【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第3分科会 人口減少にともなう自治体・地域のあり方

 富良野市は農業や観光業という基幹産業を持ち、「市町村魅力ランキング」でも全国で上位に位置づけられているが、人口減少が進んでいる。その中でも特に人口減少が顕著な地域に焦点を当て、地域の取り組みと自治体職員の役割について考えることとした。



地域コミュニティ活動から考える地域のあり方


北海道本部/上川地方本部・自治労富良野市労働組合連合会

1. 富良野市の概要

 富良野市は、北海道の屋根と言われる大雪山連邦十勝岳と夕張山系芦別岳の山々を要す自然に囲まれた町で、東経142度16分、北緯43度24分に位置し、北海道の中心標が立つまち、人にたとえると「へそ」にあたることから、「へそのまち」として、基幹産業である農業と観光が調和する富良野圏域の中核都市である。
 1897年の富良野村役場設置からはじまり、1919年の町制施行により富良野町へと変わり、1956年に東山村と合併、1966年に山部町との合併にあわせて富良野市政が誕生し今に至っている。
 基幹産業の1つである農業は、地目構成の多様性(水田、転換畑、普通畑)と、経営形態の多様性(稲作、玉ねぎ作、施設園芸、普通畑作、露地野菜作)が1つの特徴であるが、その中でも1970年からの米の生産調整(減反政策)を契機に導入に努めた野菜・果菜が、現在では玉ねぎ・スイカ・メロンの一大産地として成長している。
 しかし、農業後継者の減少や経営の大規模化等から農家戸数の減少が続き、1975年には1,700戸を超えていた農家戸数は2012年度で683戸となり、農業を行う担い手の確保が急務となっている。
 もう1つの基幹産業である観光は、テレビドラマ「北の国から」の人気により一躍北海道を代表する観光都市となったが、その観光の土台となっているのは農村風景含めた富良野の自然豊かな美しい景観である。また、観光名所としてラベンダーやワールドカップ開催で有名になった富良野スキー場などがあるが、最近では地元産の野菜等をたっぷり使用した「富良野オムカレー」が名物となり、2010年にオープンした「フラノ・マルシェ」は地元の食材・お土産などの物産が豊富で、開業から3年間で200万人を超える観光客を集め、新しい観光名所となっている。
 富良野市としての全体の観光入込者数は240万人を超えた2002年頃と比べ現在では170万人台で推移しているところであるが、近年宿泊客数を増やす取り組みからアジア観光客を中心に宿泊延数は徐々に増加してきている。
 また、富良野市の特色の1つとして、「生ごみを基幹産業である農業の土づくりに生かしたい」と1983年にそれまでモデル地区として行ってきた生ごみの分別収集を全市で開始、1988年には「分ければ資源、混ぜればごみ」を合言葉に、ごみの6分別収集を開始、今では14分別収集を行い再資源化率おおよそ90%を誇る「ごみリサイクルの街、環境にやさしい街」として市民の大きな誇りとなっている。


2. 富良野市の現状

 これまで挙げた基幹産業の農業・観光、そして環境にやさしい街として、そのブランドが定着していることがわかる第3者による調査として、株式会社ブランド総合研究所が毎年国内1,000の市町村及び47都道府県を対象に認知度や魅力度、イメージなどの72項目からなる「地域ブランド調査」がある。「市町村魅力度ランキング2013」の部門で富良野市は全国の市町村の中で、京都市、函館市、札幌市、横浜市に続き第5位にランクインしている。
 しかしながら、富良野市も他自治体と同様に人口減が進み、1960年代前半の37,000人台をピークに2014年5月現在23,441人と大幅に減少、1970年代以降でみると微減で推移してきている。
 年齢別人口構成では、1965年と2010年を比較すると幼年人口比率は30.1%から13.0%にまで減少、生産年齢人口比率は65.0%から60.1%と微減しているが、高齢者比率は逆に4.9%から26.8%まで大幅に増加しており、少子・高齢社会が進んでいる。
 国勢調査において1970年以降は人口減少が続き、1975年には、過疎地域対策緊急措置法に基づく過疎市町村の指定を受けた。その後過疎指定を受けていたが、2000年調査により人口が微増し、過疎指定要件を満たさずに指定から外れることとなったが、2014年3月に成立した過疎地域自立促進特別措置法の改正により富良野市も過疎地域として追加告示されたことから、富良野市過疎地域自立促進計画を策定、重要課題に対し今後積極的な取り組みを進めていくところである。
 富良野市には大きく富良野、山部、東山という地区があり、地区別にみると、山部地区と東山地区の人口減少が顕著であり、1975年に約2,800人いた東山地区では、2012年では約980人と推移している。

図-1 国勢調査による富良野市の人口推移

図-2 富良野市の人口ピラミッド(2010年)


3. 東山地区での調査

 ここからは人口減少が顕著である東山地区に絞り、そこでの地域振興に向けた動きなどについてまとめていきたい。
 富良野市は、2005年12月に北海道大学と包括連携協定を締結し、その活動の一環として当市の基幹産業である農業に視点を置き2010年度に「富良野市農村資源及び人材活用調査」を市と大学が連携して行った。
 この調査では、富良野市街地から最も遠く、農業としての生産条件も他の地区と比較して良くないことに加え路線バスの縮小などの多様な要因により、人口減少及び高齢化が進んでいる東山地区に焦点を当てている。(図-3
 調査方法として、住民を4つのグループに分け、地区で感じている問題点、その対応として考えられることを、懇談会という形式をとりながら、直接聞き取っていくという方法をとった。4つのグループとは、地域リーダー、若手・中堅農家、高齢引退非農家、農家女性といったグループである。その中で出された問題点をまとめたものが図-4となる。

図-3 富良野市概要図

図-4 東山地区における農業問題の構成図(富良野市農村資源及び人材活用報告書より)


 調査を進め、各グループにより様々な意見が出されているが、主として生活インフラと集落組織の問題が出された。
 生活インフラの問題として、小規模な保育所・学校ということでのサービスの低下や生鮮食料品等を扱う生活店舗の廃止、バス路線縮小等による交通手段の縮小(このことは、病院へ30分以上かかる医療問題ともつながっている)といったことがあげられている。
 集落組織ということでは、農業を中心とした調査であるため農事組合での組織体制ということになるが、これは農村地帯での農事組合=地域の自治組織という構図で機能していることも考えると、組織内でのコミュニケーション不足等の問題は、地域自治体制においても直結している課題であると考えられる。
 このような問題への対応ということで、住民からの意見を出してもらうと、住民を増やす・減らさない努力をすることが必要で、そのためには「外部との交流」を展開するということが意見として出されていた(図-5)

図-5 農村問題への対応方向図(富良野市農村資源及び人材活用報告集より)


4. 東山地域活性化への動き

 前述の「富良野市農村資源及び人材活用調査」を基にし、東山地域の山岳・農業景観や自然環境、農作物に目をつけ、市の農業と並び重要な産業となっている観光面から地域活性化へのアプローチとして、2011年に「東山地域観光振興計画」を策定し、そこからの活動も行われている。
 また、前述の調査での懇談会をきっかけとし、地域住民みずから地域を活性化させるために動かなければという動きが起こり、そこから始まった活動もいくつか出てきている。そういった事例をいくつかあげてみる。

(1) 樹海の里フットパスツアー
 観光からのアプローチから地域活性化をめざす試みの一つ。
 地域の若者を中心に地元からの動きを起こしたいと立ち上げられた「樹海の里もりあげ隊」が主催し、市内外から参加者を募集し約10kmのコースを景観を楽しみながら歩いてもらう。
 地元住民は、ガイドや休憩所での地元農産物を食していただくスタッフとして、また炊き出しなども行い、地元の良さをアピールしている。

(2) 樹海のやってみる会
 地元農産物の直売所を運営するために地元住民により組織された。
 国道38号線沿いで直売所を行い、地元農産物をPRしている。また、この場所に地元住民が集まり憩いの場所ともなっている。
 この直売所は、農業者だけではなく地域への移住者も協力し運営を行っている。
 また、この活動を基礎としNPOの立ち上げにつながり、地域貢献活動へと広がりをみせている。

(3) 樹海わっしょい倶楽部
 元々は、地域で老若男女問わず多くの人で賑わっていたが、様々な理由により開催されなくなっていた東山盆踊りを14年ぶりに2011年に復活させた。
 メンバーは20~30代で自分たちが経験したものを子どもたちにも経験させたいという思いと地域が賑わうイベントをという思いで開催した。
 今後も他のイベントも考えながら継続をしていきたいと考えている。

 以上、3つの事例であるが、この他にも地域の賑わいを取り戻したいと考える地元住民からの活動が立ち上がってきている。
 それぞれが活動を始めてから数年が経過し、どれもが順調に活動を続けているわけではない。立ち上げた活動から発展し広がりをみせているものもあれば、事例であげたもの以外には、活動を続けていくことを模索しているものや、内容的に続けてはいるが当初の盛り上がりを持続できていないものなどもある。
 これらの活動が地域の過疎化対策にどの程度繋がっていくのかどうか数年の活動ではまだわからない部分も多い。
 しかし、自治体からの働きかけではなく、地域住民自らが地域コミュニティ活動として、動きだしたということが重要なのではないだろうか。


5. 今後に向けて

 富良野市は今年約10年ぶりに過疎指定され、財政的には過疎債が使えるということが、確かに、有利な部分と考えられるが、それはあくまで一過性のものである。富良野市もそうだが、全国の多くの自治体で抱えている過疎・高齢化という問題に対し、その対策はまちがいなく必要となってくるものである。
 今回、一つの地域コミュニティ活動をまとめてみたが、こうした地域での動きの中に、自治体の職員も関わりを強くしていくことが必要になってきているのではないだろうか。
 当市では、業務のひとつとしてコミュニティ活動の助長や地域振興を図るために、町内会・区会に職員をコミュニティ推進員として配置し、地域との連携を図っている。
 また、業務を離れた部分で職員それぞれが地域の構成員となり、積極的な地域コミュニティ活動へ参加するという姿勢が大切になっている。
 こういった活動が継続することで、地域に人が集まってくる動きにまでなってくるかは、まだまだ未知数だと思われる。
 今後人口減少・高齢化という問題を考えるときに、そういった地域の繋がりの中で地元に子どもたちが残りたいという思いを強くし、また希望通り残っていけるような自治体とするために何が必要なのかという視点や、「魅力度ランキング」で表されているような地域のイメージや魅力を活かした移住の促進、また移住者が地域コミュニティに参加し共に地域振興に加わっていく体制をどう創り、広めていくかということが大切なのではないだろうか。