【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第3分科会 人口減少にともなう自治体・地域のあり方

 雲南市には、公民館がない。と言うのも、公民館が生涯学習機関の枠を超えて、多機能な市民活動の拠点「交流センター」となっているからだ。市内29の交流センターを拠点に、「地域自主組織」がそれぞれの地域課題を解決するために、特色を生かした活動を展開している。人口減少、高齢化などが進む雲南市の「小規模多機能自治」の仕組みを紹介する。



小規模多機能自治を支える地域自主組織
市民と行政の協働のまちづくり

島根県本部/雲南市職員労働組合・自治研対策部 福間  守

1. 進む人口減少と高齢化

 2004年11月1日、大東町、加茂町、木次町、三刀屋町、吉田村、掛合町の6町村が合併し「雲南市」は誕生した。面積553.4km2、県都・松江市の南西に位置する山間の町(図1)で、2010年の国勢調査人口は41,927人。10年前の2000年調査から約4,400人の減少、5年前の2005年調査から約2,500人の減少となった。国立社会保障・人口問題研究所の2013年人口推計が、前回の2008年推計から約600人下方修正されるなど、予想以上のスピードで人口減少が進んでいる。
図1:雲南市の位置と町ごとの面積
 同様に、少子化、高齢化も進む。2010年国勢調査での高齢化率は32.9%。同推計によれば、15年後の2025年には4割を超える。同じく、高齢化率を島根県及び全国と比較すると、2020年の島根県で35.1%、2030年の全国で31.6%。雲南市は全国の20年先の高齢化社会を歩んでいる。20年後の日本の縮図がここにあると言っても過言ではない。

2. 地域自主組織の設立

 人口減少や高齢化が進めば、人々のネットワークは減少し、集落機能は低下、残された住民の負担が増すといった、負のスパイラルに陥り、地域社会は崩壊してしまう。このピンチを「住みよい地域づくり」へのチャンスに変えるため、雲南市は市民とともに新たな地域モデルの結成に取り組んだ。
 それぞれの地域に様々な組織がある。自治会や町内会などの地縁型組織、消防団や営農組織などの目的型組織、PTAや女性グループなどの属性型組織。これらを概ね小学校単位(公民館区)で再編し、市民力を結集した広域的で多機能な地縁組織が、雲南市の「地域自主組織」だ。年代や性別、活動が異なる様々な組織が地縁でつながり、連携を深め、それぞれの長所を生かし、補完し合うことで、地域課題を自ら解決し、自地域の振興発展を図る。こうした「住みよい地域づくり」を実践する、小規模ながらも様々な機能を持った地域住民による自治の仕組みを「小規模多機能自治」と呼んでいる。
 2007年度までに市内全域で42の地域自主組織が結成された(図2)。人口規模は、最少200人から最多4,000人までと幅広い。それぞれの地域自主組織が住民から負担金を募り、各種事業に充てている。

図2:地域自主組織のエリア

3. 地域自主組織の活動拠点「交流センター」

 言うまでもなく、公民館は生涯学習機関で教育委員会の所管だ。もともと雲南市内には26の公民館と3つのサブセンターがあった。地域自主組織が設立されると、公民館に地域自主組織の事務局が併設され、そこは生涯学習の枠を超えた、地域の様々な役割を果たす場所になっていた。
 2008年6月、こうした地域の実態に即し、公民館を拠点に諸活動を展開できるようにと、市は交流センター構想を打ち出した(図3)。公民館の機能はそのままに、地域づくりと地域福祉の機能もあわせた幅広い市民活動の拠点となる「交流センター」。「地域づくり」「地域福祉」「生涯学習」を活動の3本柱にした。2009年4月には、交流センターへのスムーズな移行を目的に、市内6つの総合センターに1人ずつ、地域づくり担当職員を配置した(人的支援を継続中)。
 交流センター構想を市民に周知するために1年半余りを費やし、2010年4月、全市29の交流センターが一斉にスタートを切った。公民館から交流センターとなり、所管が教育委員会から市長部局へ移動。公民館からの流れを受けて、センター長とセンター主事(ともに交流センター雇用協議会が任命)が置かれた。この人件費は市が負担。このほかに市は財政支援として、生涯学習推進員やセンター職員の補助にあたる協力員などの人件費(いずれも地域自主組織が任命)、各種事業費、事務費に充当できる「地域づくり活動等交付金」を措置している。
 交流センター(旧公民館)が地域自主組織の活動拠点となれば、施設管理も地域自主組織に委ねようと、指定管理者制度を導入。市と地域自主組織は、2012年度末までの3年間の基本協定を締結し、交流センターのスタートと同時に指定管理も始まった(一部、市の直営が残る)。

図3:交流センターのイメージ(当初)

4. 水道検針で「まめなかねぇ~」

写真:水道局の検針業務を受託している三刀屋町の「躍動と安らぎの里づくり鍋山」。検針の際に声かけも行っている。

 三刀屋町の地域自主組織「躍動と安らぎの里づくり鍋山」の取り組み「まめなか君の水道検針」を紹介したい。同自主組織は水道局の検針業務を受託している。検針員が毎月、鍋山地区の全世帯(430戸)を訪問し、検針を行う(写真)。このとき、各戸で「まめなかねぇ~」と声をかける。当然、異常を察知すれば、関係機関に連絡する。自主組織が事業収入を得る(雇用の確保)と同時に地域の見守り(安心安全)を実践。住みよい地域づくりのために身近なことに取り組んでいる。

5. 制度の課題が浮き彫りに

 交流センターに移行して3年目の2012年には、制度改善による活動基盤の強化を目的に、交流センター制度の検証を行った。市の担当者が交流センターを訪問し、地域自主組織の役員やセンター職員と意見交換すること数度。以下のとおり、改善が必要な点を洗い出した。

(1) 総 評
 交流センターが地域自主組織の活動拠点として概ね順調に運営されている。ただし、一部に改善の余地がある。一部地域では前向きな取り組みが芽生え始めており、新たな支援策が必要。

(2) 交流センター職員と地域自主組織の方向性
① 交流センター職員と地域自主組織の一体化が必要。
② 事務局体制は業務量に応じて充実が必要。
③ 職員体制、処遇は地域の実態に応じたものに。

(3) 地域福祉の方向性
① 地域ぐるみの福祉が推進できるものに。
② 地域自主組織への実質的な一体化が必要(社会福祉協議会との関係整理)。
③ 地域の自主性・裁量性を尊重できるものに。

(4) 生涯学習の方向性
① 現在の方式を継続。

② ただし、社会教育行政として求める部分は明確に示し、きめ細かな対応が必要。
③ 横断的な連絡の場、中学校と各地区との連携が必要。

(5) 施設関係の方向性
① 超高齢化社会への対応が必要。
② 事務室のスペースの確保が必須(業務量は増加傾向)。
③ 住民の利便性と防災機能の観点が必要。

6. 第2ステージへ

 基礎的基盤を整備して始まった交流センター制度は第2期に突入(2013年4月~)。前述の検証結果を踏まえて、2つの大きな制度改正を行った。
 一つは、職員の直接雇用。当初、交流センター職員は交流センター雇用協議会の雇用だった。このため、交流センター職員は地域自主組織の事務を持つものの、指示命令系統と雇用主との関係が不整合だった。今年度からの地域自主組織の直接雇用方式により、交流センター職員と地域自主組織との乖離が制度的に解消され、一体化。交流センターを名実ともに地域自主組織の活動拠点として活用する体制が整った(図4)
 もう一つが、指定管理メリット(人的配置)の創設。これまで、指定管理に伴う人件費は、交付金や指定管理料に積算されていなかった。旧町固有の人的配置が残る市内不均衡、指定管理の協定更新、勤務実態と処遇の不均衡の状況から、施設管理の人件費を措置することで人的配置の充実と事務負担の軽減を図った。具体的には、2人以上の常勤体制がとれるよう、施設管理人件費を一括、地域づくり活動等交付金へ新設。旧町固有の方式を廃し、規模や利用実態に応じた従量制を採用した。
 このほか、社会福祉協議会との関係で複雑になっていた福祉部門を整理。地域福祉推進員の役割や社会福祉協議会の関わり方などを明示し、人件費を交付金に算入した。地域づくり、地域福祉、生涯学習の主要3本柱を包含する、より広い視点として、「安心安全の確保」、「持続可能性の確保」、「歴史・文化の活用」を加えた。

図4:交流センターのイメージ(第2期)

7. 持続可能な社会

 地域社会が続いていくことが、まちづくりの大前提だ。以下に、持続可能な地域社会の仕組みづくりのポイントを整理した。地域自主組織の基本で、市民力の結集がものを言う。
① 地縁型の住民による住民のための組織であること。
  世帯主制ではなく、一人一票制が望ましい。
② 地域内の多様な主体が参画していること。
  地縁型組織(自治会など)、目的型組織(営農組織や消防団など)、属性型組織(PTA、女性団体など)。
③ 組織体制が確立されていること。
  会則があること。執行体制(役員体制)、議決機関、監査機関が存在すること。
④ 活動拠点があること。
  雲南市では交流センター。
⑤ 活動分野が3つ以上あること(複合的な活動であること)。
  雲南市では、「安心・安全」、「歴史・文化」、「持続可能性の確保」
⑥ 課題解決志向であること。
  地区計画の策定など。
 それぞれの地域自主組織の発展はもちろんだが、横のつながりも大切だ。今年度から、地域と行政が「直接、横断的に分野別で」対等に協議する地域円卓会議を導入。様々な地域課題をテーマに議論している。横の情報交換の場でもあり、共有、協議、協働を促進する場となっている。アイディアを出し合い、協働で地域課題の解決をめざす。

8. 新しい公共

 雲南市誕生から9年が経とうとしている。この間、全地域で地域自主組織が結成された。その活動拠点として交流センターを設置。地域課題を地域で解決する基盤、つまり、住民自治の基盤が整った。小規模多機能自治の進展により、地域自主組織からは、住民票の発行などの窓口サービスや市民バス回数券の販売ができないか、といった声が出ている。これまでの「行政がやってくれない」から、「どうしてやらせてくれないのか?」と変化した地域が増加。市民が主体的に協働のまちづくりに関わることが、新しい公共の創出につながる。 

9. さらなるシンカへ

① 地域人材の育成・確保
  地域内の多様な人材に関わってもらうには? 若い世代の関わりを深め、次世代につなげていくためには?
② 自治会との関係
  地域と行政、地域自主組織と自治会の関係における相互の役割、効果的な情報共有の方法、仕組みとは?
③ 自主財源の確保
  課題解決型に加え、新たな価値を創造していくためには?
④ 法人格の取得方策
  地域自主組織のような組織モデルに相応しい法人格とは?
⑤ 各地域の底上げ
  比較的発展途上にある地域の取り組みを支えるには?
 課題を挙げればきりがないが、自治の深化に向け進化を続けているのも事実だ。住民自治の中核を担う地域自主組織とのパートナーシップを築く雲南市。市民と行政の協働で「誰もが平和で心豊かに暮せるまちづくり」をめざす。




※ このレポートは、2013年5月26日に雲南市で開催された「小規模多機能自治フォーラム」で発表された「雲南市の地域自主組織」の内容を抜粋し、編集した。