れるに至った。
 賃金の独自削減は、賃金削減下における我々職員の生活をさらに苦しいものにさせているだけでなく、モチベーションをさらに低下させ、ひいては地域格差をより一層拡大させることにつながる事態である。本来、国が進めてきた地方分権下における行革は、地域の活力を生むための改革であったはずであり、地域が疲弊する改革ではなかったはずだが、政府主導の行革は今や地域を切り捨てようとする改革に成り下がっているように感じられてならない。


4. 第3次行政改革推進計画に見る当局の思惑と行革がめざすべきもの

 2011年11月、網走市において新たに作成された「第3次行政改革推進計画」(2011~2015年)(以降、第3次計画)は、少子高齢化による社会保障費の増大、東日本大震災による復興財源の確保から、今後、地方交付税の増額が見込まれないとの立場から、より一層の「財政健全化」、「市民満足の向上」に取り組むとの視点で計画が立てられている。
 第3次行革推進計画では、「市民満足度の向上」と「市役所組織の活性化」を重点課題と位置付け、取り組み指針が示されているが、計画の中身は、今まで行ってきた行革では立ち行かないので、より厳しい財政コストの削減をはかり難局を切り抜けたい。その対応として、職員数と職員賃金を今以上に削減し、市が管理する施設等のインフラを民間へ一方的に押し付け、管理運営は「協働」との名のもとに地域住民に担ってもらうという、投げやり的な行革を進めようとする計画に他ならない。そして、第3次計画において注目すべき点は、「質の高い行政サービスを提供するため」として、「職員の人材育成」に言及しているが、その中身は、職員の意欲の高揚、より専門的な知識・技能の習得、政策形成能力の向上のための研修の充実を図る一方で、全職員への「人事評価の導入」を検討するとされている点である。
 網走市においては、現在、管理職のみ人事評価が導入されているが、その評価システムは自己評価システムとしながらも詳細は明らかにされていないのが実情である。当局が導入を検討する質の高い行政サービスを提供するための人事評価とは一体どのようなものなのか。これまでの行革を考えると、コスト削減を行える人材こそが評価され、日々の業務の中で住民ニーズを探り、よりよい住民サービスの提供を考える人材は評価されないということではないのか。実際の人事においては、その点が重視されているように思えてならないし、もしそうであるのなら、行革は一部の人材のみを評価し、民間委託を通じて一部の企業にのみ利益を誘導する仕組みとなっているのではないか。
 行革はそもそも地域に活力をもたらすための行政改革であったはずである。最近の行革の流れは、地域活性化をめざすとしながらも、コスト偏重にあまりにも趣が置かれ、自由な発想やアイデンティティをも無視された行革になっているような気がしてならない。地域が疲弊している時代であるからこそ、もっと「人材」に目を向け、職員一人一人のアイディアや行動、そしてそこから生まれる住民との信頼関係を行政改革に取り込む工夫があってもよいと思われる。


5. おわりに

 2013年12月、政府は「給与制度の総合的見直し素案」を人事院へ提示し、2014年5月、人事院は素案よりも一歩進んだ「措置事項案」を示した。内容は、地方交付税の大幅削減、地方公務員の給与水準の引き下げ、地方公務員の諸手当の見直しを目論むものであり、今後は自治体の自主的行革に止まらず、政府が直接、地方公務員給与の削減を行うことを示す内容である。また、2014年3月、政府は人事管理の原則、等級別基準職務表の条例義務化などを中心とした「地方公務員法の改正案」を閣議決定し、4月に衆議院、参議院にて賛成多数で可決・成立させた。法律を盾として今後ますます、自治体へ「人事評価制度の導入」を推し進めてくることが予想されている。
 政府が推し進める行革は、我々地方公務員の職場環境を悪化させ、地域において行政サービスの切り捨てや地域経済の停滞を招いているのは、まぎれもない事実であり、私たちは行革が進められる過程において行革のデメリットを明らかにする中から、地方公務員として地域の行政と住民とが真の信頼関係のもと協働できる環境を構築していくこと、職員の真の人材育成を主体とした施策実現に力を入れ、職場環境の改善を図る行動を起こしていくことが不可欠な状況に直面している。