(図3)県内3ブロック割と町立4病院の拠点位置 |
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(図4)県内3ブロックの人口推移 |
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県内の町立病院は、(図3)からA・D病院の西部圏域とB・C病院の東部圏域に分かれる。それぞれの病院所在位置は豪雪地帯に位置し、昭和30年代に設置され地域のニーズに沿った医療体制を構築している。特に、A・C病院は不採算地区特定病院第1種(不採算地区病院第1種病院:直近の病院までの移動距離が15km以上となる位置に所在)に該当している。A病院は開設当時の地域の人口は約15,000人、今日までの50年の間に人口は3分の1の5,200人迄に減少し、高齢化率が48.2%、少子化率は9.7%と少子・高齢化が進み「日本の30年先を行く"超高齢社会"」と言われている。A病院は家で暮らしたいと願う高齢者を支えようと、30年近く前から医師による自宅への往診を柱とする在宅医療に力を入れてきた。しかし、老々介護や独居が急増し、「家」の介護力が低下。さらに認知症の人が増え、在宅医療が難しいケースも多くなる中、年間2,000件の訪問診察と1,500件(2013年度実績)の訪問看護が実施され、地域包括医療を確立している。
C病院が所在する地域においても、人口減少が著しく、2008年3月より療養病床の一部を介護老人保健施設(45床)に転換し、一般病棟79床、療養病棟20床の144床で運営、1フロアーを一般病床27床と療養病床20床で区分されていたが、2009年4月から一般病床52床、療養病床47床に変更し、慢性期に対する医療提供と、2008年8月より出前健康講座を実施し各地域の健康受診率の向上をめざす事業展開を行っている。しかし、C病院では2003年度の常勤医師数は13人であったが2006年には常勤医師数は8人に減少。現在は11人の常勤医師数となっているが経営的には逼迫した状態である。
D病院の地域では人口推移は若干の増であるが、近隣に国立病院・大学病院等の大病院があり、慢性期の受け入れの役割を持つ。鳥取県の公立病院で唯一、精神科病床(99床)を有する病院であり、本来、県に求められる精神保健医療について代替機能を有するとともに、一般病床を併せ持つ病院として合併症を有する精神科医療の分野において重要な役割を持つ。また、地域における一般急性期医療、回復期における療養病棟を持つ病院として地域医療を担い、2009年より認知症疾患医療センターの指定を受けて、認知症疾患に対する専門医療も提供している。
B病院地域では、人口推移は横ばい病態であるが、2004年病院の建て替え時に、地域の高齢化に対応するため精神科病棟50床(認知症病棟)を開設し、一般病棟60床と療養病棟50床、認知症病棟50床の患者を対象とした160床となったが、精神科医師の退職に伴い、2013年10月より認知症病棟(50床)は閉鎖となっている。
(図4)では、鳥取県のブロック別人口増減について表しているが、1997→08年にマイナスに転じたのち、さらに2004→05年以降一段と減少し、近年の人口減少が加速的なことがわかる。
また、鳥取県の人口増減数を東部・中部・西部ごとの内訳でみると、東部と西部は増加している時期もみられるが、中部は一貫して減少している。しかし、中部医療圏域は、東部・中部に比較し南北の面積が狭く不採算地区特定病院の設置なく医療提供は確立されていると考える。
3. 鳥取県の医師・看護師の需要と供給将来予測グラフ
将来の人口減や高齢化による、医師・看護師の不足など医療を取り巻く環境は急速に変化しており、地域で医療サービスを行ううえで、持続可能な医療提供体制の予測推計である。
A:シナリオ 医療提供体制が現状のまま推移し、平均在院日数が現状と変わらないという仮定推計。
B:シナリオ 現状進みつつある平均在院日数短縮のトレンドを考慮したもので、急性期医療への医療資源の重点投球による最適配分化と効率化が相当程度進む仮定による推計。
(注)これらの推計は一定の前提条件を仮定したものであり、少しの前提条件の変化が結果に大きな変化をもたらすこともありえるため、将来推計を使用するにあたってはその点に十分な配慮が必要である。
(図5)鳥取県における医師・看護師の需要と供給将来予測グラフ |
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推計結果
Aシナリオにおいては、人口減少が続くものの高齢化の進展(高齢者は医療機関を受診する割合が高い)により、2030年(H42)までは医療需要が伸び、病床数、医師数、看護師数は現状よりも多く必要とされる。供給面をみると、医師数については低位推計では必要数を将来にわたって大幅に下回る。Bシナリオにおいては、全ての時期において必要とされる急性期・長期療養の病床数、医師数は現状を下回り、必要とされる看護師数は現在よりも大幅に上回ることが予測される。
地方における医師・看護師不足は当該地域においては深刻な問題となっているが、都市部に集中する状況は以前より生じており、医療機関が官民共に林立していない地域においては、自治体立病院が地域医療の大きな担い手となっているため、医療供給体制維持していくための政策的取り組みが重要となってくる。
また、自治体立病院においては民間医療施設だけでは対応できないような政策医療や特殊医療への対応を必要とする事情がある。この点については、民間の市場原理に任せておいた場合にはカバーされない可能性のある領域として公的主体(自治体)が担うものであるが、民間医療施設が参入しないということは、すなわち通常の運営では赤字となって採算が成り立たない可能性があることを意味している。
4. 考 察
急激な高齢化社会を迎える中、医療や福祉サービスに対する関心が高まっている。誰しも年齢を重ねれば、若いときに比べ、病気になる可能性は高まる。ましてや子どものいない世帯や単身高齢者世帯では、医療機関に頼らないまでも、家族以外のだれかに身の回りの世話をしてもらう必要性は高い。高齢化により医療や福祉サービスに対するニーズが急増する一方で、少子化により若い人が減り、労働力人口が減少すれば、医療や福祉の担い手は減少せざるをえなくなる現状となる。
今回、医師・看護師の需要と供給将来予測グラフで示したように、年齢階級別入院受診率や外来受診率、介護サービス受給率の過去の推移をベースに、団塊の世代が後期高齢期を迎える2025年における看護師・介護職員の需要者数を推計する一方、現在のこれらの養成制度や就業状況が今後も続くとした場合の供給者数を比較検討した結果、医師不足の現状は、2009年3月に策定された改革プラン当時と依然かわりなく、まして地方の病院では厳しさが増している。これまで、ほとんどの医師は大学卒業とともに大学の医局に所属し医局の支持の下、様々な病院を経験する中で臨床経験を積むというシステムを取っていた。この大学医局による医師人事システムは、医師の都市部への集中を回避し地方にとっては大きく貢献していたと考える。
しかし、2004年から始まった新しい臨床研修制度によって、卒業後の医師が病院を選ぶことが出来るようになったため、大学病院に留まる卒業生は半数以下という状況となった。大学病院自体が医師不足を招き地方の病院等へ派遣していた医師を大学病院に戻す現象が各地で生じたことにより、医師の偏在が加速的に広がり、地方で医師不足となった一要因とも考えられる。
第七次看護職員需給見通しでは、全国的には看護職員数は2011年の約140万4千人から、2015年には約150万1千人に増加する見込みであり(約6.9%の伸び率)、病院については約90万人から約96万6千人に増加する見通しとなっているが、鳥取県においては、2013年7月で病院の不足看護職員数は226人であり、不足の要因として10対1の病院が7対1にするために、看護師をより多く採用したということが一番の要因となっている。
(図5)のとおり、2020年を目途に226人の不足が解消されたと仮定した場合でも、看護基準の変更・育休代替の人員の確保、また、夜勤が可能な看護師の不足のために、さらに225人の看護師が必要とされ、現場での看護師不足はかなり深刻である。医師、看護師・介護職員・薬剤師等の人材確保が基準に満たさなければ診療・入院の抑制をしなければならなくならず、病院の経営にとっても大きなマイナスの要素となり、地域から求められる医療提供さえ困難となってしまう場合も考えられる。
経営的には不良債務をもつ病院もあり、2008年の「病院特例債」を借入し経営改善を行っているが、地域での人口減少により病床稼働率の低下や、人材確保が出来ず外来の休診・病棟閉鎖など各病院での共通する問題となっている。
医療提供の面では、公立病院の役割は都市部と地方部とでは異なり、過疎地や僻地などの絶対的に医療施設が不足している地域では、一般医療サービスを供給することと、地域の医療を安定的に提供することが重要な役割である。他方で、都市部のように公的医療機関や民間医療機関が多く立地し、相互の機能が重複している場合には救急医療などの採算性を理由として、不足している医療サービスを政策的に供給することが公立病院の重要な役割だと考察する。
5. おわりに
政策医療(周産期医療や救急医療など)等の一般に不採算部門といわれる領域については、地域住民の要請がある限りにおいては、自治体立病院の使命としてこれらの医療提供を行う必要性がある。しかし地域住民の医療に貢献すればするほど、自治体の税収から補填しなければならないケースが増えていくこととなり、各自治体にとっては、税収等による収入とのバランスから予算措置をされる支出としても大きな負担となる一面もある。
今後も、財政分析や医療問題を共通認識しながら活動を続けることが重要であることを述べ、このレポートを締めたいと思う。 |