【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

 よく市民から「市の財政は今後大丈夫なのか?」と聞かれ、「大丈夫です」と答えてはいるものの、検証したことはありません。過疎地域である多久市では、どんな事情があり、どんな財政状況なのかを知り、その問題点について考察すると同時に、今までの公共サービスが本当の「公共サービス」と言えるのかを、今の時代の流れとともに考えてみました。



財政指標と公共サービス
―― 何が市のため? 市民のため? ――

佐賀県本部/多久市職員労働組合

1. 近年の財政指標から見る多久市の現況

(1) はじめに
 多久市は、佐賀県の中部地域に位置し、周囲を山に囲まれた盆地である。今年は、昭和29年5月1日に市制を施行してから60周年にあたり、様々な特別事業も行われている。
 昭和20年代には、経済復興の担い手として石炭産業が基幹産業となり炭鉱都市として発展してきた。しかしその後のエネルギー革命により、昭和47年までにすべての炭鉱は閉山を余儀なくされ、それに伴い人口も最盛期である昭和28年の48,947人から20数年で急激に減少し、昭和45年から過疎地域にも指定されている。また、昭和31年度から昭和39年度までは赤字再建団体にも指定されていた。

(2) 近年の財政指標
① 財政力指数
  基準財政収入額を基準財政需要額で除して得られるこの値は、地方公共団体の財政力=財政の豊かさを示している。すなわち、この数値が高いほど税収等の自主財源の割合が高く、1を超えると普通交付税が交付されない。
多久市は、平成20年度が0.39、平成24年度が0.35で、類似団体平均(平成20年度0.46、平成24年度0.42)よりも低い数値で推移しており依存型の財政構造となっている。

② 経常収支比率
  地方財政のエンゲル係数とも言われ、財政構造の弾力性を示すこの値は、人件費・扶助費・公債費等の毎年経常的に必要な経費に、地方税・地方交付税などの毎年安定的に収入を見込まれる一般財源がどの程度充てられているかを示しており、平成24年度決算では96.2%と佐賀県で一番高い(=悪い)数値となった。その中でも扶助費における比率が類似団体より高くなっており、過疎地域の特徴である「高齢化率が高い」ことがその要因の1つになっているものと推測される。また、近年この数値は93%より高い値で推移し、弾力性に乏しい状態が続いている。ちなみに、一般的に都市は75%程度が好ましいと言われている。

③ 実質公債費比率
  地方債の元利償還金や公営企業や一部事務組合などの公債費に充てた繰出金等については、事業内容によってその一部が地方交付税(基準財政需要額)で措置される。その分を控除した実質的な公債費が、標準的な一般財源の総量を示す標準財政規模に対してどの程度かを示しているこの値は、平成21年度決算では14.9%になったが、その後は減少し平成24年度決算では12.5%までになった。数値としては良くなっており、早期健全化基準の25.0%、財政再生基準の35.0%には全然至ってないが、平成23・24年度に建設した小中一貫校の元金償還が平成28年度に始まるので、今後どのように推移するか注視する必要がある。

④ 将来負担比率
  今後の地方債の償還や公営企業や一部事務組合などの公債費に充てるための繰出金等の見込累計額のうち、それに充当が可能な基金や交付税措置されるものなどを除いた分が標準財政規模に対してどの程度か、つまり、現時点での将来負担すべき公債費等の残高を指標化し、今後財政を圧迫する度合いを示しているものと言える。早期健全化基準が350.0%に対して、平成23年度は0.2%、平成24年度は19.2%と健全度が高い値となっている。しかしながら、充当可能基金に鉱害復旧施設基金などの特定目的基金も含まれており、現実的には充当可能基金としての取り扱いができるのか疑問がある。

 

(3) 現在の多久市
 4つの財政指標を考察したが、安心できることは、公債費に関する指標である実質公債費比率・将来負担比率は健全度が高いということである。高い水準の要因は、過疎地域であることがとても大きい。過疎地域は、事業内容によって過疎対策事業債を活用できるが、その交付税措置率が70%と他の地方債と比べて高い。その制度をうまく活用していることは評価すべきだが、過疎債への過度の依存はせずに、今の水準を維持していくことが重要である。
 しかしながら、財政力指数と経常収支比率は改善が必要な状態である。改善すべき点は、企業誘致や定住施策を進め、税収等の自主財源の割合を増やし、依存型の財政構造から少しでも脱却することである。それにより財政力指数が改善され、さらに経常収支比率も分母値が増加するので改善されるということになる。それともう1つは、経常経費の削減である。経常経費というと、世間ではすぐに「人件費」と言われると思うが、それは総額の一部であり、今までの行政改革等で人件費削減は十分に行われており、削減の限界まで到達していると言える。今までの退職者不補充や賃金カットによる職員の肉体的・精神的影響はとても大きく、「市民のために」という想いだけでなんとか業務をこなしている職員も少なくない。それを考えると、人件費以外の削減が急務なのではないだろうか。
 それでは、どうすれば経常経費は削減されるのか。何を削減すればいいのか。それの市としての方針が中期財政計画の中にあるのではないかと思い、平成26年3月に公表された中期財政計画を研究してみた。

2. 中期財政計画から見える今後の多久市

(1) 歳 入
 市税のうち、法人市民税はアベノミクスによる景気回復が期待されるが、それが地方である多久市内の企業まで業績回復できるか不透明なため横ばいとなっている。固定資産税は、まだまだ地価の下落が続いており減少傾向にある。
 地方交付税は、小中一貫校建設事業(過疎債)の元金償還が始まるので増要因はあるものの、やはり人口減少は続く見込みでその影響が大きく、減少傾向となっている。
 一方で、地方消費税交付金は消費税増税と全国的な経済成長により増える見込みとなっている。

(2) 歳 出
 人件費・物件費・補助費等(経常分)については現状維持、維持補修費・扶助費は増傾向となっている。繰出金は事業計画に基づいて算定され、普通建設事業費は予定されている事業と予測的経費で、ともに10億円程度と想定されている。

(3) 中期財政計画
 歳入額と歳出額には差があり、当然歳出額が多い。ということは、財政調整基金と減債基金からその不足分を繰入れることになるが平成26年度から平成30年度までの繰入合計額は20.5億円で、平成25年度末の財政調整基金と減債基金の残高合計(見込)は22.5億円となっており、5年後はほとんど残っていない状況である。その状況を改善するため、"中期財政計画"として行政改革による定員管理や経常経費の継続的な削減を見込める分として平成26年度から平成30年度で合計2億円を歳出削減するよう計画されている。しかしそれだけでは改善されたとは言い難い。
 さらに、行革大綱の推進や事業のスクラップアンドビルドを積極的に進め歳出の削減を努めるとあるが、今までの推進状況を考えると期待しづらい。逆に、人件費のさらなる削減のため、更なる職員数や月例給の削減がなされるのではないかととても不安になった。
 中期財政計画からは、全体的な経常経費の一部は削減見込みがあるのはわかったが、それ以上は読み取れなかった。5年後の財政調整基金と減債基金の残高が4億円で今後の財政運営はうまくやれるのか、極端な話をすれば、10年後、20年後、多久市は存在しているのかと心配になった。そう考えた時、やはり経常経費の削減をこれ以上するのは難しいのだろうかと考えさせられた。

3. 市民のため、将来のために

 具体的な経常経費の削減策はないか考えてみた。経常収支比率を性質別に見てみると、扶助費が高いのは前述したが、近年は補助費等の率が類似団体平均より少々高く、物件費は類似団体より低い値となっている。また、人件費は定年退職者が例年より多く高い値となった。ということは、補助費等に何か改善策があるのではと考えた。補助費等とは、負担金や補助金が主なものであることを考えると、やはり負担金・補助金の見直しがポイントではないかと思った。

 負担金・補助金の見直しと言ってもすぐに全部をやめてしまうことではない。近年は、全国各地でまちづくり条例が制定されるなど、行政だけではない市民協働のまちづくりが求められている。その中でのめざすべきものの1つとしてあるのが、コミュニティの自立である。当初は様々なコミュニティの自立を助ける目的で補助金を交付していたが、今では運営費と大差ない経費について補助金を交付していて、結果的に行政が自立を妨げていると思えるケースや、当初の目的が達成されているのに補助金を交付されるのが当然と主張され、行政側としては試行錯誤しながら交付しているケースもある。こういうケースの見直しというのは必要なのではないか。
 過疎地域は、市民や各種団体の行政への依存度が他市町より高いので、補助金等の見直しを行えば市民から批判も出てくるだろうが、今後はコミュニティが自立し、いっしょに「まちづくり」を推進し協働した社会を築いていくためにもこういったことが必要ではないかと思う。それにより経常経費も削減され、経常収支比率も良くなり、削減された財源で時代のニーズに応じた施策展開が可能になるのではないか。それを考えると、補助金等の見直しが一種の「公共サービス」なのではないか。今の時代をしっかり見つめると同時に、将来を見据えて今からより健全な財政運営を行うことが、将来の市民や健全な財政運営の一助となることは間違いない。