1. はじめに
人口減少は、労働人口の減少と消費市場の縮小により経済活力を低下させる。特に少子高齢化の人口構造は、現役世代の社会保障負担を増加させ、消費量の落込みを通じ経済にさらなるマイナスの影響を与えることになる。そして、税収や貯蓄率も低下し、財政や金融市場をはじめあらゆる分野に悪影響を与えることが予想される。既にGDP成長率は鈍化しており、また、消費税の増税や公的年金の給付水準低下が確実視されるなど国民負担の増大が鮮明になってきた。
問題解決には国の政策や制度改革によるところが大きいが、人口減少時代における地方自治体の果たす役割、そしてその責任もとても重要である。なぜなら、人口減少による様々な弊害は地方にも波及し、財政が圧迫するなかで行政機能を維持する必要がでてくるからである。また、地方消費税を主要財源として頼っており、増税の恩恵を直接受けていると言えるからである。
このように人口減少問題は、国の変革を余儀なくされるだけに留まらず、地方行政をも脅かす問題であり、各自治体は、人口減少対策を講じるとともに人口減少局面における行政サービスの持続性の確保に向け、真剣に取り組まなければならない。
2. 人口減少の実態
「2040年には地方が消滅する」、「人口が2040年に1万人以上ながら将来的な維持が困難になる」これは国立社会保障・人口問題研究所が昨年示した日本の将来予測と同研究所の試算を基に日本創成会議が今年5月に示した佐賀県嬉野市の将来予測である。ともに人口の再生産を中心的に担う20~39歳の「若者女性人口」の減少を特に問題視している。
佐賀県嬉野市の合計特殊出生率は1.57(2008年~2012年集計値)と国平均を上回ってはいるものの人口置換水準(人口が安定状態になる値);2.07には及ばず、人口は1985年以降下がり続けている。また佐賀県嬉野市の特徴として、高校卒業後に就職や大学進学などで市外に転出する若者が多いため20~25歳の人口割合が小さい。
嬉野市年齢別人口ピラミッド(平成26.1.31現在) |
嬉野市人口推移 |
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3. 解決策Ⅰ〔人口減少対策〕
人口減少が続けば、いずれ地方行政は行き詰まり行政サービスの質は低下する。このことは前節で示したとおり佐賀県嬉野市も例外ではない。将来にわたり安定的に行政サービスを提供できるよう、解決策の一つとして根本的な人口減少対策が必要である。すわなち、結婚・出産・育児支援や人口流出防止のための地域経済振興策(地場産業支援・企業誘致)である。国の政策や景気に左右されるものではあるが、人口減少の加速を食い止めるべく、各自治体において対策強化に努める必要がある。
4. 解決策Ⅱ〔効率的な行政運営〕
国土交通省は昨年、人口減少を前提とした国土計画見直しの議論をスタートさせた。地方においても、人口減少を見据え、人口減少時代を乗り越えるべく、より持続可能な行政の実現に向け動き出さなければならない。
昨今、「集積効果」、「広域連携」、「コンパクトシティ」というものが注目されている。これらは、行政サービスの効率性を向上させるものであり、各自治体の地域性に応じて、効果的に活用していくべきだろう。
(1) 集積効果
産業を集中させることで、ランニングコストの削減と情報交流の促進が可能となり、生産力向上が可能となる。行政運営についても同様に考えられる。
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【イメージ図1】 異なる線をまとめることで、より太く |
先進事例〔集積効果〕~長野県南佐久郡川上村のヘルシーパーク構想~
街の一カ所に、病院、介護施設そして役場の保健福祉課を集中させ、情報共有のための連絡会議を毎日行い、ヘルシーパーク全体で住民の健康状態を管理するもので、保険、福祉、医療、介護面での一体化を図ることを目的とする。住民の健康状態の向上に加え、医療費の抑制という成果にもつながっている。 |
(2) 広域連携
市町村の枠を越え、近隣の自治体が共同して事業を行うもので、事務の合理化、効率化が可能となる。提供範囲が広がっても質の低下を抑えられる行政サービスに当てはめることができる。
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【イメージ図2】
同じ密度で、(行政)主体を少なく |
(3) コンパクトシティ
街の中心部に生活に必要な諸機能を集中させることで、行政サービスのより高いコストパフォーマンスが可能となる。
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【イメージ図3】
対象範囲を小さくすることで、より高密度に |
行政の持続性確保のためには、 (1)~(3)で示した効率向上策の他に、公共施設の統廃合などによる歳出削減策、財務マネジメント、行政構造改革といった取り組みなども併せて検討し、これまでの行政運営を見直していく必要がある。
5. 佐賀県嬉野市の取り組み
(1) 広域連携の実施
佐賀県嬉野市は人口3万人以下と小規模な市であり、既に単独での実施が非効率となる行政サービスが存在する。そのため、2000年に近隣の自治体とともに一部事務組合を設立し、さまざまな分野での連携を実現している。人口減少が進めば、広域連携の重要性はさらに増していくだろう。現在、共同実施している代表的な事業は次に掲げるものである。
○介護保険業務 ○ごみ処理施設 ○情報処理業務(電算システム) ○消防 |
(2) 地域コミュニティ活動の推進
人口減少により、地域社会は希薄化・孤立化するなかで、見守りネットワークとしての地域の重要性は増してくる。一方で、地域のニーズや特性も多様化するため、各地域を網羅する一律の行政計画や行政サービスに、無駄や不足が生じるおそれがある。そこで、佐賀県嬉野市は、地域コミュニティ活動の推進事業に力を入れ取り組んでいる。
地域コミュニティとは、小学校区を主たる範囲とした住民組織であり、自分たちが暮らす地域の課題を共有し、住民が主体となって問題解決に取り組む自治組織である。地域に根差し、よりきめ細かく地域のニーズに合った「コンパクトな自治」を満たすと同時に、行政と地域との協同・役割分担という側面もある。地域でできる課題は地域で[自助]、地域だけではできない課題は市と地域が共同で[共助]、さらに難しい課題については市、県に要望する[公助]といった、補完性の原理に基づくものである。地域振興や行政のスリム化といった点で注目を集めている。
2009年7月に3地区をモデル地区として地域コミュニティ活動をスタートさせ、2011年10月をもって全7地区で活動を行っている。
2011年10月をもって全7地区で活動を行っている。
≪地域コミュニティ活動の推進事業≫ ① 活動計画
活動を開始するにあたり、各地域コミュニティの住民ひとりひとりにアンケートを実施し、住民の声を踏まえた上で、10年後を見据えた活動計画を作成した。この計画に基づいてそれぞれのコミュニティが自主的な活動を行っている。
② 活動資金
市から事務局長(常駐各地区1人)その他の役員報酬である委託料と交付金(用途は、活動計画に基づく事業を実施するための費用に限る)を支出している。市の施設を管理・運営している3地区については、管理委託料としての収入がある。
③ 市役所によるサポート
地域コミュニティ活動の推進を図るため、担当課を設置し、事務局長研修会の開催や情報提供を行っている。また、パソコン等の備品は市が提供・管理し、事務所も基本的には市の施設を活用している。
その他に、住民への周知を図るため、地域コミュニティ記事の市報掲載や、市ホームページでの広報を実施している(ホームページでの広報は計画段階)。
④ 市職員の参加
出身小学校区を基本として、各地域コミュニティに職員サポーターとして、活動に参加している。これも、地域の住民が地域をよくするために活動するコミュニティの方針の一環であり、いち住民として市の経験を活かして活動をサポートするといった位置づけである。行政の押しつけにならないよう配慮を必要とする。
⑤ 今後の課題
・活動資金の確保……現時点では、市からの委託料、交付金が主な活動資金であり、継続的に活動を行っていくには、市や他の組織からの業務受託、コミュニティビジネス、会費の徴収等により、自主財源を確保する必要がある。
・広報の充実……活動をより多くの人に周知し、理解してもらうために、PVの作成、SNSの活用を行う。そういった活動を行うために必要な人材の確保。
・自主防災組織づくり……緊急の災害がおきた時に地域で対応できる、自主防災組織づくり。 |
6. おわりに
人口減少に伴う行政運営の見直しや改革は、全国の各自治体で求められてくる。それぞれの自治体は同様の課題を抱えていることが多いため、一つの自治体で行った取り組みが、他の自治体でも有効な場合も十分に考えられる。そのため、各自治体それぞれで独自に問題解決に取り組むとともに、効果的な事例、あるいは、問題解決策から生じる課題も含めて情報交換を行うことがとても重要である。
人口減少局面においても住民が安心して暮らせる社会を確保できるよう、これからもそれぞれの努力の継続が必要となるだろう。 |