【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

 芦屋市の水道事業は、昭和13年4月1日に給水開始をして以来、7期にわたる拡張事業を実施し、現在、一日平均配水量31,700立方メートルの水を約90,000人のみなさんに提供しています。しかし、近年では節水器具の普及・節水意識の向上等による一人あたりの有収水量の減少や、家屋新築による分担金収入の減少等により給水収益も減少傾向にあります。そこで、労働組合として、公営水道事業の存続および芦屋市内の水道水の供給を続ける使命を上下水道部で担うという決意で取り組む活動を報告します。



To continue supplying the tap water.
~水道水の供給を続けるために~

兵庫県本部/芦屋市水道労働組合・書記次長 茶嶋 誠一

1. はじめに

(1) 兵庫県芦屋市の人口と面積(平成26年6月1日現在)
① 住民基本台帳人口:総数97,180人/男44,339/女52,841/世帯数44,442
② 総面積:18.57平方キロメートル
③ 隣接自治体:神戸市、西宮市
④ 所在地:兵庫県芦屋市精道町7番6号

位置図 芦屋市役所

(2) 兵庫県芦屋市へのアクセス(神戸空港経由の場合)
 兵庫県芦屋市は、南に大阪湾を臨み、北には緑豊かな六甲の山々が連なる四季の彩りに包まれた住宅都市です。神戸空港からポートライナー神戸空港駅から三宮駅へ約18分。三宮から阪急で約15分、JRで約7分、阪神で約11分。阪神芦屋駅で下車し徒歩約1分です。


2. 市の財政状況のあらまし

(1) 減少が続く市税収入
 市の歳入の中心である市税収入の状況をみますと、平成4年度の262億円をピークに、景気後退の影響から減少に転じています。特に、平成7年度の市税収入は、平成7年1月に発生した大震災による人口減や家屋等の滅失に加え、震災減免の影響などもあり177億円まで激減しました。その後、復旧復興事業の進展等に伴い、平成9年度には236億円まで回復しましたが、景気の低迷や地価の下落により市税全体で減少傾向が続いています。

【市税収入の状況】

(2) 圧迫する借金返済
 震災関連事業の実施に伴い発行した市債(借入金)の影響により平成7年度以降急増し、平成13年度末の普通会計の市債残高は1,161億円に達しました。これは平成5年度末残高240億円の4.8倍にも上っています。市債残高の増加に伴い、これの返済に要する経費である公債費も当然のことながら年々増加してきています。平成5年度普通会計の歳出総額は448億円、このうち公債費は24億円で、歳出全体の5.4%であったものが、平成14年度決算では歳出総額450億円のうち公債費は94億円となり、歳出全体の21%を占めています。市税収入の落ち込みと借入金の返済が本市の財政を大きく圧迫しています。

【市債残高・公債費の状況】

(3) 財源が必要
 平成7年1月17日の阪神・淡路大震災以降、多額の公債費の償還を続けている本市財政は、依然として厳しい財政状況が続いています。にもかかわらず、今後JR芦屋駅南地区整備事業、市内中学校等の建替事業、公共施設やインフラの老朽化対策、庁舎東館(仮称)の整備に向けた取り組みや中学校給食実施等が予定され、多額の財源が必要となってまいります。

3. 芦屋市水道の概要

 芦屋市の水道事業は、昭和10年3月に兵庫県から許可を受け、昭和13年4月1日に給水開始をしています。現在は、第7期拡張事業として、計画給水人口94,100人、計画一日最大給水量57,200立方メートルの数値に基づく施設整備を行っています。現在は一日平均配水量31,700立方メートルの水を約90,000人のみなさんに提供しています。
 しかし、近年では節水器具の普及・節水意識の向上等による一人あたりの有収水量の減少や、家屋新築による分担金収入の減少等により給水収益も減少傾向にあります。

(1) 収益的収入及び支出の状況
 給水収益は人口の増加や平成19年度の料金改定により緩やかに伸びていました。また、累積欠損金は平成20~22年度まで単年度赤字の影響で約5億円まで増加しましたが、23・24年度は芦屋浜水利負担金等の特別利益による単年度黒字となったため、約4億円まで回復しています。

■1日に使われる水の量の移り変わり

(2) 給水実績
 給水人口は平成15年度から平成24年度にかけて約4,600人増加していますが、一人一日当たりの有収水量は、節水器具の普及、節水意識の向上等により、平成15年度に比べて約20リットル減少しています。


■給水人口(※1)の移り変わり
※1.給水人口とは水道を使っている人の数

(3) 平成23年度水道事業会計決算報告
 平成23年度は、22年度に引き続き老朽管の改良工事を施工し、配水管の更新を行い有収率の向上をめざし、安全・安心・安定した水の提供に努めました。給水人口は、22年度より536人(0.6%)増加し、93,781人となりました。
 給水人口は増加していますが、一人が一日にお使いになる有収水量は、22年度308リットルに対し、23年度は302リットルで節水意識の向上により6リットルも減少しました。
 事業収入は21億2,105万円(グラフ1)で、昨年より1億4,897万円の増加となりました。収入の主な内訳は、給水収益が3,201万円(1.8%)減少の17億2,687万円、受託工事収益は2,387万円(56.1%)増加の6,642万円、分担金収入は2,120万円(34.3%)増加の8,303万円となりました。

グラフ1

(4) 水道事業における公共サービス
 本市においては、平成13年まで水道行政を直営で執行していましたが、水道行政の健全化の観点及び正規職員の自然減(退職等による職員の不補充)により、平成14年度から水道業務課の一部(収納)を業務委託化し、平成15年度は、収納業務、閉栓清算業務、平成16年度は、窓口及び電話受付等、平成17年度には、口座振替業務を追加して現在に至っています。平成19年度に指名競争入札を執行し3年の複数契約の後、プロポーザル方式を経て平成26年度まで、民間業者に業務委託をしています。
 現在の委託内容、窓口業務、電話受付、収納業務(停水を含む)、滞納整理、各電算入力、その他の事務(漏水減免等)を包括的に委託しています。
 また、検針業務も同じく正規職員の退職等に伴い平成4年から業務委託を行っています。

(5) 公共サービスと労働組合の使命
 水道事業における労働組合の立場は、民営化よりは直営を求めることは明白です。しかし、現実的に公共サービスを担っているのは委託業者です。ただ、その公共サービスが、経済効果を先行するあまりに市民サービスの低下や事業の停滞を招くのであれば、見直しも視野に置くべきです。
 労働組合の使命は、公共サービスの利点は生かしつつも、市民と労使の協働で、有効で信頼される水道事業を確立し、すべての労働者・労働組合を結集し、対等な労使関係を確立して組合員の生活と権利の向上をはかるべきです。


5. 市民との協働で信頼される事業確立への取り組み

(1) 通水70周年記念事業
 平成20年度は「通水70周年」で、「水道事業PR促進委員会」を立ち上げて、次のような記念事業を実施し市民の皆さんにした。
① 芦屋の三大まつり(芦屋さくらまつり、芦屋サマーカーニバル、あしや秋まつり)に参加し、「イベントのぼり」をたて、ボトルウォーター「芦屋の水」を露店で販売。購入者には、ボールペン・エコバック・ケシゴム・風船などのグッズを付加価値もつけて販売拡大を狙いました。
② 夏休み期間に親子参加型「市民見学会」を開催し、近畿の水がめ「琵琶湖」周辺の琵琶湖疏水記念館、瀬田川洗堰(あらいぜき)、南禅寺境内の水路閣などの施設を巡るバスプログラムを実施し水道水がどのように作られて、家庭まで配られているのかというように、関心を持つ機会になりました。
③ 阪神・淡路大震災行事「1・17ひょうごメモリアルウォーク2014」に参加し、交通機関が途絶した大震災時の追体験を行い、風化しがちな防災意識を新たにするとともに、来るべき災害に備えるため、震災モニュメント巡りや緊急時の避難路、救援路として整備されている山手幹線等を歩きました。ウォーク出発5分前には携行用としてボトルウォーター「芦屋の水」を参加者に配布しました。

露店で販売 水路閣 「芦屋の水」ラベル

(2) その他の水道事業市民向けPR
 市民との信頼関係を築き協働歩調を求めて、水道水に親しみを感じていただくため市民向けPRとして次のようなことを行いました。
① 小学校や公民館にお邪魔して出前講座の実施。
② 水道月間に市役所北広場西側通路でドライミスト(水をこまかな霧の状態にして噴射して冷房をする装置)を設置。
③ 小学生対象の市内浄水場見学説明会。
④ 「安全でおいしい水」を小学校の蛇口や冷水機までお届けするための直結給水の設置。
⑤ 県内の水力発電所の市民見学会。
⑥ 市民にアピールするため、STAFFポロシャツ・Ashiyaロゴキャップ・STAFFジャンパーを着用し、水道事業マスコット(アクリンとメタリン)キャラクターも取り組みました。

ロゴマーク アクリン

(3) 現行の取り組み
 平成25年度より要綱を一部見直し、集合住宅等の検針方法について、電子メーターによる集中検針から平型メーター(一般検針)への取替により直読検針に改める業務を促進しています。電子メーターは平型メーターに比べて約5倍の費用を要します。検針方法を一元化することで、市民へ提供するサービスの平準化及びコスト縮減をめざしています。


6. 労働組合のミッション

(1) 財政の健全化を担保するルールづくり
 「水道事業PR促進委員会」を立ち上げて、すそ野を広げていきましたが、現在は市民との接触する機会が薄れがちです。市民との信頼関係に基づき共同歩調をとるには、納付した税金が生かされているという実感が湧かないと結びつきません。
 昨今、公務員が関わる不祥事報道にいとまがありません。財政再建の最短距離は、やはり地域住民からの信用回復です。市民の協力要請には税金の流れを整理し透明化することです。

(2) 意識改革
 今日の日本社会は、行過ぎた市場経済が人々の心を損得勘定に向け、人間関係をも希薄にしてしまいました。自己保身や責任転嫁がまかり通り、思いやる心を見失ってしまいました。
 そこで、初心に帰り、市長や幹部職員がトップダウンで職員に意識改革を訴えるより、職員同士で意識改革について議論する方が効果があります。ひとりひとりの職員が、「自分は何ができるのか,周りの職員に働きかけることができているか」をまずは投げかけることが財政再建の近道です。財政の自立ないところに真の市政の自由と独立は望めません。
 豊かな市政運営を求めるために、「お任せ民主主義」から「市民を育てる行政」へと軌道修正するべきです。

(3) 組織の再活性化
 組合バッシングを払しょくし、魅力ある労働組合づくり実現のため、次のことを提言します。
① 職員を守る
  職員がその能力(労働力)を消費する行為により、その外化が物やサービスとなって生み出されます。すなわち、生産性の向上とは、働く者の内在する労働能力が源泉となるからです。したがって、労働力が継続的に日々の生活の中で、再生できるような組織づくりをすることが肝要です。それには、職員の(ア)健康づくり(イ)安全な職場づくり(ウ)雇用安定と生活保障が基本となります。
② 能力を引き出す
  人、目的意識をもって行動します。その根底には欲求があります。そして、人(職員)の究極の欲求は自己実現です。すなわち、人は、自分という媒体を自由に表現(発信)し、それを相手方に認めてもらいたい(送信)という欲求です。
  そこに、豊かな人間関係が成立するための、研修やフォーラム等で刺激を通じて人づくりをします。
③ 核づくり
  核づくりとは、芦屋市政の特色づくりです。高級住宅地で知られている街ですが、行政そのものが、"はっきりした顔"を持つことを意味します。それには、市民の協力が不可欠となります。市民にわかりやすい行政にする為にも、市民に積極的に社会参加の場(機会)を提供することが近道です。
④ 実行あるのみ
  職員のこころも物も豊かになれば、組織全体の気風が明るくなり財政も豊かになります。計画を正しく実行すれば、市政の意思は、市民のこころに届くと信じます。


7. むすび

 水道当局との労使交渉では、「財政困難」とか「市民感情」などの弁を盾に妥結の糸口がつかみにくい局面があります。それは、市財政の逼迫に引っ張られた形で交渉が成立するからです。
 しかしながら、市民サービスを提供する地方税の根幹は「住民税」と「固定資産税」ですが、水道事業のサービスは、お客様が使用した水道料金が原資です。
 たとえ、水道事業のたゆまない努力により経常黒字を生み出しても、市長部局の力量不足に応じて巻添いになります。
 この壁を打破するためには、市民が公正性で生かされた税金を認知し、行政サービスの理解を通じて親近感を抱くことにより、市民との信頼距離を縮めて、首を縦に振らない当局を追い詰めていくことです。そんなミラクルが実現できると確信します。
 また、民間委託による公共サービスは定着しつつあります。しかし、かつての「民間活力の導入」が「民間企業の公務員化」へと変貌しないように監視を怠ってはなりません。
 兵庫県芦屋市は「お金持ちが住んでいる町」とイメージで揶揄されます。でも、風土は、瀬戸内の温暖な気候にはぐくまれ、人々も開明的な市民が多く暮らしている街。だからこそ、本当のこころの豊かさをとりもどすことができる都市のはずです。これからも、水道マンとして、「何があっても水道水の供給を続けなければならない」という水道事業の精神を受け継ぎ、これからも努力を怠ることなく前進していきます。