【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第3分科会 人口減少にともなう自治体・地域のあり方

 全国的な問題として大きく取り上げられる人口減少問題。数十年後には消滅する自治体も出てきかねない状況のなか、各自治体は定住政策に取り組んでいる。多久市においても炭鉱最盛期には45,000人を超す人口であったが、現在では20,000人を割ろうとしているなか、定住奨励金や子育て支援などの定住対策に取り組んでいる。多久市における定住奨励金の効果等について考察したい。



人口減少について
―― 定住奨励金の効果 ――

佐賀県本部/多久市職員労働組合

1. はじめに

(1) 多久市の概要
 多久市は、北に天山、西に船山、八幡岳、南は鬼の鼻山、東には両子山、等々の山々が連なり、四方を山に囲まれた盆地である。全長は東西に14.9km、南北には11.6kmで南を底辺としたほぼ三角形の形状を呈し、総面積は96.93km2のうち林野面積が、42.53km2(43.9%)を占める中山間地を多く抱えた小都市である。  
 位置的には、東と南東には小城市(旧小城町、牛津町)、南に江北町、大町町、武雄市(旧北方町)、南西に武雄市、唐津市(旧相知町)、西北に唐津市(旧厳木町)、北に佐賀市(旧富士町)の各市町と接しており、ほぼ佐賀県の中心部に位置している。そのため、県内の各市町まで車でおおよそ1時間圏内と非常に立地条件に恵まれた都市といえる。また、高速道路である長崎自動車道のインターチェンジもあり、福岡市・長崎市までも車で1時間圏内となっている。

(2) 多久市における人口の推移
 昭和20年から30年代、石炭産業全盛時に、大きな人口の伸展があり、昭和35年の国勢調査では、45,627人の人口を数えることとなる。しかし、40年代に入り、国のエネルギー政策の転換による石炭産業の撤退に併せ、本市の人口も激減してきている。一時、昭和50年から60年にかけては若干の微増がみられ、人口減少傾向に一定の歯止めがかかったかに思われたが、最近では、核家族化、少子化の進展と高齢化率の急進により再び減少傾向に転じてきた。
 昭和50年以降の人口変動の内容を見てみると、出生と死亡の差によって動く自然動態と、転入と転出の差によって動く社会動態に分けることができ、多久市においては特に社会動態による人口減少が大きく、これに歯止めをかけることが喫緊の課題となっていた。

資 料 国勢調査結果
    (単位:人、世帯、平方キロメートル)

 
資 料 自然動態・社会動態の変動

(3) 定住奨励金の創設
 このような状況から民間の資力、ノウハウを活用し住宅政策を推進するため、宅建業者によるミニ住宅団地の開発・分譲及び市内空き地・空き家の販売促進策等のハード部門を民間で役割を担い、行政は転入及び定住促進を刺激するソフト施策の支援措置を図ることを官・民協働で検討し、それぞれの役割についての意思確認を行った。
 そのなかからソフトの定住促進策として実施に至った制度が2007年度から実施している多久市定住奨励金制度である。

2. 奨励金制度

(1) 概 要
 2007年度から始まった制度は①市内に新たに住宅を取得した場合に交付する定住奨励金(市外者対象の転入奨励金【最大110万円】と市内者対象の持ち家奨励金【最大50万円】)、②宅建業者が5戸以上の集合住宅建設や分譲地を造成した場合に道路、上下水道整備に係る費用を補助する住宅関連整備事業補助金、③誘致企業が雇用する市外居住の従業員に対して市内に定住することを奨励し、新たに住宅等を取得し転入した場合に交付する雇用者定住促進奨励金の3つがある。
 制度は2年間の時限条例で制定し、制度終了時には事業の検証等を行い、社会情勢の変化に対応できるよう内容の改正に努めてきた。定住奨励金制度については、社会動態に一定の歯止めがかかっている状況を鑑み、3度の制度延長を行い現在に至っているが、②③については、費用対効果を勘案し2011年度で廃止となり、自然動態の減少を抑える目的で、新婚世帯家賃等補助金を2011年度から実施している。
 今回は①の定住奨励金について、利用者アンケートをもとに効果等について考察していきたい。

(2) 実 績
 定住奨励金については2007年度から2013年度までの実績は293件の1,017人となっている。初年度は申請数も伸び、数年ぶりに社会動態が2人の増となった(転入772人、転出770人)。しかし、その後社会動態は一定、緩やかになったものの、減少傾向が続いている状況である。日本自体が人口減少社会に突入している現状からみても、極端な人口増の取り組みについては厳しいものがあるが、短期的に減少率を抑える政策と長期的に人口増に向けた政策が必要と考える。

奨励金実績(2014年3月末現在)

 

転入奨励金

持ち家奨励金

合 計

件数(世帯)

世帯人員(人)

件数(世帯)

世帯人員(人)

件数(世帯)

世帯人員(人)

2007年度

24

75

25

86

49

161

2008年度

17

44

28

112

45

156

2009年度

16

41

27

108

43

149

2010年度

14

38

30

111

44

149

2011年度

9

24

23

86

32

110

2012年度

17

60

19

76

36

136

2013年度

19

56

25

100

44

156

合 計

116

338

177

679

293

1,017

3. アンケート調査

(1) 概 要
 2009年及び2012年に定住奨励金制度を利用した方を対象としたアンケート調査を行った。回答率は2009年が56%(91件中51件の回答)、2012年が53%(108件中57件の回答)となっている。右の表に示すとおり、持ち家奨励金対象者(市内転居者)へのアンケートについては双方とも回答率が50%に満たない状況である。一方、転入奨励金対象者(市外からの転入者)については、65%を超える回答率を得ている状況から、転入者転入奨励金対象者が奨励金制度に対する関心が高いことが伺える。

定住奨励金アンケート回答率

実施時期

形態

対象者

回答件数

回答率

2009年6月

転入

40

26

65%

持ち家

51

25

49%

2012年5月

転入

35

25

71%

持ち家

73

32

44%

(2) 内 容
 アンケートの内容は全部で11問あるが、特徴的なものを上げると、転入者に対するアンケートとして「以前、多久に住んでいたことはあるか」の問いに対し、2009年では「住んだことがない」が65.4%に対して2012年では45.8%と開きがある。奨励金制度の効果が当初は多久に住んだことがない新規の居住者、いわゆるI・Jターン者に対して有効であったものが、時間の経過とともに、Uターン者にシフトしていったと思われ、原因として多久市民に定住奨励金制度が浸透し、市民の子どもや親類等への広報が自発的に行われていると考えられる。

 
2009年  

2012年

 一方で、市内転居者の「奨励金制度が転居の要因となったか」との問いに対し、2009年では64%がなったとの回答に対し、2012年では31.3%にとどまっている。市内転居者は家族からの独立などで家を取得する場合が多く、子どもがすでに就学している場合や、親・親類の近くに家を建てたいと考える方にとっては、奨励金と居住地との関連性は薄いと思われる。

 
2009年  

2012年

 多久市の全体的な住み心地についての問いには、「住みにくい・どちらかといえば住みにくい」が2009年の25.5%に対し2012年が19.3%となっている。また、「住みやすい・どちらかといえば住みやすい」も2009年の58.8%に対し2012年が45.6%と減っており、「どちらともいえない」が15.7%から35.1%と増加している。将来的な不安(車を運転できなくなった場合)や、より快適な生活環境(下水道整備等)を求めるため、どちらともいえないとの回答が多くなったと思われる。

 
2009年  

2012年

 

4. まとめ

(1) 定住奨励金  
 定住奨励金の効果については、先述した様に社会動態に一定の歯止めがかかっていることから、当初の目的は達成しているといえる。また、制度浸透による市内居住者のUターン者に対する自発的広報等を考えると、大学等で県外に出た若者や県外で就職し退職した方のふるさと回帰を促す制度となっていると思われる。
 定住奨励金事業における多久市の財政面での効果については、制度利用による人口増がもたらす地方交付税の増加と、家の新規取得を要件としているため、固定資産税や市民税の増加(この税収増により地方交付税は若干減となる)などにより、交付した奨励金額以上の税収増となっており、この税収については今後も継続的な歳入として見込めるため、費用の面からも効果が確認できる。

(2) 今後の定住対策
 定住先の決定には様々な要素が絡んでいるため、ターゲットを絞った対策を講じる必要がある。多久市においては現在実施している新婚世帯家賃補助があるが、これは賃貸住宅居住者が対象であり、対象期間内に多久市に家を建てたいと思ってもらえることが重要となる。
 『近き者説べば 遠き者来たる』(論語:ちかきものよろこべば とおきものきたる)に象徴されるよう、まず、市内居住者が多久市を好きになるような行政運営が今後も必要となってくる。