【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

三重県財政の健全化に向けた取り組み


三重県本部/三重県職員労働組合・自治研推進委員会

1. はじめに

 2012年度、三重県において財政不足を理由とした職員の独自給与削減が実施されることとなった。県職労としても、今回の給与削減に関しては、交渉の中で県の財政運営の責任を追及し、不足額の圧縮、今後は独自削減を行わないよう県として最大限の努力を行うことの確認、休暇制度等労働条件の改善等が行われたことから、苦渋の選択として受け入れると判断したものである。
 県職労は、今回のような独自給与削減が二度と行われないよう、改めて県の財政運営や予算編成方法等の現状や課題を研究し、県に対して健全に財政運営を行うための提言を行った。
 今回のレポートは、その研究結果及び提言の内容、提言を行った結果を取りまとめたものである。


2. 三重県財政の状況

(1) 財政力指数
 地方自治体における財政運営が健全に行われているかどうかを判断する指標として、一般的に財政力指数が用いられる。財政力指数は、決算における基準財政収入額を基準財政需要額で除した数値の過去3カ年の平均値で算出されるもので、この数値が高いほど健全な財政運営が行われているといえる。
 三重県の2011年度の財政力指数は0.57818であり、総務省が設定したグループではB2に属する。上位から数えても15番目の財政力指数となり、全国平均(0.49025)と比べても比較的健全な財政運営が行われているといえる。

(2) 他県との比較
 次に三重県と同グループで比較的財政力指数が近い県とで、2011年度決算状況の比較を行った。三重県の財政力指数と近似する(0.5台)の県は、宮城県、群馬県、岐阜県、滋賀県、岡山県、広島県、福岡県の7県であった。
 三重県を含む8県の比較を行った結果、三重県は経常収支比率が8県中で最も高いという結果となった。(表1参照)
 経常収支比率とは、自治体が使える予算のうち、人件費や生活保護費、借金返済に充てる公債費など、避けられない必要な経費(義務的経費)が占める割合のことである。この値が高いほど財政が硬直化していることになり、新しい行政需要や投資に向けるための一般財源(政策的経費)が少ないということになる。

表1:経常収支比率一覧表

 

三重

宮城

群馬

岐阜

滋賀

岡山

広島

福岡

財政力指数

0.57818

0.52183

0.58155

0.52103

0.57630

0.51401

0.58577

0.59744

経常収支比率

97.1%

93.3%

96.7%

93.6%

93.8%

92.0%

90.9%

94.9%

(3) 三重県の現状と課題
 (2)で記述したとおり、三重県は他県に比べて財政が硬直化しており、政策的経費に対応できる予算割合が低い状況にある。
 さらに、三重県が試算した中期財政見通しによると、義務的経費のうち社会保障関係経費や公債費は毎年100億円規模で増加していくという結果が示されており(表2参照)、今後ますます財政状況は厳しくなることが想定される。
 財政の硬直化を改善するためには、支出における公債費等を減少させる必要がある。しかし、そのためには県債発行を抑制して県債残高を減少させていく等の中長期的な対策を講じなければならない。
 現在の厳しい財政状況の中で、限られた財源を効果的、効率的に配分するために、まずは現行の予算編成方法を検証する必要がある。

表2:三重県の中期財政見通し試算(公債費及び社会保障関係経費) 単位:億円
区   分 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度

社会保障関係経費

861

902

928

966

公 債 費

1,067

1,137

1,188

1,236

合   計

1,928

2,039

2,116

2,202

増   額

 

111

77

86


3. 三重県の予算編成方法について

(1) 施策別財源配分(包括配分)
 三重県では予算の配分方法として、2002年度から施策別財源配分(包括配分)制度が用いられてきた。この制度は、県庁内における権限の移譲と分限化を進めるために、部局長の権限と責任において企画・立案するために必要な一般財源を各部局に包括的に配分する制度である。なお、包括配分の対象となる事業については、原則財政当局の査定は行われていない。(図1参照)

(2) 成果の確認と検証
 『成果の確認と検証』とは、配分された予算が効果的、効率的に執行されたかどうかの事後確認を行う制度であり、各部局と財政当局が協議し、その結果を次年度以降の予算配分に活用していく制度である。

(3) 予算編成方法の課題について
 包括配分制度は、部局長の裁量によって必要な事業に予算を配分することができ、さらに財政当局の査定を必要としないことから、包括配分予算がある程度確保されていた運営当初は、有効な制度であったと思われる。
 しかし、支出における義務的経費の割合が年々増加し、施策別財源配分額が減少していく中で以下のような課題が生じるようになった。
 ・各部において十分な事業内容の議論が行われずに、薄く広く予算が配分されてしまう。
 ・制度上は施策別財源配分であるが、実際には施策を構成する事業の担当部局が複数であっても、横断的な財源調整は行われていない。
 ・『成果の確認と検証』制度によって事業の財政当局が課題を指摘したとしても、包括配分された事業の査定を財政当局が十分に行えないことから、その課題が解消されずに再度予算が配分されてしまうケースがある。

参考:予算編成の年間スケジュール

 このような課題はあるものの、包括配分には一件査定等に比べて予算編成作業を省力化できるというメリットがあることから、このメリットを活かしつつ、かつ効果的、効率的に予算が配分できるよう配分制度の見直しを行う必要がある。


4. 予算編成方法の見直しについて

 2013年度の予算編成に向けて、県職労から県当局に対して上記のような理由に基づく予算編成方法の見直しについて申し入れを行った。一方、県当局においても三重県行財政改革取り組みの中で予算編成に対する見直しが進められていたことから、2013年度予算調製方針においては包括配分制度が見直されることとなった。

(1) 新たな予算配分方法について
 新たな配分制度として、2013年度予算編成から優先度を付けて予算要求を行うシーリング制度が導入されることになった。(図2参照)

見直し内容①(包括配分の制度疲労、部局間の横断的な調整を実施するための見直し)
 ・施策別財源配分(包括配分)制度を廃止し、政策的経費については、要求上限額(シーリング)を設定
 ・各部局において、要求上限額の範囲内で事務事業ごとに優先度(ABC)を付けて予算要求を行う。優先度は一般財源ベースで1/3ずつ。
 ・知事と部局長間での協議の場を3段階で設定
 ・優先度を踏まえ、財政当局が査定を実施

見直し内容②(成果の確認と検証作業を的確に予算に反映させるための見直し)
 ・成果の確認と検証作業において、総務部と各部局で意見が折り合わなかった事業については、知事査定の場で結論を出す。

施策別財源配分(包括配分)の見直し図
図1:施策別財源配分(包括配分)制度(2012年度まで)
前年度予算額▲a%の金額を政策ごとで包括配分

図2:新たな予算配分制度(2013年度以降)

対前年度予算額▲b%の金額で要求上限額(シーリング)を設定

5. 今後の取り組み

 新たに導入された予算編成方式によって、2013年度は100件以上の事業が削減される等、一定の選択と集中が行われ、予算が効果的・効率的に配分できたといえる。
 しかし、一件査定に比べれば予算編成作業は省力化されているものの、各部局において優先度を付ける作業や、その優先度に基づく査定作業等が包括配分に比べ業務増となっている。さらに、これまでとは異なる、慣れない予算編成方式であったことから職員の負担感も大きいものとなった。
 今後は、こういった業務負担を更に削減できるよう、引き続き県職労としても新たな予算配分方法の検証を行い県当局に対して改善を求めていかなくてはいけない。