【論文】 |
第35回佐賀自治研集会 第3分科会 人口減少にともなう自治体・地域のあり方 |
全国的な大幅な人口減少時代を迎え、多くの自治体の都市計画マスタープラン(以下、「都市MP」)は「右肩上がり」から「右肩下がり」へ方針転換を余儀なくされている。しかし人口減少下の計画の手法や理論が構築されていない。本稿は、このことについて当市の経験から人口減少下の都市MP策定の手法を考察するものである。 |
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2. 当市の組織体系と事業の効率化 当市の人口は、合併後5年を経過した2014年4月1日現在、56,829人(住民基本台帳登録人口)である。また、市職員は705人であり、うち一般行政職員は483人である。 |
3. 当市が置かれた現況の整理 当市は、宮崎県南東部に位置し、北は宮崎市、南は串間市、西は都城市、三股町に隣接し、面積約536km2の広域な市域を持つ都市である。ただしその多くは、急峻な山岳地で、水稲や柑橘類などの農用地を除くと、都市計画区域は、わずか約50km2程度(市域の約9%)しかない。
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また大幅な人口減少は当然ながら市財政規模の縮小にもつながる。平成42年の推計人口約4万5千人は、合併前(H17)の旧日南市の人口と、ほぼ同等である。財政規模も同等になると仮定すれば、図5のとおり、約272.4億円から約172.2億円程度まで縮小する必要があると想定される。建設費についても、35.6億円から23.5億円まで縮小することが予測される。これは、合併前の1市の予算規模で、旧1市2町のエリアを手当てしなければならないことを意味する。
ところで、当市の状況としてもう一つ考慮しておくべき事項が高速道路整備である。 |
福岡市などを除く九州内の多くの自治体は人口減少の予測がなされているが、これらの自治体の中でも当市の推計人口減少幅は大きくなっていることがわかる。高速道路等についてみれば、最終的には九州全域、中九州、南九州で、高規格道路のループが形成される予定であるが、当市の場合、市以南の整備計画の見通しがついておらず、整備途中の段階において当市が高規格道路のループの外に置かれる期間が存在する。すなわち段階的には、他の地域に比較して流通網の利便性が相対的に不利になる期間が存在する。 |
4. 当市での都市計画と都市(まち)づくり計画~人口減少社会と計画業務~ 当市で「都市(まち)づくり計画」を念頭においた理由は、総合的まちづくりが必要であるからである。総合的まちづくりの必要性を、公共交通を例にとり説明する。当市の基本的な公共交通は、JR、宮崎交通及びコミュニティバスである。当然のことながら、利用者は少なく公共交通は赤字であり、赤字路線への費用補填が必要である。今後一層の人口減少が進行すれば、JRなどの民間事業者はもとより、コミュニティバスすらも成立しない可能性もある。一方で、今後高齢化が進行する中で公共交通の確保は必須である。 この公共交通の問題への対処にはまず、以下の事項を検討し明確化する必要がある。 ① 公共交通の維持は可能か否か。 上記の①の段階では、通常の公共交通への赤字補填の事業であることから、公共交通に対応する部署のみが対応していることが一般的であろう。
そして、このことは、公共交通の問題をはじめとして、将来的には都市施設の建設や維持のための事業費用や福祉などの直接市民生活に係る事業費用にも影響を及ぼすものである。 したがってこれらの検討には、時間的スケールと予算スケールを考慮する必要があり、都市計画を踏まえた明確な都市像を持って、上記の①~③を、数値的シミュレーションで検討する必要がある。つまり、人口規模に適正な都市像を定め、人口減少の進捗に合ったその時々での実施可能な事業を、庁内部署毎に予測しておくことが必要である。 |
5. 当市の都市MP策定における基礎的情報の収集と整理 冒頭で述べたように、総合計画は、行政の内容を網羅的に取り扱う性質上、抽象的な文書表現に留まるのが一般的である。都市MPについても、都市計画区域内の土地利用方針や都市施設整備方針について言及するものが一般的であり、各分野の各種事業を体系化するための基礎計画書にはなり難いことが多い。 ・地理情報データベースによる統計データの一元管理について ① 様々な事案を視覚的に捉えることができるため、市民などへの説明材料となりやすい。 ・市民意見交換会の手法について
都市MP策定のプロセスにおいては、意見交換会を市内9つの地区ごとに実施した。この9つの地区は現在の中学校区であるが、これは平成・昭和の合併以前の行政区域(旧町村)に対応するものである。 意見交換会の進め方については、様々な分野に渡る要望の場に終始することがなく、より積極的かつ提案的な意見を収集するために、討議内容を予め設定し、さらに住民が数班の班に分かれるグループワーキング形式で実施した。 1回目:① 統計などから推測する20年後の当市の状況についての説明 である。各地区3回、計27回で延べ505人の意見交換会を得ることができた。 |
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6. 当市の都市MPの概要 これらの作業を経て策定された当市の都市MPについて説明したい。 ① ある一定の範囲にみんなで集まって生活をするしかない。【拠点】 人が一定の範囲に集まって生活圏を構成することは「コンパクトシティ」の考え方に近い。市街地密集度の高い比較的大きな地方都市や行政面積の小さな自治体では、1箇所に集まるコンパクトシティが構築できることも考え得る。 |
7. 都市MP策定の展望 これまで述べてきたように当市では大幅な人口減少を受け入れた都市MP、つまり都市(まち)づくり計画を策定した。今後、多くの自治体が人口減少下の都市MPに対応する時が来るが一方でこの人口減少下の都市MP策定の手法と理論は構築されていない。このことを踏まえ、ここでは当市の都市MP策定の経験の基に考察したい。 |
8. 終わりに これからの人口減少時代を迎えた小規模な自治体は、建設費をはじめとしてあらゆる分野の予算縮小がさけられないことから、様々な分野毎の事業を集約する必要があることは、各方面で指摘されている。このためには、行政は俗に言われる「縦割り行政の弊害」を極力減少させることが必要であり、一つのベクトルに向かった計画行政が機能することが大切である。 |