【要請レポート】

第35回佐賀自治研集会
第3分科会 人口減少にともなう自治体・地域のあり方

 多摩市においては、東京都26市の中でも例を見ないスピードで少子・高齢化社会が進展している。そのような多摩市の少子・高齢化の現状を分析するとともに、少子・高齢化社会が多摩市に与える影響を考察し、今後の多摩市の職員及び自治労多摩市職がどのような役割を果たせるかを考えてみたい。



多摩市の少子・高齢化の現状と課題


東京都本部/自治労多摩市職員組合 鴨志田 修

1. はじめに

 多摩市においては、2000年(平成12年)10月(国勢調査)では総人口に占める高齢者人口(65歳以上の人口)の割合は12.9%であったが、2005年(平成17年)1月には15.1%となり、本格的な高齢社会に突入した。その後も高齢者人口は増加を続け、2010年(平成22年)1月には20.2%となり、2015年(平成27年)1月(多摩市将来人口推計)では26.2%になるものと想定されている。また、2009年(平成21年)1月から2012年(平成24年)1月までの3年間に65歳以上の高齢者のひとり暮らし世帯が6,482世帯から7,576世帯に、高齢者のみ世帯が5,540世帯から6,367世帯に増加している。
 高齢者のひとり暮らし世帯、高齢者のみ世帯の増加により、家族や地域とのつながりが急速に薄れ、孤立化し、日常生活や介護に不安を抱く高齢者が増加している。また、認知症高齢者も増加している。
 ここでは、多摩市の少子・高齢化に関する現状を分析するとともに、少子・高齢化社会が多摩市に与える影響を考察し、今後、市の職員及び自治労多摩市職員組合がどのような役割を果たせるかを考えてみたい。


2. 多摩市の高齢者の状況

(1) 高齢者人口の推移
① 人口推計
  2011年度(平成23年度)(平成24年1月1日現在)の多摩市の総人口は144,295人であり、年代別にみると年少人口(0~14歳)が17,639人(総人口比 12.2%)、生産年齢人口(15~64歳)が95,250人(66.0%)、老年人口(65歳以上)が31,406人(21.8%)となっている。
  多摩市の将来人口推計では、2020年度(平成32年度)には年少人口は15,940人と微減ではあるが、生産年齢人口が85,192人と約1万人減、老齢人口が44,723人と約1万3千人増となると推計されている。

多摩市の人口推計
  現 状 目 標 (参 考)

平成23年度
(平成24年1月1日)

平成26年度
(平成27年1月1日)
平成32年度
(平成33年1月1日)
総人口 (人) 144,295 100.0% 145,846 100.0% 145,855 100.0%
総世帯数 (世帯) 65,725 69,783 75,909
一世帯当たり人数 (人/世帯) 2.20 2.09 1.92
年少人口 0~14歳(人) 17,639 12.2% 17,562 12.0% 15,940 10.9%
生産年齢人口 15~64歳(人) 95,250 66.0% 90,126 61.8% 85,192 58.4%
老年人口 (前期高齢者) 65~74歳(人) 18,709 13.0% 23,219 15.9% 20,987 14.4%
(後期高齢者) 75歳以上(人) 12,697 8.8% 14,939 10.2% 23,736 16.3%
高齢者人口 65歳以上(人) 31,406 21.8% 38,158 26.2% 44,723 30.7%
※平成23年度は住民基本台帳人口、平成26年度、32年度は多摩市将来人口推計(平成23年度)

② 高齢者の内訳
  2011年度(平成23年度)(平成24年1月1日現在)の高齢者のうち、65~74歳の前期高齢者が18,709人(高齢者比 59.6%)、75歳以上の後期高齢者が12,697人(40.4%)であり、2018年(平成30年)には後期高齢者が前期高齢者を上回り、2020年度(平成32年度)には前期高齢者が20,987人(46.9%)、後期高齢者が23,736人(53.1%)となると見込まれている。

年齢3区分別人口構成比の推移
※平成23年度は住民基本台帳人口、平成24年度以降は多摩市将来人口推計(平成23年度)

前期・後期高齢者の推移
※平成23年度は住民基本台帳人口、平成24年度以降は多摩市将来人口推計(平成23年度)

③ 高齢化の推移
  2011年度(平成23年度)に多摩市が実施した将来人口推計によると、平成32年度(参考値)の人口は14万6千人程度で、2017年度(平成29年度)をピークに微減傾向にある。人口構成上の高齢化の進展は、国を上回るペースで進行し、2017年度(平成29年度)には多摩市の高齢化率が国をわずかに上回ると推定されている。

国・多摩市の高齢化率推計
※国:日本の将来推計人口(平成18年12月)
 多摩市:各年度1月1日現在、平成23年度は住民基本台帳人口、平成24年度以降は多摩市将来人口推計(平成23年度)

④ 急速な高齢化の進展
  多摩地区の核都市に係る7市において、2000年(平成12年)には高齢化率は最下位に位置していたが、2015年(平成27年)には、青梅市に次ぐ2番目の高齢化率になると推定される。このように、多摩市では他市に類を見ない急激な高齢化が進展している。

核都市に係る7市における65歳以上人口比率の推移と予測
出典:「国勢調査」総務省
   2010年以降は「東京都男女年齢(5歳階級)別人口の予測」東京都総務局(平成20年)
※ 年齢不詳を除いて算出

3. 多摩市の少子化の状況

① 少子化の動向
  多摩市の少子化の動向についてみると、15歳未満人口比率は、2000年(平成12年)の約13%から2025年(平成37年)の約8%へと一貫して減少していくと推定される。多摩地域の核都市に係る7市における15歳未満の人口比率についても、各市とも15歳未満の人口比率が減少し、少子化が進んでいくと推定されているが、多摩市においては特に顕著となっている。
② 少子化の進行による影響
  少子化の進行により、長期的には、生産年齢人口が減少し、労働力人口もそれに伴って減少していくと予測されている。これに対して、多摩市の活力を維持していくためには、女性や高齢者の就業の促進が求められている。そのために、出産や育児と、仕事の両立支援など子育てしやすい環境の整備や高齢者の多様な分野での社会参加の促進等の施策の展開が必要とされている。

核都市に係る7市における15歳未満人口比率の推移と予測
出典:「国勢調査」総務省
   2010年以降は「東京都男女年齢(5歳階級)別人口の予測」東京都総務局(平成20年)
※ 年齢不詳を除いて算出

4. 少子・高齢化が多摩市に及ぼす影響

① 多摩市の歳入構成
  多摩市は、多摩ニュータウンの開発とともに発展し、人口の急激な増加とともに市税収入も伸びてきた。これはとりわけ、多摩市の歳入において市税が主な財源であることを示している。2012年度(平成24年度)決算では、多摩市の歳入で一番大きな割合を占めているのが市税であり、構成比は55.1%となっている。これは、東京都内26市の中でも2番目に高い比率となっている。

(資料)多摩市の歳入構成の推移

② 市税の推移
  人口の大幅な増加に伴い、1992年度(平成4年度)までは右肩上がりの高い伸びで推移し、1999年度(平成11年度)にピークを迎えた後減少している。2004年度(平成16年度)からは再び増加に転じたが、景気の影響を受け2009年度(平成21年度)から再び減少へと転じた。多摩市の市税の主体は、1993年度(平成5年度)までは個人市民税であったが、それ以降は固定資産税へと移っている。特に1994年度(平成6年度)から2006年度(平成18年度)までは減税の影響により個人市民税が減少したが、2007年度(平成19年度)にやや増加した後は減少傾向となっている。

③ 歳出の状況
  多摩市の歳出では、民生費が多くの割合を占めている。社会保障費が多くを占める民生費は、増加を続けている状況で、これは生活保護費や障害福祉サービス費、介護保険特別会計及び後期高齢者医療特別会計への繰出金などの扶助費の増加によるものである。今後も民生費の増加が続き、財政硬直化の要因のひとつとなっている。

歳出における目的別経費の推移

民生費と教育費・土木費の推移

④ 少子・高齢化の多摩市への影響
  市税収入に依存する多摩市にとって、少子・高齢化は非常に大きい影響を与える。今まで見てきたように、少子・高齢化の進展により、財政収入は減少の一途をたどり、民生費の支出は増加する一方であることが予測される。現在の公共施設をそのまま維持するとすれば、今後4年間で約78億円の財源不足も予想されていることから、多摩市においては「公共施設の再配置計画」も進めているところであるが、総論賛成、各論反対といった状況でスムーズに進行しているとは言いがたい。
  現時点では、多摩市の財政力指数は100を超えており交付税の不交付団体となっている。今後、数年間はこの状況が続くことが予想され、少子・高齢化の進展とともに市税収入が右肩下がりになることが明白であることから、財政運営は厳しい状況が続くことが推定され、少子・高齢化問題は多摩市政に非常に厳しい課題を突きつけることとなる。


5. 多摩市が展開する施策

 多摩市では、高齢者対策として以下の基本理念を基に多摩市地域福祉計画や多摩市地域福祉活動計画など総合的、一体的に施策を展開している。
【基本理念】
1 人権及び人間性の尊重
2 自主・自立の確保・支援
3 身近な地域福祉の推進
4 市民と行政、関係機関との協働・連携による福祉の推進
5 健康増進と健やかな暮らしの推進
 また、子ども・子育て会議を設置し、保育園の待機児童の解消など、働く女性が子育てをしやすい環境の整備にも努めている。次の図はこれらの計画の関連を示したものである。

 多摩市の持つ強みとして、「多様な人材」の存在があげられる。「多摩ニュータウン」は、全国から住民を迎え入れており、これら住民の方々は様々な職業で培ってきた幅広い知識や経験で地域課題や生活課題に対応していく力がある。団塊の世代前後の住民が多いという人口構成から、多様な潜在的な力を持つこの方々が退職すると、まちづくりに参加する時間を持った層が地域人材として大量に出現することとなる。これら団塊の世代の住民の方々の知恵と技術を地域で役立ててもらえるとコミュニティづくりやまちの賑わいにもつながり、魅力ある街づくりが展開できるものと期待される。このことは、活発な市民活動からも窺える。東京都認証の多摩市内のNPO法人数は多摩地域では2番目に多く、人口規模との関係から見た「NPO普及指数」は、全国でも11番目となっている。
 しかし、行政としての多摩市ではこれらの市民力を活用しきれていないのが現状である。基本理念でもあげられている「市民と行政の協働」が実際には機能していると言いがたい現状がある。これは、「多摩ニュータウン」を抱える多摩市の弱みとも言えるコミュニティ意識の希薄さと関連しているのではないかと推測される。


6. まとめ(組合が果たすべき役割)

 これまでみてきたように、多摩市における少子・高齢化は歳入面では市税のますますの減少を招き、歳出面では民生費の増大の要因ともなっている。また、「多摩ニュータウン」建設に伴い整備された公共施設やインフラ等がこれから一挙に更新時期を迎えることから、今後の財政運営はますます厳しい状況になると予測される。このことは、今後の多摩市行政の運営にとって「市民と行政の協働」がますます重要になることを示している。多摩市にあるNPOにはかなりの実績を残している団体もある。一例をあげると「いきいきまちづくり・NPO福祉亭」では、高齢者支援事業・子育て支援事業・世代交流事業・まちづくり事業等を展開し実績を残しているが、その運営は東京都の補助金と利用者への売上げでまかなわれており、事業運営は苦しい状況であると聞いている。
 行政だけでは、これからの少子・高齢化における課題を担いきれないのは事実である。福祉亭のようなNPO団体や市民との協働なくしてこれからの行政運営は成り立たないことは、行政としての多摩市も強く意識をしている。しかしながら、これら市民・NPO・社会福祉協議会等の関連団体・行政が有機的に連携して少子・高齢化問題に対処しているとは言いがたい現状があることも事実である。これは、NPOを活用しようとした場合ややもすると行政の下請け的に捉えてしまう職員意識もひとつの要因としてあるのだろう。
 自治労多摩市職としては、このような職員意識の変革と「市民・NPO・議員・職員」の4者の連携により少子・高齢化社会の課題に対しての政策提言をしていく必要があると考えている。ここで、自治研活動の持つ役割が重要になってくるのではないだろうか。自治労多摩市職では東京都で初となる「公契約条例」の制定に当たり、自治研活動に基づいた「公契約条例組合試案」を提案し、これに基づいて当局素案が作られたように、条例制定に大きな役割を果たした実績がある。少子・高齢化問題に対しても、「市民・NPO・議員・職員」の4者連携による自治研センターの設立を視野に自治研活動を強化し政策提言していくことが、自治労多摩市職が今後果たすべき役割であると考え報告とする。