【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第4分科会 地域から考える再生可能エネルギーによるまちづくり

 積雪寒冷地における再生可能なエネルギーの実現に向けた取り組みの一環として、市民を対象として大学、地元企業、行政の方々を講師に招き、講演会及び施設の見学会による新エネルギー学習会を開催した。その結果、再生可能なエネルギー社会に向けた技術は確実に進歩しているが、積雪寒冷地におけるエネルギーの地産地消に実現するためには雪対策など課題も多く、その普及には法整備、金融の支援、地元企業の育成などが欠かせないことが明らかになった。



積雪寒冷地における再生可能エネルギーの
地産地消をめざした組合員および市民を対象とした
新エネルギー学習会の取り組み


青森県本部/青森県職員労働組合 三上  一

1. はじめに

 青森県は六ヶ所村の再処理工場、東通原子力発電所、世界で初めてのフルMOX大間原子力発電所やむつ市の使用済燃料中間貯蔵施設の建設など多くの核施設を抱えている。一方、青森県は三方を海に囲まれた自然豊かな地で、農産物、魚介類など食糧供給地である。また、自然条件にも恵まれ、風力発電、太陽光発電、バイオマス発電、小水力発電、地熱発電などの再生可能なエネルギーの地産地消に向けた取り組みが期待される。 
 今回、積雪寒冷地における再生可能エネルギーの現状と課題について大学、企業、行政の産学官の協力により開催した新エネルギー学習会の概要を報告する。

2. 経 緯

 東日本大震災(2011(平成23)年3月11日)による福島第一原発事故の深刻な被害は脱原発に向けた機運が高まり、全国各地で多くの運動を行われた。これらの運動の一つとして、「さようなら原発1000万人署名」活動が行われた。労働組合、市民団体による街頭における署名活動には、多くの市民が快く署名に応じたが、一部の人々から
 ・石油をはじめとする化石燃料には限りがあり、原発は必要だ、
 ・風力は風任せで、風が吹かないと発電できない、
 ・青森市は積雪寒冷地で、冬期間、降雪により日射量が少ないことから太陽光による発電ができない、
などの意見が少なからず出された。原発の代替エネルギーとして太陽光、風力発電などの再生可能エネルギーがあり、原発がなくてもエネルギーは大丈夫だと言ってはみても理論や青森県内における稼働の実態がわからず対応に苦慮し、学習することが必要であることを痛感した。
 今回、
 ・弘前大学の北日本新エネルギー研究所が青森市に開設したこと
 ・地元企業が再生可能なエネルギー事業を展開していること
 ・行政が再生エネルギーの実現に向けた施策を展開していること
から産学官で行っている研究、事業、施策について総合的に学習することを目的とした。

3. 学習会の取り組みについて

 ここで、6回にわたって開催された講座及び施設見学会の概要を紹介する。

(1) 第1回 阿布 里堤(弘前大学北日本新エネルギー研究所エネルギー変換工学部門教授):(再生可能)エネルギー全般について、2012(平成24)年1月17日

① 弘前大学北日本新エネルギー研究所の概要
  弘前大学北日本新エネルギー研究所は、積雪寒冷地における再生可能エネルギーと省エネルギーのシステムを構築することによりエネルギーの地産地消をめざして2010(平成22)年10月に青森市に設立され、エネルギー材料工学部門、エネルギー変換工学部門、地球熱利用総合工学部門、電気システム工学部門の4部門がある。
② 要 旨
  東日本大震災による福島第一原発事故は、日本におけるエネルギー政策を化石燃料、原子力から再生可能なエネルギー、省エネルギーへとエネルギー戦略の転換をもたらした。青森県には、太陽光、風力、水力、地熱、波力、バイオマスなどの自然エネルギーが豊富にあり、風力発電は33万kW(日本の総発電量260万kW:NEDO調べ2013年末)で全国一の発電量である。
  しかしながら、自然エネルギーは密度が薄く、季節変動が大きいなど克服すべき様々な問題を抱えている。化石燃料、ウラン資源が有限であることを考えると、自然エネルギーは無限で、究極のエネルギーであるが、その道のりは険しく困難を伴うことを覚悟する必要がある。
  地産地消をめざした再生可能なエネルギーの開発、利用を考えるうえで地域特性に着目することが重要である。その一例をあげると、青森市は人口およそ30万人の県庁所在地で、冬が長く積雪が2mを超えることもある世界的にみて屈指の積雪地で、冬期間に快適な生活を送るためには暖房とともに融雪の問題を解決することが不可欠になっている。青森県内には農林水産系のバイオマス系資源が豊富にあるが、これまで廃棄物として利用されてこなかった。青森市内における冬期間のエネルギーの地産地消に向けた取り組みとしてバイオマス発電と発電の際に発生する排熱を利用する燃料電池コージェネレーション(熱電併給)がベストミックス利用システムと考えられる。これは、廃棄物の有効利用に繋がるだけでなく、低炭素社会の実現にも貢献するものでもある。また、「省エネルギー対策」が最大の「創エネルギー対策」であることも忘れてはならない。

(2) 第2回 石川 達也(丸喜(株)齋藤組開発部長):青森県における太陽光発電の可能性、2013(平成25)年2月13日

① 丸喜(株)齋藤組の概要
  丸喜齋藤組は、1945(昭和20)年9月に設立された一般住宅建築メーカーである。「地球にやさしく、快適な住空間を創造する」をモットーに冬場の熱エネルギーに配慮した家庭用からメガソーラーまでの太陽光発電施設の設計、施工、維持管理の事業展開を行っている。
② 要 旨
  2012年4月~11月末までに運転開始した再生可能エネルギー設備容量は、およそ144万kWで、その大部分が太陽光(住宅102万kW、非住宅37万kW)によるもので、個人住宅での普及が大きいことがわかる。これは、2012年7月から余剰電力の買取制度が開始されたためである。買取制度は、再生可能エネルギーで得られた電力を高値で一定期間買い取ることにより、発電事業への民間企業の参入を誘導して再生可能エネルギーの普及を図るものである。その一方、発生する負担金をすべての消費者が担うことになり不公平感が生まれることになる。今後、太陽光発電がより普及するためには設備・維持費に見合う適正な価格・期間の設定が重要な課題となる。太陽光発電は、構造がシンプルなため初期の建設・設備に費用を要するが、維持管理が簡単であることが大きな利点である。積雪寒冷地における太陽光発電の問題点は、日射量の少ない冬期間に発電できないことであるが、青森市と東京での年間の発電量にはあまり差がない。これは、発電材料となるシリコン系モジュールが温度により出力が大きく変わるためで、表面温度が25℃以上になると出力が大きく低下するためである。また、冬期間の発電量は雪の乱反射により夏季を上回ることも観測されているが、積雪寒冷地における太陽光発電は春~秋季に有効な発電法であると割り切った考え方も必要ではないのか。
  実際の施工では雪害により設備が壊れるなどのトラブルが発生することが多く、設置に際しては実績のある業者に依頼することが肝要である。

(3) 第3回 宮本 政一(森山ディーゼル(株)執行役員取締役専務部長):風力発電について、2013(平成25)年4月24日 

① 森山ディーゼルの概要
  1969(昭和44)年に創業、社員はおよそ80人で、自動車の整備、修理、車検を主な事業としている。
  青森県は、風力発電施設整備要領は全国一位であるが、設備のメンテナンスを行う地元企業が少ないことから、これまで培ってきた技術を活かした地域貢献の一環として2010年2月にエネルギー部を新設し、設備のメンテナンスを行っている。また、2012年、NPO法人グリーンエネルギー青森より1,500kWの風車1基を譲渡、鰺ヶ沢グリーンエネルギー(株)を設立し、東北電力に売電している。
② 要 旨
  風力発電の建設には、
  ア 風があること  ……風の道
  イ 道路があること ……輸送の道
  ウ 送電線があること……電気の道
 の三つの道が必要である。
  青森県は、平均風速や風向の出現状況など風況状況が良く、また、用地の確保も比較的容易なこともあり、全国一の発電量である。しかしながら、日本では再生可能なエネルギーに占める割合は3%と低いが、諸外国では風力発電の割合が高い。また、日本は三方を海に囲まれていることから洋上風力発電も期待される。
 30万人都市(10万世帯)である青森市民の電力を風力発電で賄うとしたら、
  年間使用量:3億6千万kW(1世帯300kW/月)
  年間出力:438万kW(2,000kW/1機:設備利用率25%)
  必要機数:82機
  建設予算:7億円×82機=574億円
  年間売電学:438万kW×22円×82機=79億円
  償還期間:574億円÷79億円=7.26年(元金のみ)
  総売電収入:1,580億円(20年間)
と試算され、風力発電の経済性は劣るものではない。
 しかしながら、風力発電は外国メーカーが主で、建設費が高く、トラブルが発生した場合、部品を海外に発注することが多く、メンテナンス費用が高いのが問題である。このため地域貢献、雇用を考慮して、エネルギー部を創設したものである。

(4) 第4回 弘前大学北日本新エネルギー研究所見学:―みんなで研究所に行こう、2013(平成25)年8月10日

① 要 旨
  子どもたちのサマーサイエンススクールの一環として親子での講義と施設見学会を行った。講義では、青森市は、冬期間に暖房と融雪のための灯油消費量が全国トップで家計を圧迫しているという切実な問題を抱えていることから、参加した主婦からその解決策について質問があった。青森県は、農・漁業廃棄物、間伐材などのバイオマスを用いて電気と熱を発生させ、蓄電できる家庭用の燃料電池が有望であるが、行政が導入に積極的でないことから普及していないことが問題である旨の回答があった。講義終了後、屋上に設置されているソーラーパネル等の見学を行った。青森県の太陽光による発電効率は、東京にも負けないが、冬期間はパネルに雪が付着して発電が出来ないことが課題である。その解決策の一つとして、パネルを円筒形にして、パネルを回転させることにより雪が付着せず、冬期間の発電効率も高いことが実証されている。まさに、積雪寒冷地に設立された同研究所ならではの研究成果である。

(5) 第5回 つがるエコツアー:「長橋溜池小水力発電所」及び「市浦風力発電所」見学、2013(平成25)年9月7日

① 長橋溜池小水力発電所の概要
  長橋溜池は、五所川原市内にある有効貯水量812.5×1033、堤高8.0m、受益面積316haの農業用溜池である。長橋溜池小水力発電所は、2011(平成23)年に農林水産省の補助事業「平成23年度小水力等水利施設利用促進事業」として青森県土地改良事業団体連合会により設備工事費2,400万円で建設された。施設の管理は、美土里ネット五所川原市南部(五所川原市南部土地改良区)が行っており、当日は、美土里ネット五所川原市南部の一戸尚人次長から概要について現地説明会が行われた。この小水力発電所は、5m有効落差を利用して水車を回して出力10.0kWを発電し、発電に使われた水は水田用水として利用される。発電は、灌漑期(5月6日~9月20日:発電日数109日)に行われ、およそ6世帯に相当する26,160kWh/年の電力を得ることができる。これは、原油換算で6,728リットル/年、200リットルドラム缶換算でおよそ34本分の削減量で、CO削減量としては8.3トン/年に相当する。今後、農村での溜池、用水路を活用したエネルギーの地産地消をめざすためには、非灌漑期を含めた通年発電が必要で、水利権との調整が課題である。
② 市浦風力発電所の概要
  風力発電の大きな問題は出力が安定しないことである。この問題を解決するため、日立グループの「くろしお風力発電株式会社」が五所川原市市浦地区の放牧地に国内初の「出力変動緩和型風力発電所」8基、総出力15.44MWを建設し、2012年2月から実証実験を開始している。ここで使用しているLL-W電池は、風力発電所の稼働年数と同じ17年の長寿命の蓄電池で、出力変動緩和が可能になった。

(6) 第6回 青森県エネルギー開発振興課:「あおもり型持続可能社会」をめざして、2013(平成25)年11月28日

① 要 旨
  青森県では、県の政策を県民に広報し、協力を得るために「出前トーク」を実施している。
  青森県は、2006年に脱化石燃料をキーワードに産業振興、地域活性化、雇用創設を図り、低炭素社会をめざした「青森県エネルギー産業振興政策」を策定した。
  今回、「青森県エネルギー産業振興政策」の概要の説明が行われた。
  ・風力発電の取り組み
  ・太陽光発電の取り組み
  ・地中熱・温泉熱利用の取り組み
  ・EV(電気自動車)・PHV(プラグインハイブリッド車)の取り組み
  ・海洋エネルギーの取り組み
  青森県は積雪寒冷地で、冬期間の暖房、融雪に全国でトップの灯油消費量があるが、前述の地中熱は、天候や地形に左右されず、年間を通してほぼ同じ温度で、安定供給することができるメリットをもっている。
  地中熱の利用は、径30cmでおよそ100mを掘削して、地中に熱交換器を設置し、不凍液を循環させるクローズドシステムが一般的で、冷暖房・給湯や融雪に利用されている。青森県内で融雪に利用されている事例では、対灯油でCO量、消費量ともに大幅に削減させることから有望なシステムである。但し、施工業者が少なく、初期投資が大きいことが課題である。

4. 今後の課題

 今回、脱原発の1000万人署名の活動を契機に、再生可能なエネルギーの現状と課題について産学官の講師による学習会と施設見学会を行った。
 その結果、青森県は、多種多様な再生可能なエネルギー資源に恵まれているばかりでなく、技術開発や事業展開は私たちの予想を超えるスピードで進んでおり再生可能なエネルギーによるエネルギーの地産地消の実現も遠い夢でないことを実感した学習会であった。
 今後は、以下の課題に取り組むことが重要と考えられる。
 ① 青森県は、積雪寒冷地であり、冬期間は稼働には支障を生ずることが多いことから、その対策に向けた技術開発やシステムの構築が重要であること。
 ② 積雪寒冷地では、冬期間を快適で、経済的な生活を送るためには融雪は必要不可欠な課題であり、太陽光、地中熱による融雪システムの導入には多額の初期投資を伴うことからその普及には行政による政策誘導や活用しやすい金融機関の融資制度を設立などが必要であること。
 ③ 設備の設置、メンテナンスには地域に特有な課題があることから優良企業の認定制度などを導入して地元企業の育成を図ることは地元経済活性化にも繋がるものであること。