【自主レポート】 |
第35回佐賀自治研集会 第2分科会 地方税財政と公共サービス |
広島市の財政状況を見ながら、地方財政の健全化に向けて臨時財政対策債が大きな支障になりつつある危険性を明らかにする。 |
|
1. はじめに 地方の借金(地方債残高)がうなぎ上りに増えています。決算が確定している2012年度の広島市の市債残高を見てみると、一般会計では歳入が5,852億5,590万円に対して2倍近い1兆590億663万円となっています。広島市の場合、実質的な市債残高は漸減傾向にありますが、臨時財政対策債は膨張し続け、前年度と比べて16%も増えるとともにこの5年間で見ると約2倍に膨れ上がってしまいました。こうした傾向は地方財政にとって大変危険な状態につき進んでいると言っても過言ではありません。 |
2. 臨時財政対策債とは 臨時財政対策債は2001年から創設された地方債。本来なら地方交付税として交付されるべき金額の一部について地方が借金(臨時財政対策債の発行)することによって補填し、その元利償還金相当額を後年度の普通交付税の基準財政需要額に算入するという仕組みとなっています。各年度の基準財政需要額に算入される元利償還金の額については、国が定めた全国一律の償還モデルに基づいて算定されることになっています。 |
3. 広島市の地方交付税と臨時財政対策債の推移 広島市の地方交付税と臨時財政対策債の推移を見てみます。 |
地方交付税については2008年度が451億9,032万円であったものが2012年度は410億8,419万円となっており、9.09%の減となっています。(表1)
この5年間の推移を見てみると、地方交付税と臨時財政対策債を合わせた総額は増えてきている一方で、地方交付税は9.1%の減となり、逆に臨時財政対策債は3倍以上の伸びを示しています。本来、現金で配分されるべき地方交付税ではありますが、その実態は大きく借金にシフトしており、雪だるま式に膨れ上がっています。 4. 地方交付税と臨時財政対策債の割合の変化 年度毎の地方交付税の金額と臨時財政対策債の割合の変化についてこの5年間の推移を見てみます。 |
(表1)のとおり、地方交付税と臨時財政対策債の発行額は推移しています。2008年度の割合は19.3%(表2)にとどまっていました。しかし、2012年度になると臨時財政対策債が45.1%を占め、本来現金で受け取ることができる地方交付税の半分近くが市の借金で賄っているという不健全な財政運営を余儀なくされていることが分かります。 |
5. 一般会計の市債残高と臨時財政対策債残高の推移 広島市の一般会計の市債残高の推移と臨時財政対策債が占める割合を見てみます。
一般会計の市債残高は2008年度が9,477億834万円であったものが(図2、表3)、2012年度には1兆円の大台を超え、1兆590億663万円となっています。この5年間で市債残高は11.7%伸びているのに対して臨時財政対策債残高は2008年度が1,119億4,416万円であったものが2012年度には2,192億1,045万円と2倍近くに膨れ上がっています。
一般会計の市債残高に対する臨時財政対策債残高の割合は2008年度(11.8%)、2009年度(13.5%)、2010年度(16.1%)、2011年度(18.7%)、2012年度(20.7%)と2割を超え(表3)、2013年度の見込みでは25%と4分の1に達しました。
|
6. 基準財政需要額と、地方交付税と臨時財政対策債の総額の推移 2008年度から2012年度の5年間の基準財政需要額と地方交付税、臨時財政対策債の関係について見てみます。
単位費用を含めて、時々の状況に応じて数値が変えられることがあるため、例えば、臨時財政対策債の元利償還金が増える替りにその他の需要額を減らすことによって交付税総額を増やさない措置も可能となっています。そのため、臨時財政対策債を除いた基準財政需要額がどのように推移しているのかを見てみます。
|
|
7. 国の強制措置 2013年、国は地方自治制度の根幹をゆるがす暴挙を強行しました。地方公務員給与の臨時特例というもので、国が東日本大震災復興財源の一部に充てるため2011年度から2カ年に渡り国家公務員給与を平均7.8%引き下げることを決めたことから地方でも給与削減を強制するために地方交付税を削減したものです。地方は、既に行政改革や財政再建の名のもとに独自に給与削減を行ってきた自治体が多く、また、地方交付税は地方固有の財源であるにもかかわらず、国が理不尽な削減を強行したことに地方から強い懸念の声が出されました。地方自治をないがしろにする暴挙と言わざるを得ません。 |
8. 国家財政と地方財政 地方財政は、地方財政健全化法に定められている通り、実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率のいずれかが、一定基準を超えると財政再生団体に指定されます。 ① 実質赤字比率=財政再生の基準→都道府県5%、市町村20%。 |
一方、国の予算を見てみると(図5)、2014年度当初予算では歳入総額95兆8,823億円で、その内公債金は41兆2,500億円(建設公債6兆20億円、赤字公債35兆2,480億円)で、公債依存度は43%に達しています(2013年度は46.3%)。 |
9. 臨時財政対策債の制度は廃止すべき これまで見てきたように、2001年度から地方交付税の替りに地方が臨時財政対策債を発行する制度が3年間の特例として創設されました。臨時財政対策債の元利償還金は後年度の地方交付税で措置されています。広島市の状況をみてもこれまでのところ国が責任を持って対応していることが分かります。しかし、今日に至ってさらにその発行額は増え続けています。地方が臨時財政対策債を発行するかどうかは地方の意思によるものであり、その借金返しは地方が責任を持たなければなりません。国によって制度化された以上国が責任をもって対応すべきことは当然のことではありますが、それでも地方の借金を返済する第一義的責任は地方にあることになります。 |
10. あとがき 今回の自治研集会のレポート作成にあたって、臨時財政対策債について取り上げてみました。内容的には不十分な面も多々あるとは思いますが、地方財政の健全化に向けて臨時財政対策債が大きな支障になりつつあることは強く指摘しておきます。私自身、広島市議会でも数度にわたって取り上げ、その危険性を訴えてきました。広島市をはじめとして地方自治体は財政健全化に向けて実質の地方債残高を削減するために努力してきました。その点、努力のかいもあって広島市の起債制限比率も危険な山をどうにか越えた状態にあります。しかし、広島市でも5,856億円(2014年度当初予算)の一般会計で既に1兆円を超える市債残高を抱えています。臨時財政対策債の元利償還金については、当面は国が財源措置することにはなりますが、借金が雪だるまのように膨れ上がってきている財政状況を市民目線で見ると、夕張市のように財政破たんするのではないかと懸念することは当然のこととも思えます。その懸念は人件費の抑制圧力となることはこれまでの人件費削減の動きから見て容易に推測することができます。また、この状況を意図的に利用しようとする首長が出てくることも否定できません。 |