【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第3分科会 人口減少にともなう自治体・地域のあり方

 日本全体で人口減少、高齢化が進む中、北海道河西郡中札内村では約30年前から人口4,000人前後を維持している。ただ、その中札内村でも高齢化は例外なく進んでいる。人口減を食い止めるとともに、高齢者も住みよいまちづくりをめざす、双方の視点からの取り組みを紹介する。



過疎化・高齢化が進む中での地域の将来を見据える
―― 中札内村の取り組みについて ――

北海道本部/中札内村役場職員組合

1. はじめに

 中札内村は、北海道の道東、帯広市の南側に位置し、人口4,000人規模の村であるが、帯広空港からのアクセスもよく、車なら10分程度で移動できる。また、マルセイバターサンドで有名な六花亭の工場や美術村、生キャラメルで有名な花畑牧場などがあり、道の駅は毎年北海道で人気ベスト10に入る活気のある村でもある。
 さて先日のNHKの報道(5月1日放送)では、全国の5分の1の自治体で、すでに高齢者の人口減が始まっているとのことだった。これは若年層の人口減はそれ以上であることを意味している。また、民間有識者らでつくる「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会では、2010年~40年の間に若年女性(20~39歳)が半分以下に減る自治体を,仮に出生率が大幅に改善しても人口減少に歯止めがかからない「消滅可能性都市」と定義。全国では全体の約5割を占める896自治体、十勝管内は19市町村中,陸別町や豊頃町など13町が該当すると試算したが、中札内村はこの消滅可能性都市から外れている。
 全国的に過疎化、高齢化が進む中、人口4,000人規模の中札内村がなぜ「消滅可能性」を免れているのか、村の取り組みを中心に紹介したいと思う。


2. 中札内村の人口の推移と人口維持の施策について

(1) 中札内村の人口の推移について
 1960年の国勢調査によると、男性2,574人、女性2,531人、合計5,105人であった中札内村の人口は、1982年度末には、男性1,850人、女性1,877人、合計3,727人と、減少のピークを迎える。しかし、その後徐々に人口が増え、1985年度末に4,082人と4,000人台へ戻ってから以来、現在まで実に30年余り、ほぼ横ばいの人口を維持している。

(2) 移住促進の施策について
 中札内村では、「定住促進奨励金」(新築住宅等の固定資産税相当額を5年間助成)、「中札内スタイル住宅建設奨励金」(村で定める基準に適合する住宅を新築又は購入した方に住宅1戸につき50万円、北方型住宅に登録された住宅の場合は80万円を助成)、「移住促進奨励金」(中札内村に移住するために住宅を新築又は購入した方へ限度額50万円を助成)などの助成金を設けている。これらの移住の相談のため、ワンストップ窓口を設けており、中札内農村休暇村フェーリエンドルフにてドイツ型コテージでの移住体験モニターも募集している。 (http://www.zenrin.ne.jp/
 また賃貸の方には「民間賃貸住宅家賃助成」として、村内の賃貸住宅に居住し、住民票に記載された日から3ヶ月を経過している方には、月の家賃額が25,000円を超える額の2分の1以内(限度額10,000円)の助成制度がある。

(3) 子育てのための施策について
 中札内村では、「中札内村乳幼児等医療費特別給付金条例」(1972年3月施行)により、満6歳に達する日(誕生日の前日)以後最初の3月31日までにある者の医療費の減免を行い、さらに「中札内村児童医療費の助成に関する条例」(2007年3月施行)により、満6歳に達する日(誕生日の前日)以後最初の4月1日から満15歳に達する日以後最初の3月31日までの者の医療費の減免を行っている。つまり、2007年3月からは、中学3年生までの医療費が無料となっている。また「中札内村保育所条例」(1998年改正)により、18歳以下の子を扶養している世帯は、第2子が入園した場合、保育料が半額に、第3子が入園した場合無料となる。このように、子育て施策を充実させることで、移住を促進させるとともに、住民が安心して子どもを産み、育てることができるよう努めている。


3. 中札内村の高齢化の状況とその施策について

(1) 中札内村の高齢化の状況について
 2013年高齢社会白書によれば、2012年10月1日現在、日本の総人口は1億2,752万人であり、65歳以上の高齢者人口は、過去最高の3,079万人(前年2,975万人)となり、総人口に占める割合(高齢化率)は24.1%(前年23.3%)となった。これは、昭和22年~24年に生まれたいわゆる「団塊の世代」が65歳になり始めたため、高齢者の人口が大幅に増加したことによる。
 時期は多少ずれるが、2012年度末の中札内村の高齢化率は、約25.7%(人口4,090人、うち65歳以上の人口1,052人)であり、全国平均を少し上回っている。10年前の2002年度末では人口は4,073人とほぼ変わっていないが、65歳以上の人口は863人で、高齢化率は約21.2%であったことを考えれば、総人口は30年前とほぼ変わっていない中札内村でも、高齢化は進んできていると言える。

(2) 高齢化が進んでも住みやすいまちづくり
 中札内村では、様々な施策により30年間人口がほぼ4,000人前後と横ばいで推移しているが、高齢化に関しては全国平均並みに進んでいることは先に述べた。人口自体はなんとか維持できているものの、高齢者の数は確実に増えている。つまり、人口を維持する施策と同時に住みやすいまちづくりという観点が必要になってくる。
 高齢になってまず困るのは歩行、移動の困難さであり、村では独自に「中札内村福祉移送サービス事業」を行っている。これは、要支援、要介護認定を受けた方や、70歳以上で公共交通機関を利用することができない方、障がい者手帳1、2級、療育手帳A判定の重度の障がいの方などに、村内に限定して1回45分以内、年120回(60往復)の福祉車両の利用を無料で行うというもので、通院や買い物など営利目的でなければ自由に利用ができる。また、村外への通院については、タクシー交通費助成制度があり、月4回まで(人工透析の患者は週6回まで)半額助成を行っている。このほか、NPO団体が村内、村外どちらも利用できる福祉有償運送も実施しており、一定の移動手段が確保されていると言える。
 また、要介護認定に至る手前での予防事業として、老人保健福祉センターにて「ゆうゆうらくらく運動教室」を毎月1回開催し、帯広市の病院から理学療法士を招き、高齢者でもできる手軽な運動などを一緒に行っている。
 そのほか社会福祉協議会による給食交流会や、ふれあいサロンなども毎月開催されており、多くの方が参加されている。さらに高齢者の生きがい事業として、高齢者就労支援センターに登録した方にリサイクルセンターやプールなど公共の建物で働く機会を提供している。
 このように、高齢者が不自由なく移動、生活できる環境を整えるとともに、元気な高齢者には働く場所を提供し、さまざまな状態像の高齢者それぞれに生きがいを持っていただけるような施策を心掛けている。


4. まとめと今後の課題

 日本全体の自治体の約半分が今後30年間で消滅という危機に瀕している現在、これまで30年間人口を維持してきた中札内村には、さらにどのような施策が求められるか。冒頭で述べた若年女性の人口移動であるが、その一番の移動先は東京であり、東京での合計特殊出生率は1.09であるという。また、女性の未婚率は42%といずれも飛びぬけて高い数字を示している。生活できる仕事を求めて、若い女性が東京へ移動し、そのことによって地方の人口が減少し、仕事がなくなった地方からさらに若者が東京へ流れるという悪循環が生じている。
 このような悪循環を断つ施策とは、地方に人口のダムのような拠点都市を作ることだという。福祉の施策を充実させるとともに、経済の活性化をし、雇用を生み出して地方に若者を呼び戻すことが必要となってくる。現在の中札内村も、商店街はシャッターが下りている店が多い。道の駅の人気などを活かし、どのように村全体の経済を活性化させることができるのか、村単独で困難であれば、19市町村中13町が消滅可能性都市となっている十勝全体で急ぎ取り組むべき課題かもしれない。

<参考>中札内村の年度末の人口推移

 

総人口(人)

65歳以上(人)

世帯数

年度

合計

合計

(世帯)

1964年

2,285

2,342

4,627

 

 

 

986

1965年

2,239

2,299

4,538

 

 

 

975

1966年

2,195

2,265

4,460

 

 

 

981

1967年

2,206

2,271

4,477

 

 

 

989

1968年

2,176

2,241

4,417

 

 

 

996

1969年

2,138

2,169

4,307

 

 

 

1,019

1970年

2,066

2,090

4,156

 

 

 

987

1971年

1,990

2,016

4,006

 

 

 

966

1972年

1,952

2,002

3,954

 

 

 

961

1973年

1,926

1,970

3,896

 

 

 

971

1974年

1,907

1,965

3,872

 

 

 

987

1975年

1,881

1,952

3,833

 

 

 

999

1976年

1,899

1,952

3,851

 

 

 

1,016

1977年

1,906

1,918

3,824

 

 

 

1,031

1978年

1,910

1,915

3,825

150

183

333

1,043

1979年

1,894

1,903

3,797

152

201

353

1,036

1980年

1,900

1,902

3,802

163

213

376

1,045

1981年

1,862

1,884

3,746

170

231

401

1,049

1982年

1,850

1,877

3,727

175

243

418

1,064

1983年

1,915

1,917

3,832

176

245

421

1,133

1984年

1,973

1,974

3,947

177

246

423

1,144

1985年

2,042

2,040

4,082

181

248

429

1,191

1986年

2,052

2,043

4,095

192

245

437

1,180

1987年

2,059

2,055

4,114

199

258

457

1,184

1988年

2,081

2,055

4,136

211

262

473

1,203

1989年

2,064

2,049

4,113

215

258

473

1,195

1990年

2,020

2,016

4,036

228

269

497

1,197

1991年

2,018

1,979

3,997

243

276

519

1,351

1992年

2,026

1,997

4,023

251

292

543

1,391

1993年

2,023

2,019

4,042

284

327

611

1,454

1994年

2,024

2,015

4,039

296

341

637

1,457

1995年

2,029

2,007

4,036

312

364

676

1,471

1996年

1,988

1,992

3,980

329

382

711

1,470

1997年

2,004

2,010

4,014

340

392

732

1,512

1998年

2,009

2,002

4,011

362

405

767

1,534

1999年

2,008

2,036

4,044

364

420

784

1,571

2000年

2,020

2,065

4,085

379

435

814

1,593

2001年

1,992

2,057

4,049

383

451

834

1,613

2002年

2,005

2,068

4,073

394

469

863

1,638

2003年

2,001

2,057

4,058

404

475

879

1,631

2004年

1,970

2,052

4,022

411

494

905

1,641

2005年

2,004

2,069

4,073

422

508

930

1,702

2006年

1,971

2,023

3,994

440

522

962

1,698

2007年

1,984

2,021

4,005

433

539

972

1,724

2008年

1,971

2,033

4,004

441

549

990

1,744

2009年

1,972

2,072

4,044

438

566

1,004

1,793

2010年

1,990

2,051

4,041

443

571

1,014

1,807

2011年

1,981

2,080

4,061

439

590

1,029

1,809

2012年

1,997(0)

2,093(20)

4,090(20)

442(0)

610(0)

1,052(0)

1,826(17)

2013年

1,974(0)

2,086(17)

4,016(17)

444(0)

614(0)

1,058(0)

1,824(17)


※( )内の数字は外国人。